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2003.2.26(水) 陽のあたる場所へ! でも本は日陰に置いたほうがいい 〜 池袋サンシャイン 古本まつり の巻 (2003.3.23掲載)

はじめに
 思い返してみると、2月はあまり古本を買わなかった。古本どころか本そのものも 買っていなくて、雑誌や漫画を含めても26冊。これは、1月に買いまくった反動だと 思う。ちなみに1月に買った本は47冊(漫画・雑誌含む)。
 そんな2月、俺にとっての大きなイベントは池袋サンシャインシティで行われた「サ ンシャインシティ大古本まつり」であった。2月21日(金)〜3月2日(日)までの開催期 間のうち、真ん中あたりの2月26日(水)に行ってきた。今回はその模様をお送りし ます。ちなみに、タイトルはいつものように適当です。本は日陰に置いたほうがいい のは本当ですが。

古本市に入る前に
 2月の下旬というのは、色々あって気分が落ち込んでいた。そんな自分を奮い立 たせるためにも古本を買おうと思い(この発想がすでにどうかと思うが)、俺は池袋 に向かった。目指すは池袋サンシャインシティ、ワールドインポート4階催事場だ。 ちなみに、「サンシャインの古本市」というと、今回行った「大古本まつり(年1回開 催)」と、地下で行われる「サンシャインシティ・アルパ 古本掘り出し市(年7回程度 開催)」がある。
 しかし、このワールドインポートの催事場は、思い出深い場所である。大学生の 頃、企業の合同会社説明会がここでよく開かれたのだ。複数の企業が出展して、 会社の説明や応募書類の配布などを行う。結構頻繁に参加したものだ。他にも新 宿やら有楽町やら、行ったよなあ。まあ、結局内定までもらった企業はなかったけ どね。
 そんなことを思い出しながら会場に着くと、向かいのホールで調理技術コンクー ル全国大会(グルメピック2003)が行われていた。夢や希望に燃える若人を横目に 見ていると、「俺、なにやってんだろう」という気持ちに襲われかける。そんな気持ち を振り払って、そそくさと古本市の会場へ。まあ、もしも古本コンクール全国大会 (古本ピック)が開催されたら俺も参加してやるさ。なにを競うのかわからないけれ ど。
 古本まつりの会場に入る前に、隣で同時開催されていた「中古CDレコード祭り」 を覗く。音楽にはそれほどのこだわりもないし、レコードもプレイヤーを持っていな いので収集の趣味はないのだが、会場をひとまわりする。ここではビデオを1本購 入。
・『イッセー尾形ベストコレクション2001 大家族・仕事編』(2002年,ポニーキ ャニオン)
 イッセー尾形の一人芝居のビデオ。この人の一人芝居は好きで、残念ながら生 で見たことはないのだが、テレビの劇場中継などは欠かさず見るようにしている。 このビデオも手ごろな値段だったし、これまで見たことのないネタばかりだったので 購入。
 さて、場の雰囲気に慣れたところで、いよいよ古本まつりの会場に突入だ。

古本市でのあれこれ
 まずは古本まつりの全体的な雰囲気から。ぱっと見は、たくさんの古本屋が出展 して、大量の古本が並んでおり、デパート古本市と同じような感じだ。しかし、レジな ども各古本屋が担当しており、どちらかといえば神保町などで行われる古書展に 近い(ちなみにデパートでの古本市は、レジはそのデパートの店員が担当するの が普通)。デパート古本市だと、レジ係が古本について質問されてあわてている様 子なども見受けられるが、さすがにここでは古本屋の店主さんや店員さんが的確 に答えている。
 さて、ここからはいつものようにひとつひとつの棚を歩いて見ていく。しかし、学生 風の若い客が多く、うるさい。入口すぐそばに最近のアイドル写真集や音楽雑誌が 置いてあるので、偶然立ち寄った連中が群がっているのだろうか。向かいの調理 コンクールを見に来た人々も、暇つぶしに覗いているようだ。にぎわっているという 点では成功しているのかもしれないが、俺のようにゆっくり見たい人間にとっては 邪魔だ。

 それでも棚自体は様々なジャンルの本が比較的まとまって並んでおり、見やす い。それから本以外にも古いおもちゃや漫画なども並んでいて、普段はあまり見な いのだが、ちょっと興味を惹かれた。漫画のコーナーでは桜玉吉『しあわせのか たち 愛蔵本1〜3』(2000年,アスペクト)を見つける。かつて『ファミコン通信』 (アスキー)で連載されていた漫画。初期のゲームパロディ漫画から、後期の日記 漫画まで、小学生から中学生の自分に多大な影響を与えた作品。雑誌掲載時と 同じサイズでの復刻版(最初の単行本は縮小されていた)で、値段もセットにしては 手ごろだったので、購入を決める。
 しかし、この本がピンチを招くことに、持ってから気がついた。なにしろ、横20cm ×縦30cm×厚さ2cmの本が3冊である。これをもって会場内をまわるのはつらい。 腕がだるくなる。その状態で本棚から興味がある本を引き出し、中を見る。欲しい 本なら腕に抱え、そうでもない本なら棚に戻す。あまりに大きい本を引き出す場合 は、棚の手前の平台に一旦本を置くが、平台にも本はあるので、あまり長く置くと 迷惑になる。そして欲しい本が増えると、当然抱えている本も増え、腕への負担が 大きくなる。まさに古本地獄!
 しかし、そんな俺に救いの手が。
「よかったらカゴ使ってください」
 という声とともに、古本屋のおやじさんが買い物カゴ(スーパーにあるようなもの) を手渡してくれた。多分、見るに見かねたという感じだったのだろう。ありがとう、お やじさん! しかし、俺も気がつけよ。催事場で行う古本市といえば、普通は買い 物カゴがあるだろうが。

