木の葉燃朗のがらくた書斎 >>レポート >>「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(LA FOLLE JOURNEE au JAPON) 熱狂の日音楽祭 2011」極私的レポート


「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(LA FOLLE JOURNEE au JAPON) 熱狂の日音楽祭 2011」極私的レポート

 今年も、ゴールデンウィークに行われるクラシック音楽の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ」がやってきました。東京国際フォーラムを中心に、丸の内・有楽町周辺で有料・無料のコンサートが行われる。私は2007年から、毎年通っている。今年は地震の影響で、東京の公演はプログラム変更、規模を縮小した上で実施。それでも開催されることに喜びを感じて、聞きに行きます。感想を随時まとめていきます。

過去のレポート:2007年2008年2009年2010年

twitterのつぶやきをまとめています Togetter「ラ・フォル・ジュルネ(東京)2011感想まとめ」:http://togetter.com/li/131257


【公式サイト・レポート】

【東京以外のラ・フォル・ジュルネ公式サイト】


5月3日(火)

110503lfj02 110503lfj03

 11時頃国際フォーラム到着。例年より人は少ない印象。でも地上広場には例年どおり屋台村も出ていて、食事をしたりお酒を飲んだりしながら無料コンサートが聴ける。これが東京のラ・フォル・ジュルネらしい、という雰囲気。

lfj2011cd とりあえず、公式CD買いました。そして地上広場でモーション・トリオの開演待ち。


11:30〜11:50 モーション・トリオ@地上広場キオスク

 モーション・トリオはポーランドのアコーディオン三重奏。昨年のラ・フォル・ジュルネで始めて聴いた。クラシックだけでなく民族音楽や現代音楽、ミニマル・ミュージックなど様々な音楽の要素を取り入れていて、「アコーディオン三台でこれだけの音が出るなんて!」と驚き、感動したのを覚えている。
 その彼ら。今年は元々のプログラムでは有料公演に出演予定でした。しかし、プログラム変更で有料公演はなしに。でも、来日してくれて、無料公演に多数出演してくれる。
 その最初が、今回の地上広場。盛り上がりました! ブラームスのハンガリー舞曲の演奏が始まると、周りにいる人がわっと集まる。客席も聴きながらリズムに揺れ、最後は一緒に手拍子。聴きながら、曲の素晴らしさはもちろん、みんなで一緒に音楽を聴いて楽しむというそのことに感動して、嬉し泣きする。


110503lfj04 その後、屋台村で昼ごはんを食べて、今年最初の有料公演へ。


公演番号 C-14a
日時 2011年5月3日 12:30-13:30
会場 ホールC

曲目
ベートーヴェン(マーラー編曲):弦楽四重奏曲第11番 op.95 「セリオーソ」(弦楽合奏版)
ヒンデミット:葬送音楽
シェーンベルク:浄夜 op.4(弦楽合奏版)

出演者
横浜シンフォニエッタ
山田和樹 [指揮]

 演奏された三曲の中では、シェーンベルク「浄夜」が特に素晴らしかった。不協和音のようでいて(弦楽器を弾く弓の動きが奏者ごとにそれぞれで、波のように見えた)、まとまった音の部分あり。そうかと思えばハーモニーが美しい部分あり。曲がどのように展開するか、惹きつけられる。
 「セリオーソ」の静と動の対照も、印象的でした。
 指揮者、オケとも同世代(30代前半)で、大学在学中に結成してから共に演奏しているらしい。その若さと協調性が良い方に出て、パワーを感じる演奏だった。


110503lfj01
 今年はプログラム変更により、時間も場所も縮小している。また、国際フォーラム内の店舗も閉店していたり改装中だったりする。そのため、公演やイベントが行われる会場に人が集中している印象。有料公演が行われるホールにも、開場時間には結構な人数が集まっている。また、例えば地下の展示ホールは、完全入替制で無料のコンサートが行われているが、開場前にかなりの行列ができている。いくつか聴きたい公演もあるのだけれど(5/4は小曽根真さんも出演する)、入れるだろうか。
 個人的には、なんとなく、会場内をぶらぶらするよりは目当ての場所を回る感じになっている。時間に余裕があったら、丸の内のエリアコンサート(無料公演)や展示を見に行くのもいいのかもしれない。


