木の葉燃朗のがらくた書斎 >>レポート >>「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(LA FOLLE JOURNEE au JAPON) 熱狂の日音楽祭 2014」極私的レポート


「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(LA FOLLE JOURNEE au JAPON) 熱狂の日音楽祭 2014」
極私的レポート

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 毎年通っている、ゴールデンウィークに行われるクラシックの音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン『熱狂の日』」、2014年に訪れた時の模様をまとめておきます。
 紹介しておくと、「ラ・フォル・ジュルネ」はゴールデンウィークに行われているクラシック音楽の音楽祭。複数の会場で同時にコンサートが行われ、1回の公演は平均45分、2,000〜3,000円くらいのチケット代で聴くことができる。気になる一公演だけを聴くのもいいし、いくつかのコンサートをハシゴすることもできる。東京の場合は、有楽町の東京国際フォーラムが会場で、ホール、会議室、地下の展示ホールでコンサートが行われる。地上広場には屋台村ができて、ここにもステージがあって演奏がされる。近くのよみうりホール、よみうり大手町ホールも会場になる。いわば、クラシック音楽版のフェスですよ。

過去のレポート:2007年2008年2009年2010年2011年2012年2013年

【公式サイト・レポート】

【日本各地のラ・フォル・ジュルネ公式サイト】


5月2日(金)

前夜祭のレセプションに参加

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 5月2日(金)は前夜祭。ここ数年は恒例となっています。今年は、前夜祭のレセプションに参加することができたので(クラウドファウンディングという、個人による協賛 *1 に参加した特典)、後半30分くらいでしたが初めて参加。ミーハーな視点から言えば、会場で歓談しているゲストにも錚々たる方が。

*1 10周年を迎える世界で最もエキサイティングなクラシック音楽祭 ラ・フォル・ジュルネ運営資金を応援してください!- クラウドファンディングのMotionGallery(モーションギャラリー) : https://motion-gallery.net/projects/lfj2014

 ムジカーシュ(ハンガリーの民族音楽のグループ。複数の本公演や無料公演に出演)による演奏も聴くことができたし、東京国際フォーラムの末松社長、KAJIMOTO(梶本音楽事務所)の梶本社長、ラ・フォル・ジュルネのアーティスティック・ディレクター(この音楽祭を創設し、現在もプログラム等の企画をつくっている)ルネ・マルタン氏によるあいさつも。あいさつを聞きながら、この音楽祭は色々な人の出会いがあって、そうした偶然と、また意志の力が10年の継続になったのだと感じる。末松社長による、故鳥海巌氏(ラ・フォル・ジュルネが始まった際の東京国際フォーラム社長)の思い出は、感慨深い。
 そう思うと、私は一人の聴衆だけれど、やはりこの音楽祭が続いてきたことに感動するし、これからも続けられるために、できることはしたい。私は、ラ・フォル・ジュルネに偶然行ったおかげで、30代になってからクラシック音楽の魅力を感じるようになった人間なので。たぶんこれは、自分の人生を変えた出来事のひとつなのだと思う。

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前夜祭『祝祭の日プレナイト「アメリカの夜」』

 レセプション後、チケットを買っていた前夜祭コンサートへ。
 その前に、レセプションと時間が重なって聴くことができなかったのだけれど、地上広場では「みんなで第九」という企画が行われていた。ベートーヴェンの交響曲第九番の第四楽章(歓喜の歌)を、みんなで楽器を持ち寄ったり歌ったりして演奏しようという企画。これは大変な盛り上がりだったらしい。後日動画が公開されることを期待します。

 そして、前夜祭コンサート。小曽根真さんの「ラプソディ・イン・ブルー」とかカスタネットの女王ルセロ・テナさんとか、盛り上がり必至だと思っていたけれど、やはり予想通り。

祝祭の日プレナイト「アメリカの夜」

5月2日(金) 20:00〜21:00 ※ 開場:19:00
ホールA(プーシキン)

出演
小曽根真(ピアノ)
ルセロ・テナ(カスタネット)
シンフォニア・ヴァルソヴィア
ジャン=ジャック・カントロフ(指揮)

曲目
ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー
バーンスタイン:『ウエストサイド物語』より「シンフォニック・ダンス」
ウィリアムズ:スター・ウォーズ
カンダー&エブ:ニューヨーク・ニューヨーク
バーバー:弦楽のためのアダージョop.11
ヨハン・シュトラウスU世:スペイン行進曲op.433

 前夜祭のテーマは、フランス・ナントでのラ・フォル・ジュルネのテーマだった「アメリカ音楽」。

 一曲目から、小曽根真さんがソリストを務める「ラプソディ・イン・ブルー」。この小曽根さんのピアノが、オーケストラとともに奏でる部分はしっかり調和して、一方ソロでは自由闊達という感じですごくてね。聴きながら、その即興の世界に心持って行かれてしまい、再びオーケストラとの部分で「はっ、そうだ『ラプソディー・イン・ブルー』を聴いているのだった」と思うことも。

 その後も、様々な方向性でアメリカ音楽らしさを感じる曲が演奏される。J.ウィリアムズ「スター・ウォーズ」(あの映画のテーマソング)も、こうして聴くと、「オーケストラが奏でるアメリカ音楽」の中にちゃんと位置づけられるんだなあと思う。

 比較的明るい曲が続いて、バーバー「弦楽のためのアダージョ」があって、最後にヨハン・シュトラウスU世「スペイン行進曲」。「アメリカの夜」というテーマの中で最後にちょっと方向性が違いますが、これはカスタネット奏者ルセロ・テナさんがソリストを担当するから。

 ご存じない、そして「ちょ、ちょっとなに言ってるか良く分からないのですが」という方のためにもう一度書きます。いいですか、「カスタネット奏者ルセロ・テナさんがソリスト」なのです。

 クラシック音楽には「協奏曲」と呼ばれるジャンルがあります。オーケストラとともに、特定の楽器がソロパートを演奏します。「ピアノ協奏曲」、「バイオリン協奏曲」などは、多くの作曲家が書いています。

