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JOURNEE au JAPON) 熱狂の日音楽祭 2009」極私的レポート
「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(LA FOLLE JOURNEE au JAPON) 熱狂の日音楽祭 2009」極私的レポート
過去のレポート:2007年・2008年
東京国際フォーラムを中心に、有楽町・丸の内で行われたクラシック音楽の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(LA FOLLE JOURNEE
au JAPON) 熱狂の日音楽祭2009」、極私的な内容ではありますが、レポートを。
(公式サイト)LA FOLLE JOURNE'E au JAPON - ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭 2009
http://www.lfj.jp/lfj_2009/
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」公式レポート
http://www.lfj.jp/lfj_report/
2009年5月1日(金)
今年の私にとっての「ラ・フォル・ジュルネ」は、5月1日の前夜祭スペシャルコンサートから。例年「熱狂のプレナイト」として、地上広場での無料コンサートは行われているのだが、今回はホールAでの有料コンサートもあり。私は有料コンサートを選択。
というのも、2005年からの「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」のテーマを振り返り、かつ今年のテーマである「バッハとヨーロッパ」に関する曲も演奏するという、なかなかに豪華な内容で、かつチケット代が非常にリーズナブルだったため。「熱狂のプレナイト」出演のテレム・カルテットの演奏は、有料公演で聴く予定だしね。
曲目は下記のとおり。
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2009前夜祭スペシャルコンサート(19:00~@ホールA)
第一部
出演:小泉和裕指揮/東京都交響楽団
曲目:ベートーヴェン;交響曲第5番「運命」第1楽章
モーツァルト;ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲第1楽章(vl.矢部達哉、va.鈴木学)
シューベルト;交響曲第7番「未完成」第2楽章
ドヴォルザーク;交響曲第9番「新世界より」第4楽章
第二部
出演:ジャン=ジャック・カントロフ指揮/シンフォニア・ヴァルソヴィア
曲目:ヴィヴァルディ;四季 作品8より「春」、「夏」(vl.ネマニャ・ラドゥロヴィチ)
J.S.バッハ;ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調BWV1042(vl.パヴェル・シュポルツル)
ドヴォルザーク「新世界より」第4楽章は、登場するフレーズ(メロディ)がことごとく有名という、すごい曲。生演奏を聴いたのははじめてだけれど、改めてすごいと思った。
シューベルトの曲は、しみじみと、じんわりと泣けてくる。これは去年の「ラ・フォル・ジュルネ」でシューベルトの色々な曲を聴いた時も思ったなあ。
第二部は、最近話題のヴァイオリニストをソリストに迎えて二曲。
ネマニャ・ラドゥロヴィチは、長髪をなびかせながら、まるでロック・スターのように情熱的にヴァイオリンを演奏する。話題になっている理由が分かるような、そんな印象的な演奏だった。
パヴェル・シュポルツルは、青いヴァイオリンを演奏することで話題になっている。しかし、そうした話題性からは意外なほど端正に、優雅に演奏する。
対照的で、かついずれも優れたヴァイオリニストの演奏を聴くことが出来た。
・上記感想をしゃべったポッドキャスト mp3:2009.05.01