公演番号 C-14b
日時 2011年5月3日 14:30-15:40
会場 ホールC

曲目
ブラームス:大学祝典序曲 op.80
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.77
リスト:ピアノ協奏曲第2番 イ長調

出演者
テディ・パパヴラミ [ヴァイオリン]
広瀬悦子 [ピアノ]
ウラル・フィルハーモニー管弦楽団
ドミトリー・リス [指揮]

 協奏曲二曲にブラームスの「大学祝典序曲」という、なかなか豪華なプログラム。
 1階席の左前方の席が取れたので、ステージの様子がよく見える。「大学祝典序曲」でのドミトリー・リスの力強さ。ブラームス「ヴァイオリン協奏曲」はヴァイオリンの独奏が多くて、そこではソリストのテディ・パパヴラミのヴァイオリンの勢いを感じる。リストの「ピアノ協奏曲第2番」は、私がイメージするリストらしい技巧的な部分、そして美しいメロディー、時にはマーチのような勇ましさもある。ピアノを弾く様子を後ろから見ることの出来る席だったので、その美しさと激しさを表現する広瀬悦子の指使いを見ながら聴くことができた。


 そのまま、次の公演の会場のD7へ。雨も降り出して、地上広場を歩くにも傘が要る状況になってしまったので。地下を通ってイベント会場まで行っても良かったのだが、ホールCからホールDだったらそのまま移動して、会場で待機した方が楽な気がして。


公演番号 D-15e
日時 2011年5月3日 16:45-17:30
会場 ホールD7

曲目
ブラームス:3つの間奏曲 op.117
ブラームス:4つのバラード op.10
ワーグナー(リスト編曲):イゾルデの愛の死(楽劇「トリスタンとイゾルデ」より)

出演者
ルイス・フェルナンド・ペレス [ピアノ]

 ルイス・フェルナンド・ペレスのピアノ独奏。ブラームス「三つの間奏曲」は馴染みの曲、馴染みのメロディー。この曲にはなんとなくやさしさを感じる。一方、「四つのバラード」はそれぞれの曲に間を置かず、一気に弾いていくような演奏。その集中力にはいい緊張感があった。


110503lfj05 110503lfj06

 今日最後の公演を聴くまでには少し時間があったので、雨の地上広場で屋根の下夕飯を食べる。今年は、地上広場のステージは雨が降ると客席では傘を差して見る必要がある場所になっているのが残念。ただ、晴れていれば昨年よりも見やすいので、明日以降は晴れることを祈ろう。
 その後、明日以降残席のあるチケットを見て、一枚追加で購入。そして今年初めてラ・フォル・ジュルネの会場になったよみうりホールへ移動する。東京国際フォーラムの隣のビックカメラの上にあるホール。受付までの通路にあまり余裕がないので、早めに行った方がいいと聞いていたため、開場時間には到着。たしかに、ビックカメラに続く階段に並んで、順番に入場を待つような状況。それでも、時間に余裕を持っておけば特に混乱なく入れた。


公演番号 Y-18d
日時 2011年5月3日 19:00-19:45
会場 よみうりホール

曲目
ブラームス:私の眠りはますます浅くなり(低音のための5つのリート op.105より第2番 ヴァイオリン・ピアノ版)
ブラームス:ご機嫌いかが、私の女王様(プラーテンとダウマーによるリートと歌 op.32より第9番 ヴァイオリン・ピアノ版)
ブラームス:おとめの歌(5つのリート op.107より第5番 ヴァイオリン・ピアノ版)
ブラームス:野の寂しさ(低音のための6つのリート op.86より第2番 ヴァイオリン・ピアノ版)
ブラームス:ジプシーの歌 op.103より第1番 ヴァイオリン・ピアノ版)
レーガー:ロマンス ホ短調 op.87-2
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調 op.78 「雨の歌」

出演者
庄司紗矢香 [ヴァイオリン]
シャニ・ディリュカ [ピアノ]

