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2002.5.3(土) ゴールデンウイークのど真ん中に神田神保町を巡る俺よ!  の巻

 ※ちなみに、神保町をご存じない方は、通りの名前や店の位置など、「どこだよ、そこ」と思われるこ ともあるでしょうが、ご了承ください。それから、神保町に詳しい方は「わかってねえなあ」と思われる 点も多々あると思いますが、これもご了承ください。あくまで燃朗の印象で店の品揃え等も書いていま すので、あまりに違っている場合はご指摘いただけるとありがたいです。
 まあ、一人の古本好き(初心者)が神保町をうろうろする様を楽しんでいただければ幸いです。

 午前11時。都営新宿線神保町駅、神保町交差点の出口に降り立つ。約2ヶ月 ぶりなので、やっぱりわくわくする。祝日なので開いていない本屋もあるかと思う が、ひとまず靖国通り沿いをぐるりと回ろうと思う。

 まずは靖国通りの南にあるさくら通りを都営新宿線の九段下駅の方に向かって 歩く。ただ、このあたりにはそれほど古本屋は多くない。ひとまず「ブックパワーR B」「ブックパワーRBセカンド」を見る。「RB」は音楽・映画・スポーツ全般、「RB セカンド」は乗り物関係とサブカルチャーを扱っている。「RBセカンド」のサブカルコ ーナーで雑誌のバックナンバーや単行本を見る。今日は興味を惹かれるものがな いなあ。「RB」のタレント本も、今回は特に欲しい本はなし。タレント本は、新刊書 店では比較的早く店頭から姿を消してしまう。いざ欲しい時にはなかったりする。だ からちょっと前のお笑い芸人の本などを探す場合はありがたい。例えばボキャブラ 天国に出ていた芸人の紹介なんかも、今ではわりと貴重ではなかろうか。

 てなことを考えつつ、さくら通りをずんずん進む。なぜかというと、この先の「日本 教育会館」では、ほぼ毎週金・土曜日に古書市即売会が行われるからだ。去年(2 001年)の9月までは、JR御茶ノ水の駅から明大通りを南に下った途中にある、 「東京古書会館」で行われていたのだが、古書会館の改修工事に伴い会場が移動 になった。そのため、かつてはJR御茶ノ水駅からスタートしていた俺の神保町めぐ りも、今は地下鉄神保町駅が出発点になっている。

 が、今日は即売会はなかった。さっき「ほぼ毎週金・土曜日」と書いたが、今日は その例外の日だった。まあ、事前に確認しなかった俺が悪いし、祝日なので開催さ れていない可能性も考慮していた。だから、それほど期待はしていなかったのだ が、やっぱり残念。

 気を取り直して、靖国通りに出る。東西にに伸びるこの通りは、神保町のメインス トリートと言っても過言ではない。ここを東へ向かって歩いていく。
 まずは「ブックスクエア神田」「@ワンダー」に入る。ここは映画関係のパンフ・ ポスター、絶版のミステリーやSFの単行本・文庫本、そしてサブカル系の雑誌が並 ぶ。おっ、3階に雑誌専門のフロアができている。早速見に行く。ここで本日の1冊 目、『太陽』(平凡社・1991年11月号)を購入。特集は「荒俣宏の想像力博物 館」。ちょうど荒俣氏が著作100冊を達成した時期でもあり、記念の意味合いもあ っての特集だろう。その100冊の紹介もあると表紙に書かれている。ビニールカバ ーがかかっていて、中を立ち読みすることはできないが、ひとまず買いだ。

