木の葉燃朗のがらくた書斎 >>レポート >>「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(LA FOLLE JOURNEE au JAPON) 熱狂の日音楽祭 2012」極私的レポート


「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(LA FOLLE JOURNEE au JAPON) 熱狂の日音楽祭 2012」
極私的レポート

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 今年も、ゴールデンウィークに行われるクラシック音楽の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ(LFJ)」がやってきました。東京国際フォーラムを中心に、丸の内・有楽町周辺で有料・無料のコンサートが行われる。私は2007年から、毎年通っている。昨年2011年は地震の影響で、東京の公演はプログラム変更、規模縮小となりましたが、今年は例年通りの内容で開催される。会場に通った様子をレポートします。
 今年のテーマは「サクル・リュス」。ストラヴィンスキーの「春の祭典」をもじった「ロシアの祭典」。その名の通り、19世紀から現代までのロシア音楽がテーマ。

過去のレポート:2007年2008年2009年2010年2011年

 twitterでのつぶやきもまとめています。
ラ・フォル・ジュルネ2012(東京)極私的レポート - Togetter:http://togetter.com/li/297117


【公式サイト・レポート】

【東京以外のラ・フォル・ジュルネ公式サイト】


4月28日(土)

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 本公演は5月3日からなのですが、4月27日(金)から丸の内、有楽町で無料のエリアコンサートやイベントが行われて、LFJの季節だと思わせてくれる。この日は丸の内と有楽町で行われている「チャイコフスキーとロシア音楽展」を見ようと思い、ぶらぶらと歩いてくる。
 丸の内オアゾ→新丸ビル→丸ビル→東京ビルTOKIA→東京国際フォーラムと回る。丸ビルの7階のホールがメイン会場で最も展示が多く、新丸ビルのアトリウムがそれに次ぐボリューム。丸ビルの35階、TOKIAの2階・3階、オアゾ5階・6階はパネルの展示で、比較的さらっと見ることができる(もちろんじっくり読むこともできる)。全会場を回るスタンプラリーもある。
 丸ビル7階ホールと新丸ビルでの作曲家の書簡や楽譜も興味深かったし、作曲家同士の繋がりが分かったり、ロシアのバレエ団バレエ・リュスとロシア音楽との影響とか、かつてのロシアの作曲家は別の仕事との兼業だったとか(軍人とか、科学者とか。ボロディンは科学者だった)、色々と面白いエピソードもあった。ストラヴィンスキーやプロコフィエフが来日していた時の記録などもありました。
 個人的には、それまであまり知らなかったスクリャービンの考え方(音楽と色彩の組み合わせや、神秘学への興味など)に惹かれました。

チャイコフスキーとロシア音楽展:http://event.yomiuri.co.jp/russia2012/

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 この日はタイミングが合わずに聴けなかったけれど、一部会場ではエリアコンサートも開催中。

 そして、東京国際フォーラムは少しずつLFJの準備が進む。この日は他の催しがあることもあってか、まだまだ準備の途中だけれど、地上広場のキオスク(野外コンサート用の舞台)やガラス棟の幕などは既に設置されていました。

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0428lfj08 ミュージアムショップでは、一足先に公式グッズも販売中。公式ガイドブックと、会場限定の公式CDを買いました。

(おまけ) ようやく改修工事が終わりに近づいている東京駅(赤レンガ駅舎)など

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5月2日(水)

0502lfj01 あいにくの雨の中、東京国際フォーラムへ。前夜祭が行われているので、見に行きたいなと思いまして。クラシックソムリエを務める好田タクトさんがパフォーマンスを行うという情報も聞いたので。
 18時頃に東京国際フォーラムに着く。しかし、結構な雨だ。とりあえず、地下の展示ホールのあたりをうろうろする。チケットカウンターは既にオープンしていて、購入可能。展示ホールはまだ準備中(明日からオープン)なので入れない。その他のブースも、本日の時点では準備中。

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 地上広場に移動。屋台村は既に開設されている。とりあえずカレーを買って、地上広場の屋根がある場所のテーブルで食べる。しかし、風もあるので、時々雨が吹き込んでくるような状況。
 この天気のため、NHKの中継(タクトさんのパフォーマンスなど)も地上広場の予定とは別の場所だったようで、お客さんの前でのパフォーマンスというよりは中継用の撮影のような感じだった。その様子を遠巻きに眺めてみました。それからNHKの中継では、飯尾洋一さんも地上広場でお話されていました。しかし、PHSでワンセグ見つつ現場を見ていたけれど、生中継って大変。番組でVTRが流れている間にみんなで走って場所移動するとか、お客さんを交通整理(カメラに映らないように)しながらの撮影とか。あと、ワンセグに映る画面が実際の撮影の様子より数秒遅れているのは、ワンセグ特有の現象なのか、あるいはハプニングに備えてディレイをかけているのか。
 そんな感じで帰ってきました。ホールAでは前夜祭コンサートも行われているのだけれど、今回はパスする。本公演のチケットを結構たくさん買って、5/3からぎっしり見る予定になっているので、今日は早めに帰って備えようかと思いまして。


5月3日(木)

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 朝一番は好田タクトさんによるパフォーマンス。指揮者物真似をする芸人さん。今回はバイオリンの早川きょーじゅとともに、ガラス棟地下のチケットカウンター近くで30分のパフォーマンス。去年は震災の影響もあって、タクトさんのパフォーマンスは行われなかったのですが、今年は無事に開催。このパフォーマンスを見ると、ラ・フォル・ジュルネの一日が始まる気分になる。