 庄司紗矢香とシャニ・ディリュカのデュオによる、ブラームスの歌曲と、レーガー「ロマンス ホ短調」、ブラームス「ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調」。正直に言えば、聴き覚えがあるのはブラームスのヴァイオリン・ソナタくらいでしたが、二人のつくる音の世界にどっぷりと浸る。庄司紗矢香のヴァイオリンを聴くのは、2008年のラ・フォル・ジュルネ以来。シャニ・ディリュカのピアノも2007年にグリーグを、2008年にシューベルトを聞いて以来。この二人のデュオを聴けたのは貴重だった。


 というところで会場を出ると、20時過ぎ。今年の東京は20時にはほぼすべての公演が終わるんですよね。屋台村や展示ホールのコンサートもそのくらいの時間には終わる。昨年まではここからもう1〜2公演あったので、それに比べると少し寂しいが、節電の現状では止むなしだと思う。夜が早い分、早起きして午前の早くから楽しんだらいいのかな。

 もうひとつ思ったこと。今年は、有料公演のホールでもらえる公演ごとのプログラムは製作が間に合わなかったようです。変更後のプログラム決定がギリギリだったからね。ということで配布がなく、その代わり最新のプログラムが掲載されたタイムテーブルがもらえた。演奏曲目の確認は、このタイムテーブルを見るか、事前にサイトで曲目を確認しておく必要がありそうです。


5月4日(水)

 2日目は午後からの有料公演を聴く予定でしたが、昼頃には東京国際フォーラムへ。到着してすぐに、地上広場で無料公演を聴く。


12:30〜12:50 ファイト・ヘルテンシュタイン@地上広場

 ファイト・ヘルテンシュタインによる、(おそらく)ブラームスのヴィオラ・ソナタは爽やかだった。今日は晴れたので、陽の光と新緑の下で聴くのが気持ちがいい。またこの人が、雰囲気も演奏も端正な感じで清潔感がある。


0504LFJ01 屋台村で昼飯を食べて、いよいよ話題の声楽アンサンブル、ヴォーチェス8の公演へ。

公演番号 Y-28b
日時 2011年5月4日 13:45-14:30
会場 よみうりホール

曲目
ブラームス:われらの父は汝に望む(「祭典と記念の格言」 op.109 より 第1番)
ブラームス:気高き神はいずこ(「祭典と記念の格言」 op.109 より 第3番)
ブラームス:なにゆえに、光が悩み苦しむ人に与えられたのか(「2つのモテット」 op.74 より 第1番)
レーガー:アニュス・デイ(「8つの宗教的小品」 op.138 より 第6番)
レーガー:われらみな唯一なる神を信ず(「8つの宗教的小品」 op.138 より 第8番)
ブルックナー:モテット「この場所は神が作り給う」WAB23
ブルックナー:モテット「正しい者の口は知恵を語り」WAB30
ブラームス:強き盾にて武装する人、その城を守らば(「祭典と記念の格言」 op.109 より 第2番)

出演者
ヴォーチェス8(エイト) [声楽アンサンブル]

 ヴォーチェス8、良かった! 歌声はもちろん、バロック音楽に影響を受けた後期ロマン派の作曲家の声楽曲という選曲も個人的に好みでした。英国には優れた声楽アンサンブルを生む伝統があるのかな。例えば、キングス・シンガーズもイギリスのグループですよね。こうした若くて素晴らしい才能を見つける、ラ・フォル・ジュルネのプロデューサーのルネ・マルタンさんは、やはりすごい人だと思う。
 ヴォーチェス8についてはもうひとつ。アンコールではブラームスの子守唄と、日本でインスピレーションを受けたという「♪トトロ、トトロ」のリフレインを披露。ここで、クラシックの声楽曲だけでなく、ボイスパーカッションなどを入れたポップな演奏もできることが解った。他にも、日本語で曲解説をしてくれる所なども含め、個人的には好感度高かった(アンコールで「これ以上話せる日本語がありません」と英語で話したのも面白かった)。


