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2002.7.26(金) 真夏の決戦! 神田神保町めぐり! の巻

 朝、久々に神田神保町へ行ってみようと思い立つ。天気もいいし、金曜日なので 古書展も開催されている。ということで、都営新宿線に乗って神保町の駅へ。
 まずは、日本教育会館で開催されている古書展へ。そういえば、古書展の説明 をこれまでしていなかった。簡単に言うと、いくつかの古本屋が合同で本を並べ、 販売する場である。即売会とか、古書市という呼び方もする。古書展のメリットは、 厳選されたたくさんの本を一度に見ることができるところ。それから、古書展で新し い古本屋を見つけることができるところだろうか。神田以外の地域の古本屋も、古 書展には参加する。そのため、自分の探しているジャンルの本を扱っている店を 新しく知ることもある。
 というわけで、日本教育会館へ。ここは古本とは直接の関係はない。教育関連の 施設と、画廊・会議室・食堂が入っている。おそらく中で働いているのであろう人と ともにエレベーターに乗る。普通は他のフロアが休みの土曜日に来るので、ちょっ と新鮮な気分。会場は7階の会議室だ。入口で荷物を預けてから、中に入る。
 平日の昼間だが、会場内には人は多い。特に中高年の男性の比率が高い。そ んな熱気にあふれた会場内をうろうろする。自分の探しているジャンルが多い場合 は楽しいし、あまり知らないジャンルの本の間を歩くのも、また楽しい。今回は自分 の興味を惹く本を比較的多く見かけた。その中から2冊を手に入れた。
春風亭柳昇『与太郎戦記<新装版>』(1983年,立風書房)
 落語家の春風亭柳昇による軍隊の体験記。太平洋戦争の頃である。先日購入 した『陸軍落語兵』(1971年,立風書房)の前編にあたる。
 実はこの本、戦争に関する硬めの本の棚と、落語や漫才などの演芸関係の本の 棚のちょうど中間あたりに並んでいた。なんだかできすぎた話だが、これが本当な のである。そんなところも気になって、購入。
別冊宝島141『巨人列伝』(1991年,JICC出版局)
 歴史の本流に位置する「偉人」からは少し外れた知識人の紹介。こういう本が別 冊宝島で出ていたとは知らなかった。紹介されている人の一部を紹介すると、南方 熊楠・福来友吉・寺田寅彦・田中正造・中里介山・宮武外骨、などなど。
 実は、俺は中学校レベルの日本史の知識しかない。高校では世界史を専攻し、 大学では歴史学そのものをほとんど受講しなかった。そんな俺も、こういう主流か ら外れた日本近代史は好きだ。山口昌男氏や横田順彌氏の著作にも、明治以降 の風変わりな人物誌がある。荒俣宏氏にもあるな。
 この本の執筆者も、紀田順一郎、長山靖生、會津信吾などの各氏。なんと作家 の倉坂鬼一郎氏も執筆している。ううむ、すごいかもしれない。
 この2冊を持って、古書展の会場を出る。さあ、ここから古本屋めぐりだ。

 まず、靖国通りを地下鉄の九段下方面に少し歩いたところにあるドン・コミック 寄ってみる。マンガ専門の古本屋だ。しかし、閉まっている。入口の張り紙を見る と、どうも通信販売専門になるようなことが書かれていた。詳細は不明だが、あら ためて確認したい。
 ということで、靖国通りを東に進むいつものルートを進む。まずは、波多野書店 へ。ここはいつも外の特価本棚を見るだけだったのだが、今日は中に入ってみ た。いやあ、この迫力は結構すごい。大きな店ではないのだが、ジャンルごとに棚 に並んだ本、棚と棚の間を埋めるように詰め込まれた本、棚の前に積み重ねられ た本……。こうした感じで、ひたすら本が積んであるという印象を受けた。なにせ、 詰まれた本で店の人が見えなかったからなあ(これは本当です)。ただ、本を積ま れてしまうのはちょっとつらい。中身を見たい場合や、買いたい場合に、本を引っ 張り出さなければならない。下手に引っ張ると、詰まれた本がなだれを起こしそうで ある。だからというわけではないが、ここでは購入はなし。
