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木の葉燃朗のばちあたり読書録

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■共著・他 → 雑誌

あたらしい教科書編集部:編『あたらしい教科書12 北欧』 / 関西ザ・テレビジョン:編『吉本若手お笑い芸人全44組 二丁目軍団オールガイド』 / k.m.p.(ムラマツエリコ&なかがわみどり)『おかあさんとわたし』 / 『芸人バイブル』 / 現代新書編集部:編『東京情報コレクション』 / 『ゲームセンター「CX」』  / 小松左京・筒井康隆・星新一他『おもろ放談』 / 『サブカルチャー世界遺産』 / 散歩の達人ブックス『東京ブックストア&ブックカフェ』 / 散歩の達人ブックス『東京古本とコーヒー巡り』 / 散歩の達人ブックス『東京夜ふかし案内』 / しとうきねお・夏目房之介『ひまつぶし哄笑読本』 / 高橋源一郎・荻野アンナ他『投稿少年−小説家になるための29の方法』 / 田口元、他『Life Hacks PRESS(ライフハックプレス) デジタル世代の「カイゼン」術 』 / ツルシカズヒコ:文・ワタナベ・コウ:絵『ポチ&コウの野球旅』 / 『太陽レクチャーブックス001 グラフィック・デザイナーの仕事』 / 太陽レクチャー・ブック『本屋さんの仕事』 / 林哲夫:編『一読書人の日記1935-84』 / プロ野球助っ人研究会:編『君はソレイタを見たか!』 / 文芸春秋編『同級生交歓』 / アンソロジー『文豪ナンセンス小説選』 / ぼくらはカルチャー探偵団:編『映画の快楽 ジャンル別・洋画ベスト100』 / ぼくらはカルチャー探偵団:編『新・読書の快楽 ブックガイド・ベスト500』 / ぼくらはカルチャー探偵団編『知的新人類のための現代用語集』 / ぼくらはカルチャー探偵団:編『知的新人類のための現代用語集<2>』 / ぼくらはカルチャー探偵団:編『読書の快楽 ブックガイド・ベスト100』 / 本間祐:編『超短編アンソロジー』 / みうらじゅん・山田五郎・泉麻人・安斎肇『日本崖っぷち大賞』 / みうらじゅん・山田五郎・泉麻人・安斎肇『崖っぷちオヤジ』 / 村松友視、他『村松友視からはじまる借金の輪』 / 洋泉社編集部:編『「本屋さん」との出会い』 / 読売新聞運動部:編『サッカーの惑星 W杯参加国ガイドブック』 / 読売新聞解説部:編『時代の証言者 13 サッカー 長沼健』 / 読売新聞解説部:編『時代の証言者8 漫画 水木しげる/やなせたかし』 / 『私のいちばん好きなアルバム』

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2008-10-03(金) 政治・経済から文化・芸術まで

北欧 (あたらしい教科書 12) あたらしい教科書編集部:編『あたらしい教科書12 北欧』(2007年、プチグラパブリッシング) Amazon.co.jpオンライン書店bk1楽天ブックス

 「あたらしい教科書」シリーズの一冊。デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フィンランド・アイスランドの北欧5か国について、政治・経済などの社会の特徴から、文学・デザインなどの文化的な面まで、幅広く紹介した本。
 もちろん、各項目の分量は多くないが、基本的なことは書かれており、コンパクトにまとまっている。興味を持っている人が、最初の一冊に読むにはいいのではないか。

 北欧の社会制度を見ると、税金は高いけれど福祉も充実している。そして、情報公開が進んでいるので、収めた税金の使われ方が明確に分かる。この点には魅力を感じる。税金の使われ方が見えにくい日本と比べると、特にそう感じる。

 その税金の使い道の中で個人的に特に興味深いのは教育。大学も大学院も無償のフィンランドをはじめ、スウェーデンやデンマークでも高等教育まで無料、または奨学金・援助金による保護がある。これには、限られた資源を活用するためには、技術・人の力が重要っという考え方が根底にあるという。そうした考え方、教育の成果が、フィンランドのノキア(携帯電話などのメーカー)やスウェーデンのボルボ(自動車)といった企業、フィンランドのLINUX(パソコン用OS)、ノルウェーのオペラ(webブラウザ)、デンマークのレゴブロックなどの商品に現れているのだろう。

 それから、北欧の特徴が、その環境と結びついているということも、興味深かった。
 例えば北欧のデザインというと、照明を思い浮かべる人も多いと思う。これには、「光への憧憬」(p.128)があるという。「厳しい冬の日照時間は非常に短く」(p.128)、白夜の夏に「夜でもほんのり明るい光をたたえる街には、少しでも自然の光に触れていたいのか、深夜でも散歩している人の姿をよく見かける」(p.128)という。
 また、北欧の人々に読書家が多いのも、図書館の制度が充実していることとともに、「冬が厳しく夜が長い」(p.116)中での楽しみに読書があることも理由だという。

 これまで表面的にしか知らなかった北欧について、もう一歩深く知ることができた。

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2002年10月13日(日)

神田神保町古書街ガイド (2002~2003年) アミューズ編『2002-2003年 神田神保町古書街ガイド』(2002年,毎日ムック)Amazon.co.jpオンライン書店bk1楽天ブックス

 まあ、この手の本はどうしても買ってしまう。実は2001-2002年版のガイドも持っているのだが、神保町の町並みも、変わっていないようで変化しているので、やはり新しいものが出たら欲しくなる。
 内容は、2002年秋(10月末〜11月はじめにかけての数日間)の「第43回神田古本まつり」の紹介。そして、神田神保町の古書店紹介。これは最近できた新しい店もしっかり載っている。まだまだ俺の行ったことがない店がたくさんあるかと思うと、とてもわくわくしてくる。その他、神保町の新しい飲食店の情報もある。どうしても「本の街」というイメージが強いが、神保町の飲食店は数も多く、いい店も多く、実は結構すごいのだ。
 それから、神保町以外にはJR中央線沿線と、京都の古書店の小特集。中央線沿線は、俺もこの夏各駅を巡ったのだが、やはり注目されているようだ。京都に行く機会はないとは思うが、店内を紹介している写真を見るだけでも興味深い。
 また店舗だけでなく、オンライン古書店も一部紹介されている。
 古書街や古書店内の写真も豊富で、地図もしっかり載っているので、訪ねる際には参考になるだろう。もちろん、そうした実用的な部分だけでなく、ただ見ているだけでも楽しめる。

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2004.8.7(土) 小さいけれど、面白い本
関西ザ・テレビジョン:編『吉本若手お笑い芸人全44組 二丁目軍団オールガ イド』(1997年,角川mini文庫)
 タイトルどおりの本。当時、大阪心斎橋の二丁目劇場に出演していた芸人の紹 介。
 千原兄弟・ジャリズムが既に別格の扱いとなっていて、他に中川家・2丁拳銃・ハ リガネロック・ルート33・陣内智則らの若き日の姿が見られる。他にも、モストデン ジャラスコンビ時代のケンドーコバヤシや、シェイクダウン時代の久馬歩(現ザ・プ ラン9のお〜い!久馬)なども見ることができる。
 更に、期待の若手の中には、チャイルドマシーン、次長課長、そしてミシマフジイ 時代の飛石連休藤井、フットボールアワーの二人がそれぞれ以前のコンビ(後藤 は「後藤・天満」、岩尾が「ドレス」)として登場、などなど、なかなか面白かった。
 昔のコンビはほとんどが知らないが、今活躍している芸人の昔の活動を知ること が出来たのは興味深かったなあ。
  発売当時は見向きもしなかったが、しばらく時間を置くといい味を出してくる本の 典型的な例。

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2003年9月5日(金) ほのぼのできるエッセイマンガ
k.m.p.(ムラマツエリコ&なかがわみどり)『おかあさんとあたし』(2000年,大 和書房)
 子どもの頃に多くの人が出会ったであろう様々な場面のイラスト(マンガ)を集め たもの。タイトルのとおり、母親と一緒にいる時の色々な経験が描かれる。どんな イラストかをうまく言葉で表現するのは難しい。しかし、読んでみれば誰もが思い出 に残っている(あるいはそのように錯覚している)話がたくさん出てくる。
 読むと、なんとも楽しくて、なんとなく切なくなる。特に親元を離れて暮らしている 人は、切なくなるのではなかろうか。
 ちなみに「k.m.p.」とは「金、もーけ、プロジェクト」の略らしい。まあ、このへんの話 はどうでもいいか。
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2005.5.12(木) 時にクールに、時に熱く、お笑いについて語られる本。
・『芸人バイブル』(2005年,宙出版)
 お笑い芸人へのインタビュー集。登場するのが、みな俺が読んでみたい人ばかりだった。順に紹介しましょう。

・浅草キッド
「やっぱりね、自分のキャパ以上のことは出来ないんです」、「分不相応のことをしても意味ないなって。例えば、大酒飲んで暴れまわるとか、アイドルを口説こうとか、大金を豪快に使い果たそうとか、いかにも芸人らしい豪快な欲ってあるじゃないですか、それは自分にはキャパオーバーなんじゃないのって思った瞬間、芸人人生楽になりましたねぇ」(p.13、博士)
「ウチのお袋なんて2年前、ついに殿に会って、”息子がこんなまっとうに生きて食べられるようになったのはたけしさんのおかげです”、って土下座しましたからね。傍目から見たら、本当に恥ずかしくて、なにやってんだ!っていうシーンで殿も困っていたけど、俺も現に親になって子供がいるんだけど、親からしてみれば自分の馬鹿息子を面倒見てくれて、一丁前に家庭まで持てるようにしてくれた人に、そんなことするのって当然だなあって納得できるんだよね。今考えると、そこまでしてくれた殿と土下座してくれた母に感謝したよ」(p.20、玉袋)

・キャイ〜ン
「人に笑ってもらうってことは人生最高の快感なんです。笑わせる、笑ってもらうとか、そういう意識はもう度外視。とにかく、自分がおもしろいと思うヤツと組んで、人に笑ってもらうことができた時の気持ちよさは、もうそれ以上のものはないですね」(p.29、天野)
「僕は天野クンの書くネタをどう表現すれば天野クンが喜んでくれて、みんなが笑ってくれるか、そればっかり考えています。もっといえば、だから、僕みたいな才能のない芸人でも、天野クンみたいな相方と組めばやっていけるんですよね」(p.32、ウド)

