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木の葉燃朗のばちあたり読書録

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 き   


■著者別「き」

菊地敬一『ヴィレッジ・ヴァンガードで休日を』 / 菊地聡『超常現象の心理学 人はなぜオカルトにひかれるのか』 / 如月小春『都市の遊び方』 / 紀田順一郎『インターネット書斎術』 / 紀田順一郎『古書収集十番勝負』 / 紀田順一郎『書斎生活術』 / 紀田順一郎『新版古書街を歩く』 / 北尾トロ『気分はもう、裁判長』 / 北尾トロ『銀座八丁目探偵社〜本好きにささげるこだわり調査録〜』 / 北尾トロ『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 / 北尾トロ『ヘンな本ありますぼくはオンライン古本屋のおやじさん2』 / 北尾トロ『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』 / 北原尚彦『キテレツ古本漂流記』 / 喜味 こいし著・戸田 学聞き手『いとしこいし想い出がたり』 / キリングセンス『スキスキコンビニ』


2003年7月21日(月) 本への、そして本屋への情熱沸き起こる2冊(の1冊)
菊地敬一『ヴィレッジ・ヴァンガードで休日を』(1997年,リブリオ出版)
 ヴィレッジ・ヴァンガード(以下「V.V.」と略)設立から10年目の記録。軽いエッセイ もあれば、V.V.の歴史もある。経営に関する考え方もある。本屋の売上・利益・商 品回転率なども、具体的な数字を挙げて例示している。
 本の内容に全面賛成とはいえないし、今と状況が違う部分もある。世の中も、本 に関係する業界も、そしてV.V.自身も、この本が書かれた当時から変わっている。 でも、俺はV.V.のやっていることには意味があると思うし、素直にすごいと思える部 分も、V.V.で働く人たちをうらやましいと思う部分もある。
 こうなると、最近の菊地氏の話も聞きたくなる。どんどん大きくなり、全国に同じよ うなコンセプトの店を広げる現在のV.V.において、氏はなにを思っているのだろう か。
オンライン書店bk1の紹介ページ

2002年6月3日(月) フリートークにて:5月にはこんな本を読んだ(前編)
オンライン書店ビーケーワン:超常現象の心理学・菊地聡『超常現象の心理学 人はなぜオカルトにひかれるのか』(平凡社新書)
「超能力やオカルトを疑いなく信じている人には、ぜひ読んで欲しい本ですね」
「個人的には、『血液型による人間分類』の間違いを指摘した部分をぜひ多くの人に読んで欲 しい。あと、占いを信じている人も、この本を読めば心おきなく信じられなくなります」
「同じ著者の『超常現象をなぜ信じるのか』(講談社ブルーバックス)もおすすめします」
オンライン書店ビーケーワン:超常現象をなぜ信じるのか・菊池 聡著『超常現象をなぜ信じるのか』(1998.9,講談社)


2003年12月19日(金) 書を持って街に出よう!
如月小春『都市の遊び方』(1986年,新潮文庫)
 劇作家・演出家であった故・如月氏が、1980年代の東京を歩いた記録。JR山手 線の内部を中心に、当時出来たての多摩ニュータウンなどにも足を運んでいる。
 しかし、1980年代の東京は、良かれ悪しかれエネルギッシュだったと思う。これは 今の視点でものを考えて美化しているだけのかもしれない。しかし、せめて当時の 記憶があればと思う。なにせ1980年代の俺は、3歳〜13歳である。行動範囲は自 分の住む街が中心で、その他の街の記憶はおぼろげなものしかない。
 その頃の記憶を埋めるように、俺は今街を歩いているのかもしれない。
 少し脱線してしまった。この本の内容に戻ろう。この本の面白さは、単に街単位 ではなく、あるテーマで街を括っていること。八王子の大学街、都内の公園、外国 人の多い街(青山・麻布・六本木)、アジア系のエスニックタウン、まだなにもなかっ た湾岸(夢の島・品川・大井)、など。また、ぴあ・ロフト(西武)、カルチャーセンター といった、1980年代らしいテーマも見られる。こうしたテーマに沿って街を見ると、 新しい地図が出来る。思いも寄らない街がつながって、これには新鮮な感じがし た。