ホールAを出て、地上広場の屋台村でカレーを食べる。東京の「ラ・フォル・ジュルネ」は、この地上広場で飲み食いしながら無料コンサートが聴ける解放感も大きな魅力のひとつなのではないかと思う。
2009年5月3日(日)
・この日の全般的な感想をしゃべったポッドキャスト mp3:2009.05.03
最初からすごい演奏を聴く!:公演番号141「J.S.バッハの作品にもとづく即興演奏」(小曽根真(ピアノ)・中川英二郎(トロンボーン)
)
私にとっての今年の「ラ・フォル・ジュルネ」本公演聴き始めは下記のコンサート。
公演番号141(9:45〜@ホールC)
小曽根真(ピアノ)・中川英二郎(トロンボーン)
J.S.バッハの作品にもとづく即興演奏
演奏された曲は、下記のとおり(をテーマにした即興演奏)。
J.S.バッハ
「ビオラ・ダ・ガンバのためのソナタNo.3」
「インヴェンションNo.3」
「メヌエット」
「平均律クラヴィーア曲集第一集第二番プレリュード」
「G線上のアリア」
(アンコール)モンティ「チャルダッシュ」
いやあ、初っ端からすごい演奏を聴いてしまったという感じ。
最初は比較的ジャズらしさは抑えられていたのだが、「メヌエット」あたりから徐々にリズムや音の間隔(シンコペーション)がジャズっぽくなってくる。そして「プレリュード」は、ラテンアメリカっぽい情熱的なアレンジに。
ラストの「G線上のアリア」は、有名なフレーズをピアノとトロンボーンで交互に演奏するという、静かな美しい感じで本編が終わる。
最後にアンコールで「チャルダッシュ」を演奏してくれたのだが、この曲をピアノとトロンボーンのデュオで演奏するとこんな感じなんだという意外性(バイオリン曲というイメージしかなかったから)と、踊りだしたくてたまらなくなるような演奏で盛り上がる(客席も一緒に手拍子)。
全編通じて、ピアノとトロンボーンだけとは思えないくらい音に厚みがあり、二人の技術や音楽への情熱を強く感じた。
朝ごはんを食べずに出てきたので、早速屋台村で食事。ジャンバラヤです。
今年の「ワールドミュージック枠」は、ロシアのテレム・カルテット:公演番号112「バッハ作品の編曲特集」(テレム・カルテット)
2007年のタラフ・ドゥ・ハイドゥークスとムジカーシュ、2008年のレネゲイズ・スティール・バンド・オーケストラに続き、2009年の「ラ・フォル・ジュルネ」のワールドミュージック枠(勝手に命名)は、ロシアの民俗音楽の四人組、テレム・カルテット。
私が聴いた公演では、バッハの曲を編曲した作品を演奏。一部演奏の順序は変更になりましたが、下記の曲が演奏された。
公演番号112(11:30〜@ホールA)
テレム・カルテット “バッハ作品の編曲特集”
J.S.バッハ/テレム・カルテット:ロシアの情熱―「トッカータとフーガニ短調 BWV565」
J.S.バッハ:コラール前奏曲 イ短調「主イエス・キリスト、われ汝を呼ぶ」BWV639
J.S.バッハ:フーガ ハ長調 BWV953
J.S.バッハ:フーガ ハ短調 BWV961
J.S.バッハ:タランテラ―前奏曲 ニ短調 BWV851(平均律クラヴィーア曲集 第1巻)
J.S.バッハ、N.リムスキー=コルサコフ/テレム・カルテット:「パルティータを伴うサラバンド ハ長調 BWV990」よりエピソード12 ―鳥たちの歌
J.S.バッハ、N.リムスキー=コルサコフ/テレム・カルテット:「パルティータを伴うサラバンド ハ長調 BWV990」よりエピソード16 ―鳥たちの歌
J.S.バッハ:管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV1068よりアリア
J.S.バッハ/テレム・カルテット:スコットランド音楽の様式で贈るジーグ(組曲 ト短調 BWV822より)
J.S.バッハ:ミュゼット ニ長調 BWV Anh.126(アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳第2巻)
J.S.バッハ/テレム・カルテット:「バッハの冗談」
楽器の編成が、バヤン、ソプラノ・ドムラ、アルト・ドムラ、バス・バラライカという、知らないとなんの楽器だがまったく分からない、というところから、すでにわくわくする。
