古本日記 番外編
 8月11日(日)「有明の空の下、人々は集った」の巻
レポート目次へ戻る


「木の葉燃朗です」
「へっぽこです」
「今回は、古本日記の番外編ってことで、いつもとはちょっと毛色の違うレポートを。俺は今回、
コミックマーケット(通称コミケ)62へ行ってきました」
「コミケは、毎年冬と夏の2回行われるマンガの同人誌即売会ですね」
「うん。ただ、最近はマンガだとかアニメーションに限られていない。あらゆるジャンルのミニコ
ミ、個人出版物が並んでいます。コミケという言葉からは、どうしてもあやしげなマンガを売って
いるとか、コスプレした人が歩いているというイメージがあるのかもしれないが、それは一部で
すね。そういうのはどっちかというと一昔前の作られたイメージという気がした」
「ふーん、そうなんだ」
「だって東京ビッグサイトのすべてのホールを会場としてるんだぜ。限られた人たちだけじゃと
ても埋まらないよ。まあ、半分くらいがマンガ、アニメーション、ゲーム関係の本なのは事実だ
けど、他には大学の文芸部が会誌を販売していたり、自作の小説、CD、アクセサリーを販売
する人がいたり、プロの作家やライターが自作の本やミニコミを販売したり、まあ多種多様です
よ」
「なんか、フリーマーケットみたいだな」
「だな。『紙のメディアが中心のフリーマーケット』と言えるかもしれない。少なくとも、世の中で
『おたく』と言われる人のためだけのイベントではないな」
「で、おまえはなにをしに行ったんだ」
「古本に関する本を中心に、エッセイや評論のミニコミを探そうと思ってさ。事前にどこにそうい
うコーナーがあるかを調べて、行ってきたわけですよ。というわけで、ここからはいつもの燃朗
のレポートで行きます」

 「コミケは午後に会場に着くくらいで行った方がいい」と事前に教えられていた。開場前は行
列がすごくて、中途半端に早く行っても入れないとのこと。ということで、午後1時ごろ着を目安
に家を出る。東京ビッグサイトへ向かう方法はいくつかあるが、今回は東京駅からバスに乗るこ
とにした。前に東京国際ブックフェアに行った時も、この方法だった。
 しかし、東京駅に着いて驚いたのはバスを待つ人の多いこと。それも、想像よりも色々な人が
いた。若い男性が大多数かと思っていたら、カップルや女性のグループも多い。これは会場に
着くまでがまず大変だと思ったが、臨時のバスも出ているし、人はスムーズに流れて行く。俺も
バスに乗り込んで、いざビッグサイトへ。
 30分ほどで到着する。ビッグサイトの前には行列はなく、そのまま入れるようになっている。し
かし、すごい数の人だ。ひとつの建物にこれだけの人が集まっているというのはすごい。とりあえ
ず、俺も中に入る。
 東京ビッグサイトの展示場の大きさを大雑把に説明すると、東に6つのホール、西に4つのホ
ールがある。東は、1ホールの面積が約8500u。西は2階層に分かれていて、面積は下2階
層が約9000u、上2階層が4500uと7000u。ちなみに、東京ドームのグラウンド面積が130
00u。国立競技場の芝生面積が7400u。まあ、ビッグサイトはそんだけでかいというわけで
す。その東西合計全10ホールすべてを使って行われるんだから、コミケのイベントとしての大き
さも想像できる。
 まずは西1階のホールへ。いやあ、広い。これまでも、何度かビッグサイトや幕張メッセに行っ
たことはあるが、その時よりも広く感じた。多分、いろいろな飾りがないことが理由だろう。これま
で行ったのは企業のイベントで、天井から色々なものがぶら下がっていたり、大きなセットが組ま
れたりした。しかし、コミケは基本的に机の上に本を並べるのみである。だから天井もものすごく
高く感じるし、ホール全体が見通せて広く感じる。
 これだけあると、どこから見たらいいのか解らない、という感じだ。そのために、コミケのカタログ
が販売されている。カタログには、どのホールのどこになんという名前の団体が出ていて、そこ
でどんな本を出しているかを紹介している。これを事前にチェックした上でないと、目当ての本
が買えないらしい。なにせ、あれだけのスペースに、開催期間(3日間)に入れ替わりで別の団
体が出展するのだ。なんの予備知識も仕入れずに行くのは無謀に近い。
 その無謀に近いことをやったのが、俺である。当日自分が持っていったデータは、どのホー
ルにどんなジャンルの団体が出展するかという簡単なメモだけ。これで行き当たりばったりにう
ろうろしようというのだ。まあ、これが俺のやり方さ。
 ということで、文芸創作が多い西ホールを歩く。ここは文芸創作の他、歴史もの、テレビゲーム
関連のコーナーがそろっている。文芸創作が集まっている場所は、入口から比較的近い。細か
なジャンルごとに更にかたまっているようなので、見るのはそれほど大変ではない。例えば、あ
るコーナーで自作小説を置いていると、そのまわりはほとんど自作の小説のコーナーである。う
ろうろして気づいたのは、本を置いてあるコーナーだけではないこと。CD(音楽だけでなくドラマ
や朗読を録音したものもある)を置いていたり、ぬいぐるみや小物を置いているところもある。
 ホールには熱気もあるのだが、なんとなくのんびりした雰囲気も漂う。人気のコーナーには行
列ができるという話を聞いていたが、午後ということもありそれも落ち着いているようだった。もし
かしたら、マンガやアニメーション関係のコーナーではまだ行列があったのかもしれないが、そ
こまでは確認できなかった。
 文芸創作の近くにある歴史関係のコーナーにも足を伸ばしてみる。ここに出展しているのは
圧倒的に女性が多い。内容は、幕末もの、それから安倍清明を初めとする陰陽師関係の本が
多かった。
 西ホールだけを見ていると、それだけで終わってしまいそうなので、東ホールへ向かう。西の
上のホールは、企業が出展しているようだが、残念ながら俺の興味の範疇からは外れるジャン
ル(アニメーション関係が中心)になるので、見送った。
 野外では、コスプレをした人々の撮影会もしているようだ。会場内にも、コスプレをした人々が
歩いている。男性のコスプレをした女性や、女性のコスプレをした男性もいる。……まあ、いろい
ろですな。否定はしない。そういうことも許される祭りの場、ハレの場ってことなんだろう。会場を
歩いている人を見ていても結構面白かったぞ。
 さて、そうした人たちを見ながら東ホールへ。ここでの目当ては、「評論・情報、学漫、SF・ファ
ンタジー、特撮(その他)、鉄道・旅行・メカミリ、その他」などのジャンルの団体が出展するホー
ルだ。その他のホールはゲームやマンガ関連の本が多く、18歳未満禁止の同人誌を販売して
いるコーナーもある。しかしこのホールにはそうしたコーナーはなく、まあごちゃごちゃと色々な
ものが見られる。目当ての本に関する評論やエッセイも、このホールの中で見られた。他にも、
医療や社会問題に関するちょっと硬めな本や、テレビ・映画に関する本、その他多岐にわたる
ジャンルの本が並んでいた。この辺りには比較的興味があるので、各コーナーをじっくりと見て
回った。中には、唐沢俊一岡田斗司夫の各氏のように、プロのライターによる出展も見られ
た。色々な人に表現の機会を与えられてるってことに、面白さを感じたなあ。動きを伴うパフォ
ーマンスはないものの、コスプレして会場を歩き回るのも、本を置いて多くの人に読んでもらおう
とするのも、ひとつ表現だからねえ。
 例によって、色々と本を買い込んでしまう。本についての本が中心だが、他にも色々と。「ここ
でないと買えない」という思いが強いだけに、惜しまずに購入を決断していく。というわけで、結
構重くなったカバンを持って、俺は東京ビッグサイトを後にした。
 肉体的には歩き回って疲れたけれど、新鮮な経験であった。一部の人のイベントという認識
は改めた方がいいと思いましたな。想像以上に多くの人に開かれたイベントであった。
 ちなみに、帰りのバス待ちも結構な行列だった。東京駅行きはあまりに待ちそうだったので、
浜松町行きのバスに乗る。ぎゅうぎゅうに詰め込まれ、へとへとになりながら、岐路に着いた俺で
あった。

