倉橋ヨエコさんの「下北沢440」での4daysライブ「ヨエコの部屋2005総集編」のレポートをお届けします。今回は3日目、おおはた雄一さんとのツーマン「ヨエコと雄一」です。
まずは共演のおおはた雄一さんについて。アコースティック・ギターの弾き語り。声もギターも、優しい・柔らかい感じが聴いていて気持ちよかった。フォーク・ブルース・カントリーなど、色々な音楽がルーツになっているのかなと感じた。最後に披露されたボブ・ディランの「風に吹かれて」(Bob
Dylan”Blowin' In The Wind”)のカバーはかっこよかったなあ。
途中で、アコースティックギターとは別のギターを膝の上に載せ、弦の上で指を滑らせるように演奏したのも印象的だった。この時はハワイアンのような音色だった。
後で調べたら、どうやらあのギターは「ワイゼンボーン」型のスチールギターと呼ばれているらしい。スチールギターは、ハワイアンで使われる楽器のようですね。
さて、続きましてヨエコさんの話を。ヨエコさんは、紫のロングスカートに白とピンクのキャミソール、その上にゴールドの羽織という衣装で登場。髪型は、前髪をふわっとアップにして(「ボンパドール」と呼ばれる髪型のようです)、白のコサージュ。
この日はソロで生ピアノの弾き語りでした。セットリストは次のとおり。
0.「お正月」を一小節だけ披露
1.泣き止め剤
2.ラジオ
= MC =
3.春の歌
4.聴こえたから
= MC =
5.想い巡り
6.感謝的生活
7.放課後時代
= MC =
8.恋愛テム
9.夜な夜な夜な
= MC =
10.薬指のためのエチュード
= MC =
11.ここにいる
12.はないちもんめ
= MC =
13.楯
14.(アンコール)梅雨色小唄
セットリストをご覧いただけるとお分かりの通り、ニューアルバムからの曲からなつかしの曲まで、バラエティに富んだ選曲でした。
最初の「お正月」には意表をつかれた。ヨエコさんも観客の意外そうな反応を楽しむような笑顔で歌っていました。ヨエコさんによる他の童謡や合唱曲のカバーも、聴いてみたい気分になった。
あいさつの後「1.泣き止め剤」を披露。イントロからピアノがすごい。そして、声の迫力もすごい。この魅力を引き出す440の音響設備は、やっぱりいいと思う。大きすぎず小さすぎず、ヨエコさんの歌とピアノが会場内に響いてくる。その次の「2.ラジオ」は、弾き語りのシンプルな演奏だと、より一層歌詞の言葉が響いてくる。
この日はピアノがステージやや左に置かれ、ヨエコさんは客席に対し横向きで、ピアノと対峙するように演奏をする。俺はちょうど右端の一番前で見ていたので、ピアノに向かうヨエコさんを斜めから見るような形になった。
2曲を終えたMCで、改めて客席を向いたヨエコさん。いつもは正面を向いて歌っているだけに、急にお客さんの顔が見えた印象が合ったようで、一瞬「おっ」と固まる。それを見て客席に笑顔が広がる。
MCでは今回のイベントについての話。色々な人との共演が、お祭りのようで楽しい、とのこと。たしかに、見ている方も楽しいけれど、歌うヨエコさんも楽しいのだろうなあ。
12月16日発売のアルバム『ただいま』の案内をして、本日も何曲か歌うことを発表。
次が新曲の「3.春の歌」。バンドバージョンよりもややゆっくりしたテンポで披露される。ヨエコさんの歌も表情も、嬉しそう。聴いている方も、嬉しくなってきて、そして感動して涙が出そうになる。後半のピアノソロや、最後のピアノも良かった。
続いての「4.聴こえたから」は、やや懐かしい曲。この歌も、明るくて、楽しい。そして、ラストのピアノの演奏がやはりすごい。今日は歌とともにピアノも堪能できそうだなあと思う。
次のMCで、これまでの2日間の演奏について振り返り。そして本日は弾き語りで、普段出来ないような曲、3〜4年ぶりの曲を披露するという紹介もあった。
その紹介のとおり「5.想い巡り」、「6.感謝的生活」、「7.放課後時代」を続けて披露。「想い巡り」は、かわいらしいなあ。テンションを高く保ったスキャットや高音の歌声が印象に残る。「感謝的生活」も、イントロのピアノと高音の伸びのよい歌声が印象的。
「放課後時代」は、比較的ゆっくりしたテンポで、優しい・包み込むような歌声。以前の曲に込められた思いが、今のヨエコさんのピアノと歌で、より強く表現されているように感じる。
次のMCでは、後の立ち見のお客さんを気遣い、最初「なるべく早めに終わらせて」と言いかけ、「早めにはいけないですね。一生懸命、心を込めて歌います」との言葉。
それから、ピアノと歌についての話。これが、ヨエコさんがすごく真摯に音楽と向き合っていることを感じた。
