「追悼 小松崎茂展」レポート 2002年9月14日 昭和ロマン館 にて

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※ 文中敬称略

 今日は千葉県松戸市にある「昭和ロマン館」で開催中の「追悼 小松崎茂展」に行ってきた。
小松崎茂は、絵物語(小説+挿絵)、SFアート、プラモデルの箱絵などの幅広い分野で知られ
る画家である。平成13年12月7日に亡くなるまで、生涯現役として活躍した。名前を聞いたこと
はなくとも、その独特の画風をもった作品を見たことのある人は多いのではなかろうか。俺も、
氏の描くサンダーバードのプラモデルの箱絵や、"懐かしい未来"とでも表現したくなるSFアー
トに魅了されたひとりである。

 JR常磐線・武蔵野線、営団地下鉄千代田線が交差する新松戸駅に降り立ち、10分ほど歩く
と、住宅街に入りかけたあたりに昭和ロマン館が見えてくる。一階・三階はギャラリーになって
おり、地域住民にとっての文化スペースのような雰囲気。それとともに、二階の展示室には遠く
からも熱心な人が訪れる、といった印象を受ける。
 さっそく二階へ。ここからの紹介はかなり思い入れのある文章になるのでご了承を。

 そもそも俺は小松崎茂の仕事のほんの一部しか知らなかった。だから自分が生まれる前の
作品や、原画を生で見られるというだけでわくわくしてしまった。そして、その期待は裏切られる
ことなく、自分が知らない氏の奥深さに触れたのである。
 俺が小松崎茂に持っているイメージは、「イマジネーションの画家」だった。これは俺がはじめ
て触れた小松崎作品が、あの奇想天外ともいえる意外性を持ったSFアートだったからだろう。
しかし、それだけではなかった。小松崎茂は「リアリティの画家」でもあったのである。
 その証拠に、戦前に画家として修行していた頃の人物画、風景画は、非常に緻密である。特
に展示されていた戦前の東京の風景画などには、渋くていい絵が多い。また、軍艦・戦闘機な
どのイラスト、西部劇や時代劇の絵などを見ても、緻密さ・リアリズムを強く感じられる。
 加えて、戦前には架空兵器のイラストがあり、戦後には未来を描いた作品が増えてくる。そ
れらの作品を描く際に、ものすごいイマジネーションが発揮されたのだ。小松崎が特に戦後、
そうした未来を描くようになったきっかけともいえるエピソードが、実にいい話なのでここに紹介
しよう。
 戦時中、小松崎は戦意高揚のため、日本の軍艦や戦闘機が登場するポスターを数多く描い
た。そのため、戦後には戦犯のように言われたこともあったという。そのショックから、一度は
筆を折る決意をする。しかし、敗戦で誇りを失った日本の子どもたちを見て、「子どもたちに希
望を与えたい」という思いで科学の進歩した未来を描こうと決意した、というのだ。
 多少の脚色はあるのかもしれないが、感動的なエピソードではありませんか。
 そう思って小松崎茂の描く未来を見ると、それは日本の技術の進歩した未来でもある。例え
ば、空飛ぶ自動車がものすごいスピードで「勝鬨橋(東京の隅田川にかかる橋)」をくぐり抜け
る絵。日の丸がペイントされたロケットや宇宙船。"TOKYO""OSAKA"と書かれた宇宙ステ
ーション。こうした絵に、当時子どもだった人はわくわくしただろうし、勇気づけられたのではな
いだろうか。
 もちろん、作品が描かれた背景を考えなくても、氏の描く未来はかっこいい。例えば技術の進
歩=空を飛ぶ、という一貫性のあるイメージのもとに描かれた絵の数々は、見ていて純粋にか
っこよく感じる。
 それから、言葉で説明すると荒唐無稽に思えるアイデアも、絵で描かれると俄然説得力を持
ってくる。「高速道路の下に車や人が収容できるようになっていて、洪水の際にはボートになっ
て避難できる」というアイデアを絵にしたものが展示されていたのだが、なるほどと思わされて、
すごいと思ってしまった。

 かなり熱くなってしまったが、とにかく小松崎茂は素晴らしいのである。心のどこかに「男の
子」の気持ちを持っている人であれば、老若男女を問わず楽しめるのではないだろうか。2002
年12月23日まで開催されているので、興味がある方は是非どうぞ。ちょっと遠いという方は、
和ロマン館のホームページで雰囲気だけでも味わってみてください。
 こうした形で、大衆文化に分類される芸術がひとつところにまとまっているというのは貴重だ
し、今後も頑張って欲しいと思った。今回はじめて訪れたのだが、今後の特設展の情報も、定
期的にチェックしようと思う。

 ちなみに、帰りに珍しく販売コーナーでグッズも買ってしまった。絵ハガキとトレーディングカー
ドだが、俺がこうしたものを買うのも結構珍しいわけで。それだけ魅了されたというわけです。

 というわけで、以上で「追悼 小松崎茂展」レポートは終了。

【おまけ――興味を持った人は、こんな本も読んでみよう】
●根本圭助『異能の画家 小松崎茂』(2000年,光人社NF文庫)
 小松崎茂の弟子にして、昭和ロマン館の館長による小松崎の評伝。小松崎自身のことはも
ちろん、当時の挿絵画家や少年雑誌の状況などについても丁寧に書かれていて、面白い。
●田宮俊作『田宮模型の仕事』(2000年,文春文庫)
 田宮模型の現社長による社史。この中の、小松崎茂にプラモデルの箱絵をお願いするエピ
ソードは感動もの。その他の部分も、「プロジェクトX」並みの面白さですぞ。


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