 そして、「スペイン行進曲」は行進曲ですが、ソロ楽器にカスタネットが指定されています。「カスタネットってあのカスタネットでしょ」と思う方、そのとおりです。しかし、テナさんのカスタネットは知らない方のほとんどの想像を超えます。なにしろ、この方のためにカスタネットの演奏を含む曲をつくっている作曲家いるのです。そのくらいの方です。

LFJ2014出演アーティスト ルセロ・テナ ビゼー:カルメン (c)ARTE2013
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 YouTubeなどにも公式映像がありますので紹介します。失礼な表現になるかと思いますが、外見は大阪にいそうなおばちゃんのようです。だがこの人が奏でるカスタネットのリズムには、度肝を抜かれます。「カスタネットからこういう音が出るのか」と。

 今日も、まず「スペイン行進曲」で客席が熱狂します。当然のようにアンコールがあり、ファリャ「『はかない人生』より舞曲」。これもまた大きな盛り上がり。その後も拍手が続きましたが、さすがに客席の照明も点き、オーケストラも退場して、多くの人が会場を後にするために席を立ちます。

 そこになんとテナさんが登場。残っていたお客さんはスタンディングオベーションです。そこでテナさん、身振りでもう一曲演奏することを示す。そしてカスタネット独奏でもう一曲。

 私は去年テナさんの出演する公演をラ・フォル・ジュルネで聴いていたので、今年も彼女の出演する公演はなるべく聴く予定なのですが、前夜祭から満足でした。

 ちなみに、これは去年も書いて共感もらったので書くけれど、カスタネットのルセロ・テナさんの立ち居振舞いの存在感、指先からの音色、人を引き付けて止まない魅力を、ご存じない方に例えて紹介するなら、ポール牧さんだと思うのですよ、私は。

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5月3日(土)

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 朝9時前には東京国際フォーラムに到着。今年のラ・フォル・ジュルネが、本格的に始まります。朝の状況では、大きいホールの公演はまだチケットがある模様。

今年も朝一番は好田タクトさん

 今年もラ・フォル・ジュルネの期間中、朝9時から東京国際フォーラムガラス棟地下では、好田タクトさんのパフォーマンスが行われます。好田タクトさんは、指揮者の物真似が持ちネタの芸人さん。朝一番に来たのは、この好田タクトさんの指揮者物真似パフォーマンスを見るため。

 今日も、サイモン・ラトル、チェリビダッケ、朝比奈隆など、古今東西の指揮者を。普段あまり披露しないというカルロス・クライバーも。結構マニアックなネタでも反応があるのが、クラシックの音楽祭の客席という感じ。
 あとは、「指揮者ラジオ体操」というのがありまして。ラジオ体操第一にあわせて、様々な指揮者の物真似をメドレー形式で披露する。カラヤン、小澤征爾、小林研一郎、下野竜也、佐渡裕などなど、比較的日本の指揮者の真似が多い。ラジオ体操の動きと指揮者の動きの両方のパロディになっているのが面白くて、さらに、物真似をしながらの話芸がまたいい。

 今年は、昼間トークを行うステージでのパフォーマンスということもあって、音響などもいいし、客席(座席)もあるし、朝早いコンサートを聴きに来る人はタクトさんのパフォーマンスも見ることをおすすめ。

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161 G409 10:30-11:20
久保田巧(ヴァイオリン)
 J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番 ホ長調 BWV1006
 J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 ニ短調 BWV1004

 今年最初の有料公演は、久保田巧さん独奏のバッハ。パルティータ第3番は明るさがあり、第2番は悲しさを感じさせる。だが、どちらも美しい。やっぱり、私はバッハがつくった曲は好きだと、あらためてつくづくと感じる。
 このコンサートの会場は、通常は会議室として使われる。ということでコンサート専用ではないのだが、客席150ですぐ近くで聴くことができる。そうしたこともあって、大きなホールで聴くのとはまた違った趣があるし、良い意味での緊張感もある。

132 ホールB5 12:45-13:30
びわ湖ホール声楽アンサンブル
本山秀毅(指揮)
稲垣聡(ピアノ)
 ヨハン・シュトラウス2世:トリッチ・トラッチ・ポルカ
 ドヴォルザーク:ジプシーの歌 op.55 より
 スメタナ:モルダウ・メドレー
 ブラームス:ジプシーの歌 op.103
 ヨハン・シュトラウス2世:美しき青きドナウ

 びわ湖ホール所属の声楽アンサンブル。公立のホール所属としては、日本では珍しいようです。今年のびわ湖のラ・フォル・ジュルネのテーマが「ウィーンとプラハ〜音楽の都へ〜」だったこともあって、両都市にゆかりの作曲家による声楽曲。
 「トリッチ・トラッチ・ポルカ」に日本語歌詞がついた一曲目から楽しい。「トリッチ・トラッチ」って、当時のゴシップ雑誌の名前なんだね。他にもドヴォルザーク「わが母の教えたまいし歌」や、スメタナ「モルダウ」、そして「美しく青きドナウ」(日本語歌詞)と、有名曲を歌う一方、ブラームス「ジプシーの歌」などは、こういう曲があったことは初めて知った。全11曲すべてが2拍子というのも珍しい。

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143 ホールC 14:30-15:15
シルヴィ・ヴェルメイユ(ソプラノ)
ファブリス・エヨーズ(バリトン)
マルチェロ・ジャンニーニ(オルガン)
ローザンヌ声楽アンサンブル
シンフォニア・ヴァルソヴィア
ミシェル・コルボ(指揮)
 フォーレ:レクイエム op.48

