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木の葉燃朗のばちあたり読書録

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■著者別「あ」->    

アイランズ編著『地図から消えた東京物語―新旧地図で比較する東京の20年』 / 赤瀬川原平『赤瀬川原平の今月のタイトルマッチ』 / 赤瀬川原平『ゼロ発信』 / 赤瀬川原平『東京ミキサー計画』(1994年,ちくま文庫) / 赤瀬川原平:編『トマソン大図鑑 空の巻』 / 赤瀬川原平『悩ましき買物』 / 赤瀬川原平『老人とカメラ』 / 赤瀬川原平『私の昭和の終わり史』 / 吾妻ひでお『うつうつひでお日記』 / 吾妻 ひでお『うつうつひでお日記 その後』 / 吾妻ひでお『失踪日記』 / 吾妻ひでお『産直あづまマガジン増刊 うつうつひでお日記』 / 吾妻 ひでお『チョコレート・デリンジャー』 / 吾妻ひでお『逃亡日記』 / 吾妻ひでお『ときめきアリス』 / 吾妻 ひでお『ぶらっとバニー 1・2』 / 我孫子武丸『まほろ市の殺人 夏 夏に散る花』 / 安部公房『砂の女』 / 安倍 夜郎『深夜食堂 2』 / 荒俣宏『奇っ怪紳士録』 / 天野ミチヒロ『放送禁止映像大全』 / デビッド・アレン:著/田口元:監訳『ストレスフリーの仕事術 仕事と人生をコントロールする52の法則』 / RPGギルド『RPG100の疑問vol.2』 / 安斎育郎『だます心だまされる心』 / 安斎育郎『科学と非科学の間』 / あずまきよひこ『あずまんが大王 新装版』

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2009.02.17(火) 東京はなにが変わったか、なにが変わっていないのか

アイランズ編著『地図から消えた東京物語―新旧地図で比較する東京の20年』(東京地図出版) Amazon.co.jpオンライン書店bk1楽天ブックス

 1986年と2008年と、東京の同じ場所の地図を並べて、東京で消えた、生まれた建築物を取り上げて紹介する本。
 地図を眺めているだけでも、非常に面白い。並べて見ると、東京のなにが変わり、なにが変わっていないかが分かる。

 例えば、有楽町・西新宿の地図が掲載されており、東京都庁がどう移転し、都庁移転前後にどのような建物があるのかが分かる。
 他にも、六本木・汐留の再開発前の様子も興味深いし、台場・芝浦・天王洲といった湾岸地域が、倉庫しかない(台場はなにもない)場所からいかに商業地・住宅街になっていったかがよく分かる。

 一方で、寺社仏閣・教会などが変わらず存在することも分かるし、学校や病院も(移転や閉鎖もあるが)多くはそのまま残っていることも分かる。

 当時の東京を知っている人には懐かしいと思うし、今の東京を知っている人にも、自分が知っている場所のかつての様子は新鮮だと思う。

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2003年8月30日(土) 新しい本の見方を教えてくれる本
・赤瀬川原平『赤瀬川原平の今月のタイトルマッチ』(2000年,ギャップ出版)オンライン書店ビーケーワン:赤瀬川原平の今月のタイトルマッチ
 資生堂発行の雑誌『花椿』に、1997年から連載されている書評をまとめたもの。 しかし、普通の書評ではない。毎月本のタイトルだけを見て、その本を評してしまう のである。こんなこと、赤瀬川氏にしかできないんじゃないか、きっと。
 しかも、タイトルを見て考えたことがなかなか鋭い。ときには本の内容をずばり言 い当てていることもある。このあたりもさすが赤瀬川氏といった感じである。注とし て本の簡単な内容も掲載されているので、興味がある人は実際に本を読んで、氏 の考えたことがどのくらいあっているかを調べてみるのもまた面白いかもしれな い。
 また、赤瀬川氏の本のタイトルやデザインに着いての南伸坊、岡野宏文の両氏 との座談会も興味深い。昔の著作の装丁や題名を眺めるだけでも面白い。
 最後に、この本を手に入れた方はカバーをはずしてみましょう。「赤瀬川原平の 今月のタイトルマッチ」という書名が、ちょっとずつ(わざと)間違えていくつも書かれ ているのであった。こんな仕掛けもまた楽しい。

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2003年1月25日(土) フィクションとノンフィクションの間で遊ぶ1冊
・赤瀬川原平『ゼロ発信』(2000年,中央公論新社)オンライン書店ビーケーワン:ゼロ発信
 2000年の1月から6月にかけて、読売新聞朝刊に連載された小説。といっても、 内容は赤瀬川氏のエッセイ、あるいは日記に近い。でも、完全なノンフィクションで はなく、あくまで「新聞小説」である、というスタンスが取られている。
 例えば、登場する人物の多くは名前の一文字がアルファベットになっていて、100 パーセント実在の人物ではないですよ、というアピールがされている。小説の書き 手である「ぼく」は「A瀬川」と書かれ、「路上観察学会」の面々はH丈ニ、F森照信、 M伸坊、M田哲夫である。「ライカ同盟」は、A瀬川氏の他にT梨豊、A山祐徳太子な のである。赤瀬川氏のファンであれば、これを実在する人物に置き換えて読むと、 また違った面白さが浮かび上がる。
 しかし、それでは「赤瀬川原平さんって、どんな人?」という人は読んでも面白くな いのかというと、そんなことはないのである。氏のことを知らなくとも、語られる日々 はひとつの小説として充分に面白い。
 飼い犬のニナ、飼い猫のミヨのエピソード。小松崎茂氏との対談のために会いに 行く話(小松崎氏は実名で登場。2001年12月に亡くなられているので、赤瀬川氏と の対面の様子には感慨深いものがある)。淡々としているのだが、心に残る話が 多い。
 また、氏の趣味である中古カメラの話も興味深い。中古カメラ好きは病気であ り、中古カメラを買うのは薬を買うようなものだという話は、古本好きと古本の購入 とも通じる部分がある。
 それから、文章以外の部分も注目。新聞連載時に掲載されていた赤瀬川氏によ るイラストもすべて(おそらくすべて)掲載されている。これも味があっていい絵なん だ。また、本のカバーを外すと、表紙、裏表紙には新聞での『ゼロ発信』新連載の お知らせと、連載第一回が掲載された新聞紙面が印刷されている(装丁は南伸坊 氏)。これもかっこいい。
 外見も中身も筋の通ったセンスがある本。

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2002年11月12日(火)
・赤瀬川原平『東京ミキサー計画』(1994年,ちくま文庫)
 赤瀬川原平氏は、最近では『老人力』(2001,ちくま文庫)『新解さんの謎』 (1999,文春文庫 )などの著作で知られている。その少し前だと、路上観察学を始 めた人であるし、作家尾辻克彦としての活動を知る人もいるだろう。その他にも、 本当に色々な角度から語ることができる人なのだ。
 そして、そのルーツともいえる部分までさかのぼると、1960年代初めの前衛芸術 というかパフォーマンスというか、そのあたりにたどり着く。高松次郎・中西夏之の 両名と「ハイ・レッド・センター」なる組織を結成し、まあ色々なことをやったわけだ。 俺の生まれるずっと前のこと。しかしまあ、これはすごい。すごいパワーなのであり ます。
 「ハイ・レッド・センター」がなにをやったかといえば、東京の御茶ノ水のにあるビ ルの屋上からものを投げてみたり、銀座の街のある一部分だけを偏執的に掃除し てみたり、美術展を開いたら並んでいるのは洗濯バサミと紐と梱包された荷物と模 写された千円札だったりする。これはもう写真でも構わないから、話に聞くだけでな く見なければわからないすごさを持っているのである。
 しかし、今なら志のないテレビ番組(ということはほとんどのテレビ番組だが)が遊 び半分でやりかねないようなことを、当時の赤瀬川氏たちは真剣に表現活動として やっていたのだ。この情熱、パワーを感じるだけでも、この本を読む価値があるのではなかろうか。

