「木の葉燃朗のがらくた書斎」トップ>>木の葉燃朗のばちあたり読書録>>著者別「つ」

木の葉燃朗のばちあたり読書録


<< さ行   ▲「ばちあたり読書録」目次   な行 >>

  つ  

■著者別「つ」
つかこうへい『長島茂雄殺人事件 ジンギスカンの謎』 / 司悠司『文庫ハンターの冒険 町めぐり古書さがし』 / 辻谷秋人『サッカーがやってきた』 / 土橋正『やっぱり欲しい文房具』 / 土屋賢二『汝みずからを笑え』 / 筒井康隆『乱調文学大辞典』 / 都築響一『TOKYO STYLE』 / 都筑道夫『キリオン・スレイの再訪と直感』 / 都筑道夫『キリオン・スレイの復活と死』 / 都筑道夫『サタデイ・ナイト・ムービー』 / 都筑道夫『猫の舌に釘をうて』 / 都筑道夫『びっくり博覧会』 / 都筑道夫『やぶにらみの時計』 / 綱島理友『イマイチ君の東京トボトボ探検隊』 / 綱島理友『お菓子帖』 / 綱島理友『全日本お瑣末探偵団』 / 綱島理友『全日本荒唐無稽観光団』 / 綱島理友『全日本なんでか大疑問調査団』 / 綱島理友『綱島探書堂』 / 綱島理友『ぼくらは愉快犯』 / 綱島理友『マスコット物語』 / 綱島理友『マスコット物語A』 / 都並敏史『都並流勝つためのサッカー』 / 綱本将也(原作)・吉原基貴(絵)『U-31 完全版 All you need is FOOTBALL!(上・下)』 / 津野 海太郎著『歩く書物』 / 津野 海太郎『歩くひとりもの』 / 坪内祐三『三茶日記』 / 坪内祐三『新書百冊』

(広告)

本に貼られているリンク先は、特に記載がない場合オンライン書店ビーケーワン の紹介ページです


2002年6月16日(日)1999年(当時22歳)に書いた読書感想文(フリートークにて)
「友人に見せるために書いた、本の紹介文です」
----------
つかこうへい『長島茂雄殺人事件 ジンギスカンの謎』(1986年,カドカワノベルス)
 一瞬の気の迷いから、この本を読んでしまった。まぎれもなく、トンデモ小説です。著者のつ かこうへい氏は、「作者のことば」に、こんなことを書いています。
「この作品は、雑誌『野生時代』に半年間連載を続けていましたが、途中でどうしても、長島は ジンギスカンの生まれかわりではないか、という直感に襲われて書き続けることができず、や むなく中断しておりました」
 この文章だけで、この小説のトンデモぶりがわかろうというものです。
 内容紹介をする前に、この小説はきわめて読者を選ぶ小説であることを述べておきます。お そらく、この小説を読破できるのは、次のような方々でしょう。
 1、長島(現・長嶋)茂雄原理主義者
 2、つかこうへい原理主義者
 3、めちゃめちゃ忍耐力のある人
 上記以外の方は、読む前によく考えてください。この本を読む時間で、他にもっといい本が読 めるかもしれませんよ。決して、勢いや中途半端な好奇心で読み始めてはいけません。それは 危険です。「序」を読むと、「あ、おもしろかも」と思うかもしれませんが、それは罠です。
 では、内容に少し触れましょう。個人的な見解ですが、この本は推理小説と、SF小説と、時 代小説の要素を持っています。でも、トンデモです。
 話の柱となるのは2つのテーマ。ひとつは、長島茂雄暗殺をめぐる物語です。もうひとつは、 長島茂雄出生の謎です。しかし、実はそんなことはどうでもいいのです。この小説で一番大切 なのは、長島茂雄はすげえと、そういうことなのです。推理小説としての整合性とか、そんなこ とを期待してはいけません。ここで描かれるのは、長島茂雄のすごさと、そこに隠された秘密な のです。それが楽しめない人には、つらいです。少なくとも、「長島茂雄って、ヘンな英語をしゃ べるおじさんでしょ」程度の認識しかない人は、読まないほうが無難です。
 最後に、この小説でもっとも印象深い言葉を引用しましょう。
「長島を一番愛している人間が、長島を殺す権利がある」
 これでもまだ読み人は、読んでください。あたしゃ止めないから。ただし、この文章を読んで、 「なんかおもしろそう。読んでみようかな?」と思った人には忠告しておきます。やめとけって。ト ンデモ本というのは、実際に読むとかなりつらいものが多いのです。この本も例外ではありま せん。読むにはそれなりの気合いがいると思うぞ。
----------
「おまえは世紀末のニッポンで、なにをやっていたんだ」
「いやあ、この本、初めは古本屋で見つけた後輩に借りてさあ。読んでみたらあまりにハチャメ チャな内容だったので、思わず紹介しちゃったんだよ。残念ながら、今手元にはないんだけど」