バヤンというのは、アコーディオンのような鍵盤楽器。ドムラというのはマンドリンのような形の弦楽器で、これが大小二つ。そしてバス・バラライカというのは、コントラバスくらいの大きさのバラライカ(三角形の弦楽器。ギターのように弦を弾いて演奏)。このバス・バラライカは、ステージに登場した時点で笑いとどよめきが起こる。
曲は、舞曲のような踊りだしたい編曲もあれば、美しい音色を聴かせてくれるアレンジもあり。管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV1068よりアリア(「G線上のアリア」)は、美しかった。
個人的な好みでは、民俗音楽は管楽器が入っている方が好きなのだが、テレム・カルテットの弦楽器中心の編成は、よかった。
今回のバッハのアレンジ曲集も良かったのだが、その他にどんな演奏をするのか(特にオリジナル曲)気になって、販売コーナーで2枚CDを買う。聴くのが楽しみです。
それから、現在金沢で行われている「ラ・フォル・ジュルネ金沢」(2008年から開始)の公式CD(こちらのテーマはモーツァルト)も出ているのを知り、あわせて買う。
●Terem Quartet『Russian Passions』(Manchester・CDMAN94)
●Terem Quartet『Terem』(Real World・7862842)
会場のどこかしらで演奏がされているという面白さ:無料公演をいくつか聴く
有料公演の合間に、無料コンサートもいくつか聴く。チケットの半券(またはこれからの公演のチケット)があれば入れる地下展示ホール、誰でも聴くことができる(屋台村のご飯を食べながらでも)地上広場と、どこかしらで演奏がされている。これが「ラ・フォル・ジュルネ」の醍醐味のひとつだと、私は思う。
特に、地上広場で聴いたアウラは印象的。女声コーラス五人組で、去年も「ラ・フォル・ジュルネ」で聴いたのだけれど、歌曲だけでなくインスト曲に英詞をつけた作品を歌ったりもする。この日のコンサートでも、例えば「G線上のアリア」や「トッタータとフーガ ニ短調」に詞をつけてアカペラコーラスで歌う。
これが、野外の新緑の下で聴くと非常にマッチしている。
その他、午後の極私的トピックスとしては下記のような感じ。
・昼ごはんも屋台村。「イタリア丼」という、ご飯にトマトソース、クリームソースをかけたものを食べる。
・今年もクラシックのデジタルラジオ「ottava」の公開生放送が実施中。
・ホールをつなぐ通路は、出演したアーティストも行き来する。ネマニャ・ラドゥロヴィチがファンに囲まれているのを二回目撃。外見もかっこいいし、演奏も技術が高いし、そういう人がふらっと(ふらっとじゃなくて移動中だったのだろうけれど)歩いていると、ファンの人は声をかけたくなるよなあ。
20世紀アレンジ版のヘンデルの優雅さ:公演番号114・ヘンデル作品集(東京都交響楽団・小泉和裕(指揮))
夕方はバッハの作品をちょっと離れてヘンデルの作品を聴く。20世紀に活動した指揮者によるアレンジ版を含む三曲。
公演番号114(16:15〜@ホールA)
東京都交響楽団・小泉和裕(指揮)
ヘンデル/ストコフスキー:「メサイア」より パストラル・シンフォニー
ヘンデル:合奏協奏曲ロ短調作品作品6-12 HWV330
ヘンデル/ハーティ:管弦楽組曲「水上の音楽」
実は聴き馴染みのあるメロディーは「水上の音楽」の一部くらいだったのだが、その他もいずれも優雅な雰囲気で、心地いい。
合奏協奏曲で演奏されたチェンバロの音色も印象的。チェンバロの生の音色を聴くのは、おそらく初めてだと思う。
「ゴルドベルク変奏曲」の奥深さを知る:講演会「小沼純一:『ゴルドベルク変奏曲』の世界」
「ラ・フォル・ジュルネ」では映画の上映や講演も行われているのです。是非聴きたいと思って行ってきたのが下記の講演。
・小沼純一:『ゴルドベルク変奏曲』の世界(17:30〜@ホールD1)
「ゴルドベルク変奏曲」にも興味があったし(いくつか公演もあったが、チケットは買い逃してしまった)、小沼純一氏も本や雑誌で文章を読んでいたので、どんな話を聞かせてもらえるか楽しみにして行く。