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2004年2月21日(土) 町を歩くときに、色々なものが気になりそうな1冊
・赤瀬川原平:編『トマソン大図鑑 空の巻』(1996年,ちくま文庫)
オンライン書店ビーケーワン:トマソン大図鑑 空の巻
 「トマソン」というのは、主として街中にある、無用・無意味だけれどなんだか面白 い(味がある)建物の一部や設置物のこと。
 例えば、囲む必要のないようなスペースをわざわざ囲んでいるガードレールと か、建物の上の階につけられた、どう考えても利用できそうにないドア(非常階段 につながっているわけではなく、建物の中から開けたら空中に飛び出してしまう!) やハシゴ、などなど。こうした各種の物件を、種類別に分けて、分類名をつけて、写 真とコメントで紹介したのがこの本。
 いやあ、おもしれえなあ。注意しないと見過ごしそうな風景を、しっかり写真に収 めているのがいい。こういう「世の中の面白がり方」を、俺も見習いたい。町に出 て、おもしろそうなものを探したくなる。
  なお、トマソンについてより深く知りたい方は、『超芸術トマソン』(1987年,ちくま 文庫)、『路上観察学入門』(1993年,ちくま文庫)もおすすめです。この本の姉妹篇 の『トマソン大図鑑 無の巻』(1996年,ちくま文庫)なんて本もありますよ。
・オンライン書店bk1の紹介ページ
『トマソン大図鑑 空の巻』 / 『トマソン大図鑑 無の巻』 / 『超芸術トマソン』 / 『路上観察学入門』

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2007.01.18(金) 悩ましいが、楽しそうな買い物の数々

オンライン書店ビーケーワン:悩ましき買物・赤瀬川 原平『悩ましき買物』(2002.6,光文社・知恵の森文庫)
 赤瀬川原平氏が実際に色々なもの(カメラとかバッグとか古道具とか、カメラとかバッグとか、カメラとか、カメラとか)を買った様子をつづったエッセイ集。一点一点、氏によるイラスト入り。

 最初の、パチンコと共産主義の話が面白い。「人間は平等に働いて、平等に物を得られるようになる」(p.4)共産主義の考え方について、知り合いが働いていたパチンコ屋で「行くとこっそり玉をくれて、それを使ってやりながら玉がなくなると、またごそっと入れてくれる」(p.4)という思い出と結びつけて、「本当は理想の状態であるはずなのに、何だかやっていてつまらない。そのうち行かなくなった」(p.4)という話をしている。この例え、ちょっと興味深い。
 買い物にもにた部分があると言うことで、「最高に素晴らしいバッグというのが理想に包まれていて、それを手に入れたと思ったら、包んでいた理想がはげている」(p.5)という。そんな風に、なにが理想なのかを考えながら買い物をしている様子が欠かれている。

 私にとっては、結構いいお値段の商品も買っていて、「ちゃんと仕事をして、収入を得て、色々なものを買っているんだなあ」と思った。例えば、軍用オメガの時計が「四万五千円だという。意外に安い」(p.15)とか、イタリア製のバッグが二万八千円で「安い。いただきます」とか。でも、買い物をするときに迷ったり考えたりする部分は、読んでいて「分かるなあ」という感じ。
 あと、中古カメラに夢中な様子は、「中古カメラ」を「古本」にすると、古本好きの心理とそっくりで、「この辺はみんな共通なんだなあ」と思った。

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2003年3月29日(日) この2冊を読んで老人力を身につけよう!(の1冊)
・赤瀬川原平『老人とカメラ』(2003年,ちくま文庫)オンライン書店ビーケーワン:老人とカメラ
 1991年〜1996年にかけて、『週刊小説』(実業之日本社)に連載されたエッセイ。街で見かけた「ちょっと変わったもの」の写真と、それについての短いコメントからな る。
 赤瀬川氏の始めた「トマソン」だとか「路上観察学」の流れを汲んだ内容だな。ち なみに「トマソン」というのは、「不動産に付着していて美しく保存されている無用の 長物」(赤瀬川原平『超芸術トマソン』1987年,ちくま文庫,p.26)のことである。これ だけでは意味不明だよなあ。公式ページではないようですが、興味がある人は、 「トマソン・リンク」などのページを参照してください。トマソンについて丁寧に説明さ れています。
 この本も、写真が中心なので、言葉ではうまく伝えられないのだが、とりあえず看 板の写真については、そこに書いてある文字を紹介すれば少しは面白さが伝わる だろう。ということでいくつか紹介。
 「発砲は あわてず/あせらず おちついて」(鹿児島の屋久島)
 「陽気な酒ほど/事故を招く」(西表島にて)
 「熊襲食堂」("くまそ しょくどう"と読む)
 「正しい人はいない/聖書」
 「ああ、世、世、世/神のことばを聞け」
 最後のなんて、そうとうシュールだよな。また、ブータンやベルリンで見つけた、変 わったものの写真もある。
 この本を楽しめるかどうかは、その人のセンス次第だな。もちろん、面白がれな いのが悪いというわけではない。

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2006.03.29(水) 赤瀬川原平さんが20年前に考えていたこと

オンライン書店ビーケーワン:私の昭和の終わり史・赤瀬川 原平『私の昭和の終わり史』(2006.2,河出書房新社)
 『週刊アサヒ芸能』で連載されていたコラム「今週のお筆様」のうち、1986年10月から1987年7月までの分をまとめたもの。20年近く前の文章だ。
 河出書房新社は、最近山口瞳氏の単行本未収録原稿を集めた本をつくっているし、こういう文章の発掘に力を入れているのかなあ。

 ただ、当時単行本に収録されなかった、本にまとめられなかったことにはそれなりの理由がある気がする。この本の赤瀬川さんも、結構過激な部分もあって、今の赤瀬川さんと比べるとちょっと違和感がある。ご自身もあとがきで「いまだったらもう少し周囲を気にして、言葉狩りとかいろいろ狩りに合わないように、脳の動きも萎縮しているだろう」(p.209)とあるが、そんな感じ。
 まあ、20年前っつたら赤瀬川さんだって50歳前後だし、俺も小学生なわけだ(俺の話はいいか)。とにかくそれくらい前の事なのである。