2004年4月13日(火)自分のホームページについて色々考えた本
紀田順一郎『インターネット書斎術』(2002年,ちくま新書)
 出版・書誌などについての著作も多い氏による、インターネットでいかに「知的生 産」をするか、という内容の本。目次は次のとおり。

 1.私のインターネット書斎放浪記
 2.インターネット書斎のコツ
 3.インターネット、ここが使える、使えない
 4.文系ホームページの挑戦
 5.インターネットで本探し
 6.インターネット読書の楽しみ
 7.新しいインターネット書斎のために

 著者は1980年代くらいからパソコンを使っていただけに、なかなか歴史のある話 も多い。
 1章から2章の、パソコンでの知的生産のヒントになる部分としては次のような部 分がある。あまり他の人は書かない点を取り上げている。
 ・パソコン周りの机、イスをどう整えるか。マニュアルなどはどのようにしまうか。 パソコンを使いながら本を見るにはどうすればいいか。(pp.22-37)
 ・知的生産に適したパソコンソフトの紹介。(pp.54-55)
 ・個人で知的生産を試みている人のページ紹介。(pp.76-77)
 また3章では、日本語の表記の問題や紙の資料との比較からインターネットの問 題点を取り上げている。四字熟語の使用率、誤用の率などをGoogleを使用して調 べたり、表記の問題(「霞ヶ関」か「霞が関」かなど)を考察したりしている。4章は、 自分がページを作る上での参考になる。
 5章はタイトルどおり、インターネット書店・古本屋のページを紹介している。
 6章はインターネットで書誌学の活動をしているページの紹介。源氏物語、万葉 集、徒然草、トーマス・マンの研究をしている様々なページ。
 7章は、インターネットに限らず、データベースの整備についての考察。そもそも の問題点として、次のようなことがある。
「インターネット利用の大前提として、検索という観念の定着、技術の向上というこ とが必要である。インターネット文化とは、『引く』文化、『参照する』文化なのであ る。ところが、この『引く』『参照する』ということに関して私たちの文化環境は理想 的というにはほど遠い状態にある」(p.168)。
 他にも、検索の重要性が軽視されたままになっており(「検索技術よりも”丸暗記 の思想”を尊重」pp.173-176)、インターネット時代に検索が重要になっても、ホー ムページがデータベース化されていないことも指摘されている。
 またそうした部分とは別に、インターネットの日本語ページの問題点も下記のとお り指摘されている(「日本語インターネット、ここが使えない」pp.182-190)。
 1.漢字表記の不統一:「炭疽菌」か「炭そ菌」か
 2.片仮名表記の不統一:「コンピュータ」か「コンピューター」か
 3.同音異義:「根元」と「根源」
 4.送りがな不統一
 5.記号(符号)の不統一
 6.単位の不統一

 ホームページに、データベースとしての価値を持たせないといけないというのは、 考えさせられた。色々とページを変えるつもりです。サイト内検索も導入しようかと 思っている。
 2年前の本で、既に古くなっている部分もある。例えば、p.123の「統計によると、 全国のインターネット利用者の七〇パーセントはまだダイヤルアップかISDNを使っ ている」。ちなみに、今の状況は、下のページを参照してください。だがそれでも、 パソコンやホームページをいかに活用するかという面で、この本には参考になる部 分が多い。
(参考)DSL普及状況公開ページ(総務省)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/whatsnew/dsl/index.html