小沼先生、イメージでは音楽家っぽい方を連想していたのだが、実際は非常に学者然とした感じの方。でも自らピアノを弾いての実演もありました。
興味深かったテーマを順に書いておきます。
・「ゴルドベルク変奏曲」の変奏の分からなさ
ヘンデルの変奏曲と聴き比べると、「ゴルドベルク変奏曲」はテーマがそれぞれの変奏でどう活きているのかが分かりにくい。しかしよく聴くと、低音(ベースの音)に同じ音が使われている。現代のジャズやロックのコードのように低音があって、その上にアレンジが乗っている。
・コスモポリタンとしてのバッハ
それまではヨーロッパ各地方のローカルな交流であった西洋音楽が、バッハで混ざった。近代(18世紀)以前に音楽面でこうした融合を成し遂げていたバッハ。その融合は、ヨーロッパに限定されていない。「サラバンド」はスペインの音楽から来ていると言われているが、新大陸(アメリカ)からスペイン→ドイツと伝わったという説もある。
ただし、バッハはドイツ北部から離れることはなかった。それでも、外から入ってきたものからスタイルを学んでいた。その情報加工力の高さ(インターネットで知識を蓄える人にも近いのではないか)。
・バッハの論理性
「ゴルドベルク変奏曲」は、アリア、第一変奏〜第三十変奏、アリアという構成。第十五編成までと第十六編成からで曲調が異なる。
また、三、六、九、十二の各変奏は、カノンになっている。またカノンの追いかける音が同音、二度、三度、四度と変化している。
3という数字はキリスト教の三位一体説にあるように、完全を象徴する数。こうした数に沿った構成をつくるところに、バッハの宇宙観・世界観が現れているのではないか。
他にも、音が高くなるフレーズを低くなるフレーズが追いかけるカノンや、最初から聴いても最後から聴いても同じになるフレーズなども使っている。
また、第三十変奏は親しみやすいメロディ(当時のドイツの流行歌)を使って、そこから最後の聖なるアリアにつなげるという構成もある。
・まとめ
「ゴルドベルク変奏曲」は、聴けば聴くほど分かってくる。だから面白い。
バッハの世界観を感じたり、なぜバッハの曲が今の日本で受け入れられるのかを考えたり、鍵盤というデジタルな楽器を使うことを考えたり、着眼点はいくつもある。
色々な演奏(オーケストラバージョンなども)を聴き比べて、西洋芸術音楽の豊かさを感じられる。
小沼純一『バッハ『ゴルトベルク変奏曲』世界・音楽・メディア (理想の教室)』(みすず書房)
ホルンだけ、クラリネットだけで奏でるバッハ
夜の有料公演までの間に、無料公演を二つ聴く。
まずは地上広場での東京音楽大学ホルン・アンサンブル(19:10〜)。
ホルンのみのアンサンブル。6〜8人がステージに上がる。ホルンだけの演奏というのは、見た目も珍しくて面白い。「主よ、人の望みの喜びよ」などは、不思議な音の響きがする。
続いて展示ホールでの世田谷おぼっちゃまーず(20:00〜)。昨年行われた「ハルモニア杯」という、バッハの曲をクラシック以外のアレンジで演奏するコンテストでグランプリを獲得したグループ。
名前に似合わず(というのは失礼か)本格派で、バッハをジャズやタンゴでアレンジした曲をクラリネット五重奏で演奏する。なんとなく、ヨーロッパの都市のストリートミュージシャンにいそうだと思わせるような、そんな雰囲気を持った演奏(あくまでイメージね)。
こういう演奏が無料で(展示ホールはチケットか半券が必要だが)聴けるのも「ラ・フォル・ジュルネ」の面白いところ。
そして夕ご飯も屋台村。「もちこチキン」という、餅粉を付けて揚げた鳥の唐揚げの丼。
ルネ・マルタンの思い、それに応えるミュージシャンの思い、それに感激する観客の思い:公演番号116「ルネ・マルタンの"ル・ク・ド・クール〜ハート直撃"コンサート」
5月3日、Aホールでの最後の有料公演は下記の内容。
公演番号116「ルネ・マルタンの"ル・ク・ド・クール〜ハート直撃"コンサート」(21:00〜@ホールA)
ネマニャ・ラドゥロヴィチ(ヴァイオリン)
オーヴェルニュ室内管弦楽団/アリ・ヴァン・ベーク(指揮)