・よゐこ
「他の出演者を押し退けてまで、前に出るっていうのは苦手ですね。四番バッターやなくて永遠の二番手。ひな壇の後ろの方でええですわ(笑)」(p.41、濱口)
「一度社会人やってた分だけ、違和感はありますね。汗流して稼ぐのと違うから、バチが当たるんじゃないのかなとか…。いいのかなあ?みたいなのがあるんですよ」(p.45、有野)

・ヒロシ
「今のスタイルでいったら、僕は終わるでしょうね。みんな言ってるでしょ、アイツ消えるだろうなって。はっきりいってそういうことを言われるのはうっとおしいですね。だって、自分で一番わかってますから。でも、ブームが来てくれて、ブームに乗れてよかったです。もしブームが来なかったら、やっぱり今でも僕はバイトしていたでしょうからね。普通の生活が出来るようになって、ああよかった」(p.54)

・ ますだおかだ
「オンエアバトルがなかったら、今の『M-1』も『エンタの神様』もできあがってなかっただろうなと思いますよ。だから、僕らを含めて若手芸人にとってNHKは神サマですよ、お笑いにとって先駆けですよ」(p.60、増田)
「とにかく、おもしろい人に早くなりたいですね。こういう展開できたら、コイツなんかおもしろいことやりそうだなっていう……。コイツ出るから、ちょっと見ようかなっていうね、そういう存在になりたいです。例えば、間寛平さんのようなね」(p.67、岡田)

・カンニング
「MCをやる人なんかはとくにすごい技術を持っているんです。だから僕はMCが困った時に、竹山にふれば何とかしてくれるだろうって思ってもらえるような武器になりたい」(p.75、竹山)

・アンジャッシュ
「でも、お笑いやめたら、じゃオレは何するんだろう?って。そしたら、やめるって思ってしまえば、好き勝手やっちゃえ、と。例えば、自殺する勇気があるくらいなら、何やっても怖くないでしょ。それと同じで、お笑いやめる勇気があれば、なんでもできるって、怖いことないって思えた」(p.80、渡部)
「ブームは怖いと思います、絶対に去るものだし。でも、いいんじゃないの。たぶん、見てる方もはらはらしたり、コイツらもうすぐ終わるだろうなって思ったりしていると思うけれど、でもブーム無しでしぼんでいくより、ブームが来てワッと注目されて売れた方がいいじゃないですか。だって奇跡みたいなもんですもん、瞬く間に一番になることなんて」(p.88、児島)

・バナナマン
「多分ね、芸人はみんな”これは絶対面白いだろう”って思ったネタがまんまとウケた時のガツン! ってくる感覚を一度は味わってるはずなんですよ。それを経験しちゃうと麻薬みたいなもんで、また味わいたいって思ってやめられなくなる」(p.94、設楽)
「ホントにお笑い以外はやったことないですから、僕からお笑いを取ったら何も残らないですよ。”自分にとってお笑いとは…”なんて、今まで改めて考えたことはなかったですけど、ちょっと大それたこと言っちゃえば、天職だと思ってます。32年間生きてきて、これだけ続けたものは他にないですからね」(p.101)

・エレキコミック
「ボケの方がおもしろいし目立つからボケ役になりたい人の方が多いと思うけれど、テクニックがついていくのはツッコミの方なんです」(p.106、今立)
「カメラの前で自然体でいる芸人なんていませんよ。みんなパワー出しまくっているし。素の顔はみんな違います。違う顔を徹底して見せている人が売れているんじゃないですか」(p.113、谷井)

・田上よしえ
「100%正解だって思ってやっても80%不正解なんてこともあったりして。それでも軌道修正はすべて自分ですから、毎回血だらけですよ。女はほんとに芸人なんてやるもんじゃない! 普通に嫁に行くべきだ!!」(p.120)

 やはり、みなそれなりのキャリアを積んだ、若手と中堅の中間の世代だけに、苦労もしていて、考え方がシビア。そして、自分を客観視して、自分達についてきっちりと語ることが出来る、という印象を受けた。
 そしてなにより、笑いに対する情熱をひしひしと感じた。
 こういう人たちが、これからも残っていくんじゃないかなあ。

 なお、資料として、「倉本美津留インタビュー」、「マネージャー座談会」、「お笑いヒストリー」、「お笑い賞レース」、ライブハウス・スクール・プロダクションのガイドも掲載されています。
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2005.1.23(日) すべてのゲーム好きへおすすめ
『ゲームセンター「CX」』(2004年,太田出版)
 CS放送フジテレビ721で放送された番組の内容をまとめた本。よゐこの有野晋 哉氏による、ゲーム作家へのインタビュー、ゲームへの挑戦などが掲載されてい る。
 登場するのは、懐かしのファミコンのゲームが中心。登場するゲーム作家は、 「スペースインベーダー」の生みの親、西角友宏氏、「ドラゴンクエスト」のプログラ マ中村光一氏、「ポケットモンスター」の田尻智氏、などなど。
 もちろんこれらゲームクリエイターの方々の話も面白いのだが、有野氏の話の引 き出し方がうまい。ゲームマニアではない、普通にゲームが好きな人として話を聞 き、色々なエピソードを丁寧に引き出している。
 また、有野氏がゲームに挑戦する「有野の挑戦」のコーナーでは、クリア不可能 とも言われたファミコンソフト「たけしの挑戦状」を攻略本の助けを借りて見事クリア したり、ゲーム好きなら誰もが知っている高橋名人のアドバイスを受けてシューティ ングゲームに挑戦したりと、こちらも面白い。
 今でも現役のゲーム好きにはもちろん、しばらくゲームに触っていない人にも楽し めます。俺はこの本を読んで、押入れからファミコンを引っ張り出してきました。

2005.09.14(水) なんだかんだ言って、やっぱり東京って面白い
・現代新書編集部:編『東京情報コレクション』(1986年,講談社現代新書)
 1986年当時の東京についてのコラムを集めた本。かなりボリュームがあって、読み応えがあった。懐かしかったり新しい発見があったり、面白い本。
 俺は一時期、1980年代東京に、すごく面白い時代だったんだろうという過剰な幻想を抱いていました。今は必ずしもそうではなかったと思っていますが、この本を読むと、やっぱり当時の東京を大人として歩いてみたかったという思いにさせられる。ここでの「大人」とは、「ある程度のお金を自分で自由に使って」という意味だと思ってください。
 ただ、今からでも遅くないと思う。一回はどんな町(街)でも歩いてみようと思う。それくらい、改めて東京の奥の深さを知り、東京の魅力を感じる本。
 目次とともに、特に面白かった部分をピックアップしてみましょう。

序 陣内秀信:ホロニック都市のコンテクストを読むために

I 街を発見する
枝川公一:東京湾小景異情散歩
川本三郎:麻布十番で私は江戸の若旦那になる

 麻布十番、一度行ってみたいなあ。六本木からすぐだが、下町といった雰囲気を持っているという話は、何度も見聞きしている。
本岡類:新宿高層ビル街デートは難しい
 新宿西口のビル街はなぜ迷いやすいかという考察が面白い。電柱がない、古くからの商店がない、交番がない。更に、道路が二層構造になっている。そうした要因が合わさって、迷路のようなビル街ができている。
 そんな街で働く人は大丈夫なのかといえば、「朝、新宿駅に降りるとそのまま高層ビル街にある会社に向かい、夕方は逆にその道を駅までとって返す」(p.51)ので、問題がない。
 これ、今でも同じです。俺もごくまれに仕事で行きますが、地図は必須です。
平出隆:神宮外苑スタジアムの迷い方
芹沢一洋:動物園・植物園・水族館"小宇宙"の旅
赤瀬川原平:トマソンは消えないうちに

II 足で視る
関三喜夫:国電は謎に満ちている
永倉万治:帝都の私鉄は中流階級を乗せて

 各私鉄のイメージ分けが説得力があって面白い。
永倉万治:地下鉄で描くメトロポリス増殖図
 地下鉄の乗り換えの複雑さと、各地下鉄の雰囲気の紹介が面白い。
 地下鉄の乗り換えも、新宿のビル街と同じくらい複雑だ。同じ駅なのにえらく離れていたり、全然違う名前の駅がすぐ乗り換えられたり。
 また、南北線や大江戸線が計画中で、それぞれ「営団七号線」、「都営十二号線」と呼ばれているのは時代を感じさせる。
泉麻人:バスだから覗ける東京がある
関川夏央:道路上から眺めた「東京八景」

III メディアを遊ぶ
山田耕大:名画座考現学『東京物語』

 今新宿にあるライブハウスのロフトは、もともと西荻窪にあったんだなあ、なんてことも分かる(p.138)。
岡野宏文:好物件! 小劇場案内
田家秀樹:ライブハウス今昔物語
小林恭二:局地的ゲームセンター地図
平田樹彦:ニューメディア周遊非公式ガイド

 ニューメディアって、懐かしい響き。CDやビデオやLDやその他当時普及していたソフト類の総称です。六本木のWAVEなども紹介されています。
樋口良澄:ビデオ・ストリート・ストーリー
小林恭二:極私的テレホンサービス白書

 「テレホンサービス」とは、「電話をかけるとむこうのテープがまわりはじめ、なにがしかの情報かエンターテインかをこちらに送ってくれる」(pp.203-204)サービス。「ダイヤルQ2」みたいなもんですかね。
 提供されているサービスを読むと、これが後にFAX情報サービスになって、インターネットのwebサイトになったのかなあと思う。
 そして、今ネットで音声が配信されている(ネットラジオやポッドキャスティング)のが、「テレホンサービス」への原点回帰なのかもしれない。多分考え過ぎだけれど。

IV 知に出会う
紀田順一郎:新刊本デパート攻略法
紀田順一郎:洋書版『ショップス・イン・プリント』
紀田順一郎:古本街敵状視察報告・古本街味の覚書

 読んでいて驚くのは、神保町の古本屋街の主な古本屋の位置が意外なくらい変わっていないこと。この項目では神保町の変わらなさを感じる。
 実際には細かな部分は色々と変わっているが、老舗の古本屋は当時からほとんどが残っていることが分かる。
呉智英:都市生活者のための雑誌タダ読み便覧
 当時から、都内の駅前で拾った雑誌が販売されている例が紹介されている(p.243)。
呉智英:図書館ワタクシ書斎術
飯沢耕太郎:ロマンチック・ミュージアム歳時記