2004年4月10日(土) 古本買いに行くぞ古本! と思わされる1冊
司悠司『文庫ハンターの冒険 町めぐり古書さがし』(2003年,学陽書房)
 学陽書房って、古本に関する本を意外に多く出している。例えば唐沢俊一『カラ サワ堂怪書目録』・牧眞司『ブックハンターの冒険』・横田順彌『古本探偵の冒険』、 など。
 この本もそうしたシリーズの一冊。著者は作家で、その一方で絶版のユーモア小 説・随筆、幻想文学、SF、伝奇小説、トンデモ本の歴史ノンフィクション、マンガ、格 闘技の本などを集めている。
 本の内容は次のとおり。

・古本屋徘徊日記<ご近所編>
・第1部 収集家誕生
 著者の読書遍歴。いかにして文庫マニアになったかという話。1970年代の各社 の文庫ブームの頃に中学生だった著者が、ブームの影響を受けて文庫に夢中に なっていく様子。
・第2部 探書をめぐる冒険
 本をどうやって買うか、という話。古本屋、古書展、インターネット古本屋の紹介。
・第3部 奥深い書物の森へ
 文庫目録の研究。絶版文庫のガイド。絶版新書の話。
・古本屋徘徊日記<東横線、神保町編>

 しかし、他の人が古本屋に行き、本を買うのを読むと、なんというか古本好きの 血が沸き立ってくる。特に、最初と最後にある古本日記は、店の情報も多く、参考 になる。
 特に、世田谷区・目黒区のあたり、東急東横線、小田急線、京王井の頭線沿線 は、俺にとっては未踏の地なので、この辺りに行く楽しみが増えた。
 著者は、古本屋や古書展を歩き回って本を探そうという考え方の持ち主だ。ま た、なかなか手に入りにくいものを探そうという思いもある。次のような文章から も、それはわかる。
「インターネットで買うもよし、量販店でありふれた本だけ買って満足するもよし。人 は自由だ。しかし、ひとつだけ言えることは、そんな連中は、われわれ絶版文庫コ レクターとは、縁なき衆生であり、ぼくの仲間ではない。」(p.111)
 まあ、これは極端な意見だとは思う。「ありふれた本」とはなにかと考え出すと、難 しいからなあ。ただそれでも、俺は著者の本への情熱はかっこいいと思うし、俺も 本への熱が高まってくる。
オンライン書店bk1の紹介ページ