 続けて声楽を。 ミシェル・コルボさん指揮の合唱は、毎年できるだけ聴きたいと思っていて、聴いている。フォーレのレクイエムって、終わってもブラボーを叫ぶ感じではなく、拍手もためらわれるような雰囲気がある。曲の終わりも静かに締めくくられるしね。でも、いつまでもいつまでも拍手をしていたい。今日のミシェル・コルボ指揮、ローザンヌ声楽アンサンブルの演奏は特にそう思ったな。
 キリスト教の宗教曲の合唱を聴くといつも思うけれど、その言葉(この曲はフランス語)が分からなくても、キリスト教徒でなくても、音楽の美しさは感じるんだよねえ。フォーレのレクイエムは、ソプラノ独唱の「ピエ・イェズ(情けふかいイエスさま)」の部分を聴くと、だいたい泣きます、私は。
 アンコールに、グノー「『十字架上のキリストの最後の7つの言葉』より終曲」。

 私は、ラ・フォル・ジュルネではあまりコンサートとコンサートの間隔を詰めないようにしている。ホール間の移動なども考えると、最低でも30分は開ける。それでも、退屈することはない。東京国際フォーラムのいたるところが音楽祭一色になっていて、ただ歩いていても飽きない。
 たとえばホールB5にはJALによる休憩スペースも。ここでは飛行機のシートも体験できます。

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 また、今年はガラス棟地下に千代田区のブースも。まさかラ・フォル・ジュルネで古本が買えるとは(神保町古書店街も出店)。

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 時間に余裕があれば、5分歩けば有楽町、10分歩けば銀座、大手町なので、ちょっと買い物に行くこともできてしまう。東京国際フォーラムが会場というのは、非常に便利な環境。

144 ホールC 16:30-17:15
横浜シンフォニエッタ
鈴木優人(指揮)
モーツァルト:オペラ《ドン・ジョヴァンニ》 K.527 序曲
モーツァルト:交響曲第40番 ト短調 K.550

 横浜シンフォニエッタは、大学のオーケストラが母体。指揮者の山田和樹さんらが学生時代に結成したオーケストラ。鈴木優人さんはオルガン奏者、チェンバロ奏者としても活躍していますが、指揮者としても活躍している。
 実力と若さをあわせ持った指揮者とオーケストラによるモーツァルト。「交響曲40番」は、有名な第一楽章の冒頭から、美しいメロディーの多い曲だけれど、私は聴くといつも心がざわざわするような不安を感じる。不思議な曲なんだよなあ。

115 ホールA 18:05-19:00
ジュヌヴィエーヴ・ロランソー(ヴァイオリン)
タタルスタン国立交響楽団
アレクサンドル・スラドコフスキー(指揮)
 チャイコフスキー:イタリア奇想曲 op.45
 チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調op.35

 失礼ながら、タタルスタンって架空の国かと思っていた。だって、サッカーのW杯予選でもカザフスタンやタジキスタン、トルクメニスタンは聞いたことがあっても、タタルスタンは聞いたことがなかったもの(それが基準か俺)。

 しかし、そんな冗談を吹き飛ばすくらい凄かった。力強い音を出すオーケストラで、今回の二曲との相性は良かったと思う。指揮者のアレクサンドル・スラドコフスキーは、もともと軍人で、そこから音楽を学び直したらしい。
 同じくらいすごかったのがヴァイオリンのジュヌヴィエーヴ・ロランソー。「ヴァイオリン協奏曲」は第一楽章が終わったところでぱらぱらと拍手が出たのだが、それもうなづける。チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」は第一楽章だけでも十分名曲だと思うしね。
 でもやはり第三楽章まであってのこの曲。そして最後には、オーケストラにもソリストにも盛大な拍手が送られたのでした。

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 この後、地上広場でムジカーシュを聴く。ムジカーシュはハンガリーのロマ音楽の四人組。ホールでの公演もいいですが、こういう野外のステージでの演奏が似合うなあ。聴いている人たちも、手拍子したり歓声を上げたり踊ったり。日本語でのあいさつや楽器の紹介でも、盛り上がる。

146 ホールC 20:30-21:20
ヴァネッサ・ワーグナー(ピアノ)
MURCOF(電子音楽)
 ケージ:ある風景の中で
 アダムス:中国の門
 グラス:メタモルフォーシス U、W
 ペルト:アリヌショカの癒しのための変奏曲
 フェルドマン:ピアノ小品 1952
 グラス:デッド・シングス
 グラス:メタモルフォーシス W
 グラス:ウィチタ・ヴォルテックス・スートラ

 そしてホールCヴァネッサ・ワーグナー(ピアノ)&MURCOF(電子音楽)へ。10〜20代にテクノとかミニマルとか電子音楽も聴いていた(今でも好きよ)身としては、こういう公演がラ・フォル・ジュルネで聴けるのは嬉しい。曲目は、事前のプログラムから上記のとおり変更。

 いや、刺激的な公演。これは、スタンディングで踊りながら聴いてみたかった。ミニマルの要素もあれば、アンビエントの要素もある。エレクトロニカと20世紀アメリカ音楽が融合するとどのようになるのか、というのが、ちゃんと形になっている。

 客席は、このプログラムのためか、見た感じでは5割〜6割くらいの入り。ただこれでも相当なものだと思う。日本のラ・フォル・ジュルネで、ケージ、アダムス、グラスをピアノと電子音楽で演奏する公演で1,500人のホールが満員になったら、それこそ「事件」なわけで。
 ただ惜しいのは、もっとエレクトロニカとかミニマルとかが好きな人に向けてアピールしたら、今までにない客層の人たちが来たのかもしれないということ。そうして、これまであまり接点のなかったクラシック音楽と電子音楽がつながれば、それはお互いの音楽について幸福なことだろうと思う。
 もちろん、他の公演とは若干客層が違っていて、他の公演よりも若い人とか、クラシックよりも電子音楽が好きそうな雰囲気の人も多かった。一方で、いつものラ・フォル・ジュルネの(つまりクラシックが好きな)客層の方も。それでも、客席の熱気は変わらない。

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 今年会場を歩いていて思うのは、会場内は程良く賑わっている感じがする、ということ。地上広場や展示ホールなども、去年ほどの人の多さではないです。大手町よみうりホールに行く人がいて人の流れが分散されているのか、あるいは音楽祭に来た人で適正に賑わっているのか(何年か前は、地上広場は音楽祭とは関係なくビアガーデンのように利用していた人もいたもので)。