 ともかく、カゴに本を入れてようやく楽になった俺は、再び本探しに集中したので あった。
文庫本がまとまっていたコーナーから、次の2冊を見つける。
・都筑道夫『目撃者は月』(1998年,光文社文庫)
・東郷隆『定吉七は丁稚の番号』(1994年,講談社文庫)
 都筑道夫の文庫本は、この古本日記を読んでいる方ならご存知だろうが、俺は こつこつと集めている。今日も一冊。もう1冊の『定吉七(サダキチセブン)は丁稚の 番号』は、タイトルでピンと来る人もいるかもしれない。これは「OO7シリーズ」のパ ロディ。著者の東郷隆氏は、『戦場は僕らのオモチャ箱』(1982年,徳間書店)とい う軍事評論や、近年は歴史小説で知られているが、この「定吉七」シリーズも隠れ た名作。本家「OO7」の筋にほぼ忠実ながら、日本を舞台にして東西冷戦を関東と 関西の争いに置き換えて描くはちゃめちゃな内容。でも、面白いんだよ。角川文庫 版(1985年)を読んだことがあるのだが、再読したくて購入。
 それから、最近東京についての本にちょっと興味が出てきたので、こんな本も購 入。
・陣内秀信:文/小林雅祐:写真『東京キーワード図鑑』(1989年,ちくまライ ブラリー)
 都市論などの難しい話は敬遠してしまうが、この本は写真も豊富で、1980年代の 東京について書かれているので、興味を持った。筑摩書房から出ているというのも 購入した動機のひとつだな。

 本を抱えて会場内をうろうろしていると、面白いものを見つけた。映画のポスター やチラシがまとめて売られていたのである。映画は自分にとって興味のあるジャン ルではないが、これは面白かったねえ。昔のヤクザ映画やピンク映画のポスター なんて、今見ると相当シュールだぞ。青地に白く「奇妙な変態女」と書かれただけの ポスター(裏に映画の紹介が書いてある)なんて、思わず買いそうになった。自分 に「どこにも飾れねえよ」というつっこみをして、思いとどまったけど。
 もちろん、そういう変り種だけではなく、硬めの本(文学・社会科学系)も豊富だっ た。そういった本は流すように見ていたのだが、キリスト興関係の本が並ぶ棚に次 のような全然関係ない本が置いてあったりした。これだから油断できないのだ。
長谷邦夫『快読術 ブック・トゥ・ザ・フューチャー』(1990年ダイヤモンド社)
 著者は漫画家であり、スタジオゼロ・フジオプロなどのアニメプロダクションでも活 躍した。トキワ荘の住人たちとも交流がある。トキワ荘に関する文章や漫画を読ん だことがれば、一度は見たことがある名前だろう。そんな氏による読書論。トキワ 荘にも読書論にも興味を持っている俺としては、その場で購入を決める。

 その他、購入した本をまとめて紹介しよう。
・都並敏史『都並流勝つためのサッカー』(2000年,講談社)
 かつてJリーグのヴェルディ川崎(現 東京ヴェルディ1969)・アビスパ福岡・ベルマ ーレ平塚(現 湘南ベルマーレ)、そして日本代表で活躍した都並敏史のサッカー 論。現役引退後のコーチ・評論家としての視点で書かれている。
 ちなみに氏は、現在アルゼンチンでコーチの修行中。戻ってきたらJリーグの監 督をやって欲しいよなあ。実は俺は現役時代からの氏のファンである。日本代表 のアメリカワールドカップ予選を都並氏を中心に記録した、一志治夫『狂気の左サ イドバック』(1997年,新潮文庫)なども、特におすすめの本。
・田中雄二『電子音楽イン・ジャパン1955〜1981』(1998年,アスキー)
 日本にシンセサイザーが入ってきてから、1980年前後の「テクノ・ポップ」の流行 までをつづった相当分厚い本(四六版二段組で約700ページ)。シンセサイザーや シーケンサーのような楽器や、海外・国内のミュージシャン・CDなども紹介されてい て、読み応えがありそうだ。俺の好きなYMOに関する記述も多い。
・雑誌『東京人No.129 特集:神田神保町の歩き方』(1998年,教育出版)
 これはもうタイトルだけで購入決定ですね。執筆者も、逢坂剛・唐沢俊一・坪内祐 三・川本三郎・松田哲夫・岡崎武士など、いかにもといった面々。付録の「神田神 保町マップ」が欠けていたのに後で気付いたが(ビニールパックされており、なにも 記載がなかった)、まあ手ごろな値段だったし、いいか。

 これらをカゴに詰めて、清算しようとしたのだが、その前にレジの向かいに作家 の直筆原稿がケースに入って展示されていたのを見つける(これも売り物)。これ もまた興味深かった。澁澤龍彦・山田風太郎・赤瀬川原平・村上龍・池波正太郎・ 淀川長治といった面々の直筆原稿や書簡、サイン色紙が並んでいた。実際に目に すると、直筆原稿を集める人々の気持ちがわかる気がした。もちろん、俺には手 が出ない値段でしたが。

 そんなこんなで、今回も色々と楽しませてもらいました。例によってくたくたにはな ったのだが、やっぱり古本はいいなあと思ったのであった。活力になるよ。
 ということで、「池袋セコハンブックダイアリー」はこれにて終了!




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