0504LFJ02

15:00 エリアコンサート「シャニ・ディリュカ(ピアノ)」@丸ビル1階丸キューブ

 そして丸ビルに移動。1階の広場マルキューブで、シャニ・ディリュカさんによる無料のエリアコンサートを聴く。有料公演のチケットが抽選にもれて買えなかったので、このチャンスを逃したくなくて足を伸ばす。
 ご本人の最初のあいさつによると、おそらくリストの曲。丸ビルの一角だから、音響や環境は良くはない。周囲には買い物する人や通り過ぎる人もいる。それでも、私含め客席は静かで、音楽を聴くことに集中していた。ディリュカさんのピアノの音色を中心に、ひとつの世界ができているような、そんな雰囲気。


 せっかく丸ビルまできたので、「特別展 ブラームスとリストの世界 後期ロマン派のタイタンたち」を見る。これも無料。普段行くことのない35階のマーラーの展示を見る。あわせて丸ビル35階からの景色も見る。他にもメイン会場の丸ビル7階ほか、新丸ビル、丸の内オアゾ、東京ビルTOKIAに展示があるのだが、明日までに回り切れるだろうか。

0504LFJ03 0504LFJ04


 とりあえず、私は東京国際フォーラムに戻る。なぜなら小曽根真さんの無料コンサートを聴きたかったので。開演30分前に地下展示ホールに並ぶ。すごい行列。1,000人が座れる展示ホールは一杯で、立ち見も相当数出る。元々は小曽根さんは出演の予定はなかったそうですが、東京のプログラム変更に伴い、「自分にできることがあれば」ということで、無料公演への参加が決まったそうです。

16:30〜16:50 小曽根真(Pf)@展示ホール

 最初と最後は小曽根さんの自作曲。間に、後期ロマン派の作品をアレンジした即興演奏。最初に、「今までリストやブラームスの曲を演奏したことはない」ので、「昨日CDを聴いて、メロディー部分の楽譜がここにあるので、これを元に即興をします」というあいさつがあり、会場が盛り上がる。小曽根さん自身は、「果たして(演奏が)どこへいくやら」というような話もしていましたが、それが期待できるのが小曽根さんならでは。
 印象的だったのは、まずリストの「愛の夢」をバラードに。これも美しかったのだが、次の曲は更にすごかった。「この曲はタンゴにするといいんじゃないかと思った。踊りたい方はそちらのあたりで」と言って出てきたメロディーがブラームスのハンガリー舞曲! これがちゃんとブラームスで、ちゃんとタンゴだった。


 小曽根さんの余韻冷めぬうちに、地上広場でモーション・トリオを聴く。

17:30〜17:50 モーション・トリオ@地上広場

 昨日に引き続き、地上広場でアコーディオン三重奏のモーション・トリオを聴く。ブラームスのハンガリー舞曲1番、5番、ショパンのマズルカ、リストのハンガリー狂詩曲。やはり凄かった。更に、アンコールで披露した(おそらく)オリジナル曲なんて、アコーディオンを打楽器のように叩いて、四つ打ちのダンス・ミュージックみたいになっていた。

0504LFJ06


 地上広場の物販コーナーで、ヴォーチェス8やモーション・トリオを含め、久々にCDを大量買い。オリジナル・グッズコーナーでステッカーも買う。夕御飯も屋台村で食べる。そして今日聴く最終公演のため、ホールCへ。

0504LFJ07 0504LFJ05

公演番号 C-24f
日時 2011年5月4日 19:00-20:00
会場 ホールC

公演名
ルネ・マルタンの“ル・ク・ド・クール”

曲目
ヘンデル:パッサカリア(庄司、ヴァシリエヴァ)
フォーレ:ピアノ三重奏曲 ニ短調 より 第一楽章(庄司、ヴァシリエヴァ、ディリュカ)
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第三番 ニ短調op.108 より 第二楽章(マフチン、児玉)
シューマン:ピアノ四重奏曲 変ホ長調op.47 より 第三楽章(松山、ヘルテンシュタイン、ヴァシリエヴァ、ブラレイ)
細川俊夫(編曲):五木の子守唄(庄司、児玉)
ベッリーニ:「ノルマ」より 清らかな女神よ(ピアノ四手連弾 ディリュカ、広瀬)
ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲 イ短調op.81 より 第一楽章(庄司、松山、ヘルテンシュタイン、ヴァシリエヴァ、児玉)