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 そして、アルゲリッチ&クレーメル他豪華出演の特別公演へ。

117 ホールA 22:15-23:10
「祝祭の夜」
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
酒井茜(ピアノ)
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
堀米ゆず子(ヴァイオリン)
川本嘉子(ヴィオラ)
ギードゥレ・ディルバナウスカイテ(チェロ)
吉田秀(コントラバス)
ジュリエット・ユレル(フルート)
ラファエル・セヴェール(クラリネット)
安江佐和子(パーカッション)
 ストラヴィンスキー:春の祭典
 サン=サーンス:動物の謝肉祭

 4月に入って、ラ・フォル・ジュルネの10周年を祝うために急遽開催が決定した公演。マルタ・アルゲリッチとギドン・クレーメルが出演するということで随分と話題になりました。ただ、二人だけではなく、上の出演者を見て分かるように、この公演のメンバーは非常に豪華。
 アルゲリッチ、酒井茜の両名による二台ピアノ版の「春の祭典」は、一瞬たりとも聴き逃せない緊張感にあふれていた。続いてアルゲリッチ、クレーメルを含むアンサンブルでの「動物の謝肉祭」は、ユーモラスで演奏家たちもなんとなく楽しそう。
 運良く前の方で聴けたので、ステージの様子も見えたのですが、そこには大変さも窺えた(アルゲリッチの椅子の高さ安定しないとか、ピアノの譜めくりの方が苦労するぐらいの演奏レベルの高さとか、主に演奏以外の部分で)。しかし、そうした色々なことがあるのがラ・フォル・ジュルネだし、それでも演奏は素晴らしく、それはやはり出演者の素晴らしさ。ステージも客席の熱気も特別な感じになった。
 私はアルゲリッチもクレーメルももちろん知っているけれど、実際に聴いた経験がなかったので、演奏の素晴らしさは感じても、かけがえのなさは実はまた実感できていない。これから時間が経つにつれて、自分の経験したことの意味が実感できるのだと思う。

 このコンサート、22:15-23:10という、最近のラ・フォル・ジュルネの中では遅い時間の公演でしたが、開演が若干遅れたりアンコールがあったりで、最終的には23:30くらいの終演。それでも、ほとんどの観客が帰らなかったというのが、この公演の伝説ぶりを物語っていると思う。


5月4日(日)

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 2日目。この日も朝一番に東京国際フォーラムへ。チケット売場で当日券の状況を見ていたら、たまたま空いている時間のチケットがまだ販売していたので、買ってしまう。これで今日は7公演聴きます。

今日も朝は好田タクトさん

 好田さんの物真似が良いのは、真似をする対象の指揮者や、クラシック音楽に対する愛情があふれていること。好田さん自信が好きなんだということがひしひし伝わる。カルロス・クライバーとか、朝比奈隆とか、時々本人が憑依しているのではないかと思うくらいなりきっている。

241 ホールC 10:00-10:45
ウラル・フィルハーモニー管弦楽団
ドミトリー・リス(指揮)
 チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 op.64 

 チャイコフスキーはウラル地方の生まれということで、いわば地元のオーケストラによる演奏。ウラル・フィル、力強い。
 なんというか、生命力があふれるような音楽。どの部分も素晴らしかったけれど、特に第二楽章、第四楽章が良かった。ラストは聴きながら涙が止まらない。

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 次の公演までの間、飯尾洋一さんが登場するクラシックソムリエのトークライブを聴く。伝説の公演の話。昨日のアルゲリッチ&クレーメルや、以前ポゴレリッチがショパンを弾いた時の話。ポゴレリッチを聴いて謎の熱を出した人の話とか。他には飯尾さんが取材したナントのラ・フォル・ジュルネについての話も。
 そういえば、このブースは、昨年まではクラシックのネットラジオ「ottava(オッターヴァ)」のブースがあった場所。今年はブースがない。理由は、ottavaが6月末で休止予定のため。私は文化的損失だと思う。私が30歳になってクラシック音楽を聴くようになったのは、ラ・フォル・ジュルネとottavaのおかげなので。ottavaのようなクラシック専門の国産ネットラジオがなくなってしまうことが文化的損失だと思う企業や資産家の個人の方がいらっしゃったら、是非再開への支援を!

212 ホールA 11:45-12:30
レミ・ジュニエ(ピアノ)
タタルスタン国立交響楽団
アレクサンドル・スラドコフスキー(指揮)
 ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 op.30

 昨日に引き続きタタルスタン国立交響楽団。今回はピアノのレミ・ジュニエとのラフマニノフ「ピアノ協奏曲第三番」。このレミ・ジュニエが、若いのだけれど技術がある。この難曲を、そうと感じさせないように(過剰な必死さを感じさせない)演奏をするのは、やはりすごいですよ。

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「ナディア・ブーランジェ・トリビュート」
ヴァネッサ・ワーグナー(ピアノ)
 グラス:メタモルフォーシス
 ガーシュウィン:3つの前奏曲
 コープランド:4つのピアノ・ブルース
 グラス:ウィチタ・ヴォルテックス・スートラ

 ここからピアノの公演を三連続で聴く。ヴァネッサ・ワーグナーは、昨日ムルコフ(電子音楽)との公演を聴いたけれど、今回はピアノのみ。
 機械のようにクールなグラスと、粋なガーシュウィン、コープランド。この雰囲気の違う作品を、ひとりのピアニストが弾き分ける。
 そして最後のグラス「ウィチタ・ヴォルテックス・スートラ」は、同じミニマルでも「メタモルフォーシス」とはちょっと趣が違っていて、希望を抱いて駆け抜けるような、そんな演奏。

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仲道郁代
 ブラームス:3つの間奏曲 op.117
 シューマン:交響的練習曲 op.13

