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2003.5.9(金) 高円寺よ、俺は帰ってきた! 〜高円寺古本屋めぐりの巻  (2003.6.6掲載)

 今回は、約1年ぶりに高円寺の古本屋へ行ってきました。思えば、昨年訪れた際 は高円寺の西武古書会館での古本市は開催していたものの、他は軒並み休みと いう状態で、いつか再訪をと思っていたのである。
 この日高円寺にある円盤というお店で、ライターでありオンライン古本屋杉並北 尾堂店主の北尾トロ氏がイベントを開催することもあり、訪れることを決めた。

さっそく古本屋めぐり開始
 ということで、JR高円寺の駅に降り立つ。しかし、見た目は普通の街だよなあ。駅 のそばには商店街があって、そこから離れると住宅街が広がる。知らない人は、こ の街に10件近い古本屋があるとは思うまい。古本屋以外にもライブハウスやCDシ ョップなど、色々と個性的な店がある。
 まずは、イベントが行われる円盤の場所を確認する。中央線の高架下(南側)を 阿佐ヶ谷に向かって五分くらい歩くと、「ここかな」と思われる建物にたどり着く。な にせ大きな看板も特になく、建物も普通のマンション風なので、うっかりしていると 見逃してしまいそうだった。しかも、ちょうど「あれ、もう住宅街かな」と感じるくらい の場所にある。しかし、建物の一階の郵便受けに「円盤」の文字を見つけ、間違い ないことを確認する。

 その後、JRの高架下にある球陽書店(支店)都丸書店(支店)へ。どちらも店頭 の均一台のスペースが広く、じっくりと見てしまった。球陽書店の店内は、音楽・映 画・美術に関する本が多い。都丸書店は人文科学・文学など、硬い本だがいい本 が多い印象を受けた。自分が興味のあまりない分野でも、なんとなく棚を見たくな ってしまう。両店あわせて、30分くらい滞在しただろうか。残念ながら購入はなかっ たが、高円寺の古本屋の雰囲気を充分感じることができた。幸先はよさそうだ。
 ちなみに、JRのガード下は古本屋以外にも、中古CDショップや、アジア系雑貨の 店「元祖仲屋むげん堂」などもあり、ぶらぶら歩くとなかなか面白い。決して店の数 は多くないのだが、ひとつひとつの店の濃度が濃いと思う。

 今度は駅の北口に出て、駅前の球陽書房本店へ。ここは、外から見ると町の古 本屋といった感じなのだが、小さな店内には大量の本が詰め込まれている。小説 が中心だが、映画や美術関係の本も多い。店頭に並んでいる雑誌も、ちょっと品 揃えが違うと思わされた。俺が訪れたときは、旺文社がかつて発行していた 『Omni』(オムニ)という科学雑誌のバックナンバーが並んでいた。
 球陽書房のほぼ向かいには、都丸書店本店がある。ここは歴史の本を中心にし た社会科学の本がほとんど。ちょっと自分には手が出ない本が多かったなあ。とり あえず店頭本は見る。
 これら二店でも購入はなし。ううむ、なんだか本を買わないと不安になってきた ぞ。まあ、まだまだ店はあるので、めげずに行こう。

 駅から北西に向かってしばらく歩くと、青木書店が見えてくる。ここも、いかにも昔 ながらの商店街の古本屋といったたたずまい。小説があって、ノンフィクションがあ って、社会科学系の本やビジネス系の本もあり、文庫や新書もある。ここで二冊を 購入。高橋源一郎『平凡王』(1996年,角川文庫) と、いしいひさいち『いしい ひさいちの問題外論13』(1998年,チャンネルゼロ)。『平凡王』は、高橋氏の 主として小説や本以外の話題のエッセイを集めたもの。1990年前後の世の中の様 子も取り上げられており、面白そう。『いしいひさいちの問題外論』は、氏の4コママ ンガ集の中でも、特に時事的な話題の多いシリーズ。政治や経済からスポーツま で、ちょっと前の懐かしい話が多い。いしいひさいちの本は、全部集めるのは根気 がいるが、見つけたものからちょこちょこと買っている。

