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2003.6.22(日) 荻窪・西荻窪古本屋巡り の巻(2003.7.25掲載)

「古本屋めぐりは、知力と体力を同時に高める最良の手段である」
   ――イタリアの文学者 イルカイナ・ソンナーノの言葉

 というわけで、またもや中央線沿線古本屋巡り。今回は荻窪と西荻窪です。え、 「イタリアにイルカイナ・ソンナーノなんて文学者がいるのか」って? いるかいな、 そんなの。
 ということでいってみましょう。ちなみに、今回は場所がわかりやすいように地図 を準備してみました。こちらもどうぞ参考にしてください。また、荻窪・西荻窪・吉祥 寺の古本屋では「おに吉」という地図入りの古本屋ガイドを無料で配っているの で、訪れた際には是非手に入れましょう。これは便利ですよ。

■荻窪編 南口
 JR中央線を降りて、まずは南口の古本屋をまわることにする。最初に駅前の 森書店へ。ここは入口付近に一般の文庫・新書・雑誌があり、奥のほうに映画・演 芸・自然科学・歴史の本が並ぶ。一番奥のレジの左にはさらにスペースがあって、 思想や文学の本が並ぶ。ここに本に関する本も並んでいる。こういう店が駅前にあ るというのはいいよなあ。
 今日は演芸の本を2冊購入。
・『笑芸人VOL.4 2001年春号 特集:満開! 東京漫才』(2001年,白夜書 房)
 『笑芸人』は高田文夫責任編集の演芸専門誌。俺は定期購読はしておらず、古 本屋で見つけたバックナンバーをちょこちょこと買っている程度なのだが、この雑 誌は密度が濃い。
・竹本浩三『オモロイやつら』(2002年,文春新書)
 吉本興業で脚本・演出を手がけた著者による、吉本芸人のエピソード集。しか し、文春新書にはこういう本も入っているのね。油断がならない。

 最初の店で買い物ができると、幸先のよい気分になるものだ。なんとなくその後 もいい本にめぐり合えそうな気がする。これを一番初めに言ったのは植草甚一氏 らしい。俺は岡崎武志氏や唐沢俊一氏の著書でまた聞き(この場合「また読み」 か)した言葉なのだが、経験としてなんとなくわかる。
 そんな気持ちを持って、次のささま書店へ。ここはまずなんといっても店外の100 円均一を見ずにはいられない。スペースも広く、いい本が多い。俺が100円均一で 買う動機は、「まあ100円なら買おう」か「この本が100円なんてすごい!」のどちら かだ。ささまの均一棚は、圧倒的に後者の方が多い。今日も3冊購入
・萩本欽一『快話術 誰とでも心が通う日本語のしゃべり方』(2000年,飛鳥新 社)
 「欽ちゃん」の、話し方や言葉についての本。立ち読みした限りでは、多分語りお ろしだと思う。俺は子どもの頃から、かなり欽ちゃんの影響を受けている。特に笑 いという点では、影響が染み付いているといってもいいかもしれない。ということで、 どうしても気になってしまうのです。
・金田一春彦『ホンモノの日本語を話していますか?』(2001年,角川書店)
 日本語の特徴について色々な事例を挙げながら書かれた本。上の「快話術」を 手にとった後に見つけたので、こちらも気になって購入。著者は言葉に関する著書 や、学研の『現代新国語辞典』の編纂で知られています。
・チャップリン『チャップリン自伝』(1981年,新潮文庫)
 あのチャーリー・チャプリンの自伝である。チャップリンの映画は見たことがある が、生い立ちなどはほとんど知らず、興味があったので購入。これも欽ちゃんとつ ながっているなあ(萩本氏の尊敬する人物のひとりに、チャップリンがいる)。
 店内も、入口近くの文庫・新書・マンガに始まり、演芸・映画・音楽・写真・文学・ 歴史など、見ているとどんな本でもあるような気になる。店内を一通り見て、文庫の 棚から1冊購入。
・都筑道夫『サタデイ・ナイト・ムービー』(1984年,集英社文庫)
 都筑氏の映画に関する評論・エッセイを集めた本。目次を見るとSFやミステリー の映画が多いようだが、その他にも広く深く取り上げられている。氏は小説に限ら ず、こうしたエッセイ集も面白い。

