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2007年8月7日展覧会訪問記

 8月7日、二箇所の美術館で、四つの展覧会を見てきました。

  • 『アンリ・ミショー展 ひとのかたち』@東京国立近代美術館
  • 『アンリ・カルティエ=ブレッソン 知られざる全貌』@東京国立近代美術館
  • 『所蔵作品展 近代日本の美術』@東京国立近代美術館
  • 『「昭和」写真の1945-1989 第2部「ヒーロー・ヒロインの時代」』@東京都写真美術館

 まずは竹橋の東京国立近代美術館にて。


■「アンリ・カルティエ=ブレッソン 知られざる全貌」@東京国立近代美術館

 フランスの写真家アンリ・カルティエ=ブレッソンの回顧展。
 私はカルティエ=ブレッソンのことはまったく知らなくて、その状態で彼の撮影した写真やデッサンなどを見てきました。

 印象的だったのは、被写体として人物、それも路上などで寝転んでいたり立っていたりする人が多いこと。だから、なんだか生々しいというか、あからさまな人の姿が写っている。人物は写っていても、ことさらに人物を撮った感じでない写真という印象も受けた。
 例えば、『北京,1949年』という作品で、兵士らしき同じ服装の列の前に立つ、黒衣・丸メガネ・ヒゲのおじいさんを撮影した写真がある。このおじいさんの緊張感のない感じは、なんだか面白かった。
 他にも、著名人を写した写真でも、あえてなのだろうが、人物に焦点を当てていないものもある。『アンリ・マティス、ヴァンス、フランス、1949年』では、写真の右半分に大きく鳥を写していたり、『サルトル、パリ、1946』でも、背景が大きく写り、サルトルは右下4分の1くらいの大きさ。ただ、そういう撮影をされているのに、人物に目が行く。

 それからもうひとつは、コントラストの印象深さ。先ほど例に挙げた、マティスと鳥を同じくらいの大きさで撮影した写真もそう。他にも『上海、中国、1949年』での、奥に立つ大きなビルと、手前に写る荷物を運ぶ人とか、『サン・ベルナール河岸、パリ、1932年』の、真ん中に土手の下に見える線路があり、その左がスラムのような建物、右が紳士らしき男性の立ち姿というのも、記憶に残る。『北海道、1965年』という作品で、ポルノ映画のポスターの前の自転車置場から自転車を出そうとしている、学生服姿の学生の姿も、印象的。

東京国立近代美術館 >> 展覧会情報アンリ・カルティエ=ブレッソン 知られざる全貌


■「アンリ・ミショー展 ひとのかたち」@東京国立近代美術館

 8月7日、竹橋の東京国立近代美術館にて、「アンリ・ミショー展 ひとのかたち」を見てきました。アンリ・ミショーはフランスの画家・詩人。彼についてはまったく知識がなかったのですが、美術関連のwebの記事や、東京国立近代美術館のサイトに掲載されていた作品の写真が興味深く、見に行きました。

 抽象的な絵ばかりなのだが、それだけに見ていて色々なことが想像できる面白さがある。

 例えば、『ムーブマン(Movements)』は、墨で描かれた作品。作品を「感じない」と、ただのシミにも見えてしまう。しかし私には、人が動いているように見えた。「ムーブマン」は、正しくはフランス語で「動き」を意味する「mouvement」(英語の「movement」)なのだが、私は英語の「move」+「man」を連想して、絵から人が動く様を連想した。

 それから、『墨』という、文字通り墨による模様を描く作品群がある(*1)。これは、なんだが日本語の文章が書いてあるように見えたり(『墨 1963』)、Tシャツの柄にしたらかっこよさそうな模様が描かれていたり。
 また、一件無造作な点の集まりのようだが、じっと見ていると陽炎のようにゆらゆらと見える作品(『墨 1979』)もあった。
*1 ただし、『墨』というタイトルはミショーがつけたものではなく、用いられた技法が慣例として使われているとのこと。

 『メスカリン素描』という作品群も強烈。メスカリンとは、ぺヨトール(メキシコのサボテン)から抽出した幻覚剤で、これを服用して描いたものだという。非常にミニマル(細密)で、パラノイアック(偏執狂的)に描き込まれている。そして、薬物を服用せずに同じような絵を描いた『レアグレガション(ポスト・メスカリン素描)』も、『メスカリン素描』と同じような雰囲気を持っている。

 絵とともに、彼の書いた散文も翻訳されて、会場内のところどころに掲示されている。これも印象に残りました。例えば、

特別な意図を持たずに描いてごらん、
機械的に描きなぐってごらん、
紙の上にはほとんどいつも、
いくつかの顔が現れる。

(1963年、「絵画現象について考えながら」、『パサージュ』増補新版)

 とか、

ある人は世界を分かりやすさへと追い込んでいる。それは世界を部分的に拒否することだ。
(中略)
重く、厚くて、実際、人を当惑させる厄介なのが世界なのである。

(1972「噴出するもの=湧出するもの」)

 とか。

 展覧会は8月12日で終了してしまいましたが、図録は下記の通り一般書籍として販売されています。興味がある方は見てみてください。

東京国立近代美術館 >> 展覧会情報アンリ・ミショー展 ひとのかたち

アンリ・ミショーひとのかたち
アンリ・ミショー 東京国立近代美術館
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【内容情報】(「BOOK」データベースより)

孤高の詩人にして、異能の画家。20世紀フランスが生んだ偉大なる幻視者アンリ・ミショー。奔流となって流れ出すエネルギー、無垢なるイマージュ、そのなかからたちあらわれる怪物、亡霊、そして「ひとのかたち」。全59点の絵画・デッサンと、詩人本人の言葉によって織り上げられた、恐るべき詩画集。瀧口修造「アンリ・ミショー、詩人への私の近づき」特別収録。