2002年11月5日(火) 神田古本まつり記念(ではないけれど)
紀田順一郎『古書収集十番勝負』(2000年,創元推理文庫)
 神保町の古書店の後継ぎを決めるために古本収集戦の火蓋が切られた。二人 の社員が次期店主の座を争って本を探し、そこに一癖も二癖もある古本マニアや 同業者たちが絡んでくる。なにせ、収集の対象になる本には、マニアなら誰もが欲 しがるような本も混ざっているのだ。さあ、勝負の行く末は!
 …といったふうな内容なのだが、いやあ、人間の欲をクローズアップして描くと、 なんとも醜いねえ。そんなことを一番に感じたよ。もちろん、それだけではない。古 本については、自身が出版や文学の研究者である紀田氏だけに、くわしく書かれ ている。本に関する知識だけでなく、例えばデパートで行われる古書展(古本市)で 欲しい本を手に入れようとする人々の様子など、面白おかしく書かれているが、真 実味がある。
 また、推理小説としての面白さもしっかりと存在する。最後に明かされる、古本争 奪戦に隠された仕掛けは、なかなかの意外性があった。
 古書・古本をテーマにした推理小説には、ジョン・ダニング『死の蔵書』(1996年, ハヤカワミステリ文庫)・『幻の特装本』(1997年,ハヤカワミステリ文庫)などが話 題になったが、日本が世界に冠たる古書街である神保町を舞台にしたこの小説も なかなかだ。
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2003年12月15日(月) 本を取り巻く状況を楽しむための1冊
紀田順一郎『書斎生活術』(1984年,双葉社)
 軽めの新書版のエッセイ。「フタバブックス」というシリーズの1冊。次のような内 容。

 第一章 書斎の設計:著者の個人史と書斎のかかわり。
 第二章 書斎の光と影:永井荷風が見た森鴎外の書斎に始まり、古今東西の有 名無名の人たちの書斎を紹介している。
 第三章 書斎の道具:文具・書棚・机などについて。著者自身の回想を含め、 色々なエピソードが紹介される。
 第四章 わが城小宇宙:著者の読書歴・辞書の話・当時の文庫本の状況など。 特に、当時既に古典や入門書からベストセラー中心の品揃えになりかけていた文 庫本がどうあるべきかという議論は、今の文庫本の状況を考えながら読むと興味 深い。
 第五章 ワープロとパソコンのある書斎:ここが、特に当時の状況を思うととても 面白い。いかに当時のパソコンが一部のマニア向けだったかがわかる。なにしろ、 パソコン本体、ソフト、周辺機器含めて100万円が普通で、著者はこれからもパソコ ンは値上がりするかもしれないという予測を立てている。まさか、10万もすればそこ そこのパソコンが手に入り、インターネットがここまで普及するなんて思わないよな あ。

 ということで、読む前の期待とは違う意味で楽しめた。いわゆる知的生産のため のヒントを与えてくれる本かと思ったが、著者の生活をエッセイ風に綴った部分や、 当時の状況の方が面白かった。

2003年7月1日(火) 古本への情熱高まる2冊
紀田順一郎『新版 古書街を歩く』(1992年,福武文庫)