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 お馴染みの小澤征爾、カラヤン、朝比奈隆などのネタもあれば、新ネタの指揮者体操(ラジオ体操にあわせて指揮者の物真似をメドレー形式で行う)も披露。佐渡裕さんの物真似でぴょんよん飛び跳ねるのとか、俺は好きです(ご本人の前で披露された時にはあまり評判がよろしくなかった模様ですが)。
 この日は特別に早川きょーじゅとの二人の編成なので、「二人バイオリン(二人羽織の要領でバイオリンを弾く)」や「お茶の舞(剣の舞の替え歌を二人で歌う)」、早川きょーじゅのしゃべるバイオリンなども披露された。
 9:00から、しかも雨の中(もちろん屋内でのパフォーマンスだけれど)ということもあって、最初はややお客さんも少なかったのですが、徐々に人の輪ができて、途中から非常に盛り上がりました。

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10:15-11:00@ホールC
 シュニトケ:モーツ−アルト・ア・ラ・ハイドン
 プロコフィエフ:交響的物語「ピーターと狼」op.67
オーケストラ・アンサンブル金沢
井上道義 (指揮)

 今年最初は、井上道義&オーケストラ・アンサンブル金沢による公演。これがとても楽しい。
 「モーツ−アルト・ア・ラ・ハイドン」は、美しいハーモニーや聴き覚えのあるメロディーがあるかと思いきや、音やリズムが徐々にずれていく。そこからまた元に戻ってという構成。井上道義氏の指揮もドラマを感じる動きで、面白い。
 しかし更に面白かったのが「ピーターと狼」。登場する人物や動物に楽器の音が割り当てられて、朗読とともに進む音楽劇なのだが、なんと指揮者自らナレーターを担当。これは、あまり他に例を聞いたことがないのだけれど、普通にあることなのだろうか? 私が知っているのは、別に朗読の方がいる形なのだけれど。
 この井上道義氏がすごくてですね。衣装からして、指揮者らしさは蝶ネクタイくらいという派手さ。そしてナレーションだけでなく、動きも激しくて、文字通りステージ上を転げ回る。時には客席まで降りちゃう。それでいて、後半には動物とともに過ごすことへのメッセージも語る。
 オケのオーケストラ・アンサンブル金沢も、この指揮にきっちりあわせて演奏するのはさすが。普通の指揮にあわせるよりもずっと大変なはずなのだけれど、それがオケの質の高さと、指揮者との信頼感なのだろうと思う。
 そして、プログラムの井上氏のプロフィールの最後に「自宅にアヒルを飼っている」とあって、「なんでわざわざ(笑)」と思っていたのですが、その理由が分かるサプライズがラストに。詳しくは秘密。でもびっくりしました。
 この公演、こどもも多く聴いていたけれど、小さい子も泣き出すようなことはあまりなくて、みんな喜んでいたようです。終演後、動物の鳴き真似をしている子も何人か見かけましたよ。

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 午後の公演までの間、丸ビルに来てみました。先日展示を見て集めたスタンプでエコバッグがもらえるので。

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13:15-14:00@ホールB5
 ブダーシキン:コンチェルト・グロッソ ト短調
 リムスキー=コルサコフ:白鳥の王女(オペラ「サルタン皇帝」より)
 リムスキー=コルサコフ:東の歌
 チャイコフスキー:煙突のそばのチャイコフスキー
 チャイコフスキー:フォンタンカ川に沿って散歩するチャイコフスキー
 チャイコフスキー:北部の民族を訪ねるチャイコフスキー
 テレム・カルテット:星の王子様
 ツィガンコフ:Deux pas “Nadya”
 ツィガンコフ:ツィガノーチカ
  *すべてテレム・カルテットによる編曲版
テレム・カルテット (民族楽器)

 テレム・カルテットは、ロシアの民族楽器のアンサンブル。いずれも独特な楽器で、アコーディオンに似たバヤン、マンドリンに似たドムラ×2、コントラバスのように大きなバラライカのコントラバラライカからなる。数年前のラ・フォル・ジュルネで聴いているので、久しぶりです。
 曲はリムスキー=コルサコフやチャイコフスキーなどの作品。タイトルだけだとあまり聴き馴染みがないけれど、知っているメロディーがその中に登場する。
 ロシアの楽器を使った演奏なのに、音の雰囲気が必ずしもロシア的でないのが面白い。最初に演奏されたリムスキー=コルサコフ「東の歌」は、題名通り東洋風の音色だし、チャイコフスキーの曲にはフランスやスペインのような雰囲気も。時にはロマ音楽のような音色もある。後半は、自分がイメージするようなロシア音楽のような曲もあり、かなり多彩な演奏。多彩といえば、四人での演奏なのに、音に厚みがある。楽器の構成の効果なのかもしれません。
 それから、小規模のホールでの演奏(室内楽など)は色々な意味で若干の緊張感があるのだけれど(それが演奏の良さにもつながる)、テレム・カルテットはリラックスした雰囲気で、ユーモアもある。掛け声や歌声の入る曲も。

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16:45-17:45@ホールA
“ルネ・マルタンのル・ク・ド・クール”
〈1〉プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第7番 変ロ長調 op.83 より第3楽章
〈2〉チャイコフスキー:ロココ風の主題による変奏曲 op.33
〈3〉ラフマニノフ:来たれ、王たる我らの神に叩頭せん(「晩祷」 op.37 より 第1番)
スヴィリドフ:聖なる愛(A.トルストイの悲劇「皇帝フョードル・イヴァーノヴィチ」付随音楽による3つの合唱より)
スヴィリドフ:広野の悲哀(ソログープの詩による混声合唱の為のカンタータ《祖国への讃歌》より)
チェスノコフ:神は我らと共に
作曲者不明:12人の盗賊(ロシア民謡)
作曲者不明:鈴の音は単調に鳴り響き(ロシア民謡)
作曲者不明:広い草原の上空には(ロシア民謡)

〈1〉アダム・ラルーム(ピアノ) による演奏
〈2〉アレクサンドル・ルーディン(チェロ・指揮)・ムジカ・ヴィーヴァ による演奏
〈3〉カペラ・サンクトペテルブルク(合唱)・ヴラディスラフ・チェルヌチェンコ(指揮) による演奏