 さあ、1冊買うと徐々に加速がついてくる。俺は『太陽』を手に「@ワンダー」を後 にした。
 「神保町ブックセンター」は残念ながらお休み。その隣の「ヴィンテージ」を見る。 ここは、音楽関係の雑誌とアイドル写真集が中心だ。しかし、サブカルチャー専門 のフロアができている。見に行く。
 お気づきの方もいるだろうが、今日の俺のテーマは「サブカルチャー関係(特に1 980年代)で面白い本を探す」ことだった。もちろん、きっかり決めていたわけでは なく、漠然と考えていただけだ。しかし、その日どんな本を探すかを決めておけば、 おのずと立ち寄る店、立ち寄るコーナーが決まってくる。そうしておくと効率がいい のである。なにせ神田古本屋街は大きい。全部の店をしらみつぶしに見ていくのも もちろん楽しいのだが、時間と体力が足りない。学生の頃は、通りかかった店の店 頭の均一台は必ず覗くようなこともしていたが、最近はそれもつらくなってきた。要 はじじいになったのよ。
 ということで、その日探したい本のジャンルを大まかに決め、そのジャンルを置い てある店、コーナーを特に注意して見ることにしている。
 「ヴィンテージ」にも面白そうな雑誌がいくつかあったが、手は伸びなかった。

 その隣の「日本特価書籍」へ。ここは古本屋ではないが、ゾッキ本(注1)や珍しい 新刊本が並んでいる。中の平積みを見ていくと、荒俣宏『大東亜科学奇譚』の単行 本が。思わず手が伸びるが、思いとどまる。この本はかつて文庫版を読んでいる し、文庫版は現在も新刊書店に並んでいる。俺は基本的に文庫本が新刊として買 える本を「初版だから」「単行本は珍しいから」という理由では買わない。もちろん、 自分が買わないというだけで、買う人にけちをつけるつもりはない。

 注1 ゾッキ本:新刊のバーゲン本と考えてもらえればいい。通常、本は定価で販売される。そして売 れない本は書店から返品ができる制度がある。しかし、色々な事情で書店(主に古本屋)が買い取る ケースもある。そういう本は、返品できない代わりに定価よりも安く販売できる。一般的にゾッキ本とは そうして安く売られる本のことである(あいまいな説明ですが、俺にはこれが精一杯です)。

 ということで、ここでも購入はなし。そのまま東に直進し、「神田古書センター」へ。 ここは9階建てのビルの中に様々なジャンルの古本屋が入っている。また1階でも ワゴンセールが行われている。今日はワゴンセールはCDだったため、パスして3 階へ。
 3階の「中野書店(古書部)」を覗く。手が出ない価格の本が多いが、絶版のミス テリー、SF、幻想文学から、社会科学系まで、渋い本(あくまで俺の印象だが)を的 を絞って置いている。いつもここの棚を見ては、
「いいよなあ。こういう本棚はかっこいいよなあ」
 と思っているのであった。
  ひとしきり眺めた後、2階の「中野書店(漫画部)」へ降りる。俺が神保町でもっ ともマンガの古本を買っているのはここだろう。また、マンガに関する評論やエッセ イも置いてある。
 しかし、ここでも今日は収穫はなし。少し前に比べて、A5判のマンガの数が減っ てしまった。B6判は、豊富に置いてあるんだが。どちらかといえばA5判を探してい る俺としては残念。

 うーむ、今日は不調かもしれない。そんなことを思いつつ、神保町の交差点に来 てしまった。時間がそろそろ午後1時なので、昼食にする。ここで靖国通りから1本 南の神田すずらん通りに入る。本当は、靖国通りの神保町交差点から三省堂書 店にかけてが古本屋の立ち並ぶメインの中のメインストリートなのだが、俺は1本 南の少し小さなすずらん通りに入ってしまう。これは、単に靖国通り側よりもすずら ん通り側の方がよく立ち寄る店が多いという、ただそれだけの理由だ。靖国通り側 には、「これぞ古書店」といった感じの、格調高い店が並んでいてかっこいいのであ るが、それだけに俺のような初心者はちょっと近寄り難い。

 ひとまず、「キッチン南海」で昼食にする。ここは神保町の食を紹介する雑誌など でも良く出てくる洋食屋だ。カツカレーを食べて、後半に備えることにする。
 キッチン南海を出て斜め向かいにある「書肆アクセス」は、今日はお休み。ここは 地方の出版社の本やミニコミなど、あまり見かけない新刊書を扱っている。俺はい つも面白そうなミニコミをここで探すことににしている。