 朝、チケット売場を見ていたら、なんとよみうりホールでの仲道さんの公演がまだ買える! ということで、ちょうど前後の公演の間に聴けそうだったので、チケット買って聴いてきました。
 仲道さんは45分だと思ってでプログラムを組んでいたらしく、55分の時間には若干短い。ということで曲解説を交えながらの演奏。アンコールにはシューマン「トロイメライ」と、エルガー「愛の挨拶」も演奏される公演に。演奏者自らの曲の解説が聞けると、曲が作られた背景とか、音楽の特徴とか、色々なことが分かった上で演奏が聴けるので勉強になる。そして、仲道さんの演奏家・研究家としての知性を感じる。一方、人柄としては滲み出る優しさ(知性と対比するなら、母性か)を感じる。
 最後の挨拶の後、退場する前に腕時計を指すようなジェスチャーをしてから指で丸をつくって、(ちょうど55分、OKだね)と表現したりとか、本当にチャーミングな方です。ああいう方が学生時代の音楽の先生だったら、僕は今頃違う道に進んでいたかもしれません(我ながらなにを言ってるんだ)。

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254 ホールD7 16:15-17:00
「ガーシュウィンへのオマージュ」
トーマス・エンコ(ジャズ・ピアノ)

 トーマス・エンコはフランスのジャズ・ピアニスト。今回はグループでの公演もありますが、この公演ではピアノソロ。全5曲。ガーシュインにインスパイアされた曲の他、タイトル未定(IMPROVISATION:即興)の新曲も。中にはショパンのメロディが登場したりも。
 メロディだけでなく、リズム、グルーヴも自らのピアノで奏でるので、いわゆるクラシック音楽のピアニストとはまた違う方向性のテクニックを感じる。
 曲目は下記のとおり。

1.トーマス・エンコ:FIRE DANCE
2.ガーシュウィン:IT AIN'T NECESARILY SO
3.トーマス・エンコ:IMPROVISATION 1
4.ガーシュウィン:I LOVES YOU PORGY
5.トーマス・エンコ:IMPROVISATION 2

215 ホールA 18:30-19:25
レティツィア・シェレール(ソプラノ)
キャサリン・ピロネル・バチェッタ(アルト)
クリストフ・アインホルン(テノール)
ピーター・ハーヴェイ(バリトン)
ローザンヌ声楽アンサンブル
シンフォニア・ヴァルソヴィア
ミシェル・コルボ(指揮)
 モーツァルト:レクイエム K.626

 ミシェル・コルボさんは、その存在だけでもう別格だと思う。もちろんオーケストラと合唱をまとめて素晴らしい音楽を作ることはそうなのだが、ステージに立つ姿を見るだけで感激する。
 モーツァルトのレクイエムは私には結構難しく感じる。というか、使われている言葉が分からなかったり、歌の背景にあるキリスト教について分かっていなかったりで、宗教曲は難しい印象がある。それでも、コルボさんの指揮する合唱曲は聴きたい。これは理屈ではなく。

展示ホールで三浦友理枝さんを聴く

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 有料公演の合間に、地下の展示ホールのステージで三浦友理枝さんのピアノを聴く。展示ホールは有料公演のチケット、または半券があると入場できる。
 三浦さんの公演は、私は明日聴くのだけれど、今日はその公演とはちょっと異なるプログラム。いわゆる小品を6曲。先日発売されたCDの内容にちなんで。
 シューベルトの「楽興の時」に始まり、シューマンあり、ショパンのノクターンあり、ブラームス、そしてチャイコフスキー「四季」から「11月・トロイカ」、最後はラフマニノフの「楽興の時」。三浦さん、可憐な外見ですが、決してそうしたビジュアル面をアピールするのではなく、ピアニストとしての研鑽を重ねていることを感じる演奏。

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216 ホールA 20:45-22:00 
“ルネ・マルタンのル・ク・ド・クール”
セルゲ・ツィンマーマン(ヴァイオリン)
マタン・ポラト(ピアノ)
ルセロ・テナ(カスタネット)
シンフォニア・ヴァルソヴィア
ジャン=ジャック・カントロフ(指揮)
 モーツァルト:セレナード第13番 ト長調 K.525 「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
 モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調K.216
 ハイドン:ピアノ協奏曲 ニ長調 Hob. XVIII-11
 ヨハン・シュトラウス 2世:スペイン行進曲 op.433
 ヨハン・シュトラウス 1世 :カチューシャ・ギャロップ op.97
 ファリャ:オペラ《はかない人生》より舞曲

 本日最後は、アーティスティック・ディレクター(ラ・フォル・ジュルネ)のルネ・マルタンさんがおすすめする演奏家が出演する公演。
 長調の曲をそろえた、華やかな雰囲気のプログラム。オーケストラも良かったし、セルゲ・ツィンマーマン(ヴァイオリン、ちなみにフランク・ペーター・ツィンマーマンの息子)、マタン・ポラト(ピアノ)の若きソリスト二人も良かった。
 そして、この日も圧倒的な存在感を示したのはカスタネットのルセロ・テナさん。客席のみならず、指揮者もオーケストラも、みんなを味方につけてしまう実力と雰囲気。5,000人入るAホールを、両手のカスタネットで熱狂させるというのは、やはりすごい。

 最後、オーケストラも退場した後におひとりで登場し、カスタネット独奏でアンコール。アナウンスやアンコール曲の掲示がなかったので推測だけれど、あの演奏は、ロッシーニの「ウィリアム・テル」序曲をカスタネットで演奏したものではなかろうか。

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 ということで2日目のラ・フォル・ジュルネも終了。あっという間だな、ラ・フォル・ジュルネ。そして、やっぱり楽しいな。もちろん人によって好き嫌いがあったり、決して聴きに行かないと公言している人がいることも知っている。でもそういう人たちのことを気にしていても仕方ない。おそらく、聴く方も、出演する方も、細かいことが気になり過ぎる人はラ・フォル・ジュルネには合わないかもしれない。私も色々気になる性格だけれど、ラ・フォル・ジュルネについてはいまそこにある物事を楽しむようにしています。私は私なりに楽しんでいます。