2005.5.17(火) サッカーについて思いが巡るこの一冊
・辻谷秋人『サッカーがやってきた』(2005年,NHK生活人新書)
 草津生まれのスポーツ・ジャーナリストである著者が、サッカーチーム「ザスパ草津」を取材したノンフィクション。チームの二〇〇四年のJリーグ(J2)昇格までの経緯が、コンパクトだがしっかりとまとめられている。
 俺はこの本を読むまで、ザスパ草津というチームを本当に表面的にしか知らなかったが、一歩踏み込んだ話が読めて、非常に興味深かった。
 ザスパ草津は、色々な面で話題になり、そして今でも話題のチームである。
 まず、母体となるチームがあったにせよ、設立からわずか三年でJリーグに昇格したこと。これがいかにすごいか、詳しくはこの本を読んでいただくとして、都道府県リーグなどのアマチュアリーグから一歩ずつ上のリーグ(頂点はJリーグ)まで昇格していくだけの圧倒的なチームの強さと、サッカークラブとしての運営の確実さが必要となる。
 日本のサッカーチームの場合、二〇〇四年の日本のプロ野球の新規参入のように、「チームとしての実態がなくても、いきなり最高レベルのリーグに参入できる」(p.33)ことは、まずない。
 また、チームのメンバーには元日本代表、元Jリーガーが集まり、一部はアマチュアとして草津の旅館やスーパーで働きながらサッカーを続けたこと。さらに、草津町という小規模な土地で、大手企業がスポンサーについているわけでないチームということ。こうしたことが、過去にない画期的なチームとして話題になった。
 しかし、そんなザスパ草津も決して順風満帆ではなかった。ザスパの前身のチーム「リエゾン草津」では、運営母体の撤退により、文字通り選手だけのチームから再出発したり、草津の人々がチームに抱いていたのは「圧倒的な無関心といくばくかの猜疑心、これがすべてだった」(p.84)だったという時期を経験してもいる。
 またJリーグに昇格した現在は、草津だけでクラブを支えるのが町の規模の面から難しくなってくるという問題も存在する。
 そのザスパの発展の過程の中で、特に興味深かったのが、「もうひとつの”あったかもしれない”ザスパ草津」(pp.130-136)という部分である。
 ここで紹介されているのは、チーム自体は「プロクラブを(少なくとも短期的には)目指さないが、選手をプロに送り込む、送り込めるクラブにする」(p.131)考え方である。つまり、指導者を育て、そして選手を育て、選手にJリーグの、さらには海外のリーグのチームへのステップアップを目指してもらうクラブ、という考え方である。それが出来るなら、チームそのものはアマチュアリーグに属していてもいい、という。
 俺はこの部分を読んで、そういう形も十分あり得ると感じた。
 そして、どんな形であれ、自分の町にサッカーチームがあって、それが人々の生活と色々な面で関わっていることは、うらやましい。その意味では、やはりヨーロッパは歴史も長く、すでにサッカーが人々の生活に根付いている。
 それが分かるのが、かつてドイツのチームでプレーし、現在はJリーグを目指すJFL(全国規模のアマチュアリーグ)所属の愛媛FCでプレーする友近聡朗選手の話である(pp.193-208)。
 ドイツでは、人々は「平日はそれぞれの仕事をしているが、土曜になるとサッカーを見る」(p.200)。ここで見るのは、ブンデスリーガという、日本で言えばJリーグのJ1にあたるリーグの試合。
 そして、「日曜日の午前中には教会に行く。そして午後になると、今度は地元のチームを応援するために集まってくる」(p.200)。これは、四部リーグなど、下位のリーグの試合であっても変わらない、という。「バーベキューをする人もいれば、子どもと一緒になってボールを蹴っている人もいる。サッカーが見事なまでに、生活の一部になっている」(p.200)のである。
 一方、日本でもここまで浸透はしていなくても、サッカーが地域に根付きつつある都市もある。鹿嶋(鹿島)とか、浦和とか、新潟とか。地域の熱心なサポーターで知られるチームは多い。
 そう思うと、自分の住む地域に「おらが町のチーム」がないのは、くやしく思う。
 もちろん東京都にも、「東京ヴェルディ1969」と「FC東京」というJ1に属するチームはある。しかし、どちらもホームグラウンドは味の素スタジアム(調布市)である。
 そして我が家からは、調布に行くのは、例えば浦和や柏に行くのとほとんど変わらない距離がある。
 そんなこともあって、両チームを応援することには心理的抵抗がある。
 だから、「もう少し東京の東側にサッカーのクラブがあれば」と思わずにはいられない。本を読みながらそんなことを考えた。
 これは、あまり本の内容と関係のない話になってしまったが、そんなことも考えさせてくれた本だった。
 ザスパ草津の記録として読むのもいいし、サッカーについて色々と考えるのにも適している。非常に面白い本だった。