J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲 第2番 ホ長調 BWV1042
ボリス・ベレゾフスキー(ピアノ)
ブリジット・エンゲラー(ピアノ)
シンフォニア・ヴァルソヴィア/ジャン=ジャック・カントロフ(指揮)
J.S.バッハ:2台のピアノのための協奏曲 第1番 ハ短調 BWV1060
小曽根真(ピアノ)
中川英二郎(トロンボーン)
J.S.バッハの作品にもとづく即興演奏
ストラディヴァリア/ダニエル・キュイエ(バロック・ヴァイオリン、指揮)
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第3番 ト長調 BWV1048
カルロス・メナ(カウンターテナー)
リチェルカール・コンソート/フィリップ・ピエルロ(指揮)
ヨハン・クリストフ・バッハ:独唱カンタータ「ああ、私の頭が水で満ちていたなら」
J.S.バッハ:独唱カンタータ「満ち足れる安らい、うれしき魂の悦びよ」
この116番の公演は色々とありまして。本来は、ヘンデルの「メサイヤ」を演奏する予定だった。しかしチケット販売後に、不況の影響で、経済的な理由から「メサイヤ」の上演が不可能になってしまった。おそらく「ラ・フォル・ジュルネ」では、こうした事態は初めてだろう(一部の演目とか出演者の変更というのは見たことがあるけれど)。
そこで、主催のルネ・マルタン氏が急遽バッハに関連するプログラムを決め、出演者へ交渉して代替開催となったのが今回の公演。
「メサイヤ」を期待していた人には残念だろうし、このような状況もあってお客さんの入りも満員までは行かなかったが、聴いた者としてはガラ・コンサートのような贅沢な内容だったと思う(上の曲目・出演者でも分かるように)。
それから、この公演はステージ真ん前(3列目ほぼ中央!)という、普通なら得がたい席で見ることもできた。出演者の表情まではっきり分かるという、貴重な機会になった。
ネマニャ・ラドロヴィッチは、ものすごく表情豊かにヴァイオリンを演奏する(そして、楽しそう)。「ヴァイオリン協奏曲第2番」の各楽章の静と動が印象的。
小曽根・中川のデュオによる即興演奏を本日2回聴くことができたのもうれしかった。しかも2回目はステージ目前。二人が足で床を叩いてリズムを刻む様子もはっきりと聴こえるし見える。
その二人の盛り上がりの後を務めたダニエル・キュイエ弾き振りのストラディヴァリアも、「ブランデンブルク協奏曲第3番」の美しい音色を聴かせてくれる。リュートやチェンバロも使った、伝統的な古楽のスタイル。
ラストはリチェルカール・コンソート(フィリップ・ピエルロ指揮)に乗せてカルロス・メナの独唱。一日の終わりにふさわしい美しい歌声だった。
予定の公演が上演できない状況を乗り切るために代替公演を懸命に考えたマルタン氏をはじめとするスタッフ、その思いに応えて出演したミュージシャン、それらすべての人の思いを感じさせる、すばらしい演奏と雰囲気のコンサートだったのではないかと思う。
2009年5月4日(月)
・この日の全般的な感想をしゃべったポッドキャスティング:mp320090504
バッハのアンサンブルに興味津々:公演番号212「ブランデンブルク協奏曲第1番〜第3番」
この日最初に聴いた有料公演は下記のとおり。
公演番号212(12:00〜13:15@ホールA)
ジャン=ジャック・カントロフ(指揮)・シンフォニア・ヴァルソヴィア・高橋敦(トランペット)・最上峰行(オーボエ)
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第1番 ヘ長調 BWV1046
◇ヤクブ・ハウファ(ヴァイオリン)
◇ヘンリック・コバレウィチ(第1ホルン)
◇パベェウ・スチェパニスキ(第2ホルン)
◇シルウェステル・ソボラ(第1オーボエ)
◇アダム・シュレンザク(第2オーボエ)
◇最上峰行(第3オーボエ)
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第2番 ヘ長調 BWV1047
◇ヤクブ・ハウファ(ヴァイオリン)
