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2002.6.23(日) 中央線沿線珍道中! の巻

前日−1人作戦会議
 6月22日(土)。明日は休みなので、久々に古本屋をめぐりたいなあと思った。し かし神田神保町は日曜日は多くの古本屋がお休み。神田の古書展も金・土曜日 開催だからやっていない。ということで、予定を決めかねていた。そんな時に、古本 関係のwebサイトを見ていると、高円寺の「西部古書会館」で古書店が開かれてい るという。開催は6月22日・23日の2日間。間に合う、と思うとともに、中央線沿線 の古本屋に行ってみようかという思いがわいてきた。そこで、おもむろに岡崎武志 『古本でお散歩』(2001年,ちくま文庫)※1を開く。「古本は中央線に乗って」という 中央線沿線の古本屋を紹介するエッセイが地図付きで載っている。これを参考文 献に、高円寺の古本屋を巡ってみよう。というわけで、今回の古本日記は、「ぶらり 中央線沿線古本屋めぐりの旅」に決定!

 ※1 岡崎武志:書評・古本エッセイを中心に執筆するライター。主な著作は『文庫本雑学ノート』(ダ イアモンド社)・『古本めぐりはやめられない』(東京書籍)など。

高円寺−西部古書会館へ
 6月23日(日)。というわけで、総武線に揺られて高円寺駅に到着する。ちょっと 遠出のイメージがあったが、実際は新宿からもそれほど離れていないし、意外に 近かった。
 ひとまず、先に古書会館を目指すことにする。駅からの道は、いかにも普通の商 店街である。あまりに普通なので、道を間違えたかと思い、「本当にあるのかい な?」と思い始めた頃、西部古書会館が見えてきた。
 外観は、町内会の集会場といった雰囲気。入口に100円均一の本がずらっと並 び、その奥の本会場に靴を脱いで入るようになっている。まずは100円均一をうろ うろ。社会科学系の硬い本よりも、小説・雑誌・マンガなどが多い。文庫や新書の 類も並んでいる。土地柄、やっぱりこういう本が多くなるのだろうか。これはあくまで も俺の持つイメージだが、中野から吉祥寺にかけての街は、音楽・映画をはじめと するサブカルチャーが盛んという印象がある。そうだとすれば、古本屋に集まる本 も、サブカルチャー方面が多くなるだろう。
 そんなことを考えながらうろうろするが、100円均一では特に収穫はなし。続いて 中に入る。靴を脱ぐというのが、ちょっと新鮮だった。入口でバッグを預ける。これ は、古書展では共通のようだ。荷物を持ったままでは、本を見るのも大変だし、す れ違う時にぶつかったりする可能性もある。また開催する側からすれば、万引きな どのトラブルを防ぐということもあるのだろう。俺はいいことだと思う。
 中の本も、どちらかといえばサブカルチャー系統の本が多い。映画・音楽の本、 昔の雑誌・マンガなどなどが並ぶ。だが、文学、社会科学の棚もきちんとあり、俺と しては見ていて非常に楽しかった。好みのジャンルが多く並んでいる。それから、 いい意味で緊張感がない。のんびりしている。入口が開放的なことや、商店街にあ るということで親子連れや女性も多いことがその理由だろうか。あとは、靴を脱い でいるというのもわりと大きな理由としてある。本棚の下にある本を見るときは、思 わず床に座ってしまいそうになった。さすがにやらなかったけど。
 2時間近くかけて、ほとんどの棚をじっくりと眺める。そして3冊購入。
・ 雑誌『東京人』1995年7月号
 特集:東京の喜劇人。7年前の発行という微妙な懐かしさがいい。
・ スタジオ・バード編『ルパン三世研究報告書』(1999年,双葉社)
 ルパンのキャラクター、シナリオなどの研究本。原作マンガを出版する双葉社の 本のため、ほぼオフィシャルガイドと言っていいだろう。
・ 好奇心ブック23『80年代アニメ大全』(1998年,双葉社)
 かつての『別冊宝島』と同じA5判のムック。子どもの頃に見た懐かしいアニメが 多数載っていたので、思わず購入。
 いいスタートを切ったという感じだ。満足して古書会館を出る。さあ、次は高円寺 の古本屋だ。