 ささまを出て、いったん駅前に戻り、今度は南口仲通りを南下する。2〜3分歩く と、左に竹中書店がある。この店は全集と社会科学系の本が多く、一般書は少な い。どちらかといえば、目的を持って訪ねる店だと思う。店頭ワゴンにもハードカバ ーの本が並ぶ。
 ここはやっぱり俺には敷居が高いなあ。ということで店内をさっと眺めて出てきて しまった。

 さらに通りを南下し、右手に病院が見える角を右に曲がる。少し歩くと、常田(つ ねた)書店が見える。住宅街のマンションの1階にあるので、近くまで行かないと古 本屋があるとは気付かないかもしれない。この店は、SF・ミステリー・幻想文学・怪 奇小説(ホラーというより怪奇小説)の専門店。作家ごとに著作がかなりそろってい る。洋書も一部ある。値段は単行本・文庫もけっこう張るが、探している人には欲し い本だろうなあ。ただ、俺にはちょっと手が出なかった。ここでは店頭の均一台に あった本から1冊購入。
・里見とん『文章の話』(1993年,岩波文庫)
 戦前に子ども向けに書かれた文章の書き方の本。著者のこともまったく知らなか ったのだが、内容をぱらぱらと立ち読みしたら面白そうだったのと、値段の安さに 惹かれて購入。ちなみに「とん」は「弓享」を一文字にした字。もとからひらがなでは ない。パソコンだと表示できないのである。著者について後で調べたのだが、大正 時代の白樺派の小説家ということくらいしか解らなかった。もう少し調べてみよう。

 常田書店からさらに北西に進むと、再びJRの線路沿いに出る。そのまま線路に 沿って西に歩くと、竹陽書房がある。ここは、ごちゃごちゃと色々な本が積まれてい る。店内では人とすれ違うことができないくらいだ。探せば面白い本が見つかりそう な予感はするのだが、今日はなんとなく丹念に探す気分になれず、購入はなし。
 ここまでで南側は終了。

■荻窪編 北口
 いったん駅を通って北側へ。青梅街道をちょっと東に進み、八幡通りを北上す る。通りを5分くらい歩くと、荻窪書房にたどり着く。文庫・漫画が中心で、いかにも 町の古本屋という雰囲気が漂う。ここで1冊購入。
・辻真先『TVアニメ青春記』(1996年,実業之日本社)
 ミステリー作家辻真先氏はNHKテレビの黎明期にディレクターを務め(昭和29年 入社)、その後アニメーションの脚本家だった時期がある。これはその頃の回想録 である。当時執筆した脚本も一部収録されている。俺も、氏がかつてアニメーショ ンの脚本家だったことは知っていたが、詳しいことまでは知らなかった。当時のア ニメーションの様子も知ることができそうなので、興味を持って購入。

 荻窪書房を出て、目の前のコンビニエンスストアでジュースを買う。ここまで飲ま ず食わずで歩き回ったので、さすがに疲れた。ジュースを飲みつつ、住宅街を西に 進む。少し歩くと、商店街の教会通りに出る。この通りを駅に戻るように南下する と、新興書店という古本屋がある、はずだった。
 しかし、新興書店はなくなっていた。小さいながらも文庫や漫画を並べていた店 だった記憶があるが、閉店してしまったようだ。やはり、近くにブックオフができた 影響だろうか。なんだか、寂しいなあ。
 そういえば、南口にあった銀河書房もなくなってしまった。ここも小さめの古本屋 だが、比較的新しい文庫や漫画、さらにミステリーやSFが揃っていた記憶がある。 前に荻窪に来たのはおよそ1年前だが、変わらないようで色々変化しているんだな あ。
 最後にちょっと感傷にひたりつつ、荻窪編はこれにて終わり。しかし、まだ西荻窪 があるのです。

■西荻窪 前編
 西荻窪に着いたら、まず昼ごはんを食べようと思っていた。既に午後4時なので 昼ごはんもないもんだが。北口にある中国料理の太陽食堂に行ってみようと思い、 あえて荻窪では食べなかった。ここは西荻ではよく知られているようで、一回入って みたいと思っていたのだ。
 しかし、店に着いた時にはちょうど昼の料理のオーダーが終わっていた。17時に いったん閉めて、夜の営業は18時かららしい。なんてこった! 仕方がないので、 近くにあるひごもんずでとんこつラーメンを食べる。これはこれでおいしかったが、 なんとなく、プロ野球のドラフト会議ではずれ1位をひいたような気分になってしま う。もちろん、店は悪くなくて、あくまで自分の気持ちの問題です。

