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2002.7.13(土) 中央線沿線珍道中2 情熱の西荻窪編(ちょっと意味不明)  の巻

 前回(6月23日)、高円寺と阿佐ヶ谷の古本屋を巡った際に、「(中央線沿線の 古本屋には)いつかまた来よう!」と誓った俺だったが、その機会は思ったより早く やってきた。
 …まあ、要は自分が行こうと思うか思わないか、それだけなんだけどね。今回の 目的地は西荻窪。岡崎武史『古本でお散歩』(2001年,ちくま文庫)によれば、「じ つはいま東京一おもしろいエリアだと思っている」とのこと。更に、オンライン古本 「杉並北尾堂」が期間限定で「北尾堂ブックカフェ」を開催している。ということ で、今回も中央線に揺られて西へと向かった。

いきなり迷子になる
 初めからずっこけてしまってなんなんだが、実は中央線に揺られすぎて吉祥寺に 着いてしまった。中央線快速は、土日は西荻窪には止まらないのだ。前回は総武 線に乗っていたので気づかなかった。今後は注意しなくてはと思いつつ、ひとつ戻 って西荻窪へ到着する。しかし、このささいな乗り過ごしが、前回の「高円寺の古本 屋さんがみんな閉まっていた事件(6/23の日記参照)」に匹敵するエピソードにつな がるとは、その時は想像だにしなかったのであった。

 西荻窪の駅に着いた時、時間は12時30分過ぎ。まずは、北尾堂ブックカフェよ りも先に古本屋を回ることにする。駅南側の商店街沿いの数店を探して歩く。
 …しかし、見つからない。商店街らしき道をしばらく歩くも、古本屋は見つからず。 持参した手書きの簡単な地図を見ながら、間違いない道を歩いているはずなのだ が…。そのまま10分近く歩き、「道を一本間違えたかなあ」と思い、一本隣の通り に移ってみる。
 しかし、ここは完全な住宅街だ。古本屋どころが、店らしき建物がない。とりあえ ず、駅まで戻ることにする。しかし、暑い。炎天下の中、住宅街をひたすら駅に向 かって戻る。どこで間違ったんだろうか…。そんなことを考えつつ更に10分近くか けて駅に戻る。そこで古本屋を発見。「興居島屋(ごごしまや)」だ。
「おお、本日初の古本屋発見。しかし(なんかしかしばっかりだなあ…)、地図と比 べると位置関係が変じゃないか?」
 そう思ってもう一回地図を見る。その時、俺は重要なことに気がついた。
「この地図、逆さまに見てたよ…」
 本当に簡単な地図を書いてきたので、どっちが北かも書いていなかった。それ に、電車を乗り過ごして吉祥寺から戻ってきた形だったので、位置関係がうまく把 握できていなかった。こうした原因が重なって、地図を見誤ってしまった。そして見 事に違う道を延々歩いていたのだ。
 だが、地図を逆さまにしたら見事に位置関係がはまった時は、ちょっと感激した。 自分が謎を解き明かした名探偵になった気分だった。まあ、名探偵は南北の区別 もつかないような地図は書かないか…。

ようやく本格的な古本屋めぐりを開始
 興居島屋は、店の半分が児童書やマンガ、もう半分が単行本・文庫本といった 品揃え。単行本は映画・音楽・美術といったジャンルの本が多い。文庫本はミステ リー・SFなどジャンルごとに厳選されているという印象を受けた。ちくま文庫や講談 社学芸文庫のコーナーも充実していた(ちなみにこれは、俺が勝手に考えている 「こだわりのある古本屋」の条件の一つである)。
 興居島屋を出て、いったん西荻窪の駅に戻る。そこから伏見通りの商店街を進 む。そんなに道幅が広くはないのだが、人が行きかい、路線バスも通るので、にぎ やかな感じがある。でも、歩いている自分のすぐ横をバスが通るのはちょっと怖か った。そんなことを考えつつ商店街を歩くと、すぐに「森田書店」「夢幻書房」の2 店が見えてくる。森田書店は、いかにも古本屋といった趣の店構え。それに対し、 夢幻書房はマンガも多く扱う新しい雰囲気の古本屋。でも、奥の方にSFやミステリ ーの珍しい本も揃っている。この2店が、ほぼ向かい合うようにあるというのが興味 深かった。それぞれの棚を眺めて、夢幻書房で本日の1冊目、『爆笑問題『爆笑問 題の死のサイズ』(2000年,扶桑社)を購入。新聞の死亡記事の大きさをランキン グにし、色々語る内容※1。一時期は爆笑問題の本は(太田光のエッセイを除い て)出るたびに買っていたが、この本は見逃していた。内容も面白そうだったので、 迷わず購入。