 続いて@ワンダーへ。1階のミステリーやSFの単行本、映画関係の本は、眺める だけにとどまった。そのまま3階の@ワンダー3へ上がる。雑誌や音楽、スポーツ 関係の棚を見ていると、夏目房之介『とんでるバカ本』(1979年,広済堂出版)を見 つける。いまやマンガ評論で有名な夏目氏だが、かつてはマンガやナンセンス本 を書いていたのである。この本は、文庫本よりも更にサイズの小さい本(ちなみに 「豆たぬきの本」シリーズ※1。しかし、こういう本がひょっこり並んでいたりするか ら、油断ができない(油断しているわけでも、油断しちゃいけないわけでもないんだ けど)。ということで購入。

※1 更にちなみに、俺は「豆たぬきの本」を2冊持っている。庵原英夫『野球びっくり珍記録4』(1989 年)・『野球びっくり珍記録5』(1990年)。いずれも、その年のペナントを振り替えるとともに、珍記録・ 大記録を紹介する内容。小学生の頃新刊を買ったのだった。今回「懐かしいなあ」と思ってこれらの本 をめくっていたところ、巻末の「豆たぬきの本近刊案内」で、夏目房之介『とんでるバカ本U』の書名を 発見。おおう、なんてこったい! もう一冊あるのか。

 神保町に来ると、いつも同じルートを歩いているような気もするが、それでも変化 はある。靖国通り沿いの神保町ブックセンターがなくなっていて、後には古美術の 店が開いていた。神保町に通い始めたばかりの高校生の頃、よくミステリーの文 庫本を買った思い出のある店なので、どうなったか気になる。これも改めて確認し たい。
 その隣のヴィンテージは、俺はもっぱら2階を見ている。1階は音楽・バンド関 係、地下はアイドル関係の雑誌やポスターが充実しているのだが、俺の興味から ははずれるのでほとんど入ったことがない。2階の雑誌・サブカルチャー単行本の 棚を見ていると、雑誌『月刊頓智1996年3月号』(筑摩書房)を発見。この雑誌、今 の俺なら毎月買っているだろが、悲しいかな、当時高校生から大学生だった俺が 手を伸ばす雑誌ではなかった。というよりも、当時の俺に興味を持つだけの素質が なかったというか。ということで、見つけたら値段と相談の上でなるべく購入するよう にしている。この号は、「花も実もある本屋さん特集」だった。これで決まり、買お う。値段も手ごろだし。
 ヴィンテージの隣、日本特価書籍も覗くが、特に収穫はなし。店頭に並んでいる 地図や辞書の特価品には心惹かれるが、今日のところは購入しなかった。普段な らこのまま神田古書センターに向かってしまうが、今日はなんとなく矢口書店の均 一棚を見てみる。店内は映画や演劇関係の本が多いが、俺は店内よりも均一棚 に目が行く。ひょっこり雑誌やテレビ・映画の台本が並んでいたりする。お、「ギル ガメッシュNIGHT」の台本を発見。懐かしいなあ。昔テレビ東京でやっていたお色気 番組ですわ。しかしまあ、購入するほどのものではなく、結局古書センターへ。古 書センターでは中野書店の古書部と漫画部へ行く。しかし、ここも眺めるだけで終 わってしまう。もちろん、品揃えが悪いわけではない。ただ、自分の興味のアンテナ に引っかかる本がないというか、そういう感じですね。
 古書センターを出て、ふと新刊書店の岩波ブックセンターへ入ってみる。そういえ ば足を踏み入れた記憶がないことに気がついて、本当になんとなく入ってみた。ち なみに、このビルの2階にある山陽堂書店は、岩波新書や岩波文庫の品切本が 非常に多く並ぶ古本屋さんです。