出演者
庄司紗矢香 [ヴァイオリン]
松山冴花 [ヴァイオリン]
ドミトリ・マフチン [ヴァイオリン]
ファイト・ヘルテンシュタイン [ヴィオラ]
タチアナ・ヴァシリエヴァ [チェロ]
児玉桃 [ピアノ]
シャニ・ディリュカ [ピアノ]
広瀬悦子 [ピアノ]
フランク・ブラレイ [ピアノ]

 「ル・ク・ド・クール」は、例年であれば音楽祭プロデューサーのルネ・マルタンさんがお勧めする演奏家を、アラカルトで聴く形式。今年はその形式のコンサートは明日行われる(今年の東京のラ・フォル・ジュルネのオーラスのコンサート)。
 今日はというと、今年のテーマ作曲家に限らず、被災者を思う気持ちを込めた曲を選曲し、演奏する公演となった。出演者と曲目を見て分かるように、豪華なメンバーによる様々な組み合わせの演奏を聴くことができた。どの曲も、落ち着きのある、心静まるような曲。中でも後半三曲が特に良かった。庄司、児玉のデュオによる「五木の子守唄」。シャニ・ディリュカと広瀬悦子の連弾によるベッリーニ「清らかな女神よ」の美しさ。そしてラストのドヴォルザークのピアノ五重奏曲には、未来への希望を抱けるような力強さも感じた。


0504LFJ08 以上が二日目です。有料公演2、無料公演3、エリアコンサート1と、多くの演奏が聴けて、充実した一日でした。夜が早いのは今日も寂しく感じたけれど、明日最終日も、目一杯楽しみます。


5月5日(木)


 いよいよ最終日。本日聴く有料公演は午前中にひとつ。後は夜のラストふたつなので、その合間は無料公演やエリアコンサートを聴くつもりで出発。


公演番号 Y-38a
日時 2011年5月5日 11:30-12:15
会場 よみうりホール

曲目
望月京:インテルメッツィ IV
*LFJ委嘱作品、世界初演
ブラームス:クラリネット・ソナタ第1番 ヘ短調 op.120-1
ブラームス:クラリネット五重奏曲 ロ短調 op.115

出演者
ロマン・ギュイヨ [クラリネット]
エマニュエル・シュトロッセ [ピアノ]
プラジャーク弦楽四重奏団 [弦楽四重奏]

 望月京作曲の新作は、演奏前に作曲者本人から解説があった。続いて演奏されるクラリネット・ソナタの前菜のような曲を考えて作ったとのこと。ブラームスの時代、ブラームスが影響を受けたバロックや、ベートーヴェン、モーツァルトなどの前の世代の音楽を取り入れながら、現在、過去と時間を行き来するような思いで聴いてもらえればという話だった。私には、そうした過去の作品の引用は分からなかったけれど(すぐに気づかないように取り込んでいたようです)、この演奏はエキサイティングだった。後半は、ピアノは弦を直接弾き、クラリネットも音色ではなく呼吸の音を聴かせる、空ぶかしのような奏法を使っていた。
 続くクラリネット・ソナタは、第1〜2楽章が大らかな雰囲気、第3楽章がリズミカルで舞曲風、第4楽章は切ないメロディーを間に挟みながら、優雅な感じで終わる。クラリネットを全面に使った曲はあまり聴く経験がないのだが、良い曲だった。
 最後のクラリネット五重奏曲も、最初は弦楽器が中心の展開だけれど、徐々にクラリネットの音と調和してきて、第四楽章はバロック音楽を思わせる音色が良かった。


0505lfj01 上記公演が、当初の予定よりも終演時間が遅く(開演前にアナウンスされていた)、地上広場で聴きたいと思っていたモーション・トリオの演奏は聴けず。とりあえず地上広場で昼食を食べて、ヴォーチェス8の公演を待つことに。


