「イラストからのコミュニケーション 真鍋博展」レポート
2004.9.3 東京駅・東京ステーションギャラリーにて(2004.9.26掲載)

レポート目次へ戻る

 9月3日(金)、東京駅の東京ステーションギャラリーで開催された「イラストからのコミュニケー
ション 真鍋博展」を見てきました。

 場所は、東京駅の丸の内出口を出てすぐ。赤煉瓦駅舎内。ギャラリーそのものも古い建物だ
と思う。いい雰囲気を持っていて、この建物自体も見る価値があると思った。

 さて、展示の内容ですが、次の三つのテーマで真鍋氏の作品が展示されていました。

I)懐かしくも新鮮な未来画
II)本との出会いを導く表紙とイメージを形作る挿絵
III)現実を夢の世界に描き、夢を現実化する

 I)は、SF小説の挿絵を中心に、原画・本を展示している。特に、星新一氏の小説の挿絵や本
の表紙で、真鍋氏のイラストを見た人も多いはず。かつて星氏が「真鍋博さんのイラストに文章
をつけている星です」と冗談を言ったというくらい、星氏の文章と真鍋氏のイラストは強く結び付
けられている印象がある。
 その他にも、雑誌『SFマガジン』(早川書房)の挿絵、筒井康隆氏の本の表紙・挿絵など、多く
の作品が展示されていた。

 原画を見ると、本になったものとはまた違った印象があって興味深かった。また細かな修正
の跡がたくさん見られるのも、印刷されたものでは見えない、原画ならではの興味深い点だっ
た。

 II)は、ミステリー小説を中心とした本の原画・本の展示。真鍋氏のミステリー小説のイラストと
いえば、ハヤカワ文庫のアガサ・クリスティー作品の表紙も、数年前まではすべて真鍋氏によ
るものだった。この文庫本も、全点展示されていた。
 それから、『ミステリマガジン』(早川書房)の表紙でのトリックアートは、一度見た後で思わず
見直してしまったくらい面白かった。「フォト・コラージュ」という、あるものの写真をもとにまったく
別のものを描く手法が使われている。例えばハンガーの写真から弓矢とか、拳銃の写真から
汽車とかを描いている。これは興味深かった。

 あとは、1956年から1960年まで雑誌『ユリイカ』の表紙・カットを担当していたというのは、初
めて知った。

 III)では、イベントのポスターや、切手・テレホンカード、そして真鍋氏自身の著作が紹介され
ていた。大阪万博のポスターや、未来の東京のイラストなどは、氏の絵の特徴と雰囲気があっ
ていた。

 また、二本の短編アニメーションも上映されていた。モノクロの「時間」とカラーの「潜水艦カシ
オペア」。どちらも実験アニメーションのジャンルに分けられるのではないかと思う。「時間」は、
せりふがなく、時計の動きが時間に関係ある色々な動きに変わっていくという内容。「カチ、カ
チ」という時計の音が印象に残った。
 「潜水艦カシオペア」は、戦争に行くのを嫌い海底深くにもぐった潜水艦の話。

 それから、真鍋氏の関わった本・著作の一部を、実際に手にとって見られるコーナーもあっ
た。実際に本を開くと、ガラスケースや額縁の中で展示されているのを見るのとはまた違った
感慨があった。
 また真鍋氏が描いた、家族みんなで乗ることができる「家族三輪車」も、実際に作成され展示
されていた。これには実際に乗車して写真を撮ることもできた。さすがに俺は乗らなかったけれ
ど。

 その他、展示の中で興味深かった点をいくつか。

 俺は真鍋氏の作品というと、幾何学的な印象があったが、決してそれだけではなかった。特
に、日本全国の街の鳥瞰図を描いた『真鍋博の鳥の眼』(1968年,毎日新聞社)などは、非常
に実写的で、細かい。地図よりも当時の街の様子が分かるんじゃないかと思ったくらい。

 また個々の作品も、ある作品はポップな感じで、別の作品はシュールな感じで、色々な雰囲
気の絵を描く人だったんだなあと、あらためて思った。20代の頃、読売アンデパンダン展に出
展していたのを年表で見て、びっくりした。読売アンデパンダン展といえば、「無審査、無賞、自
由出品」がテーマで、赤瀬川原平氏をはじめ、様々な人々が参加し前衛的な作品を発表した
展覧会。そこに真鍋氏も出展していたというのは、意外だなあ。
 しかし、そうした異なる雰囲気を持っていながらも、一目見ると真鍋氏の絵だと分かってしまう
のが、氏のすごいところ。

 それから、氏の几帳面な性格も、随所に伺えた。もちろん、作品を納得いくまで修正している
様子もそうだし、真鍋氏はイラストレーターを始めた頃から自分の作品をしっかりと保管してい
る方だったようで、初期の頃からの原画、本が数多く展示されていた。
 また、展示されていた氏の日記も、非常に細かな字で、一時間刻みに出来事が記録されて
いた。どのくらいの期間書いていたのかは分からないのだが、あの詳細さには圧倒された。

 ということで、非常にいい時間を過ごすことができました。

レポート目次へ戻る


inserted by FC2 system