 古本・本に関する話題を取り上げ、エッセイ風にまとめた本。出版・読書について の著作には定評のある紀田氏だけに、やはり面白い。全18章あるのだが、どれも これもみな興味深い。一番初めの古書即売会(いわゆる古本市)の描写など、知 らない人は「本当かいな?」と思うだろう。なにせ、デパートの七階で行われる古本 市の初日、古本マニアが目の色変えて開店とともに会場に駆け込み、大騒動にな るのだ。しかし、この話は本当らしいですよ。色々な人の書いた古本に関する本を 読むと、同じような話が出ていますからねえ。
 そうした古本市の様子にはじまり、文庫・新書・事典・翻訳文学(青春文学)・雑誌 のバックナンバー・マンガ・全集(これは個人全集ではなく、「日本文学全集」なんて いう類のもの)・ぞっき本(色々な理由で定価よりも安く売られる本)などなど、様々 なジャンルの本についての話が登場する。
 著者の本に対する色々な体験や考え方も多い。初版が必ずしもいいとはいえな い、という意見や、古本で全集をバラで集めるのはいかに大変かという話。ちなみ に全集の話をもう少しくわしくしておくと、全集には必ずといっていいほど他の巻よ りも発行部数が少ない本がある。これを「キキメ」と呼び、場合によっては他の巻を 全部合わせたよりも古本としての価値があったりする。つまり、全10巻の全集のう ち、10巻がキキメだった場合、古本としての値段は1〜9巻までまとめて5万円で、 10巻だけで6万円ということもあるのだ。古本の世界って、奥が深いね。
 その他には、1章をまるまる宮武外骨の紹介にあてた「戦闘的古書マニアの生 涯」も面白いし、氏が幼少の頃貸本屋で読んだ『少年倶楽部』の話、物集高見編の 『広文庫』、『群書索引』の復刊をめぐるエピソードも興味深い。
 そして、この本は神保町の簡単な歴史と未来についての話で終わっている。紀田 氏は当時(1992年)、10年後、20年後の神保町の状況に不安を抱いていたようだ が、今の神保町は、少なくとも素人の俺から見れば元気なんじゃないかなあと思 う。
 みなさんは、どう思いますか。

2005.09.23(金) 傍聴から始める裁判入門
・北尾トロ『気分はもう、裁判長』(2005,理論社)
 中学生以上を対象にした「よりみちパン!セ」シリーズの一冊。刑事事件を中心に様々な裁判を傍聴する、という形式で、裁判所・裁判の様子を解説した本。
 裁判や裁判所というと、多くの人は抵抗を持っているだろう。おそらく、その理由は大きく分けて二つあると思う。

1.なにをやっているのか分からないので怖い。
2.自分には一生縁がないから知りたくない。

 しかしこの本を読むと、その考えが変わる。
 まず、裁判長も検察官も弁護士も、法律の専門家ではあるが普通の人間である。昼休みに、食堂で昼食を食べる裁判長を見ながら、北尾氏は次のように言う。

「法廷では神様のような裁判長も、ぼくたちと同じように昼食を食べ、同僚と会話をする。家に帰れば家庭があって、子供の父親かもしれない。もう少し給料が上がればいいなとか、日曜日は釣りに行こうかとか、そんなことを思うことがあるかもしれない」(p.103)

 裁判は決して特別な人間が特別なことを行っているのではない。それを知るだけでも、傍聴する意味があると思う。
 また、北尾氏は傍聴する際、「被告人を見ていて、自分と無関係な人だとは思えない」(p.37)のだという。もしも万引きをして、告訴されたら。あるいは、万が一他人に暴力を振るってしまったら。そんな想像をすると、裁判が自分に縁がないとは思えなくなってくる。
 被告人も、見た目だけでは罪を犯しそうにない人間が多い。例えば殺人事件の被告人が「二十代の優しそうな青年。ケンカさえしそうにない、やせっぽち」(p.155)の男だったりするである。

 このようにして裁判を紹介する北尾氏が考えているのは、多くの人に裁判に関心を持ってもらいたい、ということ。
 なぜなら、ひとつはそれが犯罪数の減少につながると考えているから。「傍聴をしていて心から思うのは、被告人だけにはなりたくないということ。悪いことをして得られるものの何倍も、被告人席に座らせる苦痛のほうが大きい」(p.162)のである。陪審員制度についても、導入されれば、それだけで犯罪そのものが減るかもしれないという意見が書かれている。
 そしてもうひとつ、有罪判決を受けた者が刑務所から「出所してきたとき、立ち直るチャンスを与えてあげられる社会に生きていたい」(p.140)から。「前科がある」というと、どうしても偏見を持ってしまう。しかし、「前科があるということではなく、どういう事情でどんな事件を起こしたのかを聞き、つきあうか、つきあわないか、自分の意志で判断することのできる人になりたい」(p.140)という。
 こうした著者の考えも含め、これまでまったく知らなかった裁判の世界を知ることで、裁判に対する考え方が変わるかもしれない。また、実際に傍聴に行きたいと思った人には、ガイドブックとしても役に立つだろう。