V 愉しく買う
塚本有美:秋葉原ハイテク・パビリオン見取図

 神保町とはうって変わって、秋葉原は様変わりしたことを感じる。
 紹介されている店の中で、現在もまったく同じ場所で同じ商売をしているところは、2割もないんじゃないか。
 1990年代前半くらいまでの秋葉原では、ヤマギワ本店がランドマークだったと記憶している。電気街の真ん中の交差点の角にある店。そこも今は、道路拡張工事のため休業中。そして線路を越えた向こうには、2005年秋にヨドバシカメラがオープンする。秋葉原では、時代は急速に流れているなあ。
塚本有美:アメ横ヤミ市ショッピング入門
出石尚三:チープシッカーのファッション講座
矢吹申彦:"夢の寄り道"文房具コース

VI 正しく味わう
矢吹申彦:元祖ラーメン正統記
矢吹申彦:百花繚乱江戸そば処事情
海老坂武:本邦カレーライス事始め
西川治:「目黒のとんかつ」見聞録
西川治:築地ヤスウマめし屋繁盛譚
枝川公一:下町流飲み食い仕儀皆伝
海老坂武:珈琲年代誌
別役実:喫茶店利用心得づくし
川本三郎:不易の酒場のすゝめ

 「都市のいちばんのよさは『無関心』ではないかと私は思っている」(p.387)というのは、川本氏の東京に関する著作では何度も登場する意見。これは、たしかにそう思う。過剰な無関心は味気ないが、過剰な関心はうっとおしい。
塚本有美:東京6大学味の遍差値グランプリ

VII 現風景に暮らす
関川夏央:ファミリー・レストランの昼と夜
大橋正房:コンビニエンス・ストアは今夜も「開いててよかった」

 セブンイレブンの第一号店は江東区豊洲にできた。これは知っていたのだが、「このことは、セブンイレブンが第一号の店の立地に何の記号性も求めなかったことを表しているのだろう」(p.411)という指摘は、鋭いと思った。そこで日本初のスーパーの紀ノ国屋が南青山に、マクドナルドの一号店が銀座にオープンしたことを引き合いに出している。
 なるほどなあ。
枝川公一:性風俗の街に薬局の灯は消えず
 銀座のホステスは、タクシーで帰る場所に住むが、新宿のホステスは歌舞伎町から歩いて帰れる場所に住む、という話(pp.419-420)、嘘か誠か分からないが、なんとなくそんなイメージを抱かせて面白い。
唐十郎:青春は銭湯で幻想する
川本三郎:東京の空の下「原っぱ」は広がる
山口憲文:TOKYOガイ人類の進化と現在
荒川洋治:東京ことばは死んで生きる
種村季弘:東京の神武たちへ

 いやあ、資料としても貴重な本だ。

2002年8月11日(日) 一挙4冊を紹介であります(の1冊)
小松左京・筒井康隆・星新一他『おもろ放談』(1981年,角川文庫)
 「他」というのは、大伴昌司、石川喬司、平井和正、矢野徹、豊田有恒。彼らをゲ ストに、小松・筒井・星の三氏をレギュラーに繰り広げられるなんでもありの座談 会。
 解説などがないので明確ではないが、いんなあとりっぷ社の「ボーイズライフ」と いう雑誌に連載されたもの、らしい。
 まあ、くだらなくて面白い本。今だったらできないような話もある。でも、面白い。2 1世紀の予想もあるのだが、冗談半分で話しているため、ことごとく外れています な。若者の性に対する関心が薄れて、政府が一生懸命PRする、なんて、そんなわ きゃねえだろ、という感じですね。しかし、この想像力と知識はすごいなあ。
※2003.1.11追記 雑誌「ボーイズライフ」は、小学館から発行されていたものでし た。いんなあとりっぷ社は、この本の単行本『SF作家オモロ大放談』(1976年)の発 行元です。半年近く気付かなかったのはお恥ずかしい限りですが、ここに訂正いた します。

2004年2月12日(木) なんにしても、蓄積すれば歴史になりますな
『サブカルチャー世界遺産』(2001年,扶桑社)古本
 1980年代から2000年までの、日本の音楽・漫画・ゲーム・アニメ・映画(洋画も含 む)・AV、などのジャンルの中で、サブカルチャーと呼べるものを紹介したカタログ のような本。上記のジャンルと、他いくつかのジャンルについてのコラムや、サブカ ルチャーにおいて重要とされる人物へのインタビューも掲載されている。
 作品紹介を執筆している書き手については、俺は知らない人ばかりだ。だが、 1960年代後半から70年代中盤までの生まれの人なので、紹介されている作品に ついては直接触れている世代だろう。
 インタビューには、中森明夫、赤田祐一、宮台真司、みうらじゅん、町山智浩が 登場。コラムの執筆者には、宝泉薫(歌謡曲)、米沢喜博(コミケ)、中村裕一(深 夜番組)、杉作J太郎(ヘアヌード写真集)、山形浩生(パソ通・ネット)、竹熊健太郎 (オウム真理教)、永江朗(書籍)、などといった面々が名を連ねている。コラムの ページは少量だが、結構「このテーマならこの人」といった感じで、ぴったりな印象。
 ジャンルも執筆者もばらばらなので、内容に統一感がないが、それゆえに気にな ったところから呼んでいくのに適している。あまり真剣にならず、眺める程度に読む のがちょうどいいのかもしれない。

2004年3月8日(月) 本をどこで買いどこで読むか。それを考えることから読 書は始まる。
散歩の達人ブックス『東京ブックストア&ブックカフェ』(2003年,交通新聞社)
 東京にある個性的な新刊書店と、ブックカフェ(本が並ぶ・本が買えるカフェ)を紹 介した本。中心となるのは書店の紹介の方です。読んでみて、まだまだ俺の知らな い店がたくさんあるなあと思った。本屋って、そこで本を買うかどうかは別として、そ こに行くこと自体に価値がある店が多い。
 書店については、下記のようなテーマごとに店を紹介している。
・東京書店遊戯:本好きならば、名前を聞いて「ああ」と答えが返ってくるような有名 書店の紹介。
・文学界隈:特徴のある品揃えの書店の紹介。
・私書箱書店への誘い・ひとり世界の水先案内:特定のジャンルの専門店の紹介。
・美的周遊:美術系の本に強い店・専門店の紹介。

 また一方で、特定地域に範囲を絞った「大型書店の森巡礼」(神保町・新宿・渋 谷・池袋の書店)、南陀楼綾繁氏による「晴れた午後には”フツーの本屋へ”」(個 性的な「街の本屋さん」の紹介)、高野ひろし氏が選者の「漂白の東京本 文庫& 新書61選」(東京23区にまつわる本の紹介)などもある。
 その他にも、永江朗、安藤哲也、今柊二、佐藤真砂などの諸氏によるコラムもあ り、作家・ライター諸氏へ本・書店に関する質問を行うコーナーもあり(回答者は鹿 島茂・紀田順一郎・北尾トロなどの方々)、更にページの欄外には古今東西の本に まつわるエピソードや、紹介している店の方の本についての一言コメントなどもあ り、充実した内容。
 本好きから初心者まで、自分の読書の幅を広げる参考になるのではないかと思 う。つくりもなかなか凝っているし(一部凝りすぎてちょっと読みにくいページもある が)、おすすめできる。
 なお、この本の姉妹篇のような本として、『東京古本とコーヒー巡り』(2003年,交 通新聞社)もありますので、古本好きの方はこちらもどうぞ。
オンライン書店bk1の紹介ページ
『東京ブックストア&ブックカフェ』
・『東京古本とコーヒー巡り』オンライン書店ビーケーワン:東京古本とコーヒー巡り

2003年4月11日(金) 久々に本に関する本
散歩の達人ブックス『東京古本とコーヒー巡り』(2003年,交通新聞社)
 この本では、まず「神保町」と「中央線沿線」という、いま古書店街として最も注目 されている地域が紹介されている。さらに、「山手下町」として、古書店街としてまと まってはいないが、東京都内にある個性的な古書店を紹介している。
 そして、それぞれの街で喫茶店を中心に、本が読める場所を挙げている。本をど こでどう買うかだけではなく、それをどこで読むかにも目を向けているのが、個人的 には新鮮だった。
 それから、いわゆる読書人の人々がどこでどうやって本を読んでいるのかも載っ ている。これも興味深い。俺はこれまで、神保町の喫茶店に入ったことがないのだ が、この本を読んで、これからは古本屋めぐりの途中に喫茶店に寄ってみたいと 思わされた。
 登場した古本屋の地図もすべて載っているし、店の写真も豊富なので、古本の 初心者からくわしい人まで、今後の古本との付き合い方が広がるのではないだろう か。
オンライン書店bk1の紹介ページ

2003年3月14日(金) 深夜族のあなたにささげる1冊
散歩の達人ブックス『東京夜ふかし案内』(2002年,交通新聞社)
 東京で夜遅くに色々なことが楽しみたければどこに行けばいいか、という観点か ら作られたガイドブック。といっても変な内容ではないよ。映画・音楽・書物と芸術・ 酒・食とジャンルを分けて紹介している。特に酒や食の部分が大きく紹介されてい るわけではない。様々な場所での様々な遊び方が提示される。後は読んだ人間が なにをすべきか考え、行動すればいい。家でこの本を読みながらだらだら夜ふかし したっていいのだ。自分の部屋の中で夜更かしするための映画・CD・本・食べ物の 紹介もある。
 多分、大人向けの本。学生が遊ぶにはちょっと分不相応な店が多い。自分で金 を稼いだ大人が、わずかな時間を自分の楽しみのために使う手助けをしてくれる 本。まあ、俺にとってもまだ早いなあと思う店が(特に飲食店や酒場には)多かっ た。
 写真もふんだんに使われているので、読んで雰囲気を感じるだけでもそれはそ れで楽しい。
オンライン書店bk1の紹介ページ