古本野郎の悲劇
 しかし、高円寺の古本屋は軒並み休みであった。日曜日定休というのは、共通し た傾向なのだろうか。詳細はわからない。しかし、『古本でお散歩』に載っている地 図を頼りに、高円寺純情商店街にある竹岡書店、中央線ガード下の都丸書店 龍堂を探して歩くが、いずれもシャッターが閉まっていた。おおう、なんてこった!
 ちなみに、普通は事前に営業日や営業時間を調べるものなのかもしれないが、 俺はあまりそういうことをしない。特に今回は、古書展を一番の目的にしていたの で、古本屋の営業日まで頓着していなかった。これは俺の完全な失敗である。
 ということで、今回の古本日記はこれで終わり。……というのもあまりにかっこ悪 い。ううむ、中野ブロードウエイに行こうか。だが、せっかくだから初めての街に行 ってみたい。そこで『古本でお散歩』のページをめくり、他の街を見る。
 ……よし、隣の駅の阿佐ヶ谷に行こう。西荻窪・荻窪・阿佐ヶ谷のどこにするか、 総武線のホームで悩んだあげく、そう決断した。店の数は西荻窪の方が多そうだ った。しかし、日曜日なので定休が多い可能性もある。高円寺と同じ轍は踏みたく ない。その点、阿佐ヶ谷と荻窪にはブックオフがある。あそこは年中無休のはず だ。告白すると、俺はいままでブックオフに入ったことがない。いざとなったら、ブッ クオフ初体験記というのもネタになると思ったのだ。荻窪ではなく阿佐ヶ谷を選んだ のはほとんど勘である。『古本でお散歩』の地図を見ると、店の数も阿佐ヶ谷の方 が多そうだし。
 ということで、俺は西に向かう総武線に飛び乗った。さらば高円寺、きっとまたい つか来るぞ!