 なお、東陽片岡氏の本文内のイラストは好き嫌いが分かれるかもしれない。青木雄二氏のようなタッチです。しかし、これも個人的には味があると思う。
オンラインbk1書店の紹介ページ オンライン書店ビーケーワン:気分はもう、裁判長

2002年8月18日(日)
北尾トロ『銀座八丁目探偵社 〜本好きにささげるこだわり調査録〜』(2000 年,メディアファクトリー)
 
雑誌『ダ・ヴィンチ』(リクルート)に連載された本にまつわる様々なレポート。ダ・ ヴィンチの連載は、『出版業界裏口入学』(1997年,メディアファクトリー)にまとめら れており、現在も「ススメ!北尾堂書店」のコーナー名で連載は続いている。「銀座 八丁目探偵社」では、本について色々と体験するということを中心としている。以下 のような内容が収録されている。
 「網棚に置かれた雑誌の行方を追う」、「衝動買いした本について考える」、「国語 のセンター試験の問題を解いてみる」といった面白い企画。「捨てられた本の行 方」、「チリ紙交換体験記」を経て「新しい古本屋を立ち上げる」という、本のリサイ クルに関する一連の企画。「翻訳家への道のり」「児童書作家になるには」「中小出 版社の実態」などの出版業界関係、などなど盛りだくさんの内容である。
 本が好きな人なら、気になるあれこれを知ることができて興味深いはず。本の世 界は、知れば知るほど奥が深いと思った。
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2004.3.23(火)新しい世界を覗く1冊
北尾トロ『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』(2003年,鉄人社)
 ライターの北尾トロ氏が、東京地裁で裁判を傍聴した記録。本人によるイラスト入 り。 
 傍聴の初心者だった氏が、裁判について色々と知っていく様子が面白い。はじめ のうちはびびっていたけれども、徐々に傍聴者としての経験を積み、傍聴マニアの 面々との交流で情報を得て、冷静に事件を見ていくようになる。その様子を読む と、自分も傍聴に行ってみたくなるなあ。
 また北尾氏の視点が、どこかに偏っていないのもいい。裁判の本というと、特定 の立場に立って書かれた本が多いイメージがある。しかしこの本では、被告も弁護 士も検察官も裁判官も、間違っていればけなすし、立派ならほめる。このバランス 感覚は読んでいて気持ちがいい。
 しかし、色々な人がいる。刑事裁判も民事裁判もあるし、被告の中には世間を騒 がせた事件の関係者もいるが、多くはどこにでもいそうな人のように思える。逆に 言えば、誰もが被告になりかねないのかもしれない。これはちょっと怖かった。今 の世の中、なにがあるかわからないからねえ。
 俺は裁判には縁はなく、今後も無縁でいたいと思うが、この本を読んで裁判に興 味が出てきた。新聞を読んでも、裁判のニュースが気になるようになってきた。
 裁判や裁判所についてあまり知らない人、なんとなく敬遠している人にこそ是非 読んで欲しいと思います。
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2002年7月18日(木)
北尾トロ『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』(2000年,風塵社)
 ライターの北尾トロさんが、オンライン古本屋「杉並北尾堂」を始めるまでと、始め てからの記録。後半には、開店後の日記がある。
 オンライン古本屋を始めようと思う人には、参考になると思う。北尾さんがじたば たと苦労しながら、日々どんなことをしているのかが具体的に書かれている。また 俺のように個人でホームページを作っている者には、「いかにして人をひきつける ページをつくるか」って点が、非常に勉強になった。この本を読んで自分のページ のレイアウト変更に着手しましたからね、俺は。
 あとは、本・古本が好きな人の話というのは、それだけで面白い。ましてや自分 がおもしろいなあと思うような本を集めて読んでいる人の話だったら、なおさらだ。
 というわけで、俺にとっては一粒で二度おいしい本だった。
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2003年6月15日(日) 久々に、本についての本
北尾トロ『ヘンな本あります ぼくはオンライン古本屋のおやじさん2』(2003 年,風塵社)
 ライターであり、オンライン古本屋杉並北尾堂店主でもある北尾トロ氏の日常を つづった本。この本については、ふたつのオンライン書店に書評を投稿したので、 それを引用しよう。