 この2冊を持って青木書店を出て、再び駅に戻る。今度は駅から東北に向かい、 高円寺文庫センターへ。ここは新刊書店だが、品揃えに特徴があり、また杉並北 尾堂の出張古本コーナーもあるので(これは5月で終了してしまったようです)、一 度見たいと思ったのだ。商店街へ向かう道の手前をちょっと入ったところにある。 外見は普通の町の本屋さんといった感じだ。もう少し怪しい雰囲気を予想していた のだが、ちょっと違いましたね。
 しかし、中は色々な人が話題にするだけのことはある。中も見た目は普通の本 屋で、近所の人も普通に本を買っているのだろう。しかし、ところどころに「なるほど ねえ」と思わされる部分がありました。店頭にはチラシやフリーペーパーが置か れ、店内もミニコミや個人が作成したグッズなどが一般書籍と違和感なく並んでい る。並んでいる本にも特徴がある。例えば文庫本では、荒俣宏や赤瀬川原平など の本が多く並んでいたのが印象に残った。サブカルチャーに強いと言われる理由 が、なんとなくわかる。
 なお、店名は「文庫センター」になっていますが、文庫専門店ではなく、単行本や 雑誌、マンガもあります。それでも、本日ここで買ったのは文庫本だった。
 G・バタイユ/生田耕作 訳『眼球譚<初稿>』(2003年,河出文庫)。バタイユ がオーシュ卿名義で書いた小説。バタイユは、学生の頃卒論の参考文献として『エ ロティシズム』(澁澤龍彦 訳)を読んで、ぜんぜんわからなかった思い出がある。こ の『眼球譚』は、エロティシズム文学であり、それとともに様々な思想や哲学がちり ばめられたすごい小説だという噂を聞いたことがあった。いつか読みたいと思って いたところに、この度新しく文庫が出たので、購入。
 澤田隆治『決定版 私説コメディアン史』(2003年,ちくま文庫)。これも新刊。 著者は「てなもんや三度笠」のディレクターや、「ズームイン!朝!」、「花王名人劇 場」などの企画を立ち上げ、現在もお笑い界の仕掛け人として活躍している。お笑 いに関する特番などでは、氏の名前を見ることも多い。
 演芸・コメディに関する本は日頃からちょこちょこと集めて読んでいるが、この本 はコメディアンの紹介が中心。これまでにあまり読んだことがない内容だ。俺が読 むのは漫才や落語の本が多いからね。榎本健一に始まり、森川信・藤田まこと・南 利明・関孫六などのエピソードが紹介される。横山やすし・西川きよし、笑福亭仁 鶴、桂三枝なども登場する。

 この2冊を買って、高円寺文庫センターを出る。帰りがけに。店頭で高円寺を案 内した地図(フリーペーパー)をもらう。商店街にあるお店が数多く紹介されてい て、見ているだけでも面白い。
 文庫センターを出て少し北に行くと、高円寺純情商店街の入口にさしかかる。そ ばには西部古書会館がある。ここでは土日に定期的に古書展が開かれている。し かし今日は開催されていないので、そのまま商店街に向かう。商店街の中に竹岡 書店がある。
 ここは噂には聞いていたが、すごい。どこまでが売り場でどこからが倉庫かまっ たく検討がつかない。それくらい本棚が林立し、その棚の前にも本が詰まれてい る。ジャンルも、なにが置いてあると言えばいいのか。なんでもありそうな気がす る。とりあえずすぐ見えるところには文庫本や雑誌が多く並んでいた。足を踏み入 れても怒られなさそうな部分を見たが、購入はなし。雰囲気に圧倒されてちょっとび びってしまい、こそこそと出てくる。
 ちなみに、この店は通りを挟むように二店舗が向かい合っているのだが、今日営 業していたのは北側の店だけだった。

高円寺後半戦、そして
 さて、高円寺北口は以上。ここまででもかなりのボリュームだが、この後もまだま だ続きます。とりあえず駅まで戻り、駅のそばのチェーン店風の定食屋で昼飯を食 べる。

 南口を出て、南(営団丸の内線の新高円寺駅方面)に向かう大通りにある飛鳥 書房に入る。ここは入口から奥に向かって二本の通路があり、通路の両側に本棚 が、そしてその前にも本が積まれている。どこかで見た雰囲気だと思ったが、荻窪 南口の竹陽書房にレイアウトが似ている。そう思って見ると、入って右に新興宗教 やオカルト系の本が並ぶところも似ている。見える範囲で並んでいる本を眺めてい く。一般的な文庫やマンガも多い。しかし、購入はなし。
 飛鳥書房を出て西に進み、パル商店街へ入る。ここは駅のすぐ南から続くアーケ ード街。ここを南下し、アーケードがなくなったあたりで大石書店にたどり着く。ここ は、すっきりしていて綺麗な感じのお店。並んでいる本は、文科系・理科系ともに硬 め本が並ぶ。その他にも一般的な小説や文庫もある。実は本を見ながらお店の方 の会話をこっそり聞いていたのだが、並べる本や値付けなどへの考え方がしっか りしていることをうかがわせる内容だった。しかし、残念ながら購入はなし。