 「ル・ク・ド・クール」は「ハート直撃」という意味。ラ・フォル・ジュルネのアーティスティック・ディレクターであるルネ・マルタンさんがオススメする音楽家、演目を並べた公演。
「あなたは、どの音楽家にハートを直撃されましたか?」(言いたかっただけ)。
 一番印象的だったのはカペラ・サンクトペテルブルクの合唱。声の力に圧倒される。ロシアの宗教曲あり、民謡あり。他二組もそれぞれ特徴的で、アダム・ラムールのピアノの疾走感にも若さを感じたし、アレクサンドル・ルーディンのチェロ弾き振りによるムジカ・ヴィーヴァは手堅い感じの演奏だった。
 
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19:45-20:30@ホールA
  ショスタコーヴィチ:バレエ組曲第1番
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 op.23
アンコール:チャイコフスキー「四季」から6月
イム・ドンヒョク (ピアノ)
ベアルン地方ポー管弦楽団
フェイサル・カルイ (指揮)

 本来はブリジット・エンゲラーがピアノ独奏の予定だったが、急病により来日できず(お見舞い申し上げるとともに、回復をお祈りします)。同じチャイコフスキーの協奏曲第1番を若きイム・ドンヒョクが演奏することになった。協奏曲を、直前に(エンゲラー来日中止は1〜2日前の発表だった)代役で演奏するというのは、非常に果敢な決断だと思う。そのことに敬意を表したい。フェイサル・カルイ 指揮のベアルン地方ポー管弦楽団にとっても、直前のソリスト変更は大変だったと思う。正直に言うと、エンゲラーの演奏だったらどんなだったかなあと思ってはしまうが、両者の組み合わせによる素晴らしい音楽を作り上げていたと思います。
 前半のショスタコーヴィチ「バレエ組曲第1番」は、指揮者もオケも楽しそうなのが良かった。Aホールはステージをカメラで撮影して、ステージ脇の大きなスクリーンに映すので、そうした様子も見ることができるのです。

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21:45-22:30@ホールD7
“祈り”
〈1〉権代敦彦:カイロス―その時
〈2〉ペルト:カノン・ポカヤネン(オードIV、コンタキオン、イコス、カノンの後の祈り)
〈3〉権代敦彦:クロノス―時の裂け目―(LFJナント・東京共同委嘱、日本初演)

〈1〉児玉桃(ピアノ)による演奏
〈2〉ヴォックス・クラマンティス(合唱)・ヤーン=エイク・トゥルヴェ(指揮)による演奏
〈3〉山根孝司(バス・クラリネット)、伴野涼介(ホルン)、宮田大(チェロ)、池上英樹(打楽器)、北村朋幹(ピアノ)による演奏

 3日の最後は、権代敦彦とペルトという、現代音楽の作品による「祈り」がテーマの公演。最初に権代氏による公演の解説も。
 「カイロス」と「クロノス」は、どちらもギリシア語で時間を意味するという。しかしカイロスは個人的な時間や、衝撃的な一瞬のこと。この曲は、3月11日の震災で亡くなった人々、特に幼い命に捧げられたレクイエムのようなピアノ独奏曲。時計の針の音のような、金属音のような高音が定期的に鳴り、それに地震や津波を連想させるような音のうねりが重なっては消える。
 一方クロノスは、あらゆる人に等しく流れる時間。ロシアをテーマにラ・フォル・ジュルネから新作を委嘱された際に、チェルノブイリと福島との関連をテーマに作られた作品という。こちらは五つの楽器の音が、時に調和し、時にバラバラに音を刻む。ここでも不安を感じさせるような音が続くが、最後は静寂の中でピアノと鐘の音が静かに鳴る。そこに、様々なことがあっても、続いていく(あるいは続いてしまう)時間の存在を感じた。
 二曲をつなぐペルトの合唱曲も、高い緊張を保った感動がある。現代音楽とはいえ前衛的な感じはなくて、どちらかというと伝統的な宗教曲のような雰囲気を持った美しい曲。
 ラ・フォル・ジュルネは初心者向けに、気軽にクラシック音楽を楽しんでもらう催しという側面が特徴で、もちろんそれは事実だし、私もここでクラシック音楽のファンになった。でも、それだけじゃないのがラ・フォル・ジュルネの幅の広さ、懐の深さ。私はあまり意識したことがないけれど(そんなに詳しくないからね)、クラシック音楽が好きな人にとっても珍しい公演が行われているという。

 という感じで一日目は終了。展示ホールや地上広場の無料公演、エリアコンサートはほとんど聴けていませんが、それだけ聴きたい有料公演を聴けているということだと思う。充実しています。改めてラ・フォル・ジュルネって楽しいと思う。

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 それから、各ホールで掲示がされていたので報告を。ラ・フォル・ジュルネでは、今後個人の賛助会員を募る計画があるようです。掲示された説明によると、チケット収入は経費の50%で、今後の継続には協賛だけでなく個人の賛助も必要という判断のようです。


5月4日(金)

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 この日最初は下記の公演。

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10:30-11:15@ホールC
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 ニ短調 op.47 「革命」
 ベアルン地方ポー管弦楽団
 フェイサル・カルイ (指揮)

 ショスタコーヴィチの「革命」をコンサートで(生で)聴くのは初めて。オケが昨日聴いて良かったフェイサル・カルイ指揮アルン地方ポー管弦楽団という点にも期待していた。
 いやあ、これは良い。ノリノリ(笑)。もちろん、第一楽章の後半とか、第三楽章とか、荘厳な部分はしっかりと抑えた演奏になっている。しかし、第二楽章や、特に第四楽章はパワー全開という感じ。指揮者が明確で大きな動きをして、オケもその意図をしっかり捉えて演奏しているように感じた。今回初めて知った楽団ですが、これは面白いなあ。指揮とオケと音がちゃんと調和している。

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 ホールを出ると、ちょうど地上広場で黒岩悠さんのピアノ独奏。ようやく雨が上がって、地上広場で音を聴くのが心地良い雰囲気になる。