オンライン書店bk1の紹介ページオンライン書店ビーケーワン:サッカーがやってきた

2006.08.16(水) 普段は手に取らない文具にも目を向けてみる

オンライン書店ビーケーワン:やっぱり欲しい文房具・土橋正『やっぱり欲しい文房具』(2006.1,技術評論社)
 「鉛筆・シャープペン」「ノート・手帳」「ボールペン」「ファイル」「万年筆」「机上道具」というジャンルごとに、著者がセレクトした文房具を紹介する本。「まえがき」の最初の一行に「100円のボールペンでも文字を書くことはできる。しかし、それだけではなにかが足りないように思う」(p.2)とあるように、比較的質も値段も高いものが中心。
 ちょっと俺にとっては高級な文房具も紹介されていますが、読んでいると色々と欲しくなる。
 久々に文房具店(あるいは東急ハンズやloftや無印良品でもいいのだが、とにかく文房具が沢山置いてある店)に行きたくなる。そして、色々な文房具を見て、ちょっとしたものを買いたくなる。

このページのトップへ

2003年4月2日(水) 「知的な笑いに触れてみよう」という人のための1冊
土屋賢二『汝みずからを笑え』(2003年,文春文庫)
 著者はお茶の水大学で哲学を教える大学教授。しかし、いまや一般にはユーモ アエッセイストとしての方が有名になってしまった。氏の哲学論文を読んだことのあ る人が世界中に100人いるとすれば、氏のユーモアエッセイを読んだことのある人 は世界中に101人はいるだろう(105人くらいいるかもしれない)。
 私もこれまで、氏のユーモアエッセイを何冊か読んだ記憶がある(あくまで記憶な ので、熱帯魚の飼い方の本や、おいしいラーメン屋を紹介した本を読んだ記憶と 混同しているかもしれない)。この本もこれまで同様面白かった。特にテレビで演芸 番組を見ながら読んだ部分は特に面白かった。本を閉じてテレビだけ見ていても 笑いが止まらなかったくらいだ。

 …というような感じの文章が続くのが、氏のユーモアエッセイである。嘘だと思うな ら、「まえがき」から文章を引用してみよう。
「なお、参考までに書いておくと、購入者の読後の満足感について調査したところ、 最も満足感が高かったのは、まだ読んでいない人であった。一ページ読むごとに 満足感は減っていき、八ページ読んだ人の満足感は、別の本と間違えて買ったこ とに気づいて後悔している人の満足感とほぼ同じだった。読んだ量が二十ページ を越すと、返本意欲が芽生えてくることが分かった。なお、三十ページ以上読んだ 人は調査対象の中にいなかった」(pp.3-4)
 こうした笑いが好きな人は、きっと楽しめるであろう。
オンライン書店bk1の紹介ページ

2002年4月5日(金)3月に読んだ本(フリートークにて)
筒井康隆『乱調文学大辞典』(講談社文庫)古本
 タイトルどおり、文学辞典のパロディ。文学に多少なりとも興味がある人には面白いでしょう。 あくまでパロディなので、内容を素直に信じないように注意して下さい。