 気を取り直して古本屋めぐり、いってみましょう。北口の興居島屋(ゴゴシマヤ) へ。ここはなんとなく夏が似合う古本屋という気がする。根拠はないけれど、夏の 暑い盛りにぷらぷらと歩いて訪ねたい、そんな雰囲気がある。ここでは赤瀬川原 平『我輩は施主である』(1997年,読売新聞社)を購入。これは赤瀬川氏が新し い家を建てるまでを書いた小説。とはいえ、登場人物は赤瀬川氏ゆかりの人々だ し、小説の中で完成する家は実際に赤瀬川氏の家なのである。でも、小説。この 完全なフィクションでもなく、かといってノンフィクションとも言い切れないというところ が、面白そう。

 駅前に戻ってから北西へ進み、ハートランドに入る。ここで2冊購入。1冊は萩原 修『9坪の家』(2000年,廣済堂出版)。これは古本フリマの杉並北尾堂の棚か ら購入。ハートランドでは、棚の一部を古本フリマとして有料で貸し出している。そ のため、1件の店に雰囲気やジャンルの違う本が並ぶ。これはちょっと面白いと思 う。この本はまたもや家についての本。約30坪の土地に2階建て9坪の家を建てた 人による記録。掲載されている写真を見て、面白そうだったので購入。
 もう1冊は『続・書斎の復活 知的生活の実践』(1981年,ダイヤモンド社) これはハートランドの棚から。書斎や文房具についての文章を集めた本。神保町・ 早稲田・本郷の古本屋ガイドもある。まだパソコンはおろかワープロさえも普及す る前の時代だが、なかなか面白そうな話が載っている。「書斎をいかに心地よい空 間にするか」ということは、いつの時代も変わらず、難しくも楽しい悩みですなあ。

 ハートランドを出て音羽館へ。今日は店頭均一から2冊見つけて購入。
・殊能将之『黒い仏』(2001年,講談社ノベルス)
 最近デビューした日本のミステリー作家では、この人くらいしか興味がない。とは いえ、殊能氏も1999年デビューだから、ここ2〜3年の間にデビューしたミステリー 作家はまったく読んでいないことになる。推理小説が読書の中心だった学生時代 からはずいぶん遠くに来たなあ。氏の小説についても、古本屋で見つけたら買って 読む程度で、あまり熱心な読者ではないけれどね。
・外山滋比古『文章を書く心』(1986年,福武文庫)
 文章の書き方の本は、昔からなんとなく気になっていて読んでいる。ただ、誰が 書いているかが非常に重要。文章や言葉に関する本は相当出版されているから、 好き嫌いで決めるかないよなあ。俺はこの人の本は好き。『思考の整理学』(1986 年,ちくま文庫)は、面白かったなあ。
 音羽館は店内も一通り見るが、購入はなし。しかし、ここ1ヶ月くらいの間に新刊 で買った本を何冊か発見し、「ああ、もう少し我慢していれば!」とちょっと悔しい気 持ちになる。しかし、これはしょうがないね。「いつか古本屋で買おう」と思っている うちに、新刊書店でも古本屋でも手に入らなくなってしまう方がよほど悔しい。それ なら既に持っている本を見つけて「ああ!」と思うくらいの方がいい。

■西荻窪 後編
 さて、今度は駅の東側、比良木屋に行く。店頭にあった雑誌『STUDIO VOICE 1990年100月号 特集:知る人ぞ知る名雑誌、名番組』(1990年,インファス) を購入。『スタジオボイス』のバックナンバーの中でも、ちょっと気になっていた号。 これまで見た中で一番安い値がついていたので、購入。比良木屋の店内は、入っ てすぐ右の棚が個人的には好き。ここは漫画やサブカルチャーの棚です。他の美 術・音楽・思想などの棚はちょっと気後れしてしまうが、この棚は落ち着いて見るこ とができる。ただ、今回は店内では購入なし。