 ここまでで時間は午後四時。行こうと思っていた古本屋はすべてまわり終えてし まった。ううむ、これからどうしよう。どこかで時間をつぶすにはちょっと時間が長 い。イベントの北尾堂ナイトの開始は七時。商店街を駅に向かってぷらぷら歩きな がら考える。駅のそばにある新古本屋DORAMAに入ってみたりする。ここは文庫・ マンガ・単行本・CD・ビデオ・ゲームなどを扱う店。一通り店内を眺め、庄司浅水 編著『奇談千夜一夜』(1969年,現代教養文庫)を購入。世界中の変わったも の・こと・人の話を集めた本です。
 そのまま駅まで戻ってきて、缶コーヒーを飲みながらぼんやりする。「高円寺は基 本的にはここで暮らす人のための町だよなあ」と思う。よそから遊びにきた人のた めというよりは、周囲の町も含めた近所の人のための町。まあこれは、この高円 寺の雰囲気にどっぷりつかりきっていない俺が悪いのか。どっぷりつかれば、非常 に居心地がいいことは間違いないだろう。もちろん、今日も居心地はいいんだけれ どね。

 まあ、そんなことを考えていてもしょうがない。これからの時間の使い方を考えよ う。電車で一駅の中野や阿佐ヶ谷に行ってみるのもいいなあ。中野ブロードウェイ も最近行ってないなあ。阿佐ヶ谷の北口には、ヴィレッジヴァンガードの経営する イナーという飲食店ができたんだよなあ。どうしようかなあ。
 …よし! 吉祥寺に行こう!
 自分でもこの辺の思考はよく解らんのですが、まあどうせ近くまで来たのだし、 本すうさい堂におじゃましようかと思ったのである。というわけで中央線に乗って一 路吉祥寺へ。
 しかし、すうさい堂は仕入れのため臨時休業であった。とほほ。事前に確認すれ ばよかった。だが、めげてもいられないので吉祥寺の本屋をまわる。まずは五日 市街道沿いの藤井書店へ。ここで三冊購入。
 毎日ムック・アミューズ編『二〇〇二年版 知を鍛える 書店の大活用術』 (2002年,毎日新聞社)。大型書店・個性的な書店を写真入りで紹介した本。こう いう本を読むと、がぜん本屋に行きたくなる。知らない本屋もまだまだたくさんある なあ。
 別冊宝島『映画宝島 怪獣学・入門!』(1992年,JICC出版局)。ここのとこ ろなぜか特撮・怪獣映画に関する本に興味を持っている。そんな興味からこの本 をぱらぱらとめくってみたのだが、執筆者がなかなかすごい。赤坂憲雄・長山靖 生・呉智英・みうらじゅん、などなど。編集は町山智浩が担当している。内容は、東 映の怪獣映画とウルトラシリーズが中心。
 佐藤大 著・フロッグネーション 編『メイキング・オブ・カウボーイビバップ レ ックレス・プレイヤーズ』(1999年,メディアファクトリー) 。「カウボーイビバッ プ」は1998年に放送されたテレビアニメ。これがまあ、BGMにはジャズが使われる わ、内容はSFとハードボイルドの雰囲気を併せ持っているわで、当時はずいぶん 夢中になって見たのであった。そのキャスト、スタッフへのインタビュー集。
 吉祥寺では、その他古本センターヴィレッジヴァンガードなどをうろうろする。駅 前にできたブックオフにも行ってみる。しかし、典型的なブックオフだ。立ち読みで 時間をつぶしている人が目立つところも、店内で流れるPR放送も店員の機械的な 「いらっしゃいませ」も、いかにもブックオフらしい。その雰囲気が嫌で、本を見るこ ともなく出てきてしまった。
 本当はよみた屋にも寄りたかったが、時刻が午後六時をまわったので名残惜し い思いを抱きつつ高円寺に戻る。またの機会が必ずあるさ。