ヴォーチェス8@地上広場キオスク

 よみうりホールでの公演は聴いていたけれど、地上広場で聴くとまた違った魅力がある。選曲も、クラシックの曲を歌った後に、その曲をジャズアレンジして歌う。アンコールではブラームスの子守唄と、「トトロ」のメロディーをアレンジした曲を観客と合唱。


 その後、ガラス棟地下での、インターネットラジオottavaの公開生放送を少し聴いて、展示ホールの無料公演へ。


クラール (パーカッション・アンサンブル)@展示ホールキオスク

 三人によるマリンバ連弾のデューク・エリントン「スウィングしなけりゃ意味がない」から始まり、ブラームス「ハンガリー舞曲第五番」、アンダーソン「タイプライター」などをマリンバとパーカッションで演奏。タップダンサーのメンバーによるパフォーマンスも。
 マリンバとパーカッションだと、展示ホールの大きさでは、逆に会場が広すぎて難しい編成だったと思うけれど、楽しませてくれた。


0505lfj02

 その後。国際フォーラム隣の東京ビルTOKIAまで足を伸ばす。ここで「特別展 ブラームスとリストの世界 後期ロマン派のタイタンたち」の中から、シェーンベルクの展示を見る。シェーンベルクについてはあまり知らなかったのだけれど、例えば渡米後にガーシュウィンと交流があったこととか、橋本國彦がシェーンベルクの影響を受けていることとか、色々なことが分かって興味深かった。また音楽だけでなく、絵画や発明にも才能を発揮したことも分かる。シェーンベルクによる絵画が展示されていたけれど、これも音楽と同じように独特の雰囲気がある。
 それから、自分の音楽が新しい芸術であることを信じながらも、それがなかなか受け入れられないことへの苦悩も印象的。渡米前にラジオの放送で話したという言葉が心に残ってメモしたので紹介します。
「人々は決まって精神の未知の領域に踏み出そうという人間を嫌う」、「新しい音楽は出会ったその時は決して美しく思われない。モーツァルトだってベートーヴェンだってワーグナーだって抵抗に遭ったのだ」


 国際フォーラムに戻ると、展示ホールでヴォーチェス8の公演が始まるところだったので聴きに行く。


ヴォーチェス8@展示ホールキオスク

 プログラムは今日の地上広場と同じ。それでも、屋外の地上広場での演奏と、屋内の展示ホールでは、また雰囲気が違う。ここではマイクを通した歌声なので、マイクを通すから出来る曲も入れていて、その点では昨日聴いたよみうりホールとも違う。
 今年のラ・フォル・ジュルネで、最も多く公演を聴いたのはヴォーチェス8ということになる。声楽なので、ある程度幅広い会場でも演奏できる点(これはアコーディオン三重奏のモーショントリオとも共通する利点)、メンバーの若さや好奇心(日本語の曲解説を行った点、日本向けの曲を準備した点)などもあってか、有料・無料で非常に多くの公演を行ってくれた。初めての来日がこの大変な時期だが、それでも精力的に音楽祭を盛り上げてくれたことに、いち観客として感謝。


0505lfj04

 ヴォーチェス8を聴き終えてガラス棟に上がると、ottavaに音楽祭のアーティスティック・ディレクター、ルネ・マルタンさんがまもなく登場とのことで、ブースで待つ。

0505lfj03

 ルネさんからは、今年のラ・フォル・ジュルネの話とともに、来年の構想も発表された。「ロシア音楽の100年」ということで、19世紀後半のロシア五人組(バラキレフ、キュイ、ムソルグスキー、ボロディン、リムスキー=コルサコフ)から、21世紀の作曲家までを取り上げる構想があるとのこと。具体的には、チャイコフスキー、スクリャービン、ラフマニノフ、、ショスタコーヴィチ、シュニトケ、グバイデューリナといった名前が挙がりました。私自身が好きな作曲家もいるので、これは楽しみです。