2003年2月20日(木) がらくた好きなあなたのための2冊
都築響一『TOKYO STYLE』(1997年,京都書院) 古本
 京都書院が出していた「アーツコレクション」という文庫サイズの写真集シリーズ の1冊。実はずっと手に入れたかった本のひとつ。京都書院は1999年に倒産してし まった。その際に、京都書院の本は古本屋の店頭にぞっき本(新品なのだが定価 よりも安く販売される本・主に古本屋に出回る)としてずいぶん並んだが、この本は ついに見かけなかった。しかし今回、神田神保町の古書展で状態のいい古本を偶 然見つけ、即購入を決意した。
 そこまで欲しかった本とはどんな内容かというと、東京で暮らす人々の家・部屋の 写真を集めたもの。といっても、おしゃれな雑誌に出てくるようなインテリアに囲ま れた部屋は、ひとつとしてない。登場するのは、風呂なし、トイレも共同の四畳半ア パートだとか、もっとすごいところだと番地のない三畳一間の木造アパートなんてと ころもある。もちろんそうした家だけでなく、四人家族で暮らす2LDKなどもある。し かしいずれの家・部屋にも共通しているのは、人が暮らしている様子がひしひしと 伝わってくるところだろう。「汚い」と感じる部屋はないが、とにかくものがごちゃごち ゃと置かれた部屋ばかりだ。限られたスペースに並べられた住人の趣味に関する たくさんの物で飾られた部屋、本やCDなどが山のように積み重ねられた部屋、な どなど。いずれも住人の姿を想像させる。写真の中には、人間は一切登場しない のだが、それでも住人の生活する様子が想像できる。それくらい生活感のある部 屋たちが次々と登場する。実際にみんなが住んでいる部屋も、このような感じでは ないのだろうか。少なくとも俺の部屋はそうです。
 そして、この本からふと目を上げて自分の部屋を眺めたとき、自分好みの部屋に するため色々といじりたくなる。影響を受けやすい俺のこと、さっそく部屋を一部模 様替えしましたよ。
 好きな人は絶対に何度も眺めたくなる本なので、是非入手しましょう。この間初 めて知ったのだが、京都書院の在庫の出版物を販売するページができている。こ こで購入できます。しかも文庫版だけでなく、大型の上製本・普及本も買えます。興 味がある人は、まずは見てみましょう。
(2004.4.20追記)めでたく、ちくま文庫から復刊されました。手軽に入手できますの で興味がある方はぜひ。
オンライン書店bk1の紹介ページ(ちくま文庫版)

2002年12月4日(水) あまり関連性はありませんがとりあえず2冊(の1冊)
都筑道夫『キリオン・スレイの再訪と直感』(1978年,角川文庫) 古本
 都筑道夫の推理小説には、実に多くの名探偵が登場する。この短編集で活躍す るキリオン・スレイは、その中でも有名なひとりだろう。怪しい日本語を駆使する怪 しいアメリカ人が、周囲で起きる事件に首を突っ込む。推理小説としての謎の魅力 さもさることながら、キリオンの魅力も小説の面白さに一役買っている。この短編集 の中には、あらすじを思い返すと嫌な感じの残る(後味の悪い)小説もあるのだ が、キリオン・スレイというキャラクターがいることで救われている部分がある。
 もちろん、事件の発端の意外性などは、さすがと思わされる。例えば、植木鉢も 持っていない男が、ある日じょうろを買ってきて、自殺してしまう話(「如雨露と綿菓 子が死につながる」)。古本屋で、ぼろぼろの本を署名入りの同じ本とすりかえた 女の話(「署名本が死につながる」)。推理小説好きにはたまらないのではないか。
 現在品切れなので、古本屋で探してもらうしかないが、見つけたら是非どうぞ。ち なみにこのシリーズには、他に『キリオン・スレイの生活と推理』(1977年,角川文 庫)『キリオン・スレイの復活と死』(1977年,角川文庫)があります。

2002年4月5日(金)3月に読んだ本(フリートークにて)
都筑道夫『キリオン・スレイの復活と死』(角川文庫)古本
 キリオン・スレイという風変りな名探偵の登場する連作短編集。謎解きの魅力とともに登場人 物の描き方も魅力的。