2002年5月6日(月)4月に読んだ本(フリートークにて)
しとうきねお・夏目房之介『ひまつぶし哄笑読本』(KKベストセラーズ)古本
「いまやマンガ評論で有名な、夏目房之介が漫画家時代に書いた本です。先輩漫 画家のしとうきねおと共著のナンセンス本です」
「ちなみにマンガではなく字の本です。文章はどちらがどの部分を書いているのか はっきりしないけど、一部のイラストは完全に夏目氏のタッチです」
「…南ちゃん?」
「そのタッチじゃねえよ! しかし、よく見つけたねえ。1978年刊行だよ」
「20年以上前の本か。でも笑えるんだよ、これが。内容はくだらないんだけど、著 者に笑いのセンスがあることがわかります」

2004.9.4(土) 小さいけれどなかなか面白い本
高橋源一郎・荻野アンナ 他『投稿少年−小説家になるための29の方法』 (1997年,角川mini文庫)
 雑誌『月刊カドカワ』(角川書店)の1994年2月から1996年12月までの連載をまと めたもの。様々な新人文学賞を紹介し、その賞にゆかりのある人の寄稿、または コメントをつけたもの。
 例えばこんな方々が登場する。

・高橋源一郎「群像新人文学賞」(選考委員)
・鈴木光司「横溝正史賞」(応募経験者)
・荻野アンナ「開高健賞」(選考委員)
・加納朋子「鮎川哲也賞」(受賞者)
・岩館真理子「ノベル大賞」(選考委員)
・黛まどか「角川俳句賞」(受賞者)
・俵万智「一筆啓上賞」(選考委員)

 上記の例を見ていただいても分かるが、小説の賞ばかりではない。また、上で紹 介した中に受賞者としてコメントしている人が少ないのは、この本で紹介されている 受賞者の知名度が低い(少なくとも俺は知らない)ことを示している。
 だから俺は、この本で作家になるための方法を知る、というより、作家って大変な んだなと思った。もちろん、もともと作家になる方法を得ようと思って読んだわけで はないが、賞をとってもなかなか筆一本で食べていけるわけじゃないなあと思っ た。
 この本を読んで小説家を志した人もいたかもしれないが、なかなか難しいと思う なあ。

2006.04.05(水) 面白い。しかし、ただ読んで「面白かった」で終わると、非常にもったいない本。
オンライン書店ビーケーワン:ライフハックプレス・田口 元、他『Life Hacks PRESS(ライフハックプレス) デジタル世代の「カイゼン」術 』(2006.4,技術評論社)

 内容、執筆者は下記のとおり。巻末には執筆者の紹介として、各自の使用している道具や一日のスケジュールなども紹介されている。

・「lifehacksベストセレクション−lifehacksとは何かを探る」(田口元)
・「GTD−シンプル&ストレスフリーの仕事術」(田口元)
・「Google全サービス活用」(安藤幸央)
・「プレゼンが簡単にうまくなる」(平林純)
・「はじめてのマインドマップ」(角征典)
・「いつでもどこでも文房具」(和田卓人)
・「自分のための情報整理」(金子順)
・「勉強会のススメ」(角谷信太郎)

 各項目とも分かりやすく、具体的に書かれていて、仕事やプライベートの際に参考になりそうなことが多い。「デジタル世代の」と副題にあるが、必ずしもパソコンを使う必要はない。例えば、田口元氏によるGTD(Getting Things Done、ストレスなく仕事を進めるための考え方)の解説で、GTDの実践の説明がある。ここで必要なものとして挙げられているのは、次の通り。
「・十分な枚数の紙/・ペン/・カレンダー(もしくは手帳)/・クリップかホチキス(紙をまとめるもの)/・ゴミ箱」(p.19)
 パソコンのパの字も出てこない。これで、自分がすべき仕事を挙げ、分類し、計画し、実行するための方法が紹介される。

 読んでいると、非常に面白い。ただ注意したいのは、「面白い」と読み終えただけではもったいないということ。紹介されている内容の中で、自分に真似できそう、真似すると快適そうなところを実行することが大切になる。そして実行してみると、実際に快適さや便利さが実感できる。
 全部を真似する必要はないし、それは難しいと思うが、自分にとってできそうなところをどんどん実行する、というのがこの本を十分に活用する方法になると思う。

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2004.5.22(土)野球場へ連れてって、って
ツルシカズヒコ:文・ワタナベ・コウ:絵『ポチ&コウの野球旅』(2004年,光文 社知恵の森文庫)
 イラストレーターでありソーイングデザイナーである妻と、フリーランスの編集者・ ライターの夫が、ふたりで日本各地の野球場を回って、野球を見たルポ。
 まず、日本にこれだけ野球場があるのか、ということが驚きだった。プロ野球の 試合だけでなく、キャンプや高校野球(夏の甲子園の予選、秋季大会、練習試合) の会場まで含めると、本当にすごい数の球場がある。しかも、一年中野球を見るこ とができるのだ。
 ふたりは1999年から2000年にかけて、北は東北から南は九州まで、各地の球場 を訪ねて、野球を見て、おいしいものを食べている。ワタナベ・コウ氏のイラストが、 なんとも味があって楽しい。また、駅周辺の地図、ガイドブックもあるので、実際に たずねたいと思う人には役に立つと思う。
 それから、ツルシカズヒコ氏のコラム・エッセイは、氏が野球好きであることをひし ひしと感じさせて、また独特のペーソスが文章に漂っていて、魅力的である。氏自 身の仕事の経験(本の中で明言はしていないが、氏は元扶桑社の週刊誌『SPA!』 の編集長だったようだ)と、その時々に見た野球の思い出が語られていて、読んで いると切なくなる。特に、1999年の野球旅の締めくくり、明治神宮野球大会(高校野 球)を見ながらの、次のような文章にはちょっと泣いた。
「あいかわらず煮え切らないダメな中年男だったが、ひとつだけ見つかった答えが あった。仕事のスケジュールを縫って、旅につき合ってくれたコウ。この人を死ぬま で大事にしようと思った」(p.199)
 どちらかといえば、昔はよく野球を見たけれど最近はあまり、という人にこそ読ん で欲しい本。
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2003年9月19日(金) 面白くて奥が深いこの1冊
『太陽レクチャーブックス001 グラフィック・デザイナーの仕事』(2003年,平 凡社)
 グラフィック・デザインに関する講座を元に追加のインタビューを加えてつくられた 本。インタビューには下記の4組が登場する。
 ・祖父江慎
 ・角田純一
 ・伊藤弘(グルーヴィジョンズ代表)
 ・クラフト・エヴィング商會(吉田篤弘・吉田浩美)
 更に、プチグラパブリッシング伊藤高氏のコラム「編集者が語る、グラフィック・デ ザイナーとのコラボレーションについて」、藤崎圭一郎氏の補習講義「グラフィック・ デザインの歴史」が収録されている。
 俺はグラフィック・デザインに関しては完全な素人なのだが、その俺が読んでも非 常に面白かった。本やCD、ポスターなどを見る時の視点がこの本を読んで変わっ た。
 この本を買ったきっかけは、もともとクラフト・エヴィング商會の本が好きで、その インタビューを読みたかったから。その他の人々については、名前は聞いたことが ある気がする」という程度の認識であった。しかし、巻頭のカラーページに掲載され ている各氏の作品を見て、「おお、これをつくった人なのか!」と何度も思い、一気 に登場するすべての人に興味が出てきた。
祖父江氏がデザインを手がけた本は書店で何冊も見ているし、自分で持っている ものもあった。角田氏の手がけたCDのジャケットにも知っているものがあった。そ れから、見覚えのあるキャラクターが、グルーヴィジョンズの作品である「チャッピ ー」だということもこの本ではじめて知った。
 こうした人々へのインタビューは、非常に興味深かった。自分がなんからの作品 を見るときに、「つくっている人はこんなことを考えていたのか」という、いわゆる舞 台裏がわかり、これまで以上に見る楽しみが広がる。また、俺も個人でホームペー ジをつくっている者として、デザインについて参考になる点も多かった。
 それから、この本のつくり自体も、表紙から巻頭の写真ページ、本文のレイアウト まで、素人が見てもなんとなくかっこよさを感じる。本の内容に偽りなしと感じさせる デザインになっている。
 グラフィック・デザインを勉強している人はもちろん、そうでない人にも楽しめて、 勉強になる部分が多い本。

bk1にも書評を投稿しました。
ものの見方を広げてくれる本
 タイトルだけ見ると、専門的な本のような印象を持つかもしれないが、決してそん なことはなかった。もちろん、グラフィック・デザインを勉強している人にとっては非 常に参考にになる本だと思う。しかし、グラフィック・デザインに関して完全に素人 の自分が読んでもわかりやすく、面白かった。
 インタビューに登場する人々の名前を聞いたことがなくても、巻頭に掲載されてい る作品を見れば、きっと「おお、これをつくった人なのか」と思うだろう。
 実際、自分も登場する人たちの名前は「聞いたことがある」程度の認識だった。 しかし、祖父江氏がデザインを手がけた本は書店で何冊も見ているし、自分で持っ ているものもあった。角田氏の手がけたCDのジャケットにも知っているものがあっ た。それから、見覚えのあるキャラクターが、グルーヴィジョンズの作品である「チ ャッピー」だということもこの本ではじめて知った。クラフト・エヴィング商會は、架空 の品物・本・人物を集めた作品集でも知られている。
 インタビューの内容も、非常に興味深かった。自分がなんらかの作品を見るとき に、つくっている側がどんなことを考えているかが、これまで以上に作品を見る楽し みが広がりそうだ。また、自分がなにかを作るときに、デザインについて参考にな る点が多かった。
 それから、この本のつくり自体も、表紙から巻頭の写真ページ、本文のレイアウト まで、素人が見てもかっこよさを感じる。本の内容に偽りなしと感じさせるデザイン になっている。

2005.11.22(火)  書店の面白さを改めて考えてみる
・太陽レクチャー・ブック『本屋さんの仕事』(2005.11,平凡社)

 池袋コミュニティ・カレッジで2004年に行われた「講座太陽 本屋さんの仕事」でのレクチャーを元に構成された本。
 個性を持ち、人気を集めている書店の店主、店員さんによる下記五編のレクチャーが収録されている。