◇アンジェイ・クジャジャノブスキ(フルート)
◇高橋敦(トランペット)
◇シルウェステル・ソボラ(オーボエ)
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第3番 ト長調 BWV1048
「ブランデンブルク協奏曲」の第1番から第3番まで。アンコールには、もう一度第2番の第3楽章を演奏。
実は、私がバッハの曲で興味を持っていたのは、メロディーが印象的な曲がほとんど。「無伴奏チェロ組曲」とか、「ゴルドベルク変奏曲」とか。「主よ、人の望みの喜びよ」もそうですね。
つまり、オーケストラの編成による曲は、どうにも難しそうだと思っていた。今回「ブランデンブルク協奏曲」を聴きに行ったのだって、第2番の印象的なメロディーを知っていたから。
しかし、昨日小沼純一氏の講演で聴いたように、バッハの構成力、理論的な部分の面白さが、「ブランデンブルク協奏曲」で感じられた。例えば第1番で、ジャズやポップスのコード進行のように決まった音程の低音が響き、その上で様々なメロディーが奏でられたり、すべてに共通する、一定のフレーズが形を変えて複数の楽器で演奏されたり。
第3番までで1時間くらいありましたが、そうしたことを考えて聴いていると飽きることがない。むしろもっと聴いていたいくらい。そして、曲の中に含まれていそうな色々な仕掛けや仕組みを、もっと味わいたくなる。
ということで「ブランデンブルク協奏曲」全曲入りのCDを買いました。
クラウディオ・アバド指揮/ミラノ・スカラ座管弦楽団員
『J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲(全曲)』(RCA/タワーレコード・TWCL-3020)
ブクスフーデの宗教曲を聴くのにチャレンジする。
今回私が聴く二つ目のバッハ以外の作曲家の公演。バッハも尊敬していたというブクスフーデの宗教曲。
公演番号246(18:30〜19:45@ホールC)
クラウディオ・カヴィーナ(指揮) ・ラ・ヴェネクシアーナ
ブクステフーデ:「われらがイエスの御体」BuxWV75
7つの曲からなる。受難に遭遇したイエス・キリストを称える内容。会場でもらった対訳を事前に読んだものの、歌詞の内容をちゃんと頭に入れて聴けたわけではなかった。
そういう状況で聴いたのだが、とにかく会場内の緊張感を強く感じる。荘厳な雰囲気の中で、演奏と合唱が続く。宗教曲には独特の張り詰めた空気がある。
私も、曲や合唱の美しさを感じながら聴いていたのだが、原詞(ドイツ語)が分かっていたり、キリスト教への造詣があれば、より深く心に染み入って聴くことができたのではないかということが、少し惜しい。
ただそれでも、すべての曲が演奏された後の充実感・達成感は強く伝わってきた。
すばらしい音楽とすばらしい演奏。今年最も記憶に残る公演かもしれない:公演番号216「J.S.バッハ:ミサ曲 ロ短調 BWV232」(ミシェル・コルボ指揮)
夜も更け始めた中、この日のホールA最終の有料公演へ。
下記の公演を聴こうと思ったのは、「コルボ指揮の公演はひとつは聴きたい」という理由から。2007年にはフォーレのレクイエム(作品48)を、2008年もモーツァルトのレクイエム(ニ短調・K.626)を、それぞれコルボ指揮で聴いている。自分でも内容がきちんと理解できているとは思えないけれど、それでもとにかく心に残って、またコルボ指揮の演奏を聴きたいという気持ちになる。
公演番号216(21:15〜23:15@ホールA)
シャルロット・ミュラー=ペリエ(ソプラノ)
ヴァレリー・ボナール(アルト)
ダニエル・ヨハンセン(テノール)
クリスティアン・イムラー(バリトン)
ローザンヌ声楽・器楽アンサンブル
ミシェル・コルボ(指揮)
J.S.バッハ:ミサ曲 ロ短調 BWV232
正直なところ、最初は公演時間が二時間ということ、初めて聴く曲で、しかもカンタータなので歌詞が理解できないだろうということで、聴くのが不安でもあった。
しかし、いざ聴いてみると、とにかく素晴らしいの一言。歌詞の内容は理解できないけれど、そんなことはまったく関係なく、2時間という時間もあっという間だった。