2004.7.11(日) 色々なことを教えてもらえる本
都筑道夫『サタデイ・ナイト・ムービー』(1984年,集英社文庫)古本
 作家都筑道夫氏の映画時評。1977〜79年に雑誌『週刊読売』に連載された「都 筑道夫のときどきキネマ」を中心に、1970年代後半の映画が取り上げられている。
 この本の魅力は、和田誠氏の解説に的確に書かれている。引用しましょう。
「ぼくの若い頃にはヴィデオのような便利なものがなかったから、古い映画のことを 知るためには先輩の話を聞くか、書かれたものを読むかするしかなかった。それも 一つの映画鑑賞法で、ぼくがずいぶんたくさんの実際に見ていない映画をディティ ールまで知っているのは、それがあるからだ」(pp.263-264)
 まさにそのとおりで、この本を読むことで、色々な映画について知ることができ る。今や有名な作品である「スター・ウォーズ」シリーズ・「エイリアン」・「ジョーズ」・ 「ピンク・パンサー」シリーズなどを公開直後から紹介している先見の明は氏ならで はだと思う。また、マイナーなホラー・サスペンス映画なども実に幅広く紹介されて いる。
 それから、巻末の「映画題名索引」がすごい。この本に登場したすべての映画の 原題・監督・脚本・原作・主な出演者が紹介されている。これはかなり資料としての 価値があると思うぞ。
 特に印象に残ったのは、「スター・ウォーズ」が「どうも日本の時代劇を連想させ る」(p.130)ということで、時代劇版のキャスティング案を考えている部分。俺は恥ず かしながら「スター・ウォーズ」を見たこともなければ、日本の時代劇も詳しくない が、分かる人には興味深いのではないかと思うので引用します。
「ルークは中村錦之助、ケノビは大河内伝次郎、ハン・ソロは大友柳太朗、アンド ロイドの三枚目コンビ、C3POとR2D2は渡辺篤と堺駿二、ダース・ヴェイダーは月 影龍之介、デス・スターの司令官グランド・モフ・ターキンは薄田研二と、うまく当て はまって、にやにやしながら見ていた」(p.130)。
 もうひとつ。1979年に四度目の映画化がされた「バクダッドの盗賊」をめぐり、最 初に見たものの印象だけに捉われ過ぎてはいけないという話が印象に残った。氏 はそのことを次のように表現する。「白紙の感受性も大事だが、それだけでは心も とないときがある。なにも、映画のこととは限らない。経験のつみかさねの上で、白 紙の感受性を保持することが、一番大事なのだろう」(p.243)。過去の記録を持っ た上で、新しいものをいかに新鮮に見聞きするか。これは俺も意識したいと思う。

2002年8月7日(水)
都筑道夫『猫の舌に釘をうて』(1977年,講談社文庫) 古本
 「凝りに凝った」という表現がぴったり来る推理小説。なにせ、最初の一行目から 「私はこの事件の犯人であり、探偵であり、そしてどうやら、被害者にもなりそうだ」 である。推理小説が好きなら、この設定に心惹かれずにはいられまい。そして、そ の期待は裏切られない。小説を読み進むうちに、事件の謎が解けていき、最初の 一文の謎が解けていき、そして新たな仕掛けが表れてくる。ううむ、これ以上は書 けない。ただ、犯人やトリックの意外性に加えて、更に大きな意外性が待ってい る、というくらいまでは書いてもいいかな。
 新刊では品切れですが、古本屋で見つけたら推理小説好きの方は手にとってみ ることをおすすめします。

2002年5月6日(月)4月に読んだ本(フリートークにて)
都筑道夫『びっくり博覧会』(集英社文庫)古本
「ショートショートです。怪奇小説を中心に、ミステリー・SFなど色々なタイプの小説が集められ ています。この本を読むと、人間にとって一番怖いのは『わからないこと』だって思いになるね」
「そういう小説が多いんだ」
「怪奇小説はだいたいそんな感じですね。その他のジャンルのものも、短いけれど印象に残る 話が多かった」