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 そして天気が良くなったので、屋台村でステーキ丼を買って外で食べる。これがラ・フォル・ジュルネのひとつの醍醐味でもあります。

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13:15-14:00@ホールB5
作曲者不明:我が魂よ、主を崇めん (16世紀のズナメニ聖歌)
作曲者不明:僧衣の如くに光を纏い (17世紀のロシア正教会典礼ポリフォニー)
作曲者不明:我ら、汝を歌い讃えん (17世紀のロシア正教会典礼ポリフォニー)
ゴンチャロフ:汝の十字架に
ラフマニノフ:聖母小讃詞
ボルトニャンスキー:大提綱(大プロキメン)―誰ぞ比するや、偉大なる神
作曲者不明:鈴の音は単調に鳴り響き(ロシア民謡)
作曲者不明:おお、冬よ冬よ(ロシア民謡)
アンコール:古いソビエト連邦の軍隊の歌
 モスクワ大司教座合唱団
 アナトリー・グリンデンコ (指揮)

 すごいと噂のモスクワ大司教座合唱団を聴く。ロシアの宗教曲と民謡。いやあ、男性12人の歌声は迫力がある。地からわき上がってくるような声の力。宗教曲は、時に読経(読響じゃないよ)のように聞こえる箇所も。一方でロシア民謡は、がらりと雰囲気が変わる。力強さはそのままに、明るいというか、聴くと元気が出てくるような感じ。

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 ホールを出て、地下展示ホールでテレム・カルテット。展示ホールだと、手拍子をしたり踊ったりしながら聴けるのが、ホール公演とはまた違った楽しさがある。

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16:00-16:45@よみうりホール
 ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ第1番 ニ短調 op.28
 ラフマニノフ:メロディ ホ短調 op.3-3
 クライスラー(ラフマニノフ編):愛の喜び/愛の悲しみ
ボリス・ベレゾフスキー (ピアノ)

 ボリス・ベレゾフスキーがすごいのは、超絶技巧の曲を、そう感じさせないで演奏することだと、私は思う。ラフマニノフだって、まず演奏すること自体がピアニストとしての技量の高さを示していると思うのだけれど、この人の場合実に軽々と弾いているように見えるし聞こえる(ちなみに、すべて暗譜での演奏でした)。その上で、曲の魅力を感じさせてくれる演奏。

 なおプログラムは変更になっていた。メインのラフマニノフのピアノ・ソナタは予定通り。その後はラフマニノフのプレリュード(前奏曲)から5曲(急遽の変更だったのか、インフォメーションも掲示されず)。そしてアンコールにサン=サーンスの白鳥と、ショパンのワルツを2曲。本当はクライスラーも聴きたかったけれど、でも満足です。

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 よみうりホールを出て、東京国際フォーラムとは別の場所でしばし休憩。天気は再び小雨が降ったり止んだりを繰り返し。
 コンサートを聴きに国際フォーラムに戻り、テレム・カルテッットの地上広場の公演の最後の方だけ聴く。テレム・カルテッット、今年大活躍だなあ。去年、一昨年のモーション・トリオのような感じ。

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18:30-@ホールB5
「福袋コンサート」
ああ 広い草原よ(ロシア民謡)
ああ、霧に包まれて(ロシア民謡)
こんばんは(ロシア民謡)
果てもなき荒れ野原(ロシア民謡)
行軍が思い出される(ロシア民謡)
外では雨が(ロシア民謡)
ヴォルガの舟歌(ロシア民謡)
黒いからす(ロシア民謡)
道(ロシア民謡)
おお、クバンの若者たちよ(ロシア民謡)
鈴の音は単調に鳴り響き(ロシア民謡)
雪はもうたくさんだ(ロシア民謡)
おお、冬よ冬よ(ロシア民謡)
 モスクワ大司教座合唱団
 アナトリー・グリンデンコ(指揮)

 今日の福袋コンサート(当日朝にプログラム発表され、チケット発売される)は、モスクワ大司教座合唱団のオールロシア民謡プログラム。これは聴きたいと思って、朝一番でチケットを買う。
 ロシア民謡というので、もっとイケイケな感じ(どんなだ)を予想していたのですが(酒場で飲みながら歌う歌のようなイメージ)、ハーモニーの美しい、ロマンティックな雰囲気の曲が多かったです。これがこの合唱団の品の良さを表している気がする。もちろん、勇壮な歌声の堪能できる曲もあった。
 ホールの物販で、CDを買いました。ご本人たちが持参したものらしく、本日の帰国とともに販売終了ということなので購入。ネットで買えるのかもしれないけれど、買えなかったら悲しいし、記念でもあるので。

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 夕飯は、地下展示ホールのカフェでちょっと気張ってビーフストロガノフ。帝国ホテル提供ですよ。それを思わせる牛肉の存在感。食事をした時間は、ちょうど大きなホールでの公演が始まったところで、比較的ゆったりできました。

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20:30-21:15@相田みつを美術館
“ロシアの絵画”
ムソルグスキー:プロムナード(「展覧会の絵」より)
スクリャービン:練習曲 嬰ハ短調 op.2-1
ムソルグスキー:プロムナード(「展覧会の絵」より)
ムソルグスキー(ラフマニノフ編):ゴパーク
チャイコフスキー:6月「舟歌」(「四季」 op.37bis より)
ムソルグスキー:プロムナード(「展覧会の絵」より)
ラフマニノフ:コレッリの主題による変奏曲より(抜粋)
ムソルグスキー:キエフの大きな門(「展覧会の絵」より)
 シャニ・ディリュカ (ピアノ)