それは多分、曲の構成が様々で、聴いていて飽きないことが大きな理由だろう。曲の雰囲気も音の大小やテンポの強弱が多彩で、演奏の形式も、楽器も歌も曲によってソロ・アンサンブルと編成が変わっていく。
その切り替えに、すべての曲ごとにインターバルを取るわけではなく、曲によっては前の曲が終わるとともにソリストが移動したり、合唱団が立ち上がったりと、音だけでなく動きにも一定のリズムがある。またそれをコントロールするコルボの指揮も的確。今年はAホールは、ステージ上を撮影した映像が正面の大きなモニタに映るのだが、そのおかげでコルボの指揮の動きもよく見える。見ていると、オーケストラの音と動きをコントロールするコルボの姿が、だんだんサッカーのイビチャ・オシム監督みたいに見えてくる。
終演時間は少し押して、23:30くらいでしたが、これは見る価値のある公演だった。今年の「ラ・フォル・ジュルネ」の中で、更には今年見た(そしてこれから見る)あらゆるジャンルのコンサートの中で、最も記憶に残る内容になるかもしれない。
2009年5月5日(火)
・この日の全般的な感想をしゃべったポッドキャスティング:20090505mp3
最終日は音楽よりもトークを聴く。そして2009年極私的まとめ
今日が今年の「ラ・フォル・ジュルネ」の最終日。それは東京国際フォーラムでの有料・無料公演もそうだし、丸の内・有楽町での関連イベントもそう。
しかし、私はこの日の有料公演のチケットは買い逃してしまう。前売チケット発売当初は時間的にも精神的にも余裕がなくて手が出ず、小さい会場はすべて買い逃してしまう。AホールやCホールなどの大きなホールは、開幕直前までチケットがあったのだが、ぼやぼやしているうちに売切れてしまった。
また、この日は午前中に映画を見たり(有楽町で見たんですけれどね)、一時的に別の場所に行ったりしていて、無料公演も夕方くらいまで聴くことができず。
それでも、無料公演をひとつと、トークをひとつ(+α)聴く。
その前に、とりあえず ミシェル・コルボ指揮によるJ.S.バッハの「ミサ曲 ロ短調(BWV.232)」のCDを買う。昨日聴いたコンサートが素晴らしく、CDでも再度聴きたいと思って購入する。
『J.S.Bach: Mass in B Minor』 Michel Corboz, Ensemble Instrumental de Lausanne,
Ensemble Vocal de Lausanne, Yumiko Tanimura, etc
組枚数: 2 規格品番: MIR081 レーベル: Mirare
まずは地上広場での海老彰子さんのピアノ(17:40〜。「イタリア協奏曲」他)。小雨降る、少し涼しい中の演奏でしたが、そういう雰囲気で奏でられるバッハも趣がある。この時期(初夏)の地上広場での演奏というのは、朝・昼・夕のどの時間でも、場の雰囲気を含めたよさがある。
そして地下展示ホールで、ルネ・マルタン氏(「ラ・フォル・ジュルネ」の生みの親)と福岡伸一氏(生物学者)の対談を聴く。毎年必ず、マルタン氏が今年の「ラ・フォル・ジュルネ」を振り返り、来年のテーマを発表してくれる場があって、今年はこの場がそうだと予想して(マルタン氏のトークはここしかないので)聴きに行く。
ルネ・マルタン氏の話を聴きたかった人間として率直に言えば、マルタン氏に公開インタビューをする形式の方が良かったと思う。福岡氏もご自身の考えをお持ちの方なので、40分という時間では二人の(主に福岡氏の)考えをそれぞれ述べて終わってしまい、対談という形式とはちょっと違うかなという印象を受けた。
それでも、マルタン氏の話の中で興味深かった部分をいくつか書いておきます。
・科学と音楽は抽象性という点で共通している。特にバッハの音楽には、数学的な構造がある。また、科学者で自ら楽器を演奏する人も、フランスでは少なくない。
・バッハの楽譜は演奏者に方向性は示すが、解釈は比較的自由に演奏できる。
また、ひとつの曲を弦楽器・鍵盤楽器・管楽器のいずれで演奏してもよいようになっている。
・人間はもともと楽器の要素があり(口や手や体のどの部分でも音を発する)、また人間は自然からインスパイアされて音楽を作ってきた(メシアンやロマン派の例)。