 内容は、その時々の時事について。やはり野球の話が多い。他にも、『フライデー』の記事をめぐってたけし軍団が講談社へ乗り込んだ話とか、当時「売上税」という呼び名があった消費税の導入をめぐる話とか、地上げ屋の話とか、時代を感じるなあ。
 どの文章も、赤瀬川さんらしい冗談とも本気ともつかない内容なのだか、結構鋭い指摘をしていて、このあたりはさすがと思ってしまう。
 それはたとえば「円高ドル安という男」(pp.90-93)で、「日本で工場を建てたり人を雇ったり高い金使って商品を作るよりも、それを外国でやる、あるいは外国の土地や会社を買ってしまったほうがはるかに高い回答が出る」(p.93)、そして「日本は数字だけを求めながらだんだん不労所得と失業者の国になっていく」(p.93)というのも、なんだか現在起きていることのような話だ。
 他にも、パチンコ屋で玉を出すのにカードを使うようになった話からなんでもかんでもカードで買うようになる日常を想像する「日銀が通貨発行をやめる!?」(pp.183-187)も、今の状況に近いことを想像している。テレホンカードのように一商品に一種類のカードを想像しているのは現実と異なるが、一種類のカードでなんでも買えるようになりつつあるのが、今のクレジットと電子マネーの世の中じゃないかと思う。チップをカードで与えるなんていう想像も、これから携帯電話で実現するかもしれない。
 やはり赤瀬川氏の文章は、読み応えがあって面白いです。

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2006.08.11(金) なんでもないような日々の積み重ねが、後から見ると大きな意味を持つ。

オンライン書店ビーケーワン:うつうつひでお日記・吾妻 ひでお『うつうつひでお日記』(2006.7,角川書店)

 2004年7月〜2005年2月までの日々を綴った日記マンガ。2004年の7月から8月の分は『産直あづまマガジン増刊 うつうつひでお日記』(2004年,アズママガジン社)という同人誌として発表されていて、俺はこの本は持っています。それ以降の分は、角川書店の雑誌『Comic 新現実』、『コンプエース』に掲載されたもの。あわせて、当時を回想するインタビューも掲載されている。
 「まえがき」に、この漫画の特徴は「事件無し/波乱無し/貧乏/神経症/冷やしラーメン/そば/本屋/図書館」(p.1)とあるのだが、表面的にはまさしくそんな感じ。ほぼ毎日、食べたもの、読んだ本見たテレビにその日の仕事、などなどが紹介され、淡々と進んでいく。でも、読んでいると、この淡々としたリズムにいつしか引き込まれる。インタビューでは「毎日あったことをズラズラと続けて、なるべく無味乾燥になるように描いていて……」(p.54)とあるのだが、読む方にとっては生活をこっそり覗いているような面白さがある。

 そしてもうひとつ、それぞれの日々は淡々としていても、後から全体を見てみると、この時期は吾妻氏にとってひとつの転換期だったことが分かる。アルコール依存症での入院生活を終えて5年、時には「商業誌の仕事ほとんど/無くなって すっきりして寝る」(P.77,9月24日)という状況になったこともあったようだ。インタビューによれば、収入が「月に四〜五万円とか(笑)」(p.197)ということもあったらしい。だから、結構切迫した日々だったのである。
 しかしその間に、ホームレス生活・アルコール依存症による入院生活を描いた作品が、紆余曲折を経つつも『失踪日記』(2005年,イースト・プレス)として出版されることが決まる。この『失踪日記』がロングセラーとなり、吾妻氏の名が再び多くの人に知られるようになったのはご存知のとおり。つまり今になって読むと、この時期はいわば「吾妻ひでお復活前夜」とも言える日々だったわけだ、実は。
 そう思うと、よくぞ日記に残してくださいました、と感じずにはいられない。あと、イースト・プレスの前に原稿を預かったものの、出版までこぎつけられなかった出版社も分かり、大きなチャンスを逃したんだなあと、今になると思う(多分、当時はここまでのヒットになるなんて、誰も想像していなかっただろうけれど)。
 また、蛭児神建氏から吾妻氏に手紙が届き、それを大塚英志氏に渡す(手紙は「誰に見せても/かまいません」(p.166)と書かれていたという)という話も出てくるのだが、これが後の『出家日記 ある「おたく」の生涯』の刊行のきっかけだったんだろうなあ。
 他にも、「2ちゃんねる」で「電車男」が盛り上がっていて、本になるらしいという話をしていたり、中島らも氏の死去のニュースを知った時の話を描いていたり、当時の出来事を吾妻氏がどう考えていたかも分かる。
 こうした、記録という面でも、非常に興味深い本。

 最後に。日記の合間合間に、女の子のイラストがカットのように描かれているが、これがかわいらしい。こういう女の子の登場するマンガも、もっともっと描いてくれないかなあとも思う。

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2009.03.13(金) 単調そうな日々の独特なリズム

うつうつひでお日記 その後 吾妻 ひでお『うつうつひでお日記 その後』(2008年9月・角川グループパブリッシング) Amazon.co.jpオンライン書店bk1楽天ブックス

 『うつうつひでお日記』の続編。2006年12月から2008年3月まで公式サイトに掲載された、吾妻ひでお先生の日記(バックナンバーはサイトでは公開されていない)。

 『うつうつひでお日記』とは異なり、マンガではない。文章とイラストで、絵日記みたいな感じ。ただし、後半はイラストの比率も多いし、半ページくらいのマンガも少しある。
 内容は、吾妻先生の食事、読んだ本や見たテレビの感想。イラストは女の子の絵が中心。たぶん、読む人にとってはなにが面白いのか分からないかもしれない。でも私は面白かった。この、単調といってしまってもいい日々の繰り返しが、読んでいると独特のリズムを感じて面白くなる。

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2005.07.12(火) ややディープな世界を垣間見る
・吾妻ひでお『産直あづまマガジン増刊 うつうつひでお日記』(2004年,アズママガジン社)
 漫画家吾妻ひでお氏の個人誌(ミニコミ)。2004年の7月から8月にかけての日記漫画。前説にありますが、この漫画の特徴は「事件なし/波乱なし/貧乏/神経症/冷やしラーメン/そば/本屋/図書館」(p.3)である。
 日々の仕事、生活(見たテレビ・聞いたラジオ・買ったもの)、読書を淡々と描いている。しかし、すごく面白い。なんというか、この他人の日常を垣間見ている感じが、わくわくする。我ながら趣味が悪いかもしれないが。
 例えば後に『失踪日記』(2005年,イースト・プレス)として出版される作品は、書き下ろした時点で版元が決まっていなかったとか、「2ちゃんねる」で「電車男」が盛り上がっていて、本になるらしいという話をしていたり、中島らもさんの死去のニュースを知った時の話を描いていたり、当時の出来事を吾妻氏がどう考えていたかが分かる。
  それから、カットのように漫画の合間に掲載されている女の子のイラストもかわいらしくて、吾妻氏健在を感じさせてくれる。

 吾妻氏の公式webサイトから通信販売の申し込みが可能ですので、興味がある方はどうぞ。
 http://azumahideo.nobody.jp/
【参考】 ・吾妻 ひでお『失踪日記』(2005.3,イースト・プレス・リンク先はオンライン書店bk1)オンライン書店ビーケーワン:失踪日記

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2005.3.23(水) 壮絶な話なのに面白い!
・吾妻 ひでお『失踪日記』(2005.3,イースト・プレス)オンライン書店ビーケーワン:失踪日記
 マンガ家吾妻ひでお氏の、失踪生活を描いた漫画。
 イントロダクションには「このマンガは人生をポジティブに見つめ、なるべくリアリ ズムを排除して描いています」(p.5)、「リアルだと描くの辛いし暗くなるからね」(p. 5)とあるが、それでもかなりすごい生活をしていたことが分かる。
 収録されているのは、ホームレス生活を描いた「夜を歩く」、失踪後、ホームレス を経てガス関係の肉体労働に従事する「街を歩く」、アルコール中毒になり、強制 入院した日々を描く「アル中病棟」の三部。また「街を歩く」の後半は、マンガ家デビ ューした当時の思い出話で、これもまた面白い。
 順を追って紹介すると、「夜を歩く」では、マンガを描けなくなり失踪した氏が、ほ とんど荷物もなく11月の寒い時期にホームレス生活を初める。畑から大根を取って きて食べ、むしろと穴の開いたシーツに包まって寝て、そこから徐々にたくましく生 活を続けていく。たくましくというのも変な言い方だが、シケモクを拾ったり、棄てら れた食べ物や酒を探し出して、それなりの生活をするようになる。
 しかし、年が明けた頃、警察に不審者として話を聞かれ、そこで捜索願が出され ていたことが分かり、家に戻ることになる。
 その時、警察官の中に吾妻氏のファンがいて、色紙に「夢」と書いてくれと頼まれ るところなんかは、笑っちゃったな。
 二度目の失踪の「街を歩く」は、夏の話。やはりマンガが描けず失踪し、ホームレ ス生活をする。しかし、徐々に食うに困らなくなってくると、閑になってきて働きたく なり、ガス工事の会社で寮に入って肉体労働に従事する。
 ここでも色々面白い人に出会ったり、仕事を身につけたり、もらった自転車が盗 難車ということが分かり、警察のやっかいになったり、そこで捜索願いが出ていた ので、またまた家に帰ることになったりと、色々な経験をすることになる。ちなみ に、会社には自宅から通って働き続ける。
 しかしその後、会社の上司との関係がうまく行かず、それを社長に愚痴って気ま ずくなり、会社を辞めて再びマンガ家生活に戻る。
 ここで特に印象に残ったのは、ガス会社の社内報にマンガを投稿して採用された という話。働いていなければ働きたくなり、肉体労働をしていると芸術がしたくなる らしく、あれほど描けなかったマンガを描いたらしい。これはちょっと興味深かっ た。
 「街を歩く」の後半は、マンガ家デビューした当時の思い出話で、これもまた面白 い。いかに数多くの原稿を書きまくったかとか、編集者との関係とか、『不条理日 記』を書いている途中、アシスタントに「先生…/こんなわけの判らない漫画描いて いいんですか?」と注意されたとか。
 しかし、これで終わりではない。1998年、吾妻氏はアルコール中毒になってしま う。手の震えにはじまり、酒以外のものが体に受け付けなくなる、酒を飲んでいな いと幻覚を見聞きするようになる、などなど。そして12月25日、精神科の病院に強 制入院となる。その日々を描いたのが「アル中病棟」。
 そこでもまあ色々な人と出会い、苦しい思いをしながら徐々に回復して、外出もで きるようになって、退院まであと二ヶ月のところで「まだまだ/いろんな出来事や/ 変な人々に会ったけど/また今度お話します」(p.194)との言葉で終わる。
 多分、この内容を、例えばつげ義春氏のような絵で描いてあったら、少なくとも俺 は読むのに抵抗があると思う。しかし、吾妻氏独特の丸っこい、かわいい絵で描い てあるので、読むのがつらくない。むしろ面白い。
 それから、当時の出来事の中で、マンガに描いて面白いものを選んでいること も、抵抗なく読める理由だろう。このあたりについては、巻末のとり・みき氏との対 談でも触れられていますが、やっぱり氏のうまさだと思う。
 そんな吾妻氏ですが、この本にあるインタビューを読むと、今は断酒もしており、 これからもマンガは描き続けるそうです。まだまだ失踪・入院時のエピソードはある そうなので、そちらもちょっと楽しみ。
 あと、吾妻氏は最近のお笑いもテレビで見ていて、アンガールズやポイズンガー ルバンドなどが好きみたいですよ。
 ちなみに今、この本を読んだ方の中で、「インタビューなんてなかったじゃん」と思 った方がいるかもしれません。
 実はあるんです。隠されています。探してみましょう。

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2008.03.08(土)

チョコレート・デリンジャー吾妻 ひでお『チョコレート・デリンジャー』(2008年、青林工藝舎)Amazon.co.jp で詳細を見るオンライン書店bk1楽天ブックス

 1980年代の作品が、実写映画化を記念して復刊。美少女探偵チョコレート・サンデーと、弟子の三蔵さんが、毎回皿漫田警察の砂苦刑事を巻き込んで事件を解決(?)する。と書くと普通のギャグマンガっぽく感じるかもしれませんが、書き下ろしあとがきにあるように、「起」のコマから「承」・「転」を飛ばして「結」のコマに飛ぶような展開。
 でも、意外(でもないか)と面白く読める。舞台設定がオーソドックスにされていて、「キャラ立ち」しているので、話の内容が不条理ギャグでも面白く読める。

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2007-06-19(火)本当は漫画で読みたいけれど

逃亡日記 吾妻ひでお『逃亡日記』(2007.1,日本文芸社)Amazon.co.jpbk1
 目次は下記のとおり。
口絵 失踪の地を行く&妄想劇場
(失踪時に暮らしていた場所を訪ねる&メイド服のモデルさんとのグラビア写真)
MANGA 受賞する私
Chapter1 失踪時代
Chapter2 アル中時代
Chapter3 生い立ちとデビュー
Chapter4 週刊誌時代
Chapter5 『不条理』の時代
Chapter6 『失踪日記』その後
(上記はインタビュー。各章の扉や本文中に吾妻氏のカットあり。本文中には吾妻氏の写真もあり)
MANGA あとがきな私
Column
奥様アンケート
お嬢様アンケート
ファンクラブ代表が見た吾妻さん
漫画専門店店長が見た吾妻さん
逃亡された編集者が見た吾妻さん
あずま略史年表

 漫画は少しで、インタビューが中心。『別冊漫画ゴラク』に連載していたインタビューに漫画などを書き下ろして本にまとめたものらしい。
 前口上のマンガによりますと、

吾妻「てかこれ/『失踪日記』の/便乗本じゃ/ないのっ」
編集者「そうすよ」

(p.9)

吾妻「皆さん/この本買わなくて/いいです!/漫画だけ/立ち読みして/ください」

ではなぜこんな仕事/引き受けたのかというと/そこにはいろいろ/やむをえないしがらみが/ありまして……

(p.9)

 という、はじめからものすごく曰くのありそうな本。編集者なんて、漫画でものすごく悪そうに描かれているし。
 ただ、内容はやはり興味深い。失踪時・アルコール中毒で入院当時や、デビュー当時からの漫画家生活を語っている。私は吾妻先生の作品は少しは読んでいるが、こうした話は知らなかったので、面白かった。北海道で高校を卒業して、東京にやってきた頃、同じく漫画家としてデビューした同郷の仲間と同じアパートに住んでいたなんて、知らなかったなあ。「トキワ荘」みたいな感じだったんだなあ。

 それから、改めて思ったのは、吾妻先生は実は(と言うと失礼かもしれないが)正統派の漫画家なんだなあ、ということ。手塚治虫先生と石ノ森章太郎先生に影響を受け(石ノ森先生の『マンガ家入門』が、漫画を描くようになったきっかけらしい)、「赤塚不二夫先生は、全然面白いと思ったことない」(p.107)と言い切っている。
 また、「オレ自身はアニメ顔のエロはきらい。劇画の女性もきらい。ほどよく融合したリアリティーのある絵が好き」(p.180)と言い、インタビュアーの「吾妻さん、自分で変態ロリ漫画って言ってましたが」(p.182)に対しても、「自分では言ってるけど人に言われたくない!」(p.182)、「実験しないやつは物書きじゃない」(p.182)と答えていて、更にその少し後には「大げさに言えば時代を変えるような、、漫画の流れを変えていくような、そういう大きなことをしていきたい」(p.191)という言葉もある。
 これは、かっこいいなあ。

 だから、必ずしも自分の本領とはいえない『失踪日記』・『うつうつひでお日記』が売れて、他の作品があまり売れていないことには、複雑な思いがあるのだろう(というか嫌なのだろう)と思う。下のようなセリフの書かれたカットもあるし。

『失踪日記』/いろいろ賞を/もらえたのは/うれしいけど

あの漫画/オレの/得意技/「SF」/「ナンセンス」/「ロリ」の/どれも/入って/ないんだよ/なー

(p.195)
 なるほど。私はどちらの傾向の作品も好きなので、できれば両方描いていただければ嬉しいのだけれど。この本も、どうしても吾妻先生の言葉が他の人を経由しているという印象が強いので、若い頃の話などを吾妻先生が漫画に描いてくれると嬉しいのですが、それは難しいのかなあ。
 とにかく、これからも吾妻先生の新刊は欠かさず買って、これまでの本も少しずつ集めていこうと思う。

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2006.08.23(水) 吾妻ひでおワールドにどっぷり浸る

オンライン書店ビーケーワン:ときめきアリス・吾妻ひでお『ときめきアリス』(2006.6,チクマ秀版社)
目次
第1章 アリスはおかしくて笑ってしまい
第2章 アリスははにかみながら
第3章 アリスはすこし不安そうに
第4章 アリスは波打ちぎわに腰かけて
第5章 アリスはがまんできなくなって
第6章 アリスはこれがおかしいと思って
第7章 アリスはちょっとため息をついて
第8章 アリスはあたりを見まわして
第9章 アリスは何かしてやりたくて
第10章 アリスは騎士をさがそうとして
第11章 アリスはすっかりまごついて
第12章 アリスはしばらくの間黙りこんで
第13章 アリスは鏡を通りぬけて
第14章 アリスはたいそう不思議に思って
ギャラリー Illustration Collection
解説・山本直樹
あとがき

 1984年・1985年に発表された作品をまとめた本。吾妻氏書下ろしのあとがきマンガによると「昔双葉社で出したものの再刊でちょっとおまけがついています」(p.204)とのこと。
 内容は、同じくあとがきから「判りやすい/メジャーなもので/行こうと模索してました/かわいい女の子と/Hをガンガン入れて/よし!これで受けると思って/たんですが/読み返してみたら/わけわからん変な話/ばっか」(p.204)ということで、たしかにシュールと美少女とちょっぴりHという感じ(人によっては「けっこうH」かもしれない)。俺は好きです。
 新婚の奥さんが何人にも分裂していく「アリスははにかみながら」とか、かわいいけれど迷惑なポルターガイストが登場する「アリスはがまんできなくなって」、電車に乗り過ごして、奇妙なキャラクターだらけの世界を旅する「アリスはちょっとため息をついて」、探偵の女の子がパラレルワールドを行き来する「アリスはたいそう不思議に思って」など、この不思議な世界はくせになる。

(参考)
・チクマ秀版社>LEGEND ARCHIVES>吾妻ひでお http://www.chikuma-shuhan.co.jp/books/special/l-a/azuma.html
・吾妻ひでお公式サイト http://azumahideo.nobody.jp/

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2008.03.08(土)

吾妻 ひでお『ぶらっとバニー 1』 (2008年1月、徳間書店リュウコミックス) オンライン書店bk1楽天ブックスAmazon.co.jp
吾妻 ひでお『ぶらっとバニー 2』 (2008年1月、徳間書店リュウコミックス) オンライン書店bk1楽天ブックスAmazon.co.jp
 1979年〜1982年にかけて雑誌掲載された作品の復刊。
 人間の妄想を引き出すことのできるウサギ「バニー」と「ブラック」が、毎回色々な人物の妄想を引っ張り出して騒動に、という一話完結のマンガ。毎回毎回ちゃんとオチがつく。
 なお、1巻には「バルバラ異聞」(2007年)と「不条理日記2006」(2006年)、2巻には松久由宇氏との対談(活字)と松久氏による高校時代の回想マンガ(磨湖丈一名義)も掲載されています。

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2002年7月21日(日) 久々に推理小説を続けて読んだので
・我孫子武丸『まほろ市の殺人 夏 夏に散る花』(2002年,祥伝社文庫)オンライン書店ビーケーワン:まほろ市の殺人 夏
 これも「祥伝社400円文庫」の1冊。真幌市という架空の町を舞台にした競作小 説の1冊。「夏」とあるからには春・秋・冬もあるわけで、それぞれの執筆者は倉知 淳・麻耶雄嵩・有栖川有栖の各氏。我孫子氏も含めて、いずれも「新本格推理小 説」ムーブメントの中でデビューした作家たちだ
 これも歌野氏の『館という名の楽園で』同様、ひとつの大きなトリックが中心にあ る。だが、それだけではない。青春小説の一面もある。それだけに切なくて、場合 によっては悪意を感じることもあるかもしれない。だが、個人的には読後感も悪くな いし、うまくまとまっていると思う。
 ただ、やっぱりもっと長い話になっていれば、新しい魅力もあるのではないかとい うわがままなことも思ってしまった。

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2003年7月29日(火) 久々の小説。この1冊
・安部公房『砂の女』(1971年,新潮文庫)オンライン書店ビーケーワン:砂の女
 久々に小説を読んだ。異様な世界が描かれて、なんとも魅力的。くらくらするよう な面白さがある。
 あらすじをちょっと書くと、ひとりの男がある町に迷い込む。その町は家が砂の中 の穴に建てられており、その家に住む人間は上から落ちてくる砂をかき出さなけれ ばならない。砂かきをしないと、家は砂に埋まり、今度はそのうしろの家が砂かき をする羽目になる。砂かきをしないでいると、徐々に町自体がなくなってしまう。舞 台はそんな場所。
 男はある女の家に、だまされて閉じ込められる。穴から出る方法もなく、家に住 む女とともに生活することを強いられる。男は色々な方法で脱出を試みては失敗 し、それでも逃げようとする。一度は脱出に成功するが、逃げる中で蟻地獄のよう な砂地にはまり、町の人間に助けられる。それからは、男は逃げる意志を失い、そ のまま町で暮らすことになる。ついには失踪宣告をされて、法律上では死んだこと になってしまう。
 読んでいると途中で気分が悪くなる。なんとも息詰まるような雰囲気の小説なの だが、不思議と先が読みたくなってしまう。男がいったん脱走に成功した後で逃げ 回る場面など、映像になったら面白いだろうなあと思う。なかなかおもしろかった。

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2009.04.24(金) 身近な食べ物にはエピソードが込められている

深夜食堂 2 (2) (ビッグコミックススペシャル)安倍 夜郎『深夜食堂 2』(ビッグコミックススペシャル) Amazon.co.jpオンライン書店bk1楽天ブックス

 舞台は繁華街の外れとおぼしき場所にある定食屋。夜12時から朝7時まで営業し、メニューは特にないが、その日ある材料でマスターが作れるものならなんでも作ってくれる。営業時間が時間なので、店にやってくるお客さんはなんとなく訳あり風。店を一人で切り盛りするマスターも、実直そうなのだが、顔に傷を持つという、これまた訳あり風。

 そして店で出される料理はといえば、お茶漬けや焼きそば、秋刀魚にプリンなど、身近なものばかり。だが身近だからこそ、そこには様々なエピソードが一緒に登場する。
 もしも料理が珍しかったり、特別な味付けや材料を使ったりしていたら、料理が主役のマンガになる。それがいわゆるグルメマンガだろう。しかしこのマンガは、料理をめぐるエピソードが中心。だから、身近な料理という題材が活きてくる。

 各話ともそんなに長くないのだか、心に残るエピソードが多い。特に印象的だったのは、トイレを借りに店に駆け込んではうるめいわしを注文する客が登場する「トイレの客」と、目玉焼きを乗せた焼きそばのエピソードを描いた「ソース焼きそば」。
 なお、一話読み切りなので、途中の巻から読んでも大丈夫です。

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2002年6月8日(土)5月にはこんな本を読んだ(後編)フリートークにて
・荒俣宏『奇っ紳士録』(平凡社ライブラリー)
「19世紀末から20世紀の初め頃に実在した、奇人変人を紹介した本です」
「正直俺はこの本に出てきた人のことをほとんど知らなかったし、当時の歴史もそ れほど勉強していない。でも、ここに出てくるエピソードは本当に面白い。世の中に こんな人が実在したのかよ、という面白さだな」
「でも、そういう面白さって、それを面白がる人がいて初めて成立するよね。その意 味で、現代の奇ッ怪紳士、荒俣宏の目の付け所がさすがです」
「たとえば、源義経が中国に渡ってジンギスカンになったと主張した小谷部全一郎 の話には、ある種の感心さえ抱いてしまいますよ、ええ」

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2005.7.27(水)  作品の内容とともに、作品の抱える事情も興味深い
・天野ミチヒロ『放送禁止映像大全』(2005.7,三才ブックス)オンライン書店ビーケーワン:放送禁止映像大全
  様々な事情により、見ることができない、あるいはできなかった映像作品を紹介・解説する本。作品ひとつひとつについてのページ数は、やや少ない。しかしその分紹介されている数が多く、次々と登場する作品を読んでいると、わくわくしてくる。
 意外だったのは、再放送やビデオ化・DVD化がされない理由は、なにも作品中の表現に問題がある場合だけではない、ということ。放送禁止作品として有名な「ウルトラセブン」12話、「怪奇大作戦」24話、映画「ノストラダムスの大予言」などが、いずれも内容にクレームがついたことが原因なだけに、そう思い込んでいたが、実は色々な事情があるようだ。

 例えば、1972年、『仮面ライダー』の裏番組として放送された”公開舞台劇”『突撃! ヒューマン!!』は、公開番組という性質上、ソフト化を考えた保存がなされなかったのだ。そしてこの番組には、キャンディーズとしてデビューする直前の田中好子も出演しており、ナレーターは山田康雄だったのである!
 ……いきなり『突撃! ヒューマン!!』の話を持ち出されて面食らった方も多いと思う(そもそもほとんどの人は知らんだろう)。もう少し分かりやすい例を挙げよう。
 「NHK少年ドラマシリーズ」の名作「タイムトラベラー」(原作は筒井康隆『時をかける少女』)は、放送局に原版がないため、再放送もソフト化もできなかった。「当時は放送終了後の番組を保存するという概念がない」(p.89)のが普通だったそうだ。しかし「タイムトラベラー」は、最終話だけは当時の視聴者が放送をオープンリールに録画していたため、今でも見ることができる。俺もかつて、「NHKアーカイブス」で見ました。

 だが、そのような幸運な例は少ない。この本の中に紹介されている作品の中には、作品の抱える事情も含めて非常におもしろそうなものが多く、見てみたいと思うのだが、それがかなわないというのは非常にやきもきする。

 最後に、この本に登場するエピソードの中で印象に残ったものをいくつか挙げておこう。

・テレビドラマなどに表示される「『この物語は架空のものであり、実在する人物や団体とは関係ありません』などのテロップ」(p.90)の元は、『超人バロム1』である。
 これは、敵のボス、ドルゲと同姓のドイツ人、ドルゲ氏が抗議をしたため。ちなみにDVD化はされている。
・『オバケのQ太郎』の原作漫画は、現在すべて絶版である。これに関しては、F・Aの両藤子不二雄先生の著作件の問題など、色々な説があるが、公式に理由がコメントされていないので正確なところは不明である(pp.118-119)。
・『キャンディ・キャンディ』をめぐって、原作者水木杏子と作画のいがらしゆみこの間の著作権問題が裁判に発展したのは知られているが、いがらし氏は別の作品でも著作権をめぐりもめていたらしい(p.151)。

2006.06.14(水) 仕事について考えるために
オンライン書店ビーケーワン:ストレスフリーの仕事術デビッド・アレン:著/田口元:監訳『ストレスフリーの仕事術 仕事と人生をコントロールする52の法則』(2006.6,二見書房)
 分類してしまうとビジネス書になるのかもしれないが、もう少し広い意味で仕事をするためのヒントになる本。テクニックというよりも、考え方について書かれているので、この本から自分で考えて行動することが必要になる。
 でも、自分で工夫して試行錯誤しようという気持ちになれる本。

 著者デビッド・アレン(David Allen)の提唱する仕事の進め方、GTD(Getting Things Done)には、次の5つのステップがある(pp.204-208)。

・1.収集する/2.処理する/3.整理する/4.レビューする/5.実行する

 この中で特に重要なのは、まず「収集する」こと。ここでは、気になっていることを、ささいなことも、すべてアウトプットする(紙に書いてもいいし、パソコンに入力してもいい)。
 そして「レビューする」こと。少なくとも週に一回は、自分がアウトプットした気になることを見て、次になにをすべきかを考える。
 これは非常にシンプルなのだが、しっかりと実行するのはなかなか難しい。これをいかに実行するかを、具体的な場面を紹介しながら考えるのがこの本。

 全体的な感想というよりも、気になった部分、参考になりそうな部分を紹介していきましょう。

 「今の仕事を把握するには次の6つの質問に答えられなくてはいけない」(p.39)。この6つとは、「1.今、あなたにとってのタスクは何か? タスクとは、あなたが担当している仕事について、今、とらなければならない行動(中略)2.今、あなたにとってのプロジェクトは何か? プロジェクトとは、一般的に複数のタスクから成る、あなたが達成しようと決めた成果のことだ。(中略)3.今、あなたが責任を持っている分野は何か?(中略)4.これから一年で、あなたの仕事や私的なプロジェクトにはどのような変化があるだろうか?(中略)5.これから数年間で、あなたの属するグループやあなたの職業、私生活にはどのような変化があるだろうか?(中略)6.あなたは何のために生きているのだろう?」(pp.39-40)
 ただ、「すべてを完全に明らかにできたと言える人には、今のところお目にかかったことがない」(p.40)そうなので、そんなに心配する必要はなさそう。ただ、タスクやプロジェクトは比較的明確に、より長期的な点も漠然とでも考えておくと、自分が日々生活する中で、動揺したり、むなしさを感じたりすることは少なくなるのではないかと思う。