 あと、音楽祭とは関係ないこぼれ話。今年は朝から晩までコンサートを聴くので、近くのビジネスホテルに宿泊していました。JR線の神田駅と地下鉄丸ノ内線の淡路駅駅の間くらいだったので、この日は丸の内線でホテルに戻る。で、淡路町駅を出たら懐かしい風景に出会う。地下鉄新宿線の小川町駅も近くて、秋葉原で働いていた頃、休み前の日はこの辺りを歩いて神保町に寄り道したのです。


5月5日(月・祝)

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 最終日です。朝は若干雨が降り、早朝には大きめの地震もありましたが、予定通り開催。雨は昼くらいからは止んで、どうにか地上広場も予定通りの屋台村と野外コンサートを開催。

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今朝の好田タクトさんはバイオリンの早川きょーじゅとのパフォーマンス

 バイオリンとの掛け合いだと、昨日までとはまた違ったネタも。指揮者によるベートーヴェン「運命」の違いとか(パフォーマンス中に近くのモニターの映像で「運命」が流れるという奇跡的な出来事も)、早川きょーじゅのおしゃりバイオリンとか。
 しかし、9:30からの公演があり、泣く泣く途中でホールAに向かう。

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311 ホールA 9:30-10:15
“0歳からのコンサート”
ムジカーシュ
中村萌子(司会)
 ハンガリーの民族音楽や舞曲など

 意外なほど客席が空いてしまった。ムジカーシュ、こどもにはぴったりの演奏だと思うのですが、親御さんがご存じないので敬遠してしまったのかしら。0歳からのコンサートには向いている公演なのだけれど。
 演奏は非常に楽しかった。会場での手拍子あり、踊り出すこどもも。偉いのは、大人もこどももほとんど初めて聴く曲でも、みんなちゃんとリズムを取って手拍子をするところ。人間、リズム感って、持って生まれているのかもしれないです。
 ただ、もっと自由な感じでも良かったかなと思う。もちろん運営する側にとってはそうは行かないでしょうが、このくらいの人数なら、踊りたい子に前の方とか通路で踊ってもらっても良かったのかもと。というか、やはりムジカーシュは地上広場のようなオープンスペースでの演奏が似合うように思います。あとは、他の公演で聞くことができた、メンバー自身による日本語での(事前に準備したメモを読んでいるのですが)楽器や曲の紹介もあっても良かったかも。

 曲目は、インフォメーションより下記のとおり。

1.トランシルバニア地方の舞曲
2.羊飼いの歌
3.トランスダヌビア地方の舞曲
4.ジメシュの音楽
5.モルダヴィアの舞曲
アンコール カロタセグの舞曲

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312 ホールA 11:45-12:30
ボリス・ベレゾフスキー(ピアノ)
シンフォニア・ヴァルソヴィア
ジャン=ジャック・カントロフ(指揮)
 バーバー:弦楽のためのアダージョ op.11
 チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 op.23

 ベレゾフスキーさんはほぼ毎年来日していて、ソロでも、室内楽でも、オーケストラとの協奏曲でも、様々な形で演奏してくれている。今回はチャイコフスキーのピアノ協奏曲。
 印象としては、オーケストラの技術や表現力と、ベレゾフスキーの技術・表現力がそれぞれ発揮される。といっても調和していないのではなくて、両方の力がひとつの曲を作っている。

332 ホールB5 13:30-13:55
ヴォックス・クラマンティス
 ヤーン=エイク・トゥルヴェ(指揮)
 ケージ:18の春のすてきな未亡人
 ラング:墓地よ
 グレゴリオ聖歌:昇階曲
 ラング:イブニング・モーニング・デイ
 ケージ:花
 ラング:再び
 グレゴリオ聖歌:アレルヤ
 ラング:アイ・ウォント・トゥー・リブ
 ラング:愛は強いから

 ヴォックス・クラマンティスが、ケージとラングという、現代アメリカ作曲家の合唱曲の間に、グレゴリオ聖歌を歌う。
 最初から、メンバーがステージだけでなく会場内(客席の隣の通路など)に立ったので、「これはちょっと変わった演奏になりそう」と思う。そして、メンバーの1人が壁やピアノの外側をたたき、それとともに合唱が始まる。
 ケージにラングというと、もっと難解な曲を予想していたけれど、ハーモニーが美しい曲が続く。

 アンコールにはアルヴォ・ペルトの「フラトレス」を。

昼は久々に屋台村

 3日、4日と会場からちょっと歩いたビルや飲食店での昼食だったので、この日は屋台村で食べることにする。今年は、去年や一昨年の印象からすると、地上広場も地下の展示ホールも、東京国際フォーラムの人の数は程良い感じ。かと言ってホールがガラガラだったわけではなく、チケットの販売率は90%を超えたらしい。おそらく、会場によみうり大手町ホール(約500席)が追加になったことで人の流れが分散されたことが影響しているのではないか。地上広場については、ちゃんとラ・フォル・ジュルネに来た人の休憩の場になっているかなと思う。以前は、音楽祭は全然知らないけれど、座席を占拠してビアガーデン代わりに使っている団体も見ました。

 そんなことを考えながら、屋台村で色々買って食べる。
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 屋台村で買って食べる。
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 屋台村で買って(食べ過ぎだ)。
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364 G409 15:15-16:00
福川伸陽(ホルン)
三浦友理枝(ピアノ)
 ガーシュウィン(福川編):ピアノ協奏曲ヘ調より 第2楽章
 フランセ:ディベルティメント
 ラヴェル(福川&三浦編):亡き王女のためのパヴァーヌ
 バーンスタイン:エレジー
 ガーシュウィン(福川編):ラプソディ・イン・ブルー

 ホルンとピアノのデュオによる公演。
 最初にガーシュウィンのピアノ協奏曲があって、続いてのフランセ「ディベルメント」と明るい曲が続き、その後はラヴェルとバーンスタインの鎮魂の曲。
 そして福川氏がホルンとピアノのために編曲した「ラプソディ・イン・ブルー」。たしかにこの曲のエッセンスは管楽器(ホルン)とピアノで表現できそうだと想像はできる。しかし二つの楽器だけでここまで「ラプソディ・イン・ブルー」の世界をつくるのは、ふたりの編曲力(楽譜は三浦さんも校訂しているとのこと)であり演奏力だろう。