 岩波ブックセンターは、必ずしも岩波書店の本だけが並んでいるわけではなかっ た。しかし、岩波の本の品揃えはすごい。文庫や新書だけでなく、岩波書店の新刊 だったらほとんど揃っている気がする。その他にも、いい本がたくさん並んでいた。 俺が興味を持っている「本に関する本」もまとまったスペースをとって集められてい る。「すごいすごい」と思うと同時に、もう何年も神保町通いをしていながら、なぜ今 までこの本屋に立ち寄らなかったのかと不思議だった。
 いやあ、これだから神保町は奥が深い。そして俺はまだまだ甘い。

 新しい発見に喜びつつ、すずらん通りへ入る。まずは、キッチン南海へ。前回も 昼食はここだったが、これには非常に単純な理由がある。古本屋街を九段下方面 から歩いても、JRの御茶ノ水駅から歩いても、水道橋駅から歩いても、このあたり で昼食の時間にあたるのだ。しかし、キッチン南海以外にも、神田神保町には食 堂や喫茶店が多い。書店・出版社が多いので、オフィス街と同じくらい食堂の需要 があるのだろう。出版社では打ち合わせに食堂や喫茶店を使うこともあるだろう し。
 なんにしても、たくさんの本を見て、おいしいものを食べるというのは幸せなもの だ。学生時代は、お金がないので本を買うのを優先し、昼飯を抜いて歩き回ったも のだが、最近は体力が落ちてきた代わりに多少はお金に余裕が出てきたので、必 ず昼食はとるようにしている。年とともに神保町との付き合い方も、徐々に変わっ てくる。
 昼食を終えて、すずらん通りの書店を回る。ブックス湘南で、都筑道夫『妄想名 探偵』(1984年,講談社文庫)を見つけ、購入。ブックス湘南は、文学、文庫、新書 の品揃えが豊富な、中規模だがこだわりのある古本屋である。その隣の湘南堂支 は珍しい写真集や漫画が並ぶ。そして靖国通り沿いの湘南堂書店には、社会 科学系の硬めの本が並ぶ。見事に店舗ごとのカラーが出ている。
 湘南堂支店の隣、書肆アクセスへ。地方出版社の本やミニコミを扱っている。大 きな本屋にもなかなか並ばない本を見ることができて、面白い。だが今日は購入 はなし。
 そのまますずらん通りを東に進み、古書かんたんむ文省堂書店小宮山書店 の均一台を覗くが、ここでも収穫はなし。小宮山書店では店内も見る。文庫・新書 のフロアで、学生らしき2人組が講談社現代新書の棚からごっそり本を抜き出して いたのが印象的だった。たしかに、それだけ興味をひく本を並べているのである。 しかし、今日の俺の琴線に触れる本はなかった。ここで再度すずらん通りに戻る。 ARATAMAの店頭ワゴンの雑誌を見る。ちなみに、ARATAMAの店内はアイドルの 写真集やポスター、ビデオの専門店です。
 そのまま道なりに東京堂書店へ。入口入ってすぐの、こだわりのある新刊棚をぐ るっと見た後に、2階へ上る。ここで、九州中心に店舗を展開しているふるほん文 庫やさんが、絶版・品切れ文庫専門の身に店舗を開設したのだ。2階の隅の小さ なコーナーに、2本の本棚が並び、文庫本が詰められている。遠目には「ちょっと 数が少ないかなあ」と思ったのだが、色々なジャンルの本が凝縮して並んでいるの で、じっくり見てしまった。欲しいと思うかどうかは別として、興味をひかれる本ばか り並んでいる。思わず本棚の間の狭いスペースにかがみこんで、1冊1冊の背表 紙を見ていく。
 その中からまず横田順彌『火星人類の逆襲』(1998年,新潮文庫)を見つける。 明治末に東京を襲う火星人それに立ち向かうは作家押川春浪・吉岡信敬ら「天狗 倶楽部」の面々――。横田氏は、「ハチャハチャSF」と呼ばれたユーモアSFでデビ ューしたのだが、現在は明治期のSFの研究・押川春浪らの人物の紹介を中心に 行っている(『明治不可思議堂』(1998年,ちくま文庫)など参照)。その横田氏が、 当時の実在の人物を登場させたSFと聞いては、心躍らずにはいられない。購入決 定。
