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「明和電機ナンセンス=マシーンズ展」レポート

2004.12.10東京オペラシティ内、NTTインターコミュニケーション・センターにて(2004.12.11掲載)

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 12月10日(金)、東京オペラシティ内、NTTインターコミュニケーション・センターで開催中の「明和電機ナンセンス=マシーンズ展」に行ってきました。

●明和電機とは?

 展示を紹介する前に、明和電機について少し紹介を。
 明和電機は、1993年結成。土佐正道氏・信道氏の兄弟による「総合芸術ユニット」。ユニット名は、かつてふたりの父親が経営していた社名を使用。また正道氏が代表取締役社長、信道氏が代表取締役副社長を名乗り、活動時は青い作業服を身にまとうなど、「日本の高度経済成長を支えた中小企業のスタイル」で活動を続ける。
 2001年、正道氏の定年退職に伴い、信道が社長に就任し、以降はソロで活動を行っている。
 詳しくは公式サイト(http://www.maywadenki.com/)をご覧ください。写真も多く、より分かりやすいかと思います。

 それでは、展示を紹介しましょう。展示されていたのは下記の作品群。

●ツクバ(TSUKUBA)シリーズ

 ツクバシリーズとは、「100ボルトで動く電磁石やモーターを使い、実際に物質を叩くことで音を発生」させる楽器。このシリーズには三つの要素があって、

1.100ボルト電流を使う。
2.発音するのにスピーカーを使わない(アコースティックである)。
3.演奏方法がバカバカしい。

 となっている。

 明和電機といえば、このツクバシリーズを連想する人も多いと思う。指先のスイッチを操作すると、靴についたバチ(ノッカーという)が床を叩き、自動でタップダンスが踊れる「タラッター」や、足踏みオルガンがスイッチになってギターを鳴らす「ギターラ」などが展示されている。
 また、一部の楽器は定期的に自動演奏され、これが面白かった。スピーカーを使わないで音を出すので、目の前で聞くと迫力がある。
 それから、中には自分で操作できる楽器もあって、これもまた楽しかった。自分がスイッチを押して、音が出る、ということがダイレクトに実感できる。楽器を演奏する楽しさとともに、機械をがちゃがちゃと触る楽しさも味わえる。
 それぞれの楽器の持つ、「機械」という感じの見た目が、かっこよかった。

●魚器(NAKI)シリーズ

 魚器シリーズは「『自分とは何か?』この問題をいろいろな角度から分析し、発見したことをひとつひとつ『魚』というモチーフを使って道具にしていく」過程で出来た26個のマシーン。

 魚の骨の形の電気コード「魚コード(ナコード)」や、指パッチンをすると背中に背負った木魚が鳴る「パチモク」など、なんとも風変わりな機械が並ぶ。
 いずれも、いかにも「機械」という感じで、電気の流れを感じる作品、刃物がむき出しの作品など、想像していたよりも危険で無骨な感じがする。生と死を感じさせられた。
 しかし、個人的にはこういう機械丸出しというのは好きだ。一部の魚器は設計図も展示されていて、これが緻密に書かれていることも驚き。一見バカバカしいような機械も、しっかりした設計に基づいていることが分かる。

●エーデルワイス(EDELWEISS)シリーズ

 エーデルワイスシリーズは、「土佐信道自身の『女性とは、そして生物的なメスとは何か?』という疑問がテーマ」。「女性の持つ『子宮、遺伝子、表層、ファッション、エロス、母性』などの特徴を、架空の結晶の花『EDELWEISS』に象徴させ、その花を探すためのアイテムを自ら作り出す」という考えのもと制作された楽器・装置が展示される。

 テーマそのものが、しっかりした物語として作られている。物語は本の形で展示されていて、読むことが出来る。物語はSF小説のような、神話のような、おとぎ話のような不思議な雰囲気を持っている。
  その物語内に登場するものたちとして、展示がされている。化粧品の入った試験管を発射するマシンガン「末京銃」や、「ガソリンを燃やし、純粋に排気ガスの香りを楽しむアロマ装置」の「ムスタング」など、SFの小道具のような機械が展示される。
  またメモやデッサンも展示されていたが、それも面白かった。アイデアを絵や文章で表現して、信道氏の考えが徐々に形になっていく様子が良く分かった。