・永江朗(フリーライター)・中山亜弓(タコシェ)・林香公子(ブックファースト渋谷店)
・江口宏志(ユトレヒト)・幅允孝(ブック・コーディネーター)
・安岡洋一(ハックネット)
・北尾トロ(杉並北尾堂)・佐藤真砂(古書日月堂)
・堀部篤史(恵文社一乗寺店)

 必ずしも、全員の考えていることすべてに賛成できるわけではない。ただ、この本に登場する誰もが、本屋の仕事の大変さを感じながら、本屋の仕事の面白さも感じていて、これからもっと面白い本屋をつくろうとしている。
 その部分は、俺はひとりの本を買う人間として素直に応援したいし、新しい書店の姿には期待したい。
 興味深かった部分をいくつか紹介します。
 
 小さな書店が閉店し、書店が減っている、というデータについて。
 永江氏の話によれば「単純に、街の小さな本屋さんというのは、戦後しばらくした頃に、戦争から帰ってきたり、戦後、学校を卒業して開店した一代目の書店が多いので、そういう人たちが70歳過ぎて体も動かなくなってきたので、店を閉じようか、ということで、閉じてる例も多い」(p.18)という。
 また、取次を通さずに本を仕入れる店や、他のものとともに本を並べて売る店もある。そうした状況を永江氏は「本屋さんの仕事自体が、街のなかに限りなく溶解してきている」(p.18)という。 こういう考えは、今まで思い至らなかったなあ。

 また同じく永江氏の話。「本屋さんっていうのは、個々の本を売っているようでいて、実は、本と本の関係を売っているんだと言えると思うんです」(p.28)。これが、インターネットの書店にない、店舗の強みなんじゃないかと思う。やはり実際に書店に行くときに、本と本の関係をどう見せてくれるかには期待している。本を見に行くのではなく、その店の特定の棚を見に行く、ということは、俺はよくあります。
 この、インターネットの書店とどう対抗するかは、他の方の話にも登場する。
 例えば幅允孝氏。氏は石川次郎氏の編集プロダクション「JI」に所属していた際、「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」のプロデュースに携わった。この店は、本の並べ方などにも特徴のある面白い店なのだが、もう一つ面白いのが、スターバックスコーヒーが併設されていること。
 これについて、次のような話がある。
「スターバックスさんには、どうしても入ってほしかったんですね。それはなぜかというと、簡単に言えば、アマゾンが提供できないことを提供するため」、「『なんかいい本ないかな』ってふらりと立ち寄った方が、図らずも面白い本と出会う機会をつくることが、今の本屋に求められることだと思う」(p.44)。
 やはり、店舗としての書店がなにを求められているかについては、皆同じ意識を持っているようだ。

 また、最近増えている新しい形の古書店については、その先駆者とも言える北尾・佐藤の両氏の話が興味深い。オンラインで古書店をやってみたいと思う人は、読んでおく価値があると思う。
 例えば、ネットで古書店を開業するにあたっては「誰かの真似じゃなくて、自分で何かを『発明』しないとダメですよ」(p.83、北尾)とか、「これから始める人は、誰かのやり方を踏襲しても、誰かの小型である限りは成立しないだろうと思いますね。本をとりまくマーケットってそんなに大きくないので」(p.86、佐藤)とか。
 書店や本に関する仕事に携わる人だけでなく、一読者として書店に行く人も、客として、書店を新しい視点で見ることができる本だと思う。

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2003年9月27日(土) 古本を絵で読むこの1冊
東京都古書籍商業協同組合:編『古本カタログ』(2003年,晶文社)
 編者の名前が非常に長いですが、これは東京都内の古書店が加入している組 合のことである。神保町で行われている古書市(古書展)は、この組合が主催して いる。
 この本は、あるテーマごとに、「現在古本としての評価が定まっている本」と、「こ れから古本として評価されていくであろう本」を並べた写真と、その本の解説をした 本。
 例えば、「永遠のヒーローたち」というテーマで『公平法門あらそひ』(江戸時代に 出版された絵本。坂田の金平が主人公)と『決定版 全仮面ライダー超百科』 (1991年,講談社)が並んだり、「手軽さゆえに」というテーマで江戸時代の黄表紙 と今コンビニエンスストアで売られている廉価版のマンガが並んだりする。
 個人的には「テーマ:観察という高等遊戯」で、今和次郎・吉田謙吉『考現学』 (1930年,春陽堂)都筑響一『TOKYO STILE』(1993年,京都書院)が並んでいる のなど、面白かったなあ。
 既に古本として評価が高い本は、高価なものが多い。俺には手が出ない本がほ とんど。でも、これから古本になりうる本には、欲しいものも多かった。今なら均一 台あたりでひょこっと手に入りそうな本も何冊かあった。
 また、古本についてのエッセイも掲載されている。寄稿者は、山口昌男、松田哲 夫、坪内祐三、恩田陸、永江朗、北村薫などの各氏。これもまた面白い。
 古本好きにはたまらん本ですな。
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2007-05-29(火) 東京歩きのスタートにこの二冊

エルマガmook『歩きたくなる 東京地図本』(2007年4月,京阪神エルマガジン社)Amazon.co.jpbk1

まっぷるマガジン『東京遊ビ地図2008』(2007年5月,昭文社)Amazon.co.jpbk1

 どちらも東京の代表的な街をピックアップし、地図と店(飲食店を中心に、ギャラリー、映画館、服屋、雑貨店など)を掲載している。細かな番地は記載されていないが、特定の距離を歩いた場合の徒歩時間の目安や、建物の写真が掲載されている。掲載されている場所へ行くために参照しつつ、途中で気になる場所があったら、追加で書き込んでいく、というような使い方がいいのかと思う。
 『東京地図本』の方が、関西の出版社の刊行ということもあり、やや東京ビギナー向けの内容。東京のホテルやおみやげ、地下鉄の乗り換え案内などを掲載しています。一方『東京遊ビ地図』には、『東京地図本』で取り上げていない場所も登場している(自由が丘・三軒茶屋・西荻窪・中野〜吉祥寺の中央線沿線など)。
 価格はどちらも500円なので、両方買うのもありかと思います。
 何度も行っている街でも、地図を見ると意外な店が分かって参考になったり、あいまいだった駅と駅の位置関係がはっきりしたり、発見があります。それなりに東京生活を満喫している人でも、出かける前日などに軽く読んでおくといいと思います。
 ただし、あまり年月が経ってしまうと、情報が古くなる(開店・閉店する店舗もあるでしょう)と思いますのでご注意を。時代が一回りするくらい古くなると、実用性とは別の面白さも出てくると思うけれどね(「ここにはこんな店があったのか」などと思い出すような)。

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2004.6.17(木) 巨匠誕生!
中野晴行:編『マンガ家誕生。』(2004年,ちくま文庫)
 名だたるマンガ家による自伝的短編のアンソロジー。収録されている作品は次 のとおり。
第I部
・手塚治虫「紙の砦」
・ちばてつや「屋根うらの絵本かき」
・さいとう・たかを「俺は芸術家」
第II部
・赤塚不二夫「トキワ荘物語」
・水野英子「トキワ荘物語」
・石ノ森章太郎「風のように…」
第III部
・水木しげる「貸本末期の紳士たち」
・永島慎二「ぼくの手塚治虫先生」
・つげ義春「下宿の頃」
・長井勝一「『ガロ』編集長(抄)」

 長井氏の「『ガロ』編集長」は文章です、念のため。
 トキワ荘関連の方のマンガは、これまでも別のアンソロジーなどで読んだことが ある。ただ、石ノ森のものは初めて読んだ。『ガロ』に描いていた水木氏、つげ氏な どのマンガは、新鮮だった。ちばてつや氏は、子供の頃の思い出を描いている。
 どこまでが本当の話かは分からないけれど、面白い。
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2004.6.14(月) 記録することには価値があるんだと思う
林哲夫:編『一読書人の日記 1935-84』(2004年,スムース文庫
 著者不明の読書日記である。編者の林氏によれば、1995年の阪神淡路大震災 の際に、廃棄された日記帳を編集したものらしい。もしも存命なら、著者は2004年 現在90歳である。
 日記は昭和10(1935)年〜昭和59(1984)年まで、途切れながらではあるが綴ら れている。内容は、とにかく本の話ばかり。
 著者はかなりのインテリであることが分かる。フランス語の勉強をしたり、哲学・ 歴史の本を集中して読んだり。また、家業を手伝って日本と韓国(日記に京城に滞 在しているという記述がある)を行き来するなど、事業面でも精力的に活動してい たようだ。
 しかし、どこに行っても本を買って、読んでいる。丸善などの書店名も登場してい る。
 それから、本の話が中心とはいえ、戦時中・戦後の日本の様子、著者の学生時 代の様子も書かれており、そうした点も興味深い。本だけでなく、映画の話もあり、 「七人の侍」(1954年,黒澤明監督)を「いい作だ。日本映画もこのようにすばらしい ものを持つようになったことは、記録に値する」(p.54)などと書かれている。
 なんにしても、記録をしておくのは大切だという思いを強くしました。

2004.12.29(水) 野球に関するデータブックは今でも好き
プロ野球助っ人研究会:編『君はソレイタを見たか!』(2004年,東邦出版)
 日本プロ野球の「外国人助っ人」を紹介した本。もはやプロ野球に興味はないの に、プロ野球に関する本だけは読んでしまう俺。選手やゲームに関する色々なエピ ソードは好きなんだよなあ。
 しかし、名前を聞くだけで懐かしい助っ人選手がたくさん登場する。カムストック、 ブコビッチ、モスビー、パチョレック、ディステファーノ、デシンセイ、アップショー、バ ーナード、マドロック、オグリビー、などなど、名前のインパクトだけで思い出しても、 色々な選手がいたよなあ。もちろんこれらの選手、全員この本に登場します。
 本の主な内容は、次の通り。

・歴代助っ人の成績から、この本独自のポイントを割り出し、順位をつける。
・外国人助っ人ドリームチームを選定する座談会。
・名助っ人の紹介(バース・クロマティ・マニエル・ホーナー、など)
・金村義明・デーブ大久保・パンチ佐藤の三氏による外国人助っ人の思い出。
・助っ人たちは、今なにをしているのか(野球を離れた人たちもちゃんとフォローし ている)。
・迷助っ人の紹介。
・助っ人たちの年俸と成績を分析する。
・助っ人の応援歌の紹介。
・外国人選手が関係した乱闘の歴史。
・全外国人選手通算成績一覧