オンライン書店bk1に投稿したもの 
「本がある生活って幸せだよなあ」と素直に思える本 
 北尾氏は、あらゆる意味で本と関わる生活をしている。色々と大変なこともあるの だと思うが、読んでいると非常に楽しそうで、あこがれてしまう。
 オンライン古本屋というと、なんとなく家の中でずっと仕事をしているようなイメージ があるが、北尾氏の日常を読むとそんなことはないとわかる。期間限定でブックカフ ェ(カフェと古本屋を合体させた店)をオープンさせたり、オンライン古本屋が集まっ て古本を実際に販売するイベントを行ったりと、とにかく精力的に活動している。
 もちろん、そうした特別なイベントだけでない。例えば本の仕入れのためにお客さ んの家を訪ねて買取りをしたり、あちこちの古本屋を巡り歩いたりもしている。北尾 氏の場合、本が好きであると同時に、本を通じて色々な人と知り合うことも好きなん だろうなあと思う。
 本好きなら楽しく読めて、北尾氏の真似をしたくなる本だと思う。特に古本屋をや ってみたいと思う人は、勇気と希望をもらえる本ではないだろうか。

Amazon.co.jpに投稿したもの 
本に遊び、本で遊ぶ人の書いた本当に面白い本, 2003/05/27
 ライターであり、オンライン古本屋杉並北尾堂の店主である北尾トロ氏の日常をつ づった本。オンライン古本屋というのは、インターネットで通信販売を行う古本屋の こと。しかし、北尾氏は家の中でずっと働いているわけではない。あちこちで色々な 活動をしている。例えば、お客さんからの本の買取りがある。北尾氏の場合、本の 持ち主を訪ねる出張買取りが多いのだが、その時に色々な人に遭遇している。SM マニアのおじいさんを訪ねたり、ものすごく汚い部屋を訪問したり、大変そうではあ るが非常に楽しそうである。古本には、「前にどんな人が持っていたのか」という面 白さもあって、これは新刊書にはない面白さだと思う。
 また、期間限定でブックカフェを開いたり、デパートで開催される古本市に出展 し!たりと、非常に精力的である。楽しいことばかりではないかもしれないが、この本を 読んでいるとオンライン古本屋はとても魅力的に感じる。古本屋をはじめてみたいと 思う人には、非常に参考になり、励みになる本だと思う。
 さらに、古本に興味がなくても、本が好きな人にとっては興味深い話がたくさん出 てくる。例えば、私は「たまった本をいかに収納するか」という話を読んで、現在本 棚のレイアウト変更を検討中である。
 本好きの人ならば、必ず興味を持って読める本だと思います。