そして、来年のテーマも発表された。
●来年取り上げる作曲家は、「ショパン」です。2010年に生誕200周年を迎える記念の年ということもあるようです。
ただし、ショパンの全作品を演奏してもプログラムとしては30くらいになりそうなので(30曲ということではないですよ)、ショパンと交流のあった作曲家、ショパンが好んで演奏した作曲家の曲も演奏するそうです。具体的な名前としては、メンデルスゾーン、パガニーニ、ベルリオーズ、ベッリーニ、ドニゼッティなどが挙がっていました。
●金沢もショパンがテーマとのこと。
これはこの時のマルタン氏の話ではなく、後に別のトーク(下記で紹介)で知ったのだが、同時期に行われる「ラ・フォル・ジュルネ金沢」(2008年から開催)でも、来年はショパンを取り上げるそうです。金沢では、2005年に東京で「ラ・フォル・ジュルネ」を開始した時と同じ順序で、ベートーベン→モーツァルトというテーマで来たのですが、来年は東京と統一するようです。
また、ナントはもちろん、ショパンの生まれ故郷であるポーランドのワルシャワでも初めて「ラ・フォル・ジュルネ」を行い、ショパンをテーマとするそうです(原則として、「ラ・フォル・ジュルネ」では毎年どの都市も同じ作曲家を取り上げる)。
このトークを聴き終えて、「今年の(俺にとっての)『ラ・フォル・ジュルネ』は終わっちゃったなあ」と思いながら地下のコンコースに出ると、クラシック専門のデジタルラジオ局「ottava」の特設ブースから話し声が。特番は18時で終了していたのですが、番組プレゼンター(DJ)の本田聖嗣さんと林田直樹さんが、放送では流れないがブースにいたお客さん向けに今年の「ラ・フォル・ジュルネ」を振り返るトークを実施中。途中からですが聴いてきました。
下記のような話が興味深かった。
・バッハが他の作曲家の曲を編曲すると複雑になる(ヴィヴァルディの「4つのバイオリンのための協奏曲」とバッハの「4台のピアノのための協奏曲」を例に)。
・アーティストは演奏の直前に顔が変わる(≒人が変わる)ことが、今年Aホールに設置されたモニターでよく分かった。
・バッハを演奏するときに「バッハが見ている」と感じるアーティストが多いようで、それがバッハの演奏にショーマンシップが少ない理由かもしれない。
・バッハの曲をすべて分かることは難しい。しかし、一箇所でも感じる部分のある(一点突破型)の聴き方があってもいいのではないか。
という話を聴いて、地上へ。地下の展示ホールは20:00で終了ですが、地上広場は22:00まで屋台村が出ているので、最後も屋台村で。焼き鳥丼とフランクフルトです。
20:00くらいから各ホールでのラストコンサートが行われるのと、雨という天候もあって、地上広場も比較的静か。余韻に浸りながらフランクフルトをかじる。
という感じで、私にとっての今年の「ラ・フォル・ジュルネ」はおしまい。
振り返ると、私自身の原因で、やや寂しさが残る。つまり、チケットを買い逃した公演がいくつかあったのです。「ゴルトベルク変奏曲」も「無伴奏チェロ組曲」も聴きたかったし、「ヨハネ受難曲」や「マタイ受難曲」も演奏時間の長さに尻込みせずチケットを買っておけばよかったと、今になると思ってしまう。
また、不況の影響なのか本公演の日程が3日間と短かったことや、東京国際フォーラム内での無料コンサートの数も昨年より少なかったことなども、少し寂しく感じた。
でも、来年も開催されるということは喜ばしいし、是非来年もしっかりと楽しみたいと思う。もちろん来年までの間に、他のクラシックのコンサートにも積極的に足を運ぶつもりです。
とにかく、今年もありがとう、「ラ・フォル・ジュルネ」!
木の葉燃朗のがらくた書斎
>>レポート >>「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(LA
FOLLE JOURNEE au JAPON) 熱狂の日音楽祭 2009」極私的レポート
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