2002年10月17日(木)
都筑道夫『やぶにらみの時計』(1975年,中公文庫) 古本
 都筑道夫の長編小説第一作。それまでに短編小説の執筆や翻訳の経験があっ たにせよ、これが長編第一作というのはすごいよなあ。すでに都筑道夫の小説の スタイルが出来上がっているからねえ。例えば凝った小道具が出てきたり、聞いた こともないような固有名詞がぽんぽん飛び出したり、詩のようなリズムを持ったセリ フが出てきたり。
 内容はあまり深く言えないのだが、雰囲気はサスペンス小説やスリラー小説のよ うでもあり、しかし本格推理小説としての仕掛けも充分にある。メインとなるトリック がひとつあるのだが、その使い方が実にうまい。また、小説全体のもつなんともい えない怖さもいい。
 手に入りにくいのかもしれないが、推理小説好きの大人には是非おすすめした い。

2003年10月11日(土) 東京の広さを感じる1冊
綱島理友『イマイチ君の東京トボトボ探検隊』(1991年,サンマーク出版) 古
 千葉県の浦安から東京都大田区の羽田まで、東京都と他県の境を逆時計回り にぐるっと歩いた記録。昭和62年10月から11月までの、綱島氏と堀内貴和氏のふ たり旅を、雑誌『ターザン』に2年間(昭和63年2月〜平成元年10月まで)連載したも の。
 第一章が旅の準備だけで終わってしまうのは、いかにも綱島氏らしいのだが、そ こから先はかなり厳しい道のりが待っている。はじめの千葉、埼玉の市街地を歩い ているうちはどことなく楽しげだが、北西に進むと、埼玉や山梨の県境は本格的な 山登りである。奥多摩の山中で雨に降られて一旦下山する場面などは、綱島氏の 本とは思えないくらいの緊張した雰囲気が漂う。
 しかしその後は、小学生の山登り遠足に出会ったり、温泉につかったりと、なか なか楽しげなふたりの旅なのであった。
 読んでいてまず驚くのは、東京都は広いなあということ。当たり前のことなのだ が、電車やバスで限られた範囲を移動している俺にとっては、改めて東京の大きさ を感じた。

2002年10月1日(火)
綱島理友『お菓子帖』(1995年,朝日文庫) 古本
 みんなが知っているお菓子についてのウンチクが満載の本。懐かしいお菓子か ら、俺ははじめて知るようなお菓子まで、様々なお菓子が登場する。
 まあ、この本にあるお菓子についてのウンチクを色々と紹介するのもよいのだ が、それはこの本を読む楽しみに水を差すことになるので、ここではひとつだけ
 「森永チューレット」という食べられるチューインガムをご存知だろうか? 俺は知 らなかったのだが。子どもの頃に食べられるチューインガムというものがあったの は記憶しているが、それとは別のものだろう。
 ともあれ、このチューレット、今ではとんと見かけなくなったが、実は今は森永の 別のお菓子に変身しているのである。その有名なお菓子とは・・・、えー、この本の 136ページ以降を読んでください。「へえー!」と思うこと請け合い。
 しかし、読んでいるとそのお菓子が思わず食べたくなる。まあ、お菓子の話なん てどうでもいいと思う人もいるだろうが、そういう話こそ面白いし、みんなが共有して いる経験なんだよねえ。
オンライン書店bk1の紹介ページ

2003年5月20日(火) 気楽に読もう、この2冊(の1冊)
綱島理友『全日本お瑣末探偵団』(1996年,講談社文庫) 古本
 ライターの綱島理友氏が、様々な雑誌などに書いたコラム・エッセイを集めた本。 氏の本というと、テーマのエッセイやルポルタージュもいいが、こういういい意味で 雑多なコラムも面白いと思う。
 氏の面白さは、物事に対する目の付け所だよなあ。例えば、牛丼屋の紅生姜を 見て、「容器の底のほうにある紅生姜はいつになったら外にでられるのか」なんて、 なかなか考えないよ。気付くことはあっても、それについて考えをめぐらして文章に するという人は、あまりいないんじゃないか。
 他にも、駅前には必ずといっていいほどくだもの屋があるという「駅前くだもの屋 の法則」だとