「木の葉燃朗のがらくた書斎」トップ>>木の葉燃朗のばちあたり読書録>>著者別「え」

木の葉燃朗のばちあたり読書録

<< 雑誌・共著その他   ▲「ばちあたり読書録」目次    か行 >>

■著者別「え」->    え 

遠藤寛子『算法少女』 / 遠藤 周作『十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。』

. _


2007.02.22(木) 学ぶことへの情熱が静かにわきあがる本

オンライン書店ビーケーワン:算法少女・遠藤寛子『算法少女』(2006.8,ちくま学芸文庫)
 江戸時代に、父親と『算法少女』という本を出版した、千葉あきという算術に優れた実在の少女を主人公にした物語。当時の記録に基づきながら、創作の人物も登場させて、物語として書かれたとのこと。

 非常に面白かったです。江戸時代の算術(和算)がテーマと聞くと、難しいと感じるかもしれない。実際私も、本を知ったときにはそう思いました。しかし、心配はいりません。難しい数学や算数の問題はほとんど登場しません。いくつかは登場しますが、その問題は、難しいと感じたらひとまず置いておいて先に読み進めても、ちゃんと最後まで物語を楽しむことができます。

 それから、元々少年少女向けの歴史小説として書かれたものなので、文章は分かりやすく、かつ面白い。多分、中学生くらいであれば問題なく読めるのではないかと思います。漢字も、ちょっと難しいものにはルビが振ってあります。

 そして、読み終えると、学問を学ぶことに対して意欲や情熱が湧いてくる。また、学問を学ぶ際は、狭い世界で争っていないで、大きな視点でものを見て、考えなければいけないということも考えさせられる。話の進み方が非常にうまいし、登場人物にも魅力があるので、自然にそう思わせてくれる。
 例えば、江戸時代の算法は、関孝和の流派である関派と、その他の流派が「じぶんの流派の長所をあげ、他流のやり方を決定の多いものとして、みとめないばあいがおおかった」(p.75)という状況だった。
 しかしその中でも、本多利明(1743-1820)のように、算法だけでなく蘭学も学び、西洋の学問も取り入れようとした学者もいた。本多もこの物語に登場し、あきにオランダの数学書や杉田玄白の翻訳した『解体新書』を見せ、「この国の算法に西洋の算法を取り入れれば、研究はもっともっとすすむはずです。いや、そうしなければ、われわれはたちおくれてしまうのです」(p.196)という話をしている。このくだりは、読んでいると非常に納得できる。

 著者によるまえがき「はじめに」で、「この本を読まれたみなさんが、将来どの方面に進まれるにせよ、ひらかれた、ひろい心こそ、学問や世の中の進歩につながることを忘れないでいてほしいとおもいます」(p.4)と書かれているのだが、まさにこのことを感じる。

▲このページの先頭へ

2009年10月03日(土):他人に伝わる文章とは

遠藤 周作『十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。』(新潮文庫)オンライン書店bk1Amazon.co.jp

 編集者に預けられたまま、46年間発表されることのなかった遠藤周作氏の原稿を書籍化したもの。
 しかし、未発表原稿だからという理由だけで刊行されたわけではないことは、この本を読むと良く分かる。手紙の書き方を指南する随筆なのだが、それだけに留まらず、他人に伝わる文章をいかに書くかについて、分かりやすく、面白く説明されている。

 おそらく、現在たくさん出ているであろう「手紙の書き方」、「メールの書き方」といった本のほとんどよりも、この本の方が参考になる部分が多いだろう。なぜなら、一つの形を提示するのではなく、「読む人の身になって」という基本原則を守って、あとは相手との関係の中でどういう手紙を書くのが良いか、色々な例を挙げて紹介しているから。むしろ、決まりきった文章は「読む側になんの感興も、感動の起こさぬ」(p.63)のである。この本で紹介されている文章の書き方は、手紙に限らず色々な場合に応用できる。

 また「読む人の身になって」を原則に挙げるだけあって、文章の中にはユーモアやサービス精神がたくさんある。例えば、本の中に挙げられたテーマを知っている人には「もう読み続ける必要はありません。こんな本は古本屋に売り飛ばして、そのお金で今川焼きでも買って下さい」(p.34)と書いてみたり(「売り飛ばして」で終わらず、「今川焼きでも買って」と続くのがいいよね)。あるいは外国語を使うキザな男を「『ボクはあなたをラブしているのです。シェークスピアの言葉ではありませんがツーラブ、オア、ノット、ディス、イズ、マイ、クエステョン』/ 手前がクエスチョンなくせに、こんな鼻持ちならぬ男性に」(p.98)とおちょくってみたり。
 また当時の時事的な固有名詞(俳優の名前など)には注も付いているし、今読んでも古い感じはない。

▲このページの先頭へ


<< 雑誌・共著その他   ▲「ばちあたり読書録」目次    か行 >>

「木の葉燃朗のがらくた書斎」トップ>>木の葉燃朗のばちあたり読書録>>著者別「え」

inserted by FC2 system