 はじめ、編者が個人名でないこともあり、お手軽に作られた本かと思ったが、写 真もふんだんに使われているし、最後にある「全外国人選手通算成績一覧」も貴 重な資料だろうし、なかなかしっかりした本だった。

2006.9.13(水) 「同級生」という観点での組み合わせの面白さ
オンライン書店ビーケーワン:同級生交歓・文芸春秋編『同級生交歓』(2006.7,文春新書)
 雑誌『文芸春秋』の連載から抜粋したもの。タイトルどおり、同級生同士の再会を、写真と文章で紹介した本。「公立小・中学校編」、「名門小学校編」、「旧制中学・女学校編」、「新制中学・高校編」、「旧制高校・新制大学・その他編」ごとの紹介。
 意外な組み合わせの面白さがあります。例えば岡本太郎と藤山一郎が慶應幼稚舎の同級生だとか、浅草キッドの水道橋博士とミュージシャン甲本ヒロトが岡山大学付属中の同級生だったとか(そして、水道橋博士が、同じく同級生だった元オウム真理教の中川智正について書いている)、団鬼六と高島忠夫が関西学院高等部の同級生だったとか、興味深い。
 こうした中で、特に印象的だった二組を紹介します。まずは立教高校で同級生だったミュージシャン細野晴臣と漫画家西岸良平。細野氏は当時、漫画家を志して作品を描いていたのだが、西岸氏の絵が「先天的に上手でしたので、ぼくはマンガをあきらめました。もし彼がぼくより下手だったらぼくはマンガ家になっていたかもしれません」(p.191)という。その時のふたりが、それぞれ別の分野で名を成したというのは、なんだか不思議な縁を感じる。
 そしてもう一組、三遊亭円歌と滝田ゆうの二人。昭和49(1974)年撮影のこの写真が、私はこの本で一番好きな写真かもしれない。向島第二寺島小学校の同窓生だった二人が、東武線玉の井駅(現:東向島駅)のホームのベンチに座っている。和服姿の滝田氏と洋服姿の円歌師匠の姿。二人の上には駅の行き先表示。いい写真だなあ。
 私は上記のような方々が印象に残ったが、出身地や年齢によって、「へえ、こんな人が」と思う組み合わせは人それぞれかと思います。写真を眺めるだけでも面白いですよ。

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2005.4.20(水) たまにはこういう本もいいなあ
・アンソロジー『文豪ナンセンス小説選』(1987年,河出文庫)
 ナンセンスの名のとおり、なんとなく不気味だったり不条理だったり、訳がわからなかったりするする短編小説を集めたアンソロジー。
 掲載されている短編と、それぞれの感想を紹介。

・泉鏡花「雨ばけ」
 中国の役人が、謎の油売りに出合う話。
 場面の移り変わりが急で、かつ文章も古文のようなので、読んでいて見事に訳が分からない。でも、なんとなく面白い。
・夏目漱石「夢十夜 第二夜」
 悟りを開いて和尚の首を取ろうとする武士の話。
 短い話で、終わり方も唐突で、それがかえって不気味さを増している。
・内田百閨u北溟・虎」
 「北溟」は、砂浜にオットセイが飛んでくる話(そうとしか紹介しようがない)。
 「虎」は、汽車から飛び降りた虎に襲われそうになる人々の話。淡々とした風景のように書いているが、実は恐ろしいことが起こっているという、複雑な怖さを感じる。
・芥川龍之介「煙草と悪魔」
 悪魔と牛商人の知恵比べ。そして、日本にいかにしてタバコが広がったかという架空の物語。
 これもまた、なんだかシュールな話。教訓めいた寓話らしくもあるのだが、読んでいて妙な気分になる。
・稲垣足穂「星を売る店」
 タイトルどおり、「星を売る店」を訪ねた男の話。なんとなくSF小説みたいな感じがある。ただ、文庫本でわずか15ページだが、ものすごく頭を使うというか、想像力を要求される。
 それくらい、登場する単語や、書かれている文章が、なんとも独特。
・森鴎外「寒山拾得」
 中国の唐の時代が舞台。坊主に出会う官吏の話。
 なんだか、いきなり文章が脱線しているというか、ぐでぐでな感じで、俺が抱いている鴎外のイメージからすると意外。だけど、あるいはだからこそ面白い。しかし読み終わったあと、ぽかんとしてしまう。「え、これで終わり」という感じで。
・横光利一「頭ならびに腹」
 駅に急停車した電車に乗り合わせた人々の話。
 事件に右往左往する群集と、まわりに我関せずの小僧(子僧)の対比が面白い。
・夢野久作「霊感」
 ある双子と、ひとりの女性に起きた奇妙な事件の話。
 推理小説のようでもあり、怪奇小説のようでもあり、はたまた最後は落語のようでもあり。こういう話、好きです。
・萩原朔太郎「死なない蛸」
 タイトルどおり、蛸についての掌編。文庫本で2ページ弱。
 短いけれど、不気味な話。
・宇野浩二「化物」
 熊の着ぐるみを着せられて、見世物に出される男の話。
 途中のスリルと、ラストの、緊張感が一気に緩んで安心するどんでん返しが面白い。
 どこかで読んだような気もするが、この話を元にした話だったのかもしれない。
・梶井基次郎「愛撫」
 猫に関する妄想の話。
 絵を思い浮かべて読むと、なかなか不気味で、それでいてなぜかユーモラス。
・久生十蘭「謝肉祭の支那服−地中海避寒地の巻−」
 日本人の男女、コン吉とタヌキが、謎のモンド公爵にヨーロッパを連れまわされる話。
 旅行記のようでもあるが、なんだか登場人物がちょっとずつ変。なにがというわけではないのだが、明らかに変。
・坂口安吾「風博士」
 ある博士の失踪にまつわる話。
 探偵小説風の始まり方なのだが、最後でそんなものは一気にすっ飛ばされて、なんとも気味の悪い、すっきりしないラストが待ち構える。
・牧野信一「ゼーロン」
 馬とともにブロンズ像を運ぶ男の話。
 道中を行く男が色々なことを考えたり、思い出したりして、話があちこちに飛ぶ印象があり、読んでいて難しかった。もっと長い物語の一場面を切り取ったような印象。
・石川淳「知られざる季節」
 自分の伯父やその妾などとの関係を厭う男が、聾唖となって過ごす日々を描いた話。
 ラストは、実際に読むと、「ああ、なるほど」と思うのだが、それまでの話の流れからすると意外な終わり方だった。
・中島敦「文字禍」
 バビロニア王国を舞台にした、文字の霊の話。
 話に出てくる書物狂の老人の話が、怖い。文字や書物のことはよく知っていても、現実のことはまったく分からない、という人物。俺もそうならないように気をつけないと。

 全体的には、俺には少し難しかったが、理解は出来なくても、雰囲気を感じて、面白く読めた
話が多かった。
 はじめて作品を読めた作家もいたし、貴重な読書経験だった。

2004.12.7(火) 映画もいいが、映画のガイドブックもまたいい
・ぼくらはカルチャー探偵団:編『映画の快楽 ジャンル別・洋画ベスト100』 (1990年,角川文庫)
 複数の書き手による映画のガイドブック。内容は下記の通り。

・対談:淀川長治・蓮実重彦「1980年代・洋画ベスト50」
・対談:荒俣宏・中沢新一「映画の快楽」
・中条省平「ラブ・ロマンス・ベスト50」
・野崎歓「ミステリー&サスペンス・ベスト50」
・荒俣宏「SF&ファンタジー・ベスト50」
・吉本ばなな「ホラー&スプラッター・ベスト50」
・山口哲理「芸術映画(外国篇I・ベスト50)」
・藤崎康「芸術映画(外国篇II・ベスト50)」
・山根貞男「芸術映画(日本篇・ベスト30)」
・千葉文夫「ミュージカル・ベスト50」
・森卓也「コメディ・ベスト50」
・吉村和明「ウェスタン・ベスト50」
・鈴木布美子「アヴァンギャルド・ベスト50」
・橋本光恵「青春映画・ベスト50」
・淀川長治「サイレント・ベスト5」
・安原顕「ぼくの好きな洋画『ノン・ジャンル・ベスト230』」

 ひとつの映画に対する紹介文の量が限られているので(文庫本20ページで50本 を紹介するペース)、映画について知らない俺にとってはもう少しボリュームが欲し いと思う。
 それでも、荒俣宏による「SF&ファンタジー・ベスト50」とか、吉本ばななの「ホラ ー&スプラッター・ベスト50」とか、なかなか面白い。荒俣先生は、フリークスをテー マにした映画をはじめに10本くらい挙げていて、ちょっと面白かった。これで50本通 したらどうしようかと思った。
 やはり、こういう本を読むと映画を見たくなる。特にコメディーやSF。また、初めて 作品名を聞いて、短い紹介文だけでも見たくなる映画もある。『カリフォルニア・ドー ルズ』とか、『ワンダとダイヤと優しい奴ら』など、初めて知ったけれど、見てみたい なあ。内容は紹介されないまでも、例えば山根貞男氏が選に漏れた映画として挙 げた20本程度の映画など、映画のタイトルや人名などを挙げてもらうだけでも、俺 にはありがたい。
 それから、本来映画はエジソンが発明した時点では、個人が見る「ノゾキメガネ 方式」(p.59、荒俣氏)だったなんていう知識も勉強になった。
 こういうカタログのようなガイドブックもたまにはいいものです。

2004.5.7(金) 今一度、読書の快楽を味わいたいあなたへ
ぼくらはカルチャー探偵団:編『新・読書の快楽 ブックガイド・ベスト500』 (1989年,角川文庫)古本
 角川文庫で何冊か発行されたブックガイドの一冊。テーマと執筆者は下記のとお り。

対談:吉本隆明・中沢新一/ラヴ・ロマンス(外国篇):中条省平/ラヴ・ロマンス (日本篇):武藤康史/ミステリー:瀬戸川猛資/ファンタジー&ホラー:風間賢二 /
SF:巽孝之/思想書:小林康夫/ヴィジュアル本:伊藤俊治/ノン・フィクション: 目黒考二/ノン・ジャンル:荒俣宏/ノン・ジャンル世界周遊:今福龍太/あとが き:安原顕

 こうしたブックガイドの面白さは、紹介されている本を読みたくなるかどうか、そし て紹介文自体の面白さであろう。
 ジャンルとしての面白さは、SFとラヴ・ロマンスの項であった。紹介文の面白さ は、荒俣氏のノン・ジャンルだった。
 なんにしても、読書欲をわき起こしてくれる本でした。

2003年5月22日(木) 1980年代の空気を感じる1冊
ぼくらはカルチャー探偵団 編『知的新人類のための現代用語集』(1985年, 角川文庫) 古本
 よくも悪くも、「1980年代の『知的』なイメージってこんなのだったのかなあ」と思わ される本。テーマごとに担当者を決めて書かれた用語集。執筆者及びジャンルは 下記の通り。
 「まえがき」浅田彰。「風俗」田中康夫。「音楽」渋谷陽一・北中正和。「アート」伊 藤俊治。「映画」畑中佳樹。「思想」中沢新一。「文学」高橋源一郎。「スポーツ」草 野進。「ニューサイエンス」吉成真由美。「芸能界」中森明夫。「ノン・ジャンル」泉麻 人。「あとがき」安原顕。
 取り上げられているものごとを、現在の状況を考えながら読むとなんとも興味深 い。携帯電話、お台場、光が丘団地(練馬区)などが未来のものとして語られてい たり、アーノルド・シュワルツェネッガーが期待の俳優として取り上げられていたり する。「芸能界」や「プロ野球」は、取り上げられているすべての項目が懐かしい。
 ただし、誰とは言わないが、当時流行した言葉や言い回しが頻繁に登場する執 筆者も多く、苦笑してしまう部分もあった。「エグイ」という言葉が「ナウい」などと同 じようなニュアンスの言葉として使われているのは、はじめどういう意味かわかりま せんでしたよ。それから、なにが言いたいのか意味不明の文章を書く人も中には いらっしゃるようで。まあ、そういう人は今書いている文章を読んでも、やっぱり意 味不明ですけれどね。
 いい部分も悪い部分も含めて、当時の雰囲気は強く感じられます。興味本位で 読む限りは面白かった。

2004.8.23(月) いとおしくも憎らしき1980年代
ぼくらはカルチャー探偵団:編『知的新人類のための現代用語集<2>』(1987 年,角川文庫)古本
 タイトルは時代を感じさせてちょっと恥ずかしいが。執筆者・内容ともなかなか興 味深いのである。下記のテーマ・書き手による用語集。

吉本隆明「現在について」(随筆)/泉麻人「風俗」/山川健一「音楽」/伊藤俊治 「アート」/畑中佳樹「映画」/中沢新一「思想」/高橋源一郎「文学」/草野進「プ ロ野球」/尾辻克彦「グルメ」/武藤康史「ガジェット」/生井英考「ノン・ジャンル」 /安原顕「『あとがき』に代えて」

 泉麻人氏の項目は、「社会風俗」の方の意味です。現在の地下鉄大江戸線が、 「地下鉄12号線」の名称で「今後の風俗に大きな影響を与えそうな交通システムで ある」(p.14)なんて紹介されていたり、清水ミチコ(「清水みち子」と表記されている が、当時はそうだったのだろうか)を注目していたり、なかなか面白い。また最後の 用語で、紹介した項目のうちいくつかはネタ(デマ)だと買いてあって、思わず笑っ てしまった。まあ「卓球Bar」や「セミとり」が流行しているなんて項目は嘘だと分かる けれど、他は本当だと言われたら信じてしまいかねない。
 高橋源一郎氏の「文学」では、トマス・ピンチョンが「謎の作家」だったり、柳瀬尚 紀氏が『フィネガンス・ウェイク』の翻訳にとりかかった頃だったりして、時代を感じ させる。
 どの項目も、冗談半分みたいな部分もあるので、あまり力を入れずに読みまし た。その方が楽しめるんじゃないかと思います。

2004.5.5(水) 読書のスタートにこんな本
ぼくらはカルチャー探偵団:編『読書の快楽 ブックガイド・ベスト100』(1985 年,角川文庫)古本
 下記の執筆者、テーマの組み合わせによるブックガイド。編集は現幻冬舎社長 の見城徹氏だ。

浅田彰:ノン・ジャンル/畑中佳樹:SF/高橋克彦:ミステリー/池澤夏樹:冒険小 説/川本三郎:ラヴ・ロマン(外国篇)/関井光男:ラヴ・ロマン(日本篇)/澁澤龍 彦:ポルノグラフィー/中沢新一:思想書/鈴木明:ノン・フィクション/高橋源一 郎:少女漫画/天澤退二郎:メルヘン・ファンタジー・絵本/蓮實重彦:映画の本/ 伊藤俊治:写真集/黒田恭一:音楽書/高橋康也:演劇書/荻昌弘:食の本/吉 本隆明:ノン・ジャンル/安原顕:あとがき

 印象としては、くせのある文章を書く人が多い。臆面もなく自分の著作や訳書を 紹介している人もいる。俺は、蓮實重彦や吉本隆明の文章を読むのはほとんど初 めてなのだが、苦手だなあという印象を持った。一方で、澁澤龍彦の文章は面白 かったなあ。これは好みの問題ですけれどね。
 それから、この本で紹介されている本を読みたくなるかどうか。これも個人の好 みに左右されると思う。ただ、少なくとも「本を読みたい」という衝動(あるいはあせ り、駆り立てられる思い)はふつふつと沸いてくる。
 そういう意味では、ブックガイドとしては成功しているよねえ。

2002年10月22日(火)
本間祐:編『超短編アンソロジー』(2002年,ちくま文庫)
 アンソロジー(anthology)とはなんぞや。「詩や文章の選集」(新明解国語辞典)で ある。
 では、「超短編」とはなんぞや。この本の編者による解説から抜き出すと、特徴は 次のふたつ。
@短いこと。これは本当に短い。短編小説や一部のショートショートよりもっと短 い。数文字から数百文字の世界。
Aノンジャンル。このアンソロジーにも小説に限らず、詩や神話、童話、日記、エッ セイなども収録されている。
 そして編者が言うには、超短編は「お話のかたちを持つ文芸のエッセンス」であ る。
 まあ能書きはこの辺にして、実際に読んでみると、これがまあ本当に短い。しか も様々なジャンルの文章が並ぶので、読んでいて飽きることがない。古今東西の 文章が収められているので、ここから読書の幅が広がる可能性もあろう。
 本屋で見かけたら立ち読みしてごらんなさい。いくつかの超短編を読んでみて面 白いと思ったら、この本は楽しめると思うぞ。試しに解説に載っているものをひとつ 紹介して、この本の紹介の終わりとしよう。

目が覚めると、まだディノザウルスはそこにいた。
――アウグスト・モンテローソ(Augusuto Monterroso)作・安藤哲行訳
「ディノザウルス(恐竜)」

2002年6月8日(土)5月にはこんな本を読んだ(後編)フリートークにて
みうらじゅん・山田五郎・泉麻人・安斎肇『日本崖っぷち大賞』(毎日新聞社)
「この本は、あるテーマについて、誰もが知っている『常識』と、誰も知らない『非常 識』の間の『崖っぷち』を討論して決めるという内容です」
「どうでもいいっちゃあ、どうでもいい内容ですな。しかし、上の4人が語るというの がいいですねえ」
「だろう。『タモリ倶楽部』っぽい雰囲気が漂うんだよ。テーマも『ウルトラ怪獣』に始 まり、『ヒゲの有名人』・『プロレス技』・『オレたちひょうきん族』など、くだらなくて面 白い」
オンライン書店bk1の紹介ページ

2005.2.5(土) ゆるくて濃いオヤジの魅力に触れる
みうらじゅん・山田五郎・泉麻人・安斎肇『崖っぷちオヤジ』(1999年,毎日 新聞社)
 あるテーマにもとづいて、「誰でも知っている常識」と「誰も知らない非常識」の間 の崖っぷちを討論する本。とはいえ、しゃべっているのが上の四人なので、しょうも なくて面白い雑談になっている。討論されるテーマは次の通り。

「新中年の主張」・「裸の有名人」・「酒のつまみ」・「少年」・「横浜」・「黒沢明」・「S M」・「毒」・「擬音語・擬態語」・「クリスマス」・「紅白歌合戦」・「さらば崖っぷちオヤ ジ」

 それで、例えば、「酒のつまみ」なら「ツナピコ」、「黒澤明」なら「黒沢明とロス・プ リモス」が、それぞれ「崖っぷち」として認定される。
 とはいえ、この紹介では分からない人にはどこが面白いのか全然分からないと 思う。面白さは、やはり四人がぐでぐでしゃべるところにある。特に、安斎肇氏(テ レビ『タモリ倶楽部』の「空耳アワー」でもおなじみのイラストレーター・デザイナー) の天然ボケがいい。例えば、「クリスマス」がテーマで、
「安斎 第五は?
 山田 第九でしょ(笑)。しかもそれは大みそかだよ」(p.177)
 など。俺は「しょうもないなあー」と思いつつ、ひたすら面白かったなあ。

2004.10.6(水) 金を借りるのは嫌だ。でも借り方は勉強してみたい
・村松友視、他『村松友視からはじまる借金の輪』(1996年,角川文庫)
 村松友視氏からスタートして、前の人の借金を断って、別の人に借金のお願いを する、という書簡体の文章を集めた本。
 登場順に執筆者を紹介すると、「村松友視→武田花→南伸坊→えのきどいちろ う→宮沢章夫→横尾忠則→あがた森魚→吉本ばなな→佐藤公彦→エド・ツワキ→ YOU→みうらじゅん→西城秀樹→野口五郎→青井陽治→水谷良重→村松友視」 となる。
 更に、巻頭と巻末に一條裕子氏の漫画が掲載されている。
 借りるお金の使い道が、結構しょうもなかったりするのが面白い。それを断る方 も、しょうもない理由を出してきて、どっちもどっちなんですが。
 面白かったのは、えのきどいちろう氏から宮沢章夫氏への手紙の「困ったら宮沢 さんに言おう、あの人は隣り町がJリーグだ」(p.45)という文章。それで、220万円を 貸してくれというのが、全然関係がなくて好きだなあ。
 そのお願いを、植木等の歌の歌詞を引用して断った宮沢氏は、作品(演劇)の上 演に一億円必要なので、そのうち二百万を横尾忠則氏に借りようとする。
 そして横尾氏は、そのお願いを「君は頭がおかしいんと違うか」(p.61)と一掃す る。でもその横尾氏もタクシー代が払えなくてあがた森魚氏に一万三千円を借りよ うとする。
 いやあ、この流れ、面白いなあ。
 あと、みうらじゅん、西城秀樹、野口五郎の三氏が続くのも面白い。
 しかし、この「誰かに金を借りる」「誰かの借金を断る」というテーマの文章は、フィ クションをつくる上でいい練習になるかもしれないと思った。