※1 そういえば、評論家の小谷野敦も死亡記事のスクラップをしていると読んだことがある(『バカの ための読書術』2001年,ちくま新書P.47)。まあ、参考までに。

 両店舗を出て、更に駅から離れる形で道なりに進むと、「ハートランド」にたどり着 く。ここは古本屋とカフェが一緒になった店。雰囲気といい、並んでいる本といい、 おしゃれなイメージがある。書斎におじゃましているような感じといえばいいのだろ うか。自分の部屋もこんなだったらいいなあと思ってしまった。並んでいる本も、美 術関係・洋書が多い。その一方でSFや幻想文学、硬めの社会科学の本などもあっ た。しかし、独特の雰囲気に圧倒されてしまい、残念ながら購入はなし。
 ハートランドから更に進んで、「花鳥風月」へ。ここも棚にこだわりを感じた。サブ カルチャーの本もあれば、美術・料理の本も多めにコーナーが取られている。更に マンガや珍しい雑誌もある。そうかと思うと、ちょっと目立たないところに珍しい絶 版文庫がぽんと置かれていたりする。実は、俺はここで生まれて初めてアテネ文 庫の実物を見ました。タイトルだけで内容の高度さがうかがえる本ばかりだった が、それだけに強烈な存在感がある。ううむ、奥が深い。
 花鳥風月を出て、今度は駅の方へ戻る。ハートランドの近くの角を曲がって、「音 羽館」に到着。ここは入口がふたつあり、奥でつながっている。入口から見て左側 が小説・マンガ・文庫など。右側が美術・映画・社会科学の本など。いずれの棚も、 厳選されている印象を受ける。その中に、本についての本や、1980年代に出たサ ブカルチャー関係の本が並ぶ。1冊興味を惹かれる本を見つけると、「お、ここに も」という感じで次々と見つかる。その中に朝日新聞社の週刊本がまとまっている のを発見。薄手のペーパーバックという感じなのだが、まとまると時代を感じさせて なんともいえない貫禄をかもしだしている。例えば、昔の『宝島』がまとまっているの を見ても、同じような貫禄を感じる。その中から、山口昌男『週刊本1 流行論』 (1984年.朝日新聞社)を購入。このシリーズ、集めたくなってしまいそうだ。やはり 俺の中には、1980年代のサブカルチャーへの憧れがあるんだなあ。
 なお、音羽館にて「西荻古本散歩」という小冊子を頂く。西荻窪周辺の古本屋及 び新刊書店の紹介が乗っている。広げると、詳しい地図が書かれている。おお、こ れを初めにもらっていれば、北と南を間違えて右往左往することもなかったろうに …。
 さて、色々な収穫のあった北側の古本屋に別れを告げ、駅に戻り、いよいよ北尾 堂ブックカフェを目指す。