 そして、自分の現状についての情報を「収集する」上で重要になるのは下記の点。
 「仕事の優先順位はすべての『やりかけの仕事』を把握してこそ意味がある」(p.51)。なぜなら、「重要だけれど緊急ではない」(p.50)仕事を忘れずにいて、いざというときに備える必要があるから。この「重要だけれど緊急ではない」仕事って、曲者なんだよなあ。それが嫌な仕事だと、つい先延ばしてしまう。先延ばしするうちに、やらなくていいこと(重要でなく、緊急でない)のように錯覚してしまい、いきなり重要で緊急な仕事になったときにあわてるんだよ。
 同じことを別の言い方で表しているのが、「やりかけの仕事をすべて把握することができてはじめて、人生の平穏が完全なものになる」(p.105)ということ。ストレスを感じないで仕事をするために、これは大事だと実感できる。
 ただでさえ「なんで今それを言うんだよ!」という、他人からの連絡が大きなストレスになる。まして自分でやるべきことを忘れていると、更なるストレスになる。だから、自分がすべきことは把握し、他人が言ってきそうなことも先回りして予想しておくというのは、これは大事だ。それでも「なんで今それを言うんだよ!」はなかなか減らないだろうけれど。

 注意しないといけないのは、「アイディアの収集・整理・処理をいっぺんにやらないこと」(p.154)。収集の段階では、どんなにくだらなく思えることでも書くことが大事なのである。

 収集した情報を「整理する」のに大事なのが、「リスト化」。
 とにかく自分がやるべきことをすべてリストにしてみる。これは、「やりかけの仕事を片付けることによって、本当にやりたいことのために集中力と創造的なエネルギーを100パーセント使えるようにする」(p.71)ためである。つまりリストに書いたことだけをするわけではない。むしろ「リストの中の仕事を後回しにしても大丈夫だ」(p.72)と思えるため、計画になかった仕事ができる可能性がある。
 ここで大事なのは、やるべきことを選別するための「整理は意識せずに、自然になされていなければならない」(p.119)ということ。別の表現では、「本当に役に立つシステムというのは、過酷な現実に直面し、システムなど使う気にならないときでさえもなんとか維持していける、シンプルでしっかりしたものであるべきだ」(p.131)と書かれている。無意識にできないと、いつか苦痛になって、やめてしまう。そのための自分にあった仕組みって、作るのは難しいけれど、作ったら一気に楽になるよなあ。

 整理した情報は、そのままにせず、「週に1度、1週間分のアイディアを集め、処理し、整理しよう」(p.126)とされている。これが「レビューする」ということ。俺もやりたいと思いながら、なかなか毎週はできていなくて、これはこれからの課題。
 レビューすることの効果としては、変化をつけるべきことが見えてくるという点もある。「あなたの持ち物や慣れ親しんできたやり方を一度ぜんぶ見直してみるといい(中略)。それぞれの目的が何か、定期的に書き出してみよう。きっといろいろなことを変えたくなる」(p.90)。行動には当然理由があるのだが、その理由となる物事は時代とともに変わる。本の中では、経営者のデスク、ヨットやキッチンのレイアウトなどが例として挙げられている。「昔からそうだから」という理由は、今では意味がない可能性がある。

 最後に、これだけ仕組みを作っても、「行動する」ということができなければしょうがない。そのために自分の気持ちを盛り上げていくことが必要になる。そのためにヒントになりそうな部分をいくつか。

 「何事にもくじけないための、ごくシンプルな秘訣がある。それは『何をするにもベストを尽くそう』とたった今、決心することだ」(p.91)。「『ベストになる』のではなく、『ベストを尽くす』のである」(p.91)。ベストになるというのは、勝ち負けの問題だが、ベストを尽くすというのは、自分の行動の原動力になる。「ベストの会話をしよう。ベストの企画書を書き、家族とベストのドライブに出かけ、ベストの人事評価をし、ベストの昼寝をしよう」(p.93)。こう思うと、なんとなく気分が盛り上がる。

 「電話が鳴ったり、誰かがあなたのドアをノックしたときに、あなたはワクワクするだろうか」(p.66)。つまり、新しい仕事に臨む時に、いかにモチベーションを高めるか。そのために、デビットは自らのサービスを値上げさえしたという(p.63)。

 「どうしても明日職場に持っていかなくてはならないものがあったとき、(中略)、あなたはどうするだろう。そう、ドアの前にそれをおくことだ」(p.85)。やるべきことを自分にどうやって知らせるかは、工夫する必要があると思う。やるべきこと(特にやりたくないこと)は、あえて邪魔になるように(やらないといけないように)しておいた方がいいのだろう。

 「運動したいと思ったら、まずはトレーニングウェアを身につけよう」(p.138)というのが、具体的に行動するためのポイントとして分かりやすい例。他にも、「本を書こうと思うなら、タイトルを決めてワープロを立ち上げよう」(p.138)となる。

 「絶対にしたくない! とあなたが思っていることが、往々にして現状にもっとも大きなインパクトを与えるアイディアだったりする」(pp.158-159)。嫌なことであっても、ちちゃんと考えてみないといけない。考えるのも苦痛なこともあるけれども。

 これからも、時々気になる部分を読んで参考にしたいと思う。
 なお、テクニック的な部分は、下の本も参考になるかも知れません。

オンライン書店ビーケーワン:ライフハックプレス・田口 元〔ほか〕著『ライフハックプレス』(2006.4,技術評論社)
「lifehacksとは、仕事をシンプルかつ楽しくするような習慣を生み出そうという考え方。シンプル&ストレスフリーの仕事術GTDや、Google全サービス活用、プレゼンが簡単にうまくなる方法を特集する」(オンライン書店bk1の紹介文)

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2005.1.27(金) ささいなことを色々考えているのは面白い。たとえそれがなんの役に立たないとしても
・RPGギルド『RPG100の疑問vol.2』(1989年,BNN)
 テレビゲームのロールプレイングゲーム(「ドラゴンクエスト」のようなゲーム)を遊んでいて思いつく疑問と、それに対する答えを一問一答で掲載した本。

 例えばこんな疑問が出される。
・「いくら屈強な戦士でHPが高くても首や心臓を一突きされたら即死すると思うんですけれど」(p.13)
・「なぜ、初対面なのにモンスターやアイテムの名前が分かるのか?」(p.57)
・「ヴァンパイアは鏡に映らないと聞いたのですが、彼らは自分の容姿を知っているのですか?」(p.79)

 どれもこれも、「そういえばそうだよなあ」と思う疑問だ。こうした問いに対し、ある時は納得の行く、ある時は屁理屈のような答えを返していく。あまり難しく考えずに読んでいくと面白い本。
 欄外にはRPGによく登場する職業とか、『指輪物語』(映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作ですよ)の紹介とか、RPG・ファンタジー小説のベストテンとかのコラムもあり、これも面白い。

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2005.1.2(日) だまされないためにだましの手口を知っておこう
・安斎育郎『だます心だまされる心』(2004年,NHK出版)
 2004年12月〜2005年1月の、NHK教育「人間講座」のテキスト。様々な事例を元 に、「だまし」について考察する。なお著者はJapan Skepticsという「超自然現象を 批判的・科学的に究明する会」(著者紹介より)の会長。
 目次は下記の通り。

第1回 トリック−人為的な不思議現象にはタネがある
第2回 文学・芸術の中の「だまし」−ユーモアあふれるウソ
第3回 霊とカリスマの世界
第4回 実生活に潜む「だまし」−思い込みと欲得の落とし穴
第5回 「だまし」の社会現象−政策誘導のための「だまし」
第6回 自然界の「だまし」名人
第7回 迷惑な愉快犯たち
第8回 どうすればだまされないか?

 とにかく、だましのテクニックを知ることで、物事を見る目を養うのは大事だと思っ た。
 例えば、数字を見ると、「超常現象」と言われることも単なる偶然だと分かるのが 次の話(pp.14-15)。1974年に、テレビ番組で、念力で故障した時計を直す現象が 紹介された際、偶然を偶然と思わせないような色々なトリックが使われていたので ある。  まず、時計が止まるのは、「寒さのために潤滑油の粘性抵抗が増し、そのために 歯車の回転が妨げられている」(p.14)という原因の場合がある。この場合、暖かい 部屋で時計が握られていると、時計の中の潤滑油が温まり、粘性抵抗が減り、時 計が偶然動き出すことがある。
 この前提の上で考えると、1974年のテレビ番組放送時に時計を持ち出したのが 1500万人と言われている(試聴率を20%とすれば、十分考えられる数字だ。1億人 の20%でも2000万人だから)。
 そのうち100万個の時計が、先程あげた原因で止まっているとする。そのうち100 個に1個が偶然動き出しても、1万個の時計が動いたことになる。
 その時、テレビで「動いた人は電話して下さい。10台の電話が用意されています」 (p.15)と呼びかけて、10%の人が電話したら、1000人が電話する。すると「番組終 了後も三時間にわたって電話が鳴り止まない」(p.15)となる。電話をかけているの は1500万人のうち1000人(というのは0.0066%)なのに、「何だか全部動いたような 印象」がつくられてしまう。

 これは、知らないと怖いよなあ。こういう話がたくさん出てくるので、全部紹介した いのだが、あまりに長くなってしまうので割愛。

 最後に、だまされないためにどこに気をつけるべきかを紹介しよう。
 ひとつは、だまされるきっかけは「思い込み」と「欲得」にある、ということ。
 「『自分はだまされない』はすでに『思い込み』」(p.117)だし、「人々に欲望がある 限り、詐欺師は安泰?」(P.119)なのである。この二つには常に気をつけないとい けない。
 そしてもうひとつ、「そんなことできるのなら、どうしてこうしないのか」(p.121)と考 えることが大切。これは具体的な対策として有効だと思う。例えば、次のような考え 方。
・「霊能者の『霊視能力』がホンモノなら、どうしてオウム真理教事件で拉致された 坂本堤弁護士一家の居場所を教えてくれなかったのか」(p.123)
・「英語教材を売りに来る人の『三週間で英語がペラペラ』という宣伝がホントなら、 どうしてその販売員が英語ペラペラではないのか」(p.123)
 これは、色々な場合に使える思考法だと思う。

 おまけ。本の中に、思い込みの強さを検査するテストがあるので、その中から一 問紹介しておきます。
【問題】
「坂道を重い荷物を山ほど積んだ荷車が登っています。前に引き手、後ろに押し手 がいます。前の引き手に聞くと、『後ろで押しているのは、私の息子です』と答えま す。後ろに回って押してに聞くと、『前で引いているのは、私の父ではありません』と 答えます。二人の関係はどうなっているのでしょうか?」(p.63)
 単純な問題ですが、これが分からない人はちょっと思い込みが強いと用心した方 がいいですよ。

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2002年8月31日(土)
・安斎育郎『科学と非科学の間』(2002年,ちくま文庫)オンライン書店ビーケーワン:科学と非科学の間(はざま)
 占い・心霊・超能力などのインチキぶりをきちんと調べ、検証した本。超能力などを、最初から「ない」と決め付けるのではなく、しっかり調べた上で、「ない」ことを証 明している。この本の初めに「科学的命題」と「価値的命題」という言葉が出てくる が、要するに「信じる/信じない」と「ある/ない」は全然次元が違う問題なのであ る。それがわかっていないと、「自分が信じているから」ということだけを根拠に、 「ある/ない」の判断を下してしまう。
 文章などに好き嫌いはあるだろうが、この本の根底にある「わからないことは時間をかけて研究していく。ただし、今わかることは明確な根拠をもってはっきりとさせる」という姿勢は間違いない。
 例えば血液型による性格診断などを、なんの疑問も持たずに信じている人など は、ぜひ読んで欲しい。自分のやっていることが人種差別となんら変わらないこと に気づくでしょう。
 ちなみに俺は、超能力や心霊は、作り物としては面白いと思うが、現実の出来事 としてはまったく信じておりません。今の研究結果を見ればそれは明らかだし、そう した成果を無視するのはあまりに愚かな人間のやることだと思う。

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2009-09-12(土) 萌えでもシュールでもなく、王道

あずまきよひこ『あずまんが大王 新装版』(2009年・小学館)
  
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3年生:オンライン書店bk1Amazon.co.jp

 女子高校生の三年間の学校生活を描いた四コマ漫画。1998年〜2002年にメディアワークスから刊行された『あずまんが大王』全四巻を、学年ごとの全三巻にまとめたもの。雑誌『ゲッサン』で短期連載された「補習編」も含まれているし、かなりの部分が加筆・修正されている。元の版を読んでいるのだが、「あれ、初めて読む気がする」と思う部分もちらほら。

 この漫画が一般的にどういう評価をされているかは知らないけれど、もしも未読の方が「萌え系」とか「シュールなコメディー」と思っているとしたら(個人のブログかどこかでそう表現されているのを読んだ記憶がある)、それは誤っている。もしくはある一面への印象でしかない。そして、それが理由で読まず嫌いでいるとしたら、先入観に惑わされずに読んでみた方がいい。実際は普遍的な面白さのある、王道ともいうべき魅力のある作品。

 その理由の一つは、学校生活の中で誰にも共通する思い出が描かれていること。具体的には、「授業(学校行事含む)」と「休み時間」、「登下校」がほとんど。「部活」や「恋愛」のような、個人によって思い出が異なる時間はほとんど描いていない。

 女子高校生の学校生活のリアリティは、私には分からない。でも高校生の友だち関係って、同性同士なら男も女もあまり変わらないのかなってことを感じる。読みながら、「こういう人、いたかもしれない」、「こういう笑える出来事、あった気がする」と思うことがしばしばある。

 もう一つは、その中に他とは大きく異なるキャラクターを登場させて、マンネリになりがちな物語に刺激を与え続けている点。それは、本当は小学生なのだが、天才なので飛び級で入学してきた「ちよちゃん」。この子は勉強はできるのだが、なにせ年齢が小学生で、実は家も裕福なので、言動が一般的な高校生とはちょっと違う。そのずれが笑いになるし、ちよちゃんに説明するという形式をとると、物語が説明的にならずに進む。このあたりは、実は藤子・F・不二雄作品とも通ずる部分があるのだと思う。つまり実はちよちゃんはドラえもんやQちゃんのような存在と言える。

 各登場人物それぞれに魅力的で、ラストの高校卒業を描いた3年生の3月を読むと、高校生活を丁寧に描いた漫画だけに(高校三年間できちっと終わった点が、改めて潔いと思う)、本当に卒業に立ち会った気持ちになって、ちょっと泣けてくる。

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