2003年1月13日(月) 思わず古本を捜しに行きたくなる2冊
北原尚彦『キテレツ古本漂流記』(1998年,青弓社)
 古本、それもどこかヘンな古本を紹介するエッセイ。結論から言ってしまえば、こ の本も相当ヘンな本です。
 数冊ずつ本を紹介し、つっこみを入れつつどんな本か説明していくのだが、よくも まあこんな本を買うものだ、そして読破するものだ、と感心することしきりであった。
 なにしろ、一番はじめに登場するのが、中国で日本向けに出版された『地雷戦』 なる映画のフィルムブックなのである。映画の内容は、日中戦争において日本軍 に地雷で対抗する中国人民の話、というもの。しかし、紹介を読む限り、到底まとも な映画とは思えん。
 その次に紹介されるのが、アメリカで出版された『MS.PAC-MAN』という絵本。パ ックマンの奥さん、ミズ・パックマンを主人公にした子ども向けの絵本。『地雷戦』と の落差がすごい。
 その後も、『SAMURAI SANTA』なるタイトルのアメコミ、ミャンマーの『ドラえもん のバッタもんマンガ』(著者にもタイトルが読めなかった)、ジュール・ヴェルヌの『十 五少年漂流記』を金日成が翻案した(らしい)小説、戦前に外国人向けに書かれた 日本の食べ物のガイドブック、マリリン・モンローの伝記マンガ、ポルノ版『星の王 子さま』(その名も『ポルの王子さま』)、などなど、これでもかこれでもかというくらい にヘンな本ばかりが登場する。
 『トンデモ本の世界』(1995年,洋泉社/1999年,宝島社文庫)にも近い雰囲気の ある本だな。ともかく、俺は楽しめた。
 ちなみに著者北原氏は、ミステリー・SF・ホラーなどの分野で活躍する作家であ り、コナン・ドイルの著作翻訳、研究でも知られています。
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2008.09.01(月) 昭和の笑芸の貴重な証言:『いとしこいし想い出がたり』

喜味 こいし著・戸田 学聞き手『いとしこいし想い出がたり』(2008年6月・岩波書店・ISBN : 978-4-00-022164-1) オンライン書店bk1Amazon.co.jp楽天ブックス

 漫才師の喜味こいし氏が語る半生記。兄の故・夢路いとし氏との六十六年に渡るいとし・こいしのコンビ時代を中心に、生い立ちから共演した芸人・俳優の思い出から、様々な話を語る。

 登場する話は、いずれも非常に貴重である。その理由は、こいし氏が昭和二年に生まれ、赤ん坊の頃から役者であったという点にある。ご両親が旅一座の役者で、生まれて間もなく赤ん坊の役で舞台に出たという。そして十歳の頃には、兄いとし氏と荒川芳博・芳坊のコンビ名で漫才の道に入る。
 だから、こいし氏の思い出は、昭和の関西を中心とした笑芸・芸能の歴史の一側面になっている。例えば昭和十五年、吉本興業の寄席(千日前・南陽館)での手見せ(お客さんの前でのオーディション)の後、電車で帰るふたりに、「鳥打帽にマスクしてコートを着て立ってる乗客がな、少し離れたところにいて、『おい、お前、よかったぞ、漫才!』っていうてくれたわけや」(p.29)。しかし、その乗客がマスクをずらすと、誰あろう二人が目標にしていた横山エンタツだったという。これは、いい話であるとともに、歴史の一場面と言っても大げさではない。
 他にも、恩師である漫才作家秋田實、そして秋田の下でともに漫才を勉強した秋田Aスケ・Bスケ、ミヤコ蝶々・南都雄二なども話に登場する。

 関西の漫才師だけでなく、榎本健一と酒を飲んだ話や、古川緑波の最後の舞台に出演した話、柳家金語楼との思い出など、東京の喜劇人との交流も語られ、更には笠置シヅ子、美空ひばり、江利チエミ、大川橋蔵、勝新太郎など、歌手・俳優の名前も次々と登場する。こいし氏の(いとし・こいしの)芸歴の長さ、そして漫才に限らず、舞台・時代劇映画など、幅広い分野での活躍を感じさせる。