「と、いうわけだ」
「ふうん。じゃあ、なかなか有意義な経験だったわけだ」
「そう。まあ、マンガやアニメーション関連のコーナーは見ていないので、そこがどんな様子か
はわからないんで、そういう意味では不完全なレポートだけどね。まあ、いかにもマンガやアニ
メーションのマニアみたいな人も、会場の半分は占めている。あくまで会場を歩いていての印
象だけどね。ただ、ジャンルによって出展するホール・コーナーが分けられているから、自分の
興味があるコーナーを回っていれば、特に困ることはないかな」
「で、どんな本を買ったのさ」
「うん。ミニコミって、個人や少人数の団体で発行している場合もあるので、名前を出していいも
のか迷うんだが、こういうものを買ったという簡単な紹介だけ」

○現代むかし話愛好会・編『秋元文庫目録 リスト編』
 秋元書房から1970年代から1980年代半ばにかけて刊行されていた秋元文庫の目録。当時の
中高生向けに様々なジャンルの本を出版していた。個人的には、古本屋でたまに見る黄色い
背表紙と、「秋元文庫」という見慣れない名称が気になっていた。この目録を作るというのは大
変な労力だと思う。目録が当時を知る資料・読み物となっている。
○魚住まや『古書籍と古本屋 第五号』・『古本屋の傾向と対策』
 古本に関する個人エッセイ集。俺にとっては「わかるなあ」という身近な話題が多かった。『古
本屋の傾向と対策』は、大阪・神戸・東京の古本屋の紹介。街そのものにも触れていて、東京在
住の俺にとってはなかなか興味深かった。
○eXcitia『ゲームにDokiDoki』
 テレビゲームに関する個人エッセイ集。書いているのは女性だが、多分俺と同世代ではなか
ろうか。エッセイの内容からそんなことがうかがえる。小さな本だけど、製本やレイアウトもしっかり
しているし、内容も共感できる。
○高見知行『空間アーカイブス』
 今回唯一のマンガ。題材の選び方も、描写力も、かなりのセンスがあると思った。タバコ屋・銭
湯の屋台・駅の売店の様子と、そこで働く人々の様子のスケッチが半分。これがかなり丁寧に書
かれていて、妹尾河童のエッセイを彷彿とさせる。残り半分がオリジナルのマンガ。「銀河鉄道
に乗れなかった夜」という短編が、なかなか叙情的でよかった。なんとこの方、第40回ちばてつ
や賞を受賞している。受賞作は「週刊モーニングNo.52」(2001年12月13日号,講談社)に掲載
されているとか。それもなるほどと思わされる。

「しかし、想像以上に収穫はあった。冬にも行われるので行くかもしれない」
「なるほど。まあ、これを読んだ人にも『行きなさい』とは言いませんが、限られた人だけのイベ
ントじゃあないよ、ということは伝わったのではないでしょうか」
「うまくまとめてしまったな。でも本当にその通りだと思う」

レポート目次へ戻る


inserted by FC2 system