 本日聴いた最後の公演は、シャニ・ディリュカさんのピアノ独奏。レクチャー・コンサートということで、曲についての解説(通訳付き)をしながらの演奏。
 ロシアの音楽のモチーフや、他の芸術(文学、舞踊など。これには民間伝承のものも含まれる)との関わりについて紹介しながら、数曲ずつピアノを弾いていく。ロシアの音楽では鐘の音が重要とか(たしかに「展覧会の絵」には鐘を模した音が随所に出てくるし、ラフマニノフにはそのものズバリ「鐘」という曲もある)、体制に表現が制限された中で、おとぎ話に様々な意図を込めたとか(プロコフィエフの「ピーターと狼」の狼は体制の象徴だとか)、知らない話が色々登場して興味深かった。「こどもとその家族のためのレクチャーコンサート」とあったが、大人にも勉強になる。そして、ピアノ曲のいいとこ取りの選曲も良かった。特に今回は「展覧会の絵」を演奏するプログラムがなかったので、一部とはいえディリュカさんのピアノで聴けて嬉しかった。シャニ・ディリュカさんは、ラ・フォル・ジュルネで初めて聴いてファンになったピアニストのひとり。
 通訳の方もお疲れさまでした。普段、ルネ・マルタンさんがトークや会見をする時に通訳をされている方だと思う。フランス語とともに、ロシア音楽の知識の予習も必要だったと思います。

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 本当は、チケットを買って22時からの公演を聴くという選択肢もあったのだけれど、明日早いので今日は早めに帰ることにする。といってももう21時過ぎだけれど。いやあ、ラ・フォル・ジュルネは仕事より熱心に時間を過ごしてしまうなあ。

魔法革命プロコフィエフ~ヒロイン風クラシック名曲集  最後にちょっとこぼれ話。地下展示ホールにはいくつかのブースも出展。CDや配信のレーベルナクソスのブースでは、スタッフの方々が、噂の「魔法革命プロコフィエフ」Tシャツを着用。思わずむぷぷ。だがかっこいい! おもしろかっこいい! このTシャツ、ラ・フォル・ジュルネのグッズ売場のTシャツコーナーにこっそり並べちゃえばいいのにと思った。ちなみにこのシリーズ、他に「交響戦艦ショスタコーヴィチ」と「幻想魔神ハチャトゥリアン」があります。これが絶妙に今年のラ・フォル・ジュルネのテーマと重なっている(アルバムにはロシア以外の作曲家の作品も収録されているのだけれど、タイトルの付け方が絶妙)。


5月5日(土)

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 今日も朝一番は好田タクトさんのパフォーマンス。指揮者の物真似を次々と。小澤征爾に始まり、指揮者体操、ジェームズ・レヴァイン、ストコフスキー、朝比奈隆などなどを次々と披露。話芸によるネタも挟みつつの熱演。特に新ネタという指揮者体操は、ラジオ体操のメロディーにあわせて次々と色々な指揮者の物真似を披露していく。定番の指揮者の間にマニアックなネタも挟んだりしているのだけれど、それも含めて面白い。たぶん、指揮者の物真似であるとともに、ラジオ体操のパロディになっているので(ラジオ体操に似た動きで物真似をしている)、指揮者を知らなくても面白いのだと思う。こどもウケも良かったです。

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10:30-11:15@ホールB7
ボルトニャンスキー:合唱協奏曲第3番《主よ、御力により帝は楽しまん》
アルハンゲルスキー:幸いなるかな
チェスノコフ:我が祈りが叶わんことを
チェスノコフ:神は我らと共に
作曲者不明:ああ、我が広き草原よ(ロシア民謡)
民謡組曲
作曲者不明:カリンカ(ロシア民謡)
作曲者不明:栄えある湖、聖なるバイカル(ロシア民謡)
作曲者不明:広い草原の上空には(ロシア民謡)
 アンコール:パールィニャ(奥様小唄)
カペラ・サンクトペテルブルク (合唱団)
ヴラディスラフ・チェルヌチェンコ (指揮)

 カペラ・サンクトペテルブルクは500年近い歴史を持つという混声合唱団。3日の「ル・ク・ド・クール」で聴いて良かったので期待していましたが、期待に違わぬ素晴らしさ。
 同じ合唱でも、前日のモスクワ大司教座合唱団とはまた違った魅力がある。男女混声ということ、元々世俗合唱団であるということ、人数の多さなどから、同じ用に宗教曲や民謡であっても、雰囲気が変わる。女性の声が入ると、華やかな感じになります(もちろん、モスクワ大司教座合唱団の男声のパワーも良かったけれど)。
 そしてやはり、宗教曲の厳かな雰囲気と民謡の楽しさの対比が印象的。その両面が楽しめるのはいいですね。「カリンカ」などは、まさに私がイメージするロシア民謡。
 あと、ステージから降りるときに、男性がさりげなく女性の手を取っていたのも、レディ・ファーストのヨーロッパという感じ。

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12:00-12:45@ホールA
 チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 op.74 「悲愴」
東京都交響楽団
小泉和裕(指揮)

 「悲愴」をちゃんと聴くのは初めて。深い。どう表現すればいいのか難しいが、「ずーん」とくるというか(考えた挙げ句そんな感想か俺)。第二、第三楽章は比較的軽やかで明るいのだが、最終楽章が非常に重みがある。私は自然と、手を組み合わせて(西洋風の合掌ね)、天を仰ぎながら聴いていた。曲が終わっても、大きな拍手をしたりブラボーの声を掛ける感じではなかったけれど、演奏を称える拍手がずっと続きました。
 3日のオーケストラ・アンサンブル・金沢といい、この都響といい、日本のオーケストラのレベルもヨーロッパに引けを取らないということも感じました。

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 公演の間に屋台村で昼食。ようやく晴れて暑いくらい。地上広場は相当な人出。ということで、ゆっくり休めそうになかったので、近くのビルの休憩スペースへ。ここでしばし次の公演を待つ。