 もちろん、いとし・こいしとしての活動についても語られている。まず興味深いのは、ふたりの漫才に自己紹介がない理由。ふたりは舞台に登場すると、お辞儀をしてそのまま漫才が始まる。これは、ふたりが出演していたNHKラジオ『上方演芸会』がきっかけらしい。番組が生放送で、途中で放送が終わってもいいように若手は最後に出演していた。そして登場前に司会が二人の名前を呼んでくれる。そこで、「できるだけ早う本題に入らんと時間がもったいないということが癖になったということもあるわね」(p.124)ということだったらしい。これは意外な理由で、興味深かった。
 それから、ふたりの漫才にずっと現役感があったのは、「兄貴のいとしの『我々がしゃべる漫才は、自分たちの年恰好や口調に合うたネタを演ろうや』という意見で決まりましたな」(p.164)というように、自然にできるネタをしゃべったことが理由のようだ。子ども漫才の頃は子どもらしく、青年時代は恋人を題材に、そして結婚、子ども、孫と、年齢にあった内容を話題にしていた。

 それからもうひとつ、テレビ番組『がっちり買いまショウ』のエピソードも面白かった。まず、元々はオリエンタルカレーが提供していたこの番組、途中でグリコの提供に替わっている。その理由が、オリエンタルカレーの社長の招待によるパーティで、放送局の方が何度も「ハウスカレー」と間違えてしまったことだという。出来過ぎている気もするが、これは面白かった。
 それから、お嫁に行く直前の娘さんとお父さんが出場した回で、ふたりがそれとなくヒントを出して、ぴったり十万円の買い物になり、選んだ商品に加えて現金十万円も授与されたという。一年後にふたりが巡業に行った際、その時の娘さんが楽屋にお礼に来たというのも、いい話だったなあ。

 他にももっとたくさんの思い出話が登場する。こいし氏が色々な出来事を記憶していて、かつそれを面白く話している様子が目に浮かぶ。私はあまり笑芸に詳しくないし、生まれる前の話も多々あるので、知らない出来事や人物もあったが、それでも面白かった。ご存知の方は、もっと面白いだろうと思う。

 最後にもうひとつ、第二章で語られている戦争の記憶についても書いておきたい。戦時中、こいし氏も兵隊として山口・広島の部隊にいた。そして、広島で被爆しているのだという。これは初めて知りました。その前に、南方へ向かう部隊に編成替えの予定もあったそうだが、芸人で余興を演じる必要があったので国内に残ったらしい。その南方へ向かう部隊は「ハワイ沖で敵に全部沈められたんや。だから、私の代わりに行った誰かも亡くなっているわけよ」(p.71)。
 そうした経験があるこいし氏が「戦争は絶対にせんといて欲しいと思う」(p.80)と話すのは、経験と実感を伴った平和への願いを強く感じた。

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2003年7月
キリングセンス『スキスキコンビニ』(1997年,アスペクト)

 まず、キリングセンスというのは二人組のお笑い芸人です。爆笑問題と同じタイタンという事務所に所属している。この本は、萩原正人さんが文章を書き、河崎健男さんが漫画を描く、という形式のエッセイ。もともとは『テレビブロス』(東京ニュース通信社)に連載していた。
 当時コンビニでアルバイトをしていた萩原さんの、経験者ならではの話が面白い。もう6年前の話だが、懐かしい部分と変わらない部分があって、なんともいえない面白さがある。写真週刊誌『フォーカス』(新潮社)が販売中止になった時の話は、結構生々しい。
 他にも、コンビニの簡単な歴史・用語集・Q&A・「あったらいいなこんなコンビニ」(爆笑問題、漫画家おおひなたごうなどがアイデアを提供している)など、連載中にはなかった書下ろしページもあり、楽しめる。
 そして中でも感慨深かったのは、キリングセンスの二人による次のようなやり取りだった。
  もうすぐ新世紀ですね。(萩)
  2001年、宇宙のたびはすぐそこだ。(河)
  21世紀になるその瞬間、何してるんでしょうね、オレたち。(萩)
  お前はコンビニでバイトしてるよ(河)。  (p.153)
 まさかその後、萩原さんがアメリカで肝移植の手術を受けることになるなんて、誰も思わなかっただろうなあ、この時は。

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