325 ホールB7 17:45-18:30
横浜シンフォニエッタ
鈴木優人(指揮)
 ベートーヴェン:序曲「レオノーレ」第3番 op.72b
 シューベルト:交響曲第7(8)番 ロ短調 D759 「未完成」

 今年二回目の、鈴木優人さん指揮・横浜シンフォニエッタ。シューベルトの未完成は、チェロの低音の思い感じが効いている一方で、繰り返し流れるメロディーは軽やかで、メリハリがはっきりしたシューベルト。ベートーベンの序曲「レオノーレ」第3番も力強い。
 日本の若いオーケストラも、研鑽を積んで素晴らしい演奏をしていることが分かる。今よりも更に注目されて良いと思う。

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315 ホールA 18:45-19:30
アレクサンドル・クニャーゼフ (チェロ)
ウラル・フィルハーモニー管弦楽団
ドミトリー・リス (指揮)
 ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調 op.104

 当日でチケット買って、ウラル・フィル、アレクサンドル・クニャーゼフのドヴォルザーク・チェロ協奏曲。クニャーゼフさんは堂々たる体躯といい、演奏技術といい、楽器は違えどボリス・ベレゾフスキーさんを連想する存在感。ただ、ベレゾフスキーは難しい曲をそうと感じさせないような弾き方をするすごさがあるけれど、クニャーゼフのチェロは熱気が伝わるようなすごさがある。
 実は、私が初めて聴いた2007年のラ・フォル・ジュルネで、まったく同じ指揮者・オーケストラ・ソリストで、同じ曲を聴いていたことを、当時の記録を読んで思い出した。同時に、大人になって初めて聴いたオーケストラの音楽だったのだと思い出して、色々感慨深い。

運命と呼ばないで

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 コンサートの合間に展示ホールを見ていたら、音楽レーベルNAXOS JAPANのブースで、(なぜか)マンガを買う。「ベートーヴェン4コマ劇場」、「運命と呼ばないで」、「ズンドコマーチ頂上決戦」。謎のキーワードの数々が。だが、翌日読んでみたらこれは名作だったのです。

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316 ホールA 20:45-21:30
萩原麻未(ピアノ)
ルセロ・テナ(カスタネット)
シンフォニア・ヴァルソヴィア
ジャン=ジャック・カントロフ(指揮)
 ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
 ラヴェル:ボレロ
 ビベス:《ドニャ・フランシスキータ》より ファンダンゴ
 ヒメネス:《ルイス・アロンソの結婚式》より 間奏曲(カスタネットとオーケストラのための)

 ホールA最終公演。私は何年か前から、毎年最後はホールA最終公演を聴こうと思っていて、今年も真っ先にチケットを買う。たくさんの人と最後の時間を分かち合いたいので。
 最初は萩原麻未さんがソリストのラヴェルの「ピアノ協奏曲」。萩原さん、若き実力者として名前や評判は聞いていたけれど、実際に演奏を聴くと、やはりすごい。Aホールはステージ横の大きなモニタにステージの様子が映って、演奏する手元の様子が見えるので、その指の動きがよく分かる。演奏中の表情は真剣そのものですが、楽章の間や演奏後に見えた笑顔からは、良い意味での精神的余裕があるのかなと。

 続いてオーケストラ(シンフォニア・ヴァルソヴィア)のみで「ボレロ」。「ボレロ」はラ・フォル・ジュルネでも何度か聴いている。曲の長さとか、分かりやすい盛り上がり方とか、プログラムに含めやすいのでしょう。ソロパートも多いので、オーケストラの実力もアピールしやすいのかもしれません。しかし、同じメロディーの繰り返しなのに、これだけ盛り上がるというのは、つくづく不思議な曲です。ラヴェルはパロディーというか、エスプリ(皮肉)を効かせる意図もあってつくったとどこかで読んだ記憶もありますが。

 ここまでも素晴らしかったのですが、最後はカスタネットの女王ルセロ・テナさんが登場。2曲ともオーケストラとの協奏ですが、どちらもオーケストラに負けない存在感。両手のカスタネットという楽器だけで。というか、私はテナさんを通じて、カスタネット独奏の曲の豊富さを感じている。
 当然のごとくアンコールが起こり、オーケストラとファリャ「はかない人生」から。そこでスタンディング・オベーション。オーケストラが退場しても拍手は鳴り止まず。ソロでカスタネット演奏を披露したり、ルネ・マルタンさん(音楽祭のディレクター)、梶本社長(音楽祭のプロデューサー)もステージに呼んでのあいさつ。最後には再び1人で、カスタネットを使っての寸劇(というか、コント)まで。このサービスっぷりと、パワー。おそらく、テナさんはラ・フォル・ジュルネで初めて「アイドル」と呼びたい存在だろう。この音楽祭で伝説的な名演を聴かせてくれた演奏家は数多くいるけれど、アイドルと呼びたい(呼んでも失礼にならない)のはこの方だけだと思う。あいさつの中で、「future」、「again」と言っていたけれど(マイクはなかったけれど、これは聞き取れた)、ぜひまた日本に来て演奏して欲しい。


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 ということで、今年もラ・フォル・ジュルネの全公演が終了。毎年名残惜しくて会場内をうろうろする。できることなら、このまま今年のラ・フォル・ジュルネの素晴らしさについて、有志で朝まで語り尽くしたい気分です。地下の展示ホールは、八角形のステージを残して各ブースは撤収完了。その様子を写真に撮りながら駅の方に向かっていると、俳優の辰巳琢郎さんが歩いているのを見かける。おそらく、出演者、関係者の参加するアフターパーティーに出席されるのでしょう。辰巳さん、前夜祭のレセプションで司会を務められていたので。
 そして、同じ方向に向かわれるグループが。「出演者の方かな」と思ってすれ違うと、なんとKAJIMOTOの梶本社長でした。そしてその後ろに、なんとルネ・マルタンさんも。思わず「マルタンさん、お疲れさまでした。今年もありがとうございました」と声をかけてしまう。そしてマルタンさんと握手。マルタンさん、会期中は各会場を飛び回っているようで、突然お客さんと同じ場所を移動していたりするのですが、まさかここでお会いできるとは。なんだか不思議な気分だし、かつ、感動しました。