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14:30-15:15@ホールB5
“ボリス・ゴドゥノフ宮廷の音楽”
メルカー:パヴァーヌ「ゴドゥノフ」
ダウランド:デンマーク王のガイヤール
ダウランド:帰って来てもう一度
ニコルソン:ジョーン、とジョンは言った
ニコルソン:ユダヤの踊り
作曲者不明:ナツメグとジンジャー
作曲者不明:暗闇こそ我が喜び
作曲者不明:ダフネがアポロンから逃れたとき
作曲者不明:女房は家に置いとけない
作曲者不明:市場は終いだ さあ帰ろう
ブレイド:カーネーションの花
ブレイド:サテュロスの踊り
バード:若葉は青く
ニコルソン:かっこう
作曲者不明:この麗しき春
バード:乙女
ダウランド:あの人は許してくれるだろうか、僕の過ちを
マリア・ケオハネ (ソプラノ)
リチェルカール・コンソート (室内アンサンブル)

 古楽アンサンブルのリチェルカール・コンソート と、ソプラノのマリア・ケオハネによるコンサート。16世紀のロシアを訪れたデンマーク王子に随行した音楽団が演奏したであろう曲を集めたコンサート。今回のテーマでは古楽が演奏される機会が少ないので、これは貴重。ヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、リコーダー、ティンパノン(撥で弦を叩く楽器)、パーカッションという楽器で、ヨーロッパ各地の民謡のようなメロディーや、バロック時代の音楽のような曲を奏でる。
 そしてマリア・ケオハネの歌声が素晴らしくて。数年前のラ・フォル・ジュルネで聴いて好きになったのだけれど、今回も変わらぬ素晴らしさ。表情や動きもキュートな方です。

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16:45-17:30@ホールG409
 リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」(4手ピアノ版)
 ※アンコール:ブラームス「ハンガリー舞曲第四番」
シャニ・ディリュカ (ピアノ)
広瀬悦子 (ピアノ)

 ピアノ連弾による「シェエラザード」。これがどんな感じになるのかということと、ピアニスト二人の組み合わせに興味を持ってチケットを買った公演。
 オーケストラ版だと派手な演奏が多い、という印象のある曲ですが、ピアノ編曲だと結構繊細な曲に感じるのが面白い。それはもしかしたら、ソリスト二人の特徴なのかもしれないけれど。
 それでも最終楽章なんかは、「シェエラザード」らしい盛り上がりに満ちていた。
 アンコールの「ハンガリー舞曲第四番」も連弾。これも二人の掛け合いが見事な演奏。
 余談ですが、ピアノ連弾って(あるいはこの曲の楽譜がそうだったのかもしれないが)楽譜の進みが早いのね。譜めくりの方も大変そうでした。

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 最後の二公演に備えて、屋台村で夕飯。

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18:45-19:30@ホールA
 グリンカ:「ルスランとリュドミラ」序曲
 チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35

川久保賜紀 (ヴァイオリン)
シンフォニア・ヴァルソヴィア
ジャン=ジャック・カントロフ (指揮)

 有名曲二曲がそろった公演。最初の「ルスランとリュドミラ」序曲からまとまりがよくて、楽しみにしていたチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲に期待が持てる。その期待どおりの内容。川久保賜紀さんは最高位を獲得した2002年のチャイコフスキー国際コンクールでもこの曲を演奏しているし、CDも録音しているので得意の演目なのだろう。Aホールではステージの様子を脇の大型スクリーンに映すのだが、緊張感のある中にも時折笑顔が見られる演奏だった。

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 最後の公演までの時間は、地下展示ホールで企業ブースや物販コーナーを見て歩く。クラシックのネットラジオ局ottavaの公開放送ブースにも立ち寄る。今年はなかなかottavaブースに立ち寄れなかったので、後ほどオンデマンドで放送を聴きたいと思う、ラジオネーム「フィリップ・そーじゃん」なのでした。
 あと、企業ブースでナクソスジャパンの方とお話しできたのも嬉かった。「交響戦艦」シリーズの話も聞けたし、プロモーションビデオも見ることできたし、ご好意によりブースの写真も撮らせてもらえました。

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 そして、展示ホールでの最終無料公演、Percussion Performance Players(打楽器アンサンブル)の演奏を聴く。音楽大学でマーチング・バンドの活動をされていたというパーカッショニスト五人組。演奏だけでなく、アクロバティックな動きの面白さもある。

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21:00-22:00@ホールA
 チャイコフスキー:イタリア奇想曲 op.45
 ボロディン:だったん人の踊り(オペラ「イーゴリ公」より)
 ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 op.18
 *アンコール:
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番より第三楽章(後半)
ボリス・ベレゾフスキー (ピアノ)
カペラ・サンクトペテルブルク (合唱団)
ウラル・フィルハーモニー管弦楽団
ドミトリー・リス (指揮)

 これが私の今年のラ・フォル・ジュルネ最終公演。終演時間から見ても、これが東京のラ・フォル・ジュルネの最終公演。これがまた、三曲とも素晴らしかった。客席の熱気(Aホールがチケット完売でほぼ満員の客の入り)、それに応えてくれた出演者の熱気、選曲の妙など、色々な要素が絶妙に重なって、いずれも大名演だったと思います。クラシックに詳しい人や、プロの(演奏家や評論家の)目から見れば色々思うところはあるのかもしれないけれど、私にとってはただただ素晴らしかった! ありがとうラ・フォル・ジュルネという気分です。

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 ということで、今年も終了しました。今年は、比較的興味を持っているロシア音楽というテーマだったこともあり、事前にかなり聴きたいと思っていた公演のチケットを買うことが出来た。一方で合唱団の公演など、新鮮な魅力のある音楽にも出会えた。
 来年も開催されるとのことなので、楽しみにして一年間待ちたいと思います。

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5月9日 これからの「ラ・フォル・ジュルネ」に思うこと

 会期中は楽しんできたのですが、その後色々と考えるべきことが。

 きっかけになったのは、5月5日(土)の夕方に行われたプレス向け懇親会(主催者が今年の内容を振り返り、来年以降について発表する記者会見)。その内容について、音楽ジャーナリストの方が下記の通り書かれている。

ラ・フォル・ジュルネでの記者会見で起きた「事件」 - LINDEN日記(林田直樹氏)
ラ・フォル・ジュルネ2012復習 来年の展望と記者会見編 - CLASSICA - What's New!(飯尾洋一氏)