 高円寺に戻り、円盤に行く前にゴジラやに行くことにする。ゴジラやというのは、 古いおもちゃなどを販売しているお店です。実は昼も行ってみたのだが、開いてい なかった。そこで夕方にもう一度行ってみようと思ったのだ。そう思って歩いている と、なんと駅のそばで今日のイベントの主催者、北尾トロさんにお会いする。北尾 堂ナイトの話などしながら円盤へ向かい、後ほどおじゃましますと伝え、ゴジラやへ 向かう。
 ゴジラやは、面白かった。俺には手が出ない値段のものが多いが、見ているだけ でも面白い。ソフトビニールの人形や、プラモデル、レコードや昔の雑誌など、自分 が小さい頃に見た記憶があるものも多い。あまり大きい店ではないが、飽きないな あ。
 しばらく店の中を見てから、円盤へ向かう。しかし、まだ準備途中ということで、し ばし店の前で待機。七時に開場し、ほぼ一番乗りに近い感じで店内へ。ここは、イ ンディーズのCDレーベル「Ozdisc」が経営するお店。CDや古本を販売しており、昼 は喫茶店・夜はバー、そして定期的にイベントも開催している。ここからは、イベン トレポート風に紹介していきましょう。

いよいよ北尾堂ナイト開幕
 まずは、北尾トロさんが色々なCDをかけるDJタイム。まだイベント開始というより もお客さんの集まるのを待つ、といった雰囲気で、やってきたお客さんもCDを見た り、本を見たりしている。俺も古本の棚が気になって、思わず物色してしまう。その 中から手塚眞『ヴィジュアリスト』(1990年,新書館)を購入。ヴィジュアリスト(こ れは氏の造語)であり、手塚治虫の息子でもある氏のエッセイ集。最近氏の『天才 の息子』(2003年,ソニーマガジンズ)を読んでいたので気になって購入。
 その後、お客さんもぼちぼち集まりだし、イベントが開始となりました。まずは、北 尾さんとライターの下関マグロさんによるトーク。下関さんの作っているパイ投げビ デオ(女の人がドリフのコントのようにパイをぶつけあうビデオ)を写しながら、ライ ター家業についての話が繰り広げられた。途中から、お客さんとして来ていたライ ターの吉村智樹さんも飛び入りで加わり、色々な話が飛び出した。吉村さんの最近 おもしろかった本として佐藤和歌子『間取りの手帖』(2003年,リトルモア)が取り上 げられ(これは本当にある変わった間取りの部屋を紹介する本)、今までに見たこ とのある変な部屋の話で盛り上がった。特に、広さ1メートル四方で立って入る風呂 の話は面白かったなあ。
 続いては北尾さんと、ラッパーのイルリメさんとの古本トーク。イルリメさんはかつ て大阪の古本屋で働いていたことがあるそうで、色々な話が飛び出した。古本だけ でなく、食玩やフィギュアなども売っていた店だったようで、そうしたグッズをいかに 仕入れるかとか、古本屋に来る変わった人々など、働いていた人ならではのエピソ ードを聞けた。北尾さんからも、お客さんの下に出張買取りに行った際の話(もの すごく汚い部屋で古本の査定をした話など)を聞くことができた。
 それから、北尾さんが撮影した短編映画のビデオ上映。これまでの爆笑トークと はちょっと雰囲気の違う内容が、またよかった。コメディ風の「西荻のふたり」(サイ レント映画)、「結婚記念日」、それから感動ものの「定年退職の日」の三本立て。 個人的には、三本目がよかったなあ。BGM(たぶんモンゴル800だと思う。くわしく わからなくて申し訳ないですが)がすごく効果的に使われていて、思わずちょっと泣 いた。上映後、北尾さんが「みんな真剣に見ているから怖かったよ」とおっしゃって いたが、真剣に見てしまうだけのものがある、引き込まれてしまう映像だと思ったな あ。
 そしてラストは、エミ・エレオノーラさんのライブ。これがまたすごい迫力だった。間 近で生演奏を聴くこと自体が初めての経験だったので、とにかく圧倒されてしまっ た。ピアノの弾き語りが1曲と、ピアノとアコーディオンを同時に引きながら(これは 目の前で見ると本当にすごい)1曲。どんなジャンルの曲といえばいいのかわから ないのだが、とにかく会場が独特の雰囲気に包まれた。
 以上でイベントは終了。北尾さんにあいさつをして、円盤を出る。帰りは、すうさい 堂のご主人と駅まで一緒に向かう。実はイベントの途中でいらしていて、後半は一 緒にイベントを見ていたのでありました。本日の仕入れの成果はかなりのものだっ たようで、話を聞いていて、またすうさい堂さんにおじゃまするのが楽しみになっ た。

 ということで、自分ではかなり盛りだくさんだったと思う今回の古本日記、これにて 終了です。これで、中央線沿線の古本屋めぐりも一段落かな。まあ、6月には西荻 窪で「北尾堂ブックカフェ」が開催されるので、近いうちにまた行くことにはなりまし ょうが。




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