 という感じで、今年もありがとうラ・フォル・ジュルネ。

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  最後に、気になる来年について。毎年その年の最終日に、来年のテーマが発表されるのですが、今年はテーマ発表は6月末とのこと。 クラシック音楽を中心としつつ、特定の作曲家ということではなく、もう少し広いテーマを設定する予定、とのこと。 。「来年のゴールデンウィークにも開催する」というアナウンスがあったかは、下記の記事だけでは分からないけれど、やるということでいいのかな。その宣言があったかどうかは気になります。 2015年は5月2日が土曜日、3日(日)〜6日(水)が祝日。ここのどこで開催するかを検討中ということならいいのですが、ラ・フォル・ジュルネの開催自体を検討しているとするとちょっと心配。日数や時間が少なくなってもいいので、開催だけはして欲しい。
 まあ、これは6月末を待つしかないですかね。

LFJ2014記者懇談会から - ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」2014 公式レポートブログ :
http://www.lfj.jp/lfj_report/2014/05/lfj2014-1.php

マルタンさん「今後は新たなテーマの作り方を考えたいと思っています。だから、テーマの発表はありません。しかし、6月末くらいまでには、強烈なテーマを発表したいと思っています。2020年の東京五輪までを視野に入れたものになるかもしれません」

これは気になりますねー。たしかにオフィシャルガイドでもマルタンさんは「LFJのこれからの10年は作曲家を出発点としないアイディアも考えています。たとえば、『リズム』や『自然』といったようテーマもおもしろいのでは」とおっしゃっています。

https://twitter.com/LFJtokyoBLOG/status/463228127758393344

Twitter / LFJtokyoBLOG: 質疑応答中に、ルネさんより今後の方向性についてに話が及びました。「今後は一人の作曲家、作曲家グループを取り上げるのではなく、もっと大きなテーマを考えていきたい。そうすれば、さらに幅広いジャンル(ジャズや民族音楽など)の取り込みが可能になるでしょう」 #LFJtokyo

https://twitter.com/LFJtokyoBLOG/status/463229206009094144

Twitter / LFJtokyoBLOG: 「核はクラシック音楽です。民族音楽やあまり知られていない楽器での演奏もおもしろいでしょう。LFJは新しい方向へ向かって行くのではないでしょうか。なので、ここでは来年のテーマの発表はないんですよ。ただ、6月末には強烈なテーマをプレゼンしたいと思っています」 #LFJtokyo

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2014.06.09追記:ラ・フォル・ジュルネ2014で買ったCD

Various Artists La Folle Journee fete ses 20 ans MIR236
http://tower.jp/item/3472392/La-Folle-Journee-fete-ses-20-ans
 フランス・ナントでのラ・フォル・ジュルネが20周年を迎えたことを記念したCD。過去19回のライブ録音から選ばれたCD3枚組。

Thomas Enhco ファイヤーフライズ SONGX-021
http://tower.jp/item/3530404/ファイヤーフライズ
 今年の東京のラ・フォル・ジュルネに出演したフランスのジャズ・ピアニストのトリオによるCD。

MartesMURCOF MARTES BAY23CD
 メキシコの電子音楽のミュージシャンMURCOF(ムルコフ)の2002年の作品。先ほどのトーマス・エンコもそうなのだけれど、いわゆるエレクトロニカとかアンビエントのミュージシャンも出演するというのが、ラ・フォル・ジュルネのクラシック音楽祭としての幅の広さをあらわしていると思う。

Vanessa Wagner Schubert: 4 Impromptus D.899, Piano Sonatas No.13 D.664, No.14 D.784 AP008
http://tower.jp/item/2830966/Schubert:-4-Impromptus-D-899,-Piano-Sonatas-No-13-D-664,-No-14-D-784
 そのムルコフと競演したピアニスト、ヴァネッサ・ワーグナーの作品。今回のラ・フォル・ジュルネでは20世紀のアメリカの作曲家の作品を演奏していたのだけれど、CDコーナーを見ていたらシューベルトの録音が。しかも私の好きな四つの即興曲も収録されていて、どんな感じの演奏なのか興味があって買う。

三浦友理枝 Miniatures AVCL-25819
http://tower.jp/item/3466789/Miniatures
 三浦友理枝さんの新譜も買う。ピアノ小品集。ただし、有名曲を集めただけではなく、選曲に意図を感じる。

Antoni Ros-Marba,Spanish Radio/TV Symphony Orchestra スペイン管弦楽名曲集〜「三角帽子」組曲/ロス=マルバ& スペイン放送交響楽団 CMCD-15035
http://tower.jp/item/953438/スペイン管弦楽名曲集~「三角帽子」組曲-ロス=マルバ&-スペイン放送交響楽団
 1988年にサントリーホールで行われたライブ・レコーディング。今年のラ・フォル・ジュルネでも会場を盛り上げたカスタネットのソリスト、ルセロ・テナさんも、アルベニスのソナタで参加している。

●ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2014 公式CD
 毎年東京のラ・フォル・ジュルネの会場限定で販売されるCD。ここ数年はその年のナントでのラ・フォル・ジュルネ(東京と同じテーマ)のライブ録音が収録されていた。ただ、今年はナントと東京でテーマが異なるので、これまでのライブ録音からの収録かもしれない。


過去のレポート:2007年2008年2009年2010年2011年2012年2013年

 twitterでのつぶやきもまとめています。
 「ラ・フォル・ジュルネ」2014年私的まとめ - Togetterまとめ http://togetter.com/li/660407


木の葉燃朗のがらくた書斎 >>レポート >>「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(LA FOLLE JOURNEE au JAPON) 熱狂の日音楽祭 2014」極私的レポート

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