 質疑応答において、公演内容の広報・宣伝の仕方、プログラム(公演の曲目)について、「現状のままで良いのか」という意見が出て、会見後も意見交換があったらしい。
 このことが明らかになってから、twitter上で「#lfjtokyo」のタグが付いたつぶやきの内容が変わってくる。今年のラ・フォル・ジュルネの感想ももちろんあるのだが、それとともにラ・フォル・ジュルネに対して思うこと(不満に思うことも含む)や、今後どうなって欲しいか、という意見が次々と書かれるようになる。ジャーナリストやメディア(雑誌やwebサイト)の方あり、クラシック音楽ファンもいれば、音楽に関わる仕事をされている方、演奏家の方(プロ・アマ)などなど、色々な人の意見が読める。

 読んでいて感じたのは、まず公演内容については今の方向で良いと思っている人が多いこと。記者会見では「『一般的でない公演が行われすぎているところにプログラミングの問題がある。もっと有名な名曲をしっかり取り上げるべきではないか』という意味のこと」(林田氏ブログより)が述べられたのに対し、ラ・フォル・ジュルネのアーティスティック・ディレクターのルネ・マルタン氏(ラ・フォル・ジュルネを発案し、現在も各国ラ・フォル・ジュルネの公演プログラムを一人で決めている方)は、「『ホールAのチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番は空席だらけだった』と反論した」(飯尾氏ブログより)という。つまり、いわゆる名曲かどうかが本当に集客に影響するのかという反論だったようです。これについては多くの人がマルタン氏の考えに賛成の模様。大きなホールでは有名曲も演奏されているし、そもそも名曲を揃えるだけではラ・フォル・ジュルネらしくならない。100〜200人の会場で通向けの公演があったとして、チケット売り上げには影響しないのではないか。などなど。
 ちなみにこの件に関しての私の意見は、選曲が名曲かどうかはあまり関係ない。そもそも私はクラシック音楽について詳しくないので、その曲が有名曲かどうかは分からない。公演の紹介を見聞きし、読んで、興味を持った曲を聴きに行くという選び方です。

 多くの人は、むしろその他の部分についての意見が多いようです。twitterでのつぶやきでは、例えば下記のような内容を目にした。

・東京国際フォーラムの音響を問題視する方
・会期中の人の多さを分散させるべき(国際フォーラム以外の近隣のホールや飲食スペースも会場に含める)という意見
・どのような演奏家を呼ぶか(もっと日本のオーケストラや、少しクラシックを知っていれば分かるような演奏家を呼んでは、など)
・公演の内容(珍しさや期待の大きさ)をもっと事前に告知すべき(空席が目立ちながら、後から「それだけ良いなら聴きに行けばよかった」と言われる公演をつくらない)

 いずれもラ・フォル・ジュルネへの期待(それゆえの現状への不満)が表れていると思う。あとは、主催する側がなにを重視して変えていくかだろう。
 個人的には、人の多さをどう整理するかは、これから特に重要になってくると思う。会期中、地上広場や地下の展示ホールは、時間帯によって相当人が集中する。チケット売場も同じ。例えばチケットは、会期中でも、東京国際フォーラムの特設チケットセンターだけでなくプレイガイドでも買える。インターネットで申し込んで、コンビニエンスストアで発券して購入してから会場に来ても良い(座席指定ができない場合もあるかもしれないが)。ただ、そうしたことがあまり大きく告知されない(会場の売場で売れた方が、手数料などの面で主催者に有利なのだろうか)ので、会場に人が集中してしまう。
 それから、地上も地下もなかなか座って食事ができない。仕方ないので地上広場の屋台村で買って立って食べたこともこれまでしばしば経験している。でも、歩いて数分のビルに行けば余裕があったりする。2〜3年前からは、食事は会場内で食べても、休憩は東京国際フォーラムを離れるようになった。
 そう考えると、(エリアコンサートを行っていない)周囲の商業施設も巻き込むことで、国際フォーラムの混雑緩和と周辺エリア(オフィス街で、普段の土日祝日には営業していないところも)の盛り上がりが両立できるのではないかと思う。主催側としては、東京国際フォーラムやエリアコンサート会場の盛り上がりが必要なのも分かる。でも、「興味を持ってふらっと行ってみた→チケットは売り切れ続出、あっても行列で買えない→地上広場も人が多過ぎる→コンサートも聴かず、飲食も買い物もせず帰る→二度と行かない」となってしまったら、逆効果だろう。むしろ最初は、「事前にチケット買って、大きいホールで一公演だけ聴いた→あとは丸ビルや銀座で買い物して帰る」くらいでも、将来的に継続して来てくれるのではないかと思う。
 そういう意味では、大手町、銀座、日比谷あたりのホールも会場にという案を書かれていた方がいるが、これはそれなりに興味深い。それでも、東京国際フォーラムを人々の集う中心として残す必要はあると思うけれど。そうでないと、ラ・フォル・ジュルネ独特の祝祭感が失われてしまうと思う。

 ちなみにホールの音響や演奏家については、私はほとんど気にしていない。その程度の耳しか持っていないと言われればその通り。私がそもそもラ・フォル・ジュルネに惹かれたのは、そういう部分ではなかったというのも理由の一つだと思う(後述します)。

 公演の内容の告知や宣伝については、私はファンとしてひとつ反省していることがある。それは、開催前にあまりラ・フォル・ジュルネについて言及しなかったこと。そこには非常にせこい理由があって、「あまり話題にしてチケット争奪編になっても困るなあ」という、しょうもない心配がブレーキになったんだよね。そんな一個人がブログに書くかtwitterに書くかなんて些細なことかもしれないが、今年ラ・フォル・ジュルネを訪れた人の100分の1の人数でもいいから言及すれば、それは大きな話題になると思う。チケットを購入した人だけでも12万人、周辺エリアの無料コンサートの訪問者などを加えれば約46万人が来場しているというのだから。
 記者会見で話題に上ったという「ピーターと狼」もそうなのだが、他にも例えば渋さ知らズの公演。私は別のチケットを買っていたし、個人的にはあまり興味がなかったので、言及しなかった。でも、例えばファンの人や、ジャズや前衛音楽が好きな人が事前に下記のような情報を得ていたら、いい意味でもっと騒ぎになったのではないかと思う。そして、もっとラ・フォル・ジュルネが話題になったかもしれない。