またもや迷子
 ブックカフェの開催されている「SAPANA」は、西荻窪駅のホームからも屋上が見 えた。線路沿いに歩けばたどり着くはずだから、大丈夫だろう。
 …と思っていたが、見つからない。とりあえず線路沿いを、吉祥寺方面に向かっ ててくてく歩く。しかし、ない。それでも歩くと、先程までの炎天下が嘘のように、雨ま でぽつぽつ降り出した。なんだか悲しい気分になりつつ、「一本道で迷子かよ」と思 いながら更に歩くと、中央線ガード下の「ブックスーパーいとう」に着いてしまう。こ の先は本当に住宅街のようだ。一旦戻った方がいいだろう。でも、その前に、いと うに寄ろう。
 入口を入ってすぐは、CDやゲームが並んでいる。少し狭いかなあと思いつつ2階 に上ると、想像以上に大きな売り場が待っていた。これは、前回の阿佐ヶ谷にあっ 「ブックギルド2」(小さめの階段を下りていくと、地下に大きな売り場が広がって いた)とも共通している。チェーン店の新古本屋らしく、マンガと文庫、雑誌の品揃 えが豊富。店内をうろうろして、次の3冊を見つける。
 土屋賢二『ソクラテスの口説き方』(2001年,文芸春秋)。 
 哲学者によるユーモアエッセイ。といっても堅苦しくはなく、単純に面白い。今まで のエッセイはすべて文庫本で読んでいたので、これは買い逃していた。
 星新一『きまぐれエトセトラ』(1986年,角川文庫)。
 星新一のショートショートは、一時期ずいぶん読んだ。しかし最近では、エッセイ がショートショートと同じくらい(あるいはそれ以上)面白いことに気づいてしまった。 ということで未読のエッセイを購入。
 貫井徳郎『妖気切断譜』(1999年,講談社ノベルス)。
 パラレルワールドの明治時代を舞台にしたミステリー。同シリーズの『鬼流殺生 祭』(1998年,講談社ノベルス)が面白かった記憶があり、思わず購入。
 満足していとうを出るが、まだSAPANAが見つかっていないという現実に引き戻 される。しかし、なんとかなるだろうと開き直って、駅に向かって歩き始める。雨足 も弱くなって、足取りも少し軽くなる。駅のそばまで来たところで、もう一度手書きの 地図を引っ張り出す。
 「この辺なんだけどなあ」と思いつつ、地図から目を上げると、「北尾堂ブックカフ ェ2開催中」の文字。
「あ、ここだ」
 どうやら今日は、地図を見るたびに重要なことに気づくようだ。

いざ、ブックカフェへ
 結構急な階段を上り、2階にあるSAPANAへ足を踏み入れる。想像したよりも広 い空間。壁には本が並び、真ん中にテーブル。その上にも本が並ぶ。奥にはカウ ンターがあり、何人かのお客さん。そしてカウンターの奥には、杉並北尾堂店主に してライターの北尾トロさんがいた。
 ちょっと緊張してしまったが、まずは気持ちを落ち着けて本を見る。特徴のあるノ ンフィクションが多い。ゆっくりと眺めていく。気になる本が何冊かある。そのまま壁 に沿って本を見ていく。別の棚には、演芸関係の本がまとまって並んでいた。落 語・漫才関係の本も多い。ちょっと意外な感じだったが、個人的には好きなジャン ルの本なので、嬉しかった。2冊の購入を決める。
 春風亭柳昇『陸軍落語兵』(1971年,立風書房)。
 「大きいことを言うようですが、春風亭柳昇といえば、いまや我が国では、私一人 であります」でおなじみ、落語界の長老による戦時中の回顧録。個人的には春風 亭柳昇の本というだけで思わず手を伸ばしてしまった。
 萩本欽一『「笑」ほど素敵な商売はない』(1993年,福武書店)。
 ごぞんじ「欽ちゃん」によるエッセイ。「コメディアン入門」「コント作り入門」など啓 蒙的な内容と、昔を振り返るエッセイで構成されているようだ。個人的には萩本欽 一の本というだけで思わず手を伸ばしてしまった(そんな理由ばっかりだが)。
 その後、テーブルを見ると、北尾さんの著作(新刊)が平積みで並んでいる。その 中から、北尾トロ『ぼくはオンライン書店のおやじさん』(2000年,風塵社)を手に取 る。
 計3冊の本をカウンターに持っていく。そして、相当緊張しつつ聞いてみる。
「あの、一緒にコーヒーも頂いていいですか?」
 そこで北尾さんに「ああ、どうぞどうぞ」と答えてもらって、ようやく緊張が解けた。 そこから、色々な話をさせていただいた。俺は普段は初対面の人とはあまりうまく 話せないのだが、北尾さんから気さくに話してもらえたおかげで、非常に楽しい時 間を過ごすことができた。2時間ほどコーヒーやハーブティーを頂きつつ、色々な話 をさせていただいた。
 開催中に、機会を見つけてまたブックカフェに来ようと思い、名残惜しくも SAPANAを後にしたのだった。