2004.9.14(火) 本好きは本屋も好きなのである
洋泉社編集部:編『「本屋さん」との出会い』(1987年,洋泉社)
 書店や古本屋に関するエッセイを集めた本。雑誌「日販通信」の昭和51年1月号 から昭和60年2月の掲載分を再構成したもの。
 結構幅広い人が書いていて面白い。こういうアンソロジーでもないと、その人の書 いた文書を読む機会がない人もいる。ただ、さすがだなあという文章を書く人もい れば、どうでもいいような話を書いている人もいる。
 佐野洋氏が、新聞記者時代に出会った女性の書店員の話は、さすが推理小説 作家と思う。
 一方で、本の万引きについて書いている人もいる。自分自身の万引きを書いた 西部邁氏や、泥棒をしていた祖父に万引きを依頼し失敗したつげ義春氏など。他 にも、他人から聞いた話もかなり登場する。これは個人的な意見だが、万引きが 減らないのって、あんまり万引きを問題視しない、大したことがないと捉えるような 文章が書かれているからではなかろうか。万引きって、泥棒だからねえ。本を書い ている人であれば、本の万引きそのものも、万引きの容認・肯定にも反対を表明 すべきだと思う。
 あとは、もう少しひとりひとりの分量が多ければよかった。それから具体的な書店 の名前がもっと出てくれば、実際に行ってみることもできるのになあとも思った。
 最後に、文章が掲載されている人を何人か挙げておきましょう。
蓮實重彦・吉行淳之介・藤沢周平・半村良・吉村昭・埴谷雄高・松岡正剛・谷川俊 太郎・浅田彰・馬場のぼる・中井英夫・渡部昇一・なだいなだ・柳田邦男・戸川昌 子・手塚治虫・筑紫哲也・荒俣宏・中上健次・村上龍・柄谷行人・栗本慎一郎・高橋 源一郎・田中康夫

2002年6月8日(土)5月にはこんな本を読んだ(後編)フリートークにて
読売新聞運動部:編『サッカーの惑星 W杯参加国ガイドブック』(中公文庫)
「ワールドカップに参加している32か国の『現在』がわかる手軽なガイドブック。か つての名選手のインタビュー、過去の大会のハイライトもある」
「気分を盛り上げるためにはいいですよね。簡単にまとまっているし」
「まあ、わかっている人にとっては必要ない本かと思いますが」

2006.05.03(水) 日本サッカーの貴重な証言
オンライン書店ビーケーワン:時代の証言者 13・読売新聞解説部:編『時代の証言者 13』(2006.3,読売ぶっくれっと)
 テーマは「サッカー」。元日本サッカー協会会長長沼健氏へのインタビュー。元々は読売新聞に連載されたものです。

 これまでに聞いたことのない意外なエピソード、というのは、この本の中にはそれほどはない。しかし、日本サッカーに、選手・監督・協会として携わってきている氏の証言は、興味深い。

 例えば1996年、ワールドカップの日韓共同開催が決定する直前の話し合いの場面。6月1日に開催国が決まるという前々日の5月30日午後、急遽FIFAから「韓国は共催を考慮すると伝えてきた。共催について、日本の考えを聞きたい」(p.3)という電話が入る。
 そこで急遽、岡野俊一郎、川淵三郎、小倉純二、村田忠男、釜本邦茂、宮沢喜一などの諸氏が集まる。なんというか、この時の緊迫感は、並大抵のものではないだろう。なにしろ決戦投票の前日になって、いきなりそれまでFIFAの規定にもない二国共催が、他ならぬFIFAから打診されたのだから。
 ここで釜本氏が、出場国を「日韓で半分にしたって世界の強い連中が16チームも日本に来るんですよ。それを日本の子供たちに見せてあげたいですよね」(p.4)と言ったというのは印象的。たしかに16チームといえば、かつてのワールドカップの参加国数と同じだからねえ。今になって思えば、どっちかの国の単独開催になって、両国間の関係がギスギスするよりは、よかったという気もする。当時は俺も「なんだよ、ふざけんなよ、じょだんじゃないよ(ラモス氏の真似で)」と思った記憶があるけれどね。

 それ以前の様々なできごとも、登場する選手・監督などが、今の日本サッカーの礎になった人々ばかりである。例えば、長沼氏が1947年に「第26回全国中等学校蹴球大会」(現在の全国高等学校サッカー選手権大会)に出場した際、対戦相手にいた「9番、CFが右足も左足も仕事のできるすごいやつ」(p.16)で、それが前日本サッカー協会会長の岡野俊一郎氏だったとか、現代日本サッカーの父といわれるドイツ人コーチデットマール・クラマー氏に直接指導を受けたとか、俺にとってはサッカーの教科書の1ページのようなエピソードが(というのは大げさかもしれないが)、次々と登場する。やはり当事者の話というのは重みがある。

 それから、日本サッカー協会の名誉総裁を務められていた高円宮殿下のエピソードも少し出てきて、読んでいると涙が出てきた。高円宮殿下とサッカーというテーマでも、一冊本が書けるのではないかと思うんだが、誰か書ける人はいないかなあ。

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2006.02.10(金) 偉大な現役の先人の言葉に耳を傾ける
オンライン書店ビーケーワン:時代の証言者 8読売新聞解説部:編『時代の証言者8 漫画 水木しげる/やなせたかし』(2005.8,読売新聞東京本社)
 『読売新聞』に掲載された、水木しげる・やなせたかしの両氏へのインタビューをまとめたもの。
 水木氏が83歳で、やなせ氏が86歳なのだが、二人ともバイタリティーがある。二人の話の内容を読んでいて、力みすぎないことと、なおかつ信念を持つことが、長く現役で活躍するコツなのかなあと思う。

 例えば水木氏は、「ほかの人はその場の規則に従うわけだけど、私は、いろいろ問題が起きても、好きなことしかやらないという『水木さんのルール』を変えられないんです」(p.17)という。
 しかし、それが徹底している。太平洋戦争中に軍隊にいた時も、「いかに死ぬかという話ばかりしていたのは日本軍くらいでしょうね。私はあくまでも生きるつもりでした。そのためにはできる限り食べて寝る。軍律どころじゃない」(p.21)ということで、ラバウルでも現地の人に同胞として扱われて食べ物をもらったりして、ちゃんと生きて帰ってきた。
 そんな水木氏からのメッセージは「少年よ、がんばるなかれ」(p.35)だったり、「一人一人が幸福のためのルールを持つべきです。人間は幸せになるために生まれたんですから」(p.39)だったりする。この人が言うと説得力あるなあ。

 やなせ氏も、決して順風満帆ではない人生だったことが分かる。画家を志し、旧制高校を出て企業の宣伝部に勤め始めたころ、徴兵される。戦後は雑誌の編集者、三越の宣伝部員を経て漫画家として独立するも、漫画界の変化(長編・劇画の増加)により仕事が減り、ラジオの構成作家などをすることになる。
 でもその頃に、作詞を担当した「てのひらを太陽に」がヒットしたり、、脚本を書いたラジオドラマ「やさしいライオン」が好評になったり、そして50歳を過ぎてから書き始めた「アンパンマン」が広く知られるようになる。
 やなせ氏の話を聞いていると、人生あんまりあせっちゃいけないと思う。

 そのやなせ氏の言葉で印象に残るのが、次のような部分。イラストレーターの仕事について「この仕事をするには、本人がいい人じゃなければだめです。天才の中には、ときとして社会に非常に害を及ぼす人もいる。(中略)でも。それは実際に出版をする上では、やっぱりあまりよくないんです」(p.69)という。「天才として後世に残るよりも、まず社会人として誰にでも好かれるほうが先だと思う」(p.69)とも。
 企業で働いた経験のある人ならではの言葉だと思う。

 薄いパンフレットですが、読みどころは多い本です。

2004.9.8(水) 意外なつながりを感じる本
『私のいちばん好きなアルバム』(1997年,角川mini文庫)
 1988年2月から1996年6月の『月刊カドカワ』(角川書店)連載。ミュージシャンを 中心とした人たちによる、CD(レコード)の紹介。次のような人が印象に残った。
・小室哲哉。89年8月、GUNS N' ROSES「APPETITE FOR DESTRUCTION」を「ハー ドロックのテキスト」のタイトルで紹介。意外な選択だが、「ガンズを知ったのは遅く って、去年の暮れあたり」(p.27)とか、「エアロスミスには不良っぽいカッコよさがあ って、憧れていた」(pp.26-27)とか、コメントもまた驚き。
・石野卓球。93年1月、KRAFTWERK「COMPUTER WORLD」を紹介。これはいかに もと思った。ちょっとわざとらしい感じもするが。
・吉本ばなな。88年9月、町田町蔵「ほな、どないせぇゆぅね」を紹介。まだ小説を書 く前の町田氏に対し、「言葉の神だ」(p.13)と表現している。先見の明があるのだろ うか。
・草野マサムネ。94年11月、ZELDA「CARNAVAL」を紹介。氏が歌をつくり始めた 高校生の頃にショックを受けたのは「スターリンと、このゼルダ」(p.94)だった。そん な話を聞いたことはあるけれど、意外だなあ。
・浜崎貴司(90年6月)と佐藤伸治(96年3月)のふたりが挙げたのがSLY & THE  FAMILY STONE「THERE'S A RIOT GOIN'ON」。俺はミュージシャンもアルバムタイ トルも初めて聞いたが、ちょっと興味が出る。
 このように、やっぱりと思わせるもの、意外性のあるもの、初めて知るものなど、 なかなか面白かった。


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