 ルネさんの話を聴き終えた頃、地下の展示ホールで国立音楽大学の演奏を聴く。


国立音楽大学@展示ホールキオスク

 曲目はバーバーの木管五重奏曲「夏の音楽」。バーバーはアメリカの作曲家だが、やはり後期ロマン派のひとり。今回は有料公演では取り上げられることのなかった作曲家なので、貴重な機会でもあり、音色も新鮮だった。なんとなく夏の昼下がりの、気だるいけれど平和な雰囲気を思わせる曲。


 その後ガラス棟に上がると、ここで再びヴォーチェス8が。ottavaの公開生放送にゲスト出演し、ここでも演奏を披露。次の公演出演までの時間帯ということもあってか、何人かはラフな服装で登場。こうして見ると、海外から観光に来ている若者に見えなくもない。それでも、演奏ではやはり聴いている人を惹きつける。この後単独で一公演、そして最後の公演にも登場して一曲演奏した。本当にタフだと思う。

 その後、地上広場での最後の無料公演を聴きに行く。


アンドレイ・コロベイニコフ@地上広場キオスク

 (おそらく)3曲を、ほとんど曲間を空けずに演奏(曲目は分かりませんでした)。集中力があり、ストイックな演奏。曇り空で夕暮れの地上広場の風景とマッチしていた。


0505lfj05

 最終日の夕食も屋台村で食べて、残り二公演を聴く。


公演番号 C-34c
日時 2011年5月5日 18:15-19:00
会場 ホールC

曲目
シェーンベルク:6つのピアノ小品 op.19
シェーンベルク:月に憑かれたピエロ op.21

出演者
勅使川原三郎 [ダンス]
マリアンヌ・プスール [ソプラノ]
サンガー・ナー [フルート/ピッコロ]
インヒュク・チョウ [クラリネット/バスクラリネット]
ギヨーム・シレム [ヴァイオリン/ヴィオラ]
ジュリアン・ラズニャック [チェロ]
フローラン・ボファール [ピアノ]

 シェーンベルクの「6つのピアノ小品」と、ダンスとコラボレーションをしての「月に憑かれたピエロ」。「月に憑かれたピエロ」では、客席は非常灯も消灯しての上演。音、歌、勅使川原三郎氏のダンス、いずれも異形の美しさ。どう展開していくのか分からないスリリングなメロディ。歌なのか朗読なのか、時には叫び声のような音も発せられるソプラノ。その音に合わせて、ステージ上を大きく使っての勅使川原、そして佐東利穂子の二人による、動きで物語を感じさせるダンス。戦慄にも近い、「すごいものを見て、聴いている」という思いをずっと抱いていました。


 その次の公演までの間、一旦ホールを離れて、ミュージアムショップでグッズなどを見る。今年は展示ホールの無料公演やミュージアムショップ、屋台村などもすべて20時までには終了。例年よりも夜が早くて、なんとなく寂しさを感じる。そんな中、いよいよ今年最後の公演へ。


公演番号 C-34d
日時 2011年5月5日 20:00-21:00
会場 ホールC

公演名 ルネ・マルタンの“ル・ク・ド・クール”

曲目
(1)ブラームス(パウル・ユオン編曲):ハンガリー舞曲第4番 嬰へ短調
(2)ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 op.102 より 第1楽章
(3)リスト:ピアノ協奏曲第2番 イ長調 より 第1楽章
(4)ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 op.83 より 第3楽章
(5)マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調 より 第4楽章 アダージェット
(6)ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.77 より 第3楽章
(7)ブラームス(ヴォーチェス8編曲):子守歌 op.49-4
(8)J.S.バッハ:シャコンヌ BMW1004

出演者
勅使川原三郎 [ダンス]
テディ・パパヴラミ [ヴァイオリン]
庄司紗矢香 [ヴァイオリン]
タチアナ・ヴァシリエヴァ [チェロ]
ボリス・ベレゾフスキー [ピアノ]
広瀬悦子 [ピアノ]
ヴォーチェス8(エイト) [声楽アンサンブル]
ウラル・フィルハーモニー管弦楽団
ドミトリー・リス [指揮]
山田和樹 [指揮]

《演奏者詳細》
(1)ウラル・フィルハーモニー管弦楽団/ 山田和樹(指揮)
(2)庄司紗矢香(ヴァイオリン)/タチアナ・ヴァシリエヴァ(チェロ)/ウラル・フィルハーモニー管弦楽団/ドミトリー・リス(指揮)
(3)広瀬悦子(ピアノ)/ウラル・フィルハーモニー管弦楽団/ドミトリー・リス(指揮)
(4)ボリス・ベレゾフスキー(ピアノ)/ウラル・フィルハーモニー管弦楽団/ドミトリー・リス(指揮)
(5)ウラル・フィルハーモニー管弦楽団/ドミトリー・リス(指揮)
(6)テディ・パパヴラミ(ヴァイオリン)/ウラル・フィルハーモニー管弦楽団/ドミトリー・リス(指揮)
(7)ヴォーチェス8(声楽アンサンブル)
(8)庄司紗矢香(ヴァイオリン)/勅使川原三郎(ダンス)

 ルネ・マルタンが特にお薦めの曲を集めて演奏する「ル・ク・ド・クール」。今年は、前半は東京のダイジェストのように各種協奏曲、交響曲から少しずつ演奏。自分が今年聴いた曲はもう一度思い出して聴き、未聴だった曲は「これが話題になった演奏か」と思って聴き。マーラーの「交響曲第5番」からの「第4楽章」などは、特に印象的。
 そして最後に二曲。ヴォーチェス8のブラームスの「子守唄」は、ルネさんが「平和を感じる曲」と言っていたが、そう言われて聴くとまた違った聴こえ方をする。ブラームスが、当時指揮していた合唱団の団員に子どもが生まれた時につくったというエピソードも、初めて知った。
 エピソードといえば、今回唯一海外から来たオーケストラのウラル・フィルハーモニー管弦楽団は、指揮者のドミトリー・リスが、地震、福島の原子力発電所の問題の後で、団員ひとりひとりに「東京へ行く勇気があるか」と聞いて、「行く」と答えた約60人に、日本の演奏家を加えた編成だったらしい。その話の後に「ハンガリー舞曲第4番」を聴きながら、涙が出てきて仕方がなかった。私は、今年来日出来なかった(しなかった)演奏家を責める気持ちはまったくない。例えばヨーロッパのある国で、地震が起こって首都から100kmくらい離れた場所の原子力発電所になんらかの問題が起きたとする。その時首都で行われる催しに行くかと言われて、行くことを躊躇する思いは、私にもなんとなく分かる。それくらい、ヨーロッパと日本は離れていると思う。しかし、その中で来日してくれた演奏家には、本当に感謝したい。

 少し話がずれてしまった。ラストは庄司(ヴァイオリン)・勅使川原(ダンス)によるバッハのシャコンヌ。ここでも客席の照明を消灯しての演奏。つらい状況にある今の日本を慰め、そして未来を感じるように聴こえ、見えた。
 こうして、当初の上演時間の約二倍、120分で終了。ラ・フォル・ジュルネに行くようになってから、毎年最終日には一番大きなホールで行われる最後の公演を聴くようにしているのだけれど、今年も「ル・ク・ド・クール」を聴いて締めくくることが出来たと思う。


 今年は、例年以上にあっという間だった印象がある。休む間もなく、ぼんやりする間もなく、有料・無料の多くの公演を聴いた(各ホールの公演間の間隔が短かったのもその要因かな)。でも、物足りなさも残る。やはり当初予定されていたのとは異なる(縮小しての)開催だったことも影響している。今、2月時点で公式サイトからダウンロードしていたタイムテーブルを眺めると、「こんな曲や演奏も予定されていたんだなあ」と、存在しなかった2011年のラ・フォル・ジュルネに思いを馳せることもある。
 それでも、中止ではなく、今年もラ・フォル・ジュルネがあってよかった! そして、まだまだ色々な音楽を聴きたかったという思いが、来年の開催が決まっていることで、「また一年頑張ろう」と思える。

0505lfj07

0505lfj06 0505lfj08


木の葉燃朗のがらくた書斎 >>レポート >>「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(LA FOLLE JOURNEE au JAPON) 熱狂の日音楽祭 2011」極私的レポート

inserted by FC2 system