ラストスパート
 今度は、駅の南口の古本屋を回る。西荻南中央通りの商店街を、駅から離れる ように歩いていく。初めに、「盛林堂書房」へ。ここも森田書店のような、昔ながらの 渋さのある古本屋だ。表の均一台からも、渋さが滲み出している。盛林堂を過ぎて しばらく行くと、「天翔堂」が見えてくるはずだ。この周辺に、「天心堂」「スコブル社」 という2件の古本屋もある。今回はこの3件を回って終了にしようと思っていた。ま ずは目印となる天翔堂を探して歩く。…歩く。……歩く。
 …商店街のはずれ、五日市街道と交差する部分まで来てしまった。ううむ、また もや迷子か。しかし、どう考えてもこの先とは思えない。先は完全に住宅街である。 ということで、駅に向かって戻る。その途中、天翔堂を見つける。なんと、改装中ら しく職人さんらしき人が出入りしていた。上の看板を見ていたらすぐに気づいたは ずなのだが、古本屋らしき店を探していたため見逃してしまっていた。その角を曲 がったところにある天心堂はお休み。「西部古書会館」の古書市のポスターがあっ たので、そちらに参加しているのかもしれない。
 ということで最後の1件、スコブル社へ。実は、先程ブックカフェで、「スコブル社 は面白いよ」と紹介されていたのであった。ということで足を踏み入れると、これが まあすごい。一番初めに思ったのは「この店は本でできている」ということだった。 これは比喩というよりも、本当にそんな気がした。棚に詰め込まれた本の数々。そ の前に積まれた本。本棚の上にも更に本が詰まれ、開いている部分には面出しで (表紙を見せるようにして)本が置かれている。どこかの棚から本を引っこ抜いた ら、店全体が音を立てて崩れるのではないかという錯覚にとらわれる。しかも、俺 の体型では、リュックを背負ったまま本棚に向き合うことができない。そのため、本 棚の間をムーンウォークのように歩き、顔を横に向けて左右の本を見ていく。傍か ら見たらさぞ奇妙だろうと思いつつも、熱心に本を見ていく。並んでいる本は、サブ カルチャーが多いが、なんでもありという気がする。とにかく圧倒されてしまった。そ んな中、2冊の本を見つけ出し、購入。
 1冊は、たまたま買い逃していた唐沢俊一『トンデモ一行知識の世界』(2002年, ちくま文庫)。「コントラバスのことを中国語で『妖怪的提琴』という」(帯より)といっ たような一行知識を紹介し、唐沢氏流にあれこれ語る内容。スコブル社で購入す るにふさわしい本という気がする。もう1冊が都筑道夫『誘拐作戦』(2001年,創元 推理文庫)。都筑道夫の文庫本も、学生時代からちょこちょこではあるが探して読 んでいるのです。
 この2冊をもって、スコブル社を後にした。

ありがとう西荻窪、そしてさらば
 と、いうわけで。本日の西荻窪古本屋めぐりはこれにて終了。全体的な印象は、 「色々な人の好みにあった古本屋があるなあ」というところ。サブカルチャーに強い 店が多いと思うけれど、それも店ごとに細かなこだわりがある。また、文学や社会 科学についての本を多くそろえている店もある一方、文庫・マンガを探す人のため にそうした本を豊富に並べる店もある。
 ともあれ、また来てみたいと思う街であった。実は、駅のそばの「比良木屋」に行 くのを忘れていたことに帰りの電車で気づいてしまったことだし。

 ひょっとしたら、また中央線沿線の別の街に来る日も近いかもしれない。などと思 わせぶりなラストにしておいて、本日はこれにて終了。



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