ピアノが昔からずっと好きだったヨエコさん。しかし、習っていたときには下手だ下手だと言われていたそうだ。そして、ピアノを弾いてはいけないのではないかと悩みながら、でもピアノが好きなのでやめたくないとずっと思っていた。
しかし5年くらい前、ピアノを弾きながら歌うことを始めた。ピアノだけでは、うまくなければダメで、下手では聴いてもらえないかもしれない。でも歌をつけると、歌詞を伝えたいというエネルギーで、うまい・下手は関係なくなる。それが、ヨエコさんにとっての表現の突破口だった。
CDを出して歌える、そして聴いてくれる人がいることが、幸せでありがたい。その感謝の気持ちを歌に込めてお返ししたい。弾き語りのシンプルなピアノと歌には、ただそれだけの思いを込めています、という。
今思い出しながら書いていても、涙が出そうになる。みんながヨエコさんに惹きつけられるのって、やっぱりこういう思いを持って真剣に歌っているからなんだと思う。偶然歌を聴いたのがきっかけでヨエコさんのファンになった人は多い(俺もその一人です)。歌の力があるんだよなあ。そして、ヨエコさんがどんどん魅力を増して行っているのも、この気持ちがあるからなんだろうなあ。
そして、「いきなり話が飛んですみません」と前置きをしてから、グッズの紹介。タワーレコードとコラボレーションしたTシャツ、2月10日の渋谷O-westでのワンマンライブのチケットなどを案内。
それから、再び久々の曲を、ということで、アルバム『婦人用』に収録されている「8.恋愛テム」、「9.夜な夜な夜な」を。「恋愛テム」は、ピアノのみでCDバージョンと同じくらい複雑な伴奏を披露し、歌も緩急・強弱のメリハリがあって、聴く方もノリノリになってくる。「夜な夜な夜な」は、歌詞がネガティブなのだが、それを激しいピアノとともに歌い上げて、聴いていると徐々に気持ちが高ぶってくる。すごく不思議な魅力がある。
ここで一旦MC。ピアノの練習も好きだし、歌うのも好きなヨエコさんだが、ピアノだけの曲はこれまでライブで披露したことがない。ただ、一曲だけコンピレーションのなかで演奏した曲がある、との話。
分かる人はここで分かったのだが、普段ピアノを弾くときにも少し弱い薬指を鍛えるための曲を、今日は初めて披露します、とのことで、次の曲を披露。
「10.薬指のためのエチュード」はピアノのインスト。直後のMCで、歌ものを含めてもここまで長い曲はない(CD収録版は6分くらいあります)という曲を、見事に演奏しきる。ゆっくりしたイントロから徐々にテンポを上げ、最後は指の動きにも目を奪われる。
MCを挟んで「11.ここにいる」、「12.はないちもんめ」の2曲。ライブではこの2曲が続けて披露されることが多い。曲調や歌詞の雰囲気も似たものがあるので、これは今後も定番になりそうですね。「はないちもんめ」の最初の、「はないちもんめ」のリフレインから裏声での「はないちもんめ!」で始まる導入部分は、CD版とは異なるライブ独特のアレンジで、何度聴いても気持ちが盛り上がる。
この2曲は、いい意味で客席は気にせず、ピアノと真剣勝負しているような、集中していた演奏だった。見ていて、聴いていて、とにかく圧倒された。
最後のMCでは、1月7日の新宿タワーレコードでのインストアライブの告知、おおはた雄一さんへのあらためてのお礼、アンケートのお願いなどのお話がありました。
そしてラストは「13.楯」。これにはひたすら聴き入るだけでした。
アンコールの手拍子に応えて登場してくれたヨエコさん。MCで紹介していたTシャツに着替えて披露。「ころも(衣)チェンジをして来ました」に会場から笑いが起こる。
そして本当の最後に「14.梅雨色小唄」。改めて、切なくていい歌だなあと思った。
本日は、懐かしい曲を今のヨエコさんのピアノと歌で聴けたという点で、2005年のひとつの締めくくりとなるライブだったと思う。歌に込められた思い(うれしさとか楽しさとか切なさとか)が改めて強く感じられました。
それから、ピアノのインストの10を含め、随所でピアノソロが堪能できたのもうれしかった。
【 参考 】
[ 倉橋ヨエコ公式ページ http://www.kurahashiyoeko.com/
]
[ 倉橋ヨエコ CD ( リンク先はAmazon.co.jp ) ]
「礼」(2000年発表,ミニアルバム)
「思ふ壷」(2001年発表,ミニアルバム)
「婦人用」(2002年発表,アルバム)
「人間辞めても」(2002年発表,マキシシングル)
「モダンガール」(2003年発表,アルバム)
「東京ピアノ」(2004年発表,アルバム)
「楯」(2005年,VICB-35002,シングル)
・『ただいま』(2005年,VICB-60010,アルバム)
木の葉燃朗