・1,500人収容のホールでライブを行う
・夜10時近くから60分のライブだけれど、祝日前(5/3)だしチケットはS2,500円、A2,000円
・ライブハウスみたいにお酒は飲めないが、ライブ前に地上広場で飲食してからホールに行ける
・そのチケット(または半券)があれば、当日昼や翌日以降に「ついでに」無料のクラシックの公演も聴ける
・前日の時点で(当日の昼くらいであれば)まだチケットが買えた

 そういうことを書かなかった自分が、小さく思えて情けない。

 宣伝や広報が足りないと言うのは簡単(そして、一部そうした告知不足があったのも事実だろう)。しかし、それを主催者に求めるとともに、自ら「ゴールデンウィークの東京ではこういう面白い催しがあるんだぜ」ってことを、事前にもっと積極的に書いていくことも必要だと思う。私も会期中にtwitterでつぶやいたり、感想をサイトに載せたりはした。でも、それを見て足を運んでもらうのは、難しいと思う。ゴールデンウィーク当日に催しについて目にして、「とりあえず行ってみるか」と思って会場まで来てもらえるというのは、色々な要素が重ならないと難しい。特に色々な催しや予定があるゴールデンウィークだから。
 やはり、事前に、何度も、色々な角度から、「ゴールデンウィークにはラ・フォル・ジュルネというクラシックの音楽祭がある」と書くことが大事だろう。そうやって、周りの人を巻き込んでいく(会場に行かないまでも、なにかクラシックのイベントをやるんだなと思ってもらうだけでも)ことが必要なのだと思う。私は来年のラ・フォル・ジュルネについてはそれをやろうという決意があります。

 なぜそんなことを思うのかというと、自分がラ・フォル・ジュルネをきっかけにクラシック音楽が好きになれたことと、ラ・フォル・ジュルネがなくなったり、変な方向性に進んでしまうことが嫌だから。思い出話になりますが、まあ聞いて下さい。

 私が初めてラ・フォル・ジュルネに行ったのは2007年。当時開局したてで、私も偶然聴き始めたクラシック音楽のネットラジオottava(オッターヴァ)で、ラ・フォル・ジュルネが告知されていて、ちょっと覗いてみるかくらいの思いで行ったんだよね。ちなみにその年はまだottavaの公開生放送はなくて、展示ホールの企業ブースにコーナーがあって、会期中は時々そこから生放送のスタジオへ中継をする、という形式だったと記憶している。ゴールデンウィークに有楽町でなにかやっているというのは、2005年(第一回の東京のラ・フォル・ジュルネ)に偶然会期前の東京国際フォーラムでポスターを見ていて知っていた。でも、当時はクラシック音楽なんて自分には縁遠い(別世界だ)と思っていた。
 そんな状態で、前夜祭が行われていた東京国際フォーラムに行って、そのお祭りのような雰囲気に一気に惹かれたんだよね。地上広場でタラフ・ドゥ・ハイドゥークス(ルーマニアのロマ音楽のバンド。民族音楽には興味があったので、入口として自分には最適だったのかも)が演奏してえらく盛り上がっていたのを覚えている。その場にいて、うろうろ歩くだけで面白いというのが、まさにお祭りっぽい。
 当時の感想をwebサイトに書いているので、読み返してみたのだけれど、我ながら楽しそうに過ごしている。当然クラシック音楽なんて詳しくないし(今も詳しくないけれど)、曲目とか演奏家がとか、ホールの音響が良いか悪いかも分からない。だから曲の感想を書く文章のつたなさは、今より更にひどい。それよりも、「初めてちゃんとクラシック音楽のコンサートを聴いた」とか、「オーケストラの音の大きさを実感した」とか、そういう経験から来る感動が、今でもクラシック音楽を聴き続けている要因のひとつなはず。

「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(LA FOLLE JOURNEE au JAPON) 熱狂の日音楽祭 2007」極私的レポート:
http://konohamoero.web.fc2.com/report/r_la_folle_journee2007.html


 そういう経験を、他の人にもして欲しいんだよね。もちろん、全然興味がない人とか、一度行ってもう行かないとかっていう人はいるはずで、それは仕方ない(仕方ないというか、あとまわし)。でも、クラシック音楽に興味はあるけれど、そもそもどこでどうチケット買って、どういう服装で行って、会場内でどう過ごして、というところから分からなくて気後れしている人には、ラ・フォル・ジュルネって良いと思うんだよね。ラ・フォル・ジュルネに毎年通っている者としては、そういう人をクラシック好きに引き込むためになにができるかを考えても良いと思うんだ。クラシックに詳しくなるほど、「客の質が低い」とか「初心者が多い」とか、選民的になっていく人もいるようだけれど、私からすればそういう偏狭な人が客として集まるコンサートの方が怖い。

 趣味の集まりや催しは、間口が広くて奥行きが深いのが理想だと思う。ラ・フォル・ジュルネには、その可能性は十分あるはず(今だってかなり実現できていると思う)。だから、先にも書いたけれど、ラ・フォル・ジュルネがなくなったりせず、今の方向性で更に発展していくように、色々なことを発言したい。


過去のレポート:2007年2008年2009年2010年2011年

 twitterでのつぶやきもまとめています。
ラ・フォル・ジュルネ2012(東京)極私的レポート - Togetter:http://togetter.com/li/297117


木の葉燃朗のがらくた書斎 >>レポート >>「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(LA FOLLE JOURNEE au JAPON) 熱狂の日音楽祭 2012」極私的レポート

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