 比良木屋からさらに東に進んで、JR高架線下のニヒル牛を覗いてみる。ここは 古本屋ではなく、たくさんの人のつくった作品が並ぶギャラリー。しかし、今日は店 内でイベントが開かれていて、いつもと違う雰囲気にびびってしまい、店内をちょっ とだけ見て出てきてしまった。我ながら小心者だぞ、俺。

 ニヒル牛から南に進み、神明通りのカノポスへ行く。前回訪れた際、「定期的に 来てみたい」と思ったが、やはりここはなんとなく自分がいいと思う本が多い。今日 は2冊購入。
・都筑道夫『キリオン・スレイの敗北と逆襲』(1989年,角川文庫)
 推理小説の短編集。キリオン・スレイというのは、探偵役の風変わりなアメリカ人 の青年。都筑氏の推理小説の魅力は、推理小説としての面白さがしっかりあって、 その上で色々なうんちくが楽しめるところ。氏には膨大な著作があるが、せめて文 庫本だけでも少しずつ集めていこうと思っている。
・如月小春『都市の遊び方』(1986年,新潮文庫)
 著者は2000年の12月に44歳の若さで亡くなった劇作家。俺には『週刊ブックレビ ュー』(NHK-BS)の司会としての印象が強い。この本は1980年代の東京を歩いた 記録。最近なぜか興味があるジャンルです。

 カノポスを出て、住宅街を抜けるようにして西へ進み、スコブル社へ。今回なぜが 住宅街を通ることが多いが、これは古本ガイド「おに吉」を持って歩いているから だ。これまでは古本屋をまわるのにいったん駅や大通りに出ることが多かったが、 「おに吉」の地図を見ながらだと、地元の人が歩くような道を通って、だいぶ近道が できる。これは効率がいい。
 スコブル社では購入はなかったが、ここではとにかく大量の本の間を歩いて、棚 を見るのが楽しい。日光浴ならぬ古本浴といった感じか。古本が好きじゃない人は 「えー」というかもしれないが、古本好きは本の中を歩くだけで元気になるのです よ。俺だけかもしれないけれど。

 さて、そろそろ本日の古本日記も終わりに近づいてきた。最後の目的地、北尾堂 ブックカフェの開かれている西荻サパナを訪ねる。6月末まで期間限定の古本屋+ カフェというお店。店内は6〜7人のお客さんでにぎわっていた。店主の北尾トロさん の飼い猫、モーにみんな釘付けになっていた。たしかに、そんなに猫好きでない俺 が見てもかわいい。好きな人にしたらたまらないだろうなあ。
 店内でカフェオレを飲みつつ、本を見る。2冊購入
・串間努 編『ミニコミ魂』(1999年,晶文社)
 様々なジャンルのミニコミを紹介した本。ミニコミとは、個人やサークルが発行 し、無料で配布したり、即売会や一部の書店で販売されたりする雑誌のこと、と思 ってもらえればいいだろうか。エッセイやコラムのような文章を集めた本を指すこと が多い。ちなみに小説やマンガの場合は「同人誌」と呼ばれるようだ。かなり厚手 で読みごたえがありそう。ミニコミに対しては、昔から漠然とした憧れがあるので す。
・グルーチョ・マルクス『グルーチョ・マルクスの好色一代記』(1993年,青土 社)
 喜劇俳優マルクス兄弟のひとり、グルーチョ・マルクスの本。しかし、グルーチョ・ マルクスの本が日本語で読めるなんて思わなかった。まあ、俺が不勉強なだけな んですが。

 その後も店内でのんびりと過ごす。屋上に上がると、西荻窪のホームがすぐ前に 見える。屋上で椅子に座って、夜の風を受けながら、自分と古本の未来に思いを 馳せたりする。というのは嘘です。そんなことをするのは柄じゃない。実際は、屋上 で時間を忘れてぼーっとしていた。なんとも贅沢な過ごし方だ。それからふたたび 店内で店主の北尾さんと本の話などしながら、閉店間際までお邪魔してしまった。

■まとめ
 ということで、今回の荻窪・西荻窪の古本屋まわりは終了。ちなみに、帰ってきて 買ってきた本の重さを量ったら5kgありました。これを「まあまあの収穫かな」と感じ てしまう自分がちょっと怖い。




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