 それから、ここでも楽器の自動演奏が行われた。ツクバシリーズとはまた違って、人間や植物を感じる楽器、という印象を受けた。人間の歌声のような音を出す「セーモンズ」、花の形の木琴「マリンカ」、自動で動くフォークギター「メカフォーク」。
 なんだか、人類が滅びた星で催される音楽会を見ていたようだった。

 その他にも、色々な展示がありましたので紹介します。

●その他の展示

・明和電機が生んだキャラクター
 
ここでは、「ノックマン」などのゼンマイ仕掛けの人形や、明和電機社長・前社長を模した人形などが展示されていた。そのキャラクター作りのうまさももちろん感じたが、なによりそのコーナーだけ入口で靴を脱ぐ、というのが新鮮な雰囲気だった。

・フランスで行ったライブのDVD「メカトロニカ」の上映
 
これを見ていて、明和電機はCDよりもDVD、DVDよりも生のライブだと思った。
  例えば、アンコールでは、アレンジされた「夢見るシャンソン人形」にあわせて、ドリフターズの各種振り付けを披露。フランス人には分かんないだろうなあと思いながら、俺は爆笑してしまった。

 それから、明和電機は実はテクノポップ、もっと言えばYMOの直系の後継者なんじゃないかと思った。
  作業服も人民服に通じるし、楽器からコードがたくさん伸びている様子も、初期のシンセサイザーを彷彿とさせる。楽器自体は手作りだけれど、自動演奏というのもテクノっぽいなあ。

・「魚コード」ができるまでのビデオ上映
 
入口のそばで、全部で5分程度の映像が流れている。この中の、魚コードの製作過程が、古き良きものづくりの様子のパロディで、面白かった。ベルトコンベアで材料が流れる中、それぞれの担当が部品を組み立て、梱包する様子が、なんとも懐かしい感じ。社会科見学しているみたいな気分になった。

・「明和電機ショップ」と、カフェの「CAFE100V」
 
いわゆる展示に伴うミュージアムショップだが、展示にあった雰囲気になっていて、ここも見る価値がある。色々欲しくなってしまうのは嬉しくも悩ましいが。

●最後に

 気になる部分が非常に多くて、じっくり見ていたら、4時間くらいどっぷりと過ごしてしまいました。
  最後に、これまで紹介した以外で興味を持った点・思った点を。

・展示会場内のスタッフが、みんな明和電機の制服を着ていた。女性も同じデザインのワンピースやなっぱ服を着ていて、これがなかなかかわいらしかった。
 なお制服はミュージアムショップで販売されており、また会場内でレンタルして記念撮影をすることも出来ます。

・自分で楽器を操作する場所もあるので、どんどん体感しましょう。恥ずかしがってはいけません。体験することそのものがアートなのです(根拠なく言っていますが)。

・会場の更に上に、小さな図書室がある(入場は無料。ただし展示の入場料は必要)。デザイン関係の雑誌が開架書庫にあり、単行本も閉架書庫から閲覧できる。明和電機関連の単行本は、別途開架書庫で閲覧できて、ここでゆっくり資料を読むことが出来た。

・これには全然根拠はないけれど、来年は「理科系・技術屋」が流行のキーワードになるんじゃないかと思った。そう思うくらい印象に残る展覧会であった。

 なお、図録も出版されています。「行ってみたいけれど、行けそうにない」という方は、こちらを読まれるのもよろしいと思います。

明和電機 ナンセンス=マシーンズ 明和電機『明和電機ナンセンス=マシーンズ』(2004年,NTT出版)Amazon.co.jp楽天ブックスオンライン書店bk1

 「明和電機ナンセンス=マシーンズ展」は、初台の東京オペラシティ内、NTTインターコミュニケーション・センターで、2004年12月26日まで開催しています。興味のある方は是非どうぞ。損はしないと思います。

 


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