 そしてもう1冊、小松左京・筒井康隆・星新一他『おもろ放談』(1981年,角川文 庫)。3氏に加え、大伴昌司・矢野徹・石川喬司・平井和正・豊田有恒といった、日 本SF界の中心人物が参加しての座談会。まあ、この面子を見ただけで俺などは 手が伸びてしまう。これも購入。
 今回はSFを購入したが、ミステリー、純文学(日本・海外)もあり、文庫別ではちく ま文庫や講談社学芸文庫の珍しい本もあるので、探している文庫本がある方や、 文庫本が好きな人はぜひ足を運んでみることをおすすめします。1冊あたりの価格 に上限を定めているので、探す手間を考えれば珍しい本を割安で手に入れること ができるかもしれない。なお、ふるほん文庫やさんのホームページでは通信販売も 行われているので、気になる方はそちらもどうぞ。
 東京堂書店を出て、三省堂書店へ。しかし、1階の新刊を軽く見ただけで出てき てしまう。だいたいこのあたりで、体力がなくなりかけているので、三省堂は俺には 広すぎる。探している本があるときは本当に便利なんだけどねえ。うろうろするに は広すぎる。ついでに人も多かった。
 ということですずらん通りをはさんではすむかいの書泉ブックマートへ。ここはマ ンガ・写真集・格闘技関係の新刊を探すときにはいいですよ。なかなかマニアック な品揃えをしています。ちなみに、もう1件神保町にある書泉グランデ(靖国通り沿 い・小宮山書店そば)は、普通の書店といった感じの店ですが、自然科学系(特に 理工系)の本はかなり豊富です。書泉ブックマートで、別冊宝島662『ぼくたちの好 きなガンダム』(2002年,宝島社)を見つけてしまい、思わず購入。テレビ版『機動 戦士ガンダム』全エピソードの紹介とコラムからなる。俺は世代的にガンダムは再 放送で見てきたのだが、実はテレビ版はあまり詳しくない。むしろプラモデルだと か、ゲームだとかでガンダムの世界に触れたのであった。ということで、ここであら ためて知っておきたいと思ったのだ(知る必要はないのかもしれないが)。しかし、 ガンダムに関するグッズよりも先に、ガンダムについての本の方に興味がいってし まうのが、さすが俺。
 と、いうわけで、いつもならここから明大通りの坂を登ってJR御茶ノ水駅に向かう のだが、あまりの暑さに帰りも都営新宿線を使うことにし、神保町駅を目指す。そ こで、久々に靖国通りを三省堂の辺りから神保町駅まで歩いてみる。
 その途中、洋書タトルに目が止まる。最近できたわけではないが、洋書にはとん と縁がないので、これまで入ることはなかった。しかし、入口に「洋書新刊・和書新 刊」と書かれているのと、夕暮れの中で店内の明るさが目立ったため、ついふらふ らと入ってみた。
 ここは、いい。そう思った。神保町らしからぬ雰囲気がある。映画・音楽・美術・写 真の和洋の新刊が並ぶ棚は、中央線沿線のしゃれた本屋を思わせる。店全体か らこだわりがにじみ出ている。この雰囲気に浸るだけでも、入った価値はあった。
 ううむ、これだから神保町は奥が深い。そして俺はまだまだ甘い(あ、さっきも書 きましたね)。
 そんなこんなで靖国通りを歩いてみると、昔は近寄り難くて均一代だけ見ていた 店にも、足を踏み入れたい気持ちを持っている自分に気づいた。昔はこの地区の 店は本当に近寄り難かったのだが。これは、ちょっとは俺の古本好きとしてのキャ リアもついてきたということだろうか? まあ、そんなことはどうでもいいんだけど ね。とにかく、新しい発見で充実した時間を過ごしたなと思いました。
 というわけで、今回の「真夏の神保町めぐり」はこれにて終了!




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