 そのまま東へ進み、「4冊まで100円」の店頭棚を3件はしごする。「古書かんた んむ」「文省堂」「中山書店」の3件。
 「かんたんむ」は文庫・新書・単行本と、雑誌を扱っている。ここは今回は収穫な し。
 「中山書店」は、奥の方にはHな雑誌を置いてあるコーナーがあり、そこに集まる 人々の熱気がある意味すごいのだが、手前には文庫や新書が並んでいる。そし て、ここには『幻影城』のゾッキ本がコンスタントに並ぶのである。他の店なら定価 より高い値段で売られている本が、ここでは定価より安く買える。今日も持っていな かった号を2冊見つけて購入。ちなみに、店頭の4冊100円ワゴンには収穫はな し。
 「文省堂」には、元祖4冊100円棚とも言える棚が店の外にある。文庫が中心だ が、新書や意外な単行本が並ぶこともある。いつ来てもこの棚の前には人がい る。しかし、今日は残念ながらめぼしいものは見つからなかった。ちなみに、店内 はマンガとアイドル写真集が並んでいる。現在では有名な女優さんの「お宝写真 集」などを見ることもできる。

 文省堂に来たところで、いったん靖国通りに出る。通りに出てすぐの「小宮山書 店」を覗く。今日は、店の隣のガレージに均一棚が出ていた。文庫本を中心に見て いく。以下の3冊を見つける。ようやく均一棚でヒットした。山口瞳『青雲の志につい て』(集英社文庫)星新一『あれこれ好奇心』(角川文庫)アントニイ・バークリー 『毒入りチョコレート事件』(創元推理文庫)の3冊。この勢いのまま、店内に入る。 ここは文学、社会科学を中心に幅広いジャンルの本がある。俺は、もっぱら中2階 の文庫・新書のコーナーを見ることが多い。今日も、文庫コーナーで2冊を見つけ る。織田正吉『笑いとユーモア』(ちくま文庫)荒俣宏『奇っ怪紳士録』(平凡社ライ ブラリー)。いやあ、ここにきてようやく弾みがついたなあ。

 小宮山書店を出て、再びすずらん通りに戻る。本日は見たいと思っていた古本 屋は見終わった。後は新刊書店だ。「東京堂書店」「書泉ブックマート」「三省堂 書店」の3店を覗く。
 人によっては、新刊書店の品揃えは全部同じじゃないかと思うかもしれない。特 に大きな書店なら、同じような本が並ぶという印象をもつ人もいるだろう。でも、俺 はそうは思わない。例えば上の3店を比べてもそれぞれに(あくまで「俺にとって の」だが)いいところがある。
 三省堂はフロアも多いし、1フロアの面積も大きい。本を探している際には重宝 する。書泉ブックセンターは、マンガやサブカルチャーなどのちょっとマニアックな 本に強い。そういうジャンルでなにか面白い本がないか探すときには便利である。 そして、東京堂書店は、特に平台の品揃えが独特である。これはプロの作家や評 論家を含めいろいろな人が書いているので、いまさら俺なんかが言うことではない のだが。とにかく入ってすぐの平台に並ぶ本には、一般的なベストセラーもあれ ば、「こんな本があるのか」と思わされる本もある。
 本日は東京堂書店で杉浦茂・斉藤あきら・井上晴樹・後藤繁雄『杉浦茂−自伝と 回想』(筑摩書房)を買う。俺ぐらいの年代で、杉浦茂を知っている人は少ないのか なあ。俺も初めは夏目房之介氏のマンガ評論で初めて知ったのだが。絵は丸っこ い線の児童漫画らしい絵なのだが、ストーリーはときにナンセンス、ときにシュー ル、とにかく笑いを誘うのである。今一番手軽に手に入るのは『猿飛佐助』(ちくま 文庫)だろうか…。残念ながら2000年の4月に亡くなられたのだが、氏の作品だ けでなく、どんな人物だったのかも詳しく知りたいと思い、購入した。

 ということで、本日の神保町めぐりはおしまい。祝日のため営業していない店もあ り、購入した本はちょっと少なかったが、充実した1日であった。
 そんなことを、買った本を抱え、JR御茶ノ水駅に向かう明大通りの坂をひいひい 言って登りつつ考えたのであった。




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