【目次】(「BOOK」データベースより)

絵画とテクスト/アンリ・ミショー、詩人への私の近づき/アンリ・ミショー ひとのかたち/Henri Michaux/Emerging Figures/アンリ・ミショーの生涯

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■「所蔵作品展 近代日本の美術」@東京国立近代美術館

 東京国立近代美術館では、定期的に作品を入れ替えての所蔵作品展が行なわれていて、企画展と一緒に見るのが結構楽しみです。
 以下、興味深かった展示を書いておきます。

・特集「劉生と麗子−岸田劉生関係資料より」
 岸田劉生と、その娘であり絵画のモデルにもなった麗子についての展示。「麗子像」というと、美術の教科書に載っている絵は結構怖かった記憶があるが、実は色々な雰囲気の麗子像がある。わりと可愛らしい、普通の子どものような描き方がされている絵もある。それから、戯画(漫画)風のスケッチもあったりする。

・原田直次郎『騎龍観音』
 タイトルどおり、観音様が龍(東洋の竜)の上に乗っている絵なのですが、迫力がある。金色の額縁や、大きさ(たぶん高さは2mくらいある)も含めて、記憶に残る。

・仲田定之助『女の首』
 白金の彫刻。しかし、全然写実的でなく、ピカソの「泣く女」を立体化したようなそんなイメージの彫刻。

・岡本太郎「反世界」
 なにを描いてあるのか分からないが、すごいパワーを感じる。見た瞬間色々な感情(それはたぶん、畏怖とか恐怖とか敬意とか)で鳥肌が立った。

・オノサト トシノブ「作品」
 赤を基調とした四角がいっぱい描かれているのだが、その四角の色や模様の違いで、真ん中に円が浮かび上がる。
 これは印象的で、ミュージアムショップで絵はがきも買いました。

 あと、美術館の4階に休憩スペースがあって、ここから皇居のお堀を眺めることができる。天気がよかったので、ここで休憩するのも気持ち良い。


■『「昭和」写真の1945-1989 第2部「ヒーロー・ヒロインの時代」』@東京都写真美術館

 下記のテーマごとに、ポートレイト写真が展示されている。

[パート1] スター − 大衆のヒーロー・ヒロイン
 俳優・歌手を中心に。原節子(*1)は、今見ても(今の基準からしても)美人だとか、若い頃の芳村真理(*2)や前田美波里(*3)の写真には、さすがに時代を感じるが、それだけに当時はモダンだったのだろうとか、色々なことを思う。
 それから、帽子とメガネをしていない黒沢明監督(*4)の写真は、見慣れない姿のため印象的。
*1 1938年頃、渋谷龍吉 撮影・1950年頃、早田雄二撮影
*2 1955年、松島進 撮影
*3 1970年頃、秋山庄太郎 撮影
*4 1960年頃、早田雄二撮影

[パート2] タレント − メディアがつくり出したヒーロー・ヒロイン
 ここでは、純粋なポートレートというよりも、広告の写真やヌード写真なども含めた芸術的写真が多かった。
 中村正也「『城』より」(1969年)という、一人の女性がそ空を仰いで手を広げ、もう一人の女性がその前にかがみこんでレンズを見つめるヌード写真などは、開放感があって清々しい。

[パート3] 有名人 − グラフを飾ったヒーロー・ヒロイン
 作家・芸術家・政治家など、いわゆる芸能人以外の著名人の写真。
 棟方志功の顔のアップ(*5)とか、「三島由紀夫、自動車教習所脱輪」(*6)というタイトルどおりの写真など、印象強い。
 また、ここでも黒澤明監督の写真が印象的で、特にゲームセンターで射的ゲームに興じる様子(*7)が、意外なユーモアを感じさせる。
*5 1968-1969年、石元泰博 撮影
*6 1962年、野上透 撮影
*7 1975年、齋藤康一 撮影

 それほど大きな会場ではありませんが、密度は濃いです。

東京都写真美術館 昭和 写真の1945-1989 第2部「ヒーロー・ヒロインの時代」昭和30年〜40年代 Part_1

 今回の展示は、下記四部に分けて行われます。

【第1部】
昭和-写真の1945-1989- 第1部「オキュパイド ジャパン(占領下の日本)」昭和20年代
会期:5月12日(土)-6月24日(日)
【第3部】
昭和-写真の1945-1989- 第3部「高度成長期」昭和30〜40年代 Part.2
会期:8月25日(土)-10月14日(日)
【第4部】
昭和-写真の1945-1989- 「オイルショックからバブルへ」昭和50年代以降
会期:10月20日(土)-12月9日(日)

 また、下の本が公式ガイドブックとなっており、展示される写真も多数掲載されています。

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【内容情報】(「BOOK」データベースより)

貧しかったけれど、希望と活力にあふれていた昭和30年代を中心に、敗戦から高度成長、そしてバブルまで―めまぐるしく変化する価値観の中で、写真家たちはファインダーに何を見、印画紙に何を焼き付けようとしたのか?激動の時代を生きた写真家たちの作品で綴る、写真昭和史。

【目次】(「BOOK」データベースより)

戦後写真小史―「昭和」をとらえた写真家たち/第1部 オキュパイド・ジャパン(占領下の日本)―昭和20年代/第2部 ヒーロー・ヒロインの時代―昭和30・40年代パート1/第3部 高度成長期―昭和30年・40年代パート2/第4部 オイルショックからバブルへ―昭和50年代以降

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