阿佐ヶ谷でリベンジ
 阿佐ヶ谷では、まず駅の北へ向かう。商店街のアーケード内の千章堂を見る。お お、開いている。本日始めての古本屋。店頭、店内をじっくりと見る。駅のそばの 小さな古本屋なのだが、並んでいる本にこだわりを感じる。ジャンルごとにきっちり まとめられていて、ひとつの棚を見ると、そこには見事に共通したテーマの本が並 んでいる。数は少ないけれども凝縮されているといった印象がある。もしも会社か らの帰り道にあったら、足繁く通うね、きっと。
 購入はしなかったが、他の店も開いているかもしれないという希望を胸に、北へ と進む。阿佐ヶ谷も、本当に普通の商店街だ。人々が普通に生活する街に、古本 屋ができているというのが、神田神保町との違いだろう。神保町は、もともと出版 関係の会社、店が集まって作られた街だから。
 中古のCDやテレビゲームショップはあるが、目当ての店は見当たらない。実は 休みで、通り過ぎてしまったのではないかと、何度も後ろを振り返る。しかしそのう ちに、よみた屋阿佐ヶ谷店が見えてきた。ここも本の並べ方にこだわりがある。文 庫本の並べ方を見てもそうである。例えば、岩波文庫やちくま文庫、講談社学術文 庫、講談社文芸文庫、こういった文庫本だけを別の棚に並べているかどうか。それ だけでも、その古本屋のこだわりが見える。このよみた屋では、ハードカバーもしっ かりと棚分けされている。そのため、気になるジャンルの棚は隅から隅までじっくり と眺めてしまう。
 その中から2冊購入。1冊は殊能将之『ハサミ男』(1999年,講談社ノベルス)とい う買い逃していたミステリー。もう一冊が宝泉薫編・著『歌謡界「一発屋」伝説』 (1998,彩流社オフサイド・ブックス)。A5判のムック。タイトルどおり、一発屋の歌 手を紹介した本。ちなみに、シリーズとして『芸能界「一発屋」外伝』『決定版「一発 屋」大全』が発売されている。
 ちなみに、店内にはテーブルもあり、有料でコーヒーを飲めるようになっていた。 買ったばかりの古本を手にコーヒーを飲むというのも、なかなか文化的だと思う。コ ーヒーの香りは文化の薫り。自分で書いていて意味がよくわからんが。
 よみた屋を出て、駅の南口に向かう。途中、駅のそばの洋食屋で昼食をとる。そ して駅の南の商店街へ。ここにも、古本屋が軒を連ねている。
 まずはブックギルド2へ。ここは池袋にある夏目書房の系列店である。店舗は地 下にあるため、階段を下りて入る。ロールプレイングゲームで洞窟に入る気分だ。 ここも本のジャンル分けがきっちりしている。店の半分ほどがマンガ、残りが単行 本、雑誌、文庫である。特に単行本がサブカルチャーを中心に文学、エンターテイ ンメントも豊富で、またもや棚をじっくり見ることになった。わりと硬めの社会科学、 歴史に関する本もしっかり並んでいる。
 ここでは雑誌『週刊マーダーケースブックNo.6』(1995年,省心書房)を購入。様々 な殺人犯を取り上げて研究するというシリーズの1冊。シリーズがかなりの数まとま って並んでいたが、その中から「カルト教団集団自殺事件・ジム・ジョーンズ」を取り 上げた号を購入。このシリーズ、新刊で何冊か買ったことがある。全巻そろえるつ もりはないが、興味深い内容の号は少しずつ買っていこうと思っている。
 さて、いよいよブックオフだ。ブックギルドと同じ商店街のなかにある阿佐ヶ谷南 店に足を踏み入れる。
 単行本・文庫本・CD中心の1階と、マンガ・雑誌中心の2階を一通り見る。しかし 正直なところ、店の中を歩いていてわくわくしない。本の分類の仕方がいまいちよく 解らず、じっくり見ようという気がそがれてしまう。それから、店員がマイクで店内放 送をするのだが、これが耳障りだった。下手なのである。ただし、店内はきれいだ し、店員もしっかり挨拶をする。これは間違いない。もしもCDショップ、テレビゲー ムショップだったら、足繁く通うかもしれない。ただ、古本屋としては並んでいる商 品に魅力がない。そんな感じだった。
 それでも、ブックオフで都筑道夫『まだ死んでいる』(1988年,光文社文庫)を購 入。
 ブックオフを出てしばらく歩き、最後に同じ商店街の古書弘栄を覗く。しかし、同じ 商店街に3件も古本屋があるというのはうらやましい。弘栄は小さい店舗の中にた くさんの本が詰め込まれている印象を受けた。日本のミステリー・SFのうち、197 0年代〜1980年代あたりの単行本が多く並んでいた。しかし、残念ながら購入は なし。
 弘栄を出て、商店街を阿佐ヶ谷駅に向かって戻る。商店街をそのまま丸の内線 南阿佐ヶ谷の駅に向かって歩くと、駅のそばにブックギルドがもう1店あるようだ が、今回は断念。
 しかし、訪ねた店の数は5店とそう多くないが、1店ごとの滞在時間も長く、密度 の濃い古本屋めぐりであった。高円寺も、それから今日は訪ねることができなかっ た荻窪・西荻窪も同じような雰囲気なんだと思う。
 いつかまた来よう! そう思って、俺はJR阿佐ヶ谷駅の改札をくぐった。

おまけ
 改札をくぐった、のだが。そんな俺に聞こえてきたのは、「総武線は事故の影響 で、下り電車は中野駅で折返し運転を行っています」というアナウンスだった。ちな みに、下り電車は、「新宿−大久保−東中野−中野−高円寺−阿佐ヶ谷」と駅が 続く。
 中野で折返し……? 俺、帰れないじゃん。振り替え輸送は、地下鉄丸の内線が ある。やった、丸の内線南阿佐ヶ谷駅まで歩けば断念したブックギルドに行ける!  ……というような体力は、俺にはなかった。
 仕方なく、阿佐ヶ谷駅から渋谷行きの京王バスに乗る。しばらくバスに揺られ、よ うやく渋谷駅に到着。渋谷といえば、比較的大きな新刊書店がある。ということで 旭屋書店に寄って、岡田哲『とんかつの誕生』(2000年,講談社選書メチエ)を購 入。体力がないわりにはよくやるよ、と自分でも思った。とにもかくにも、これにて6 月23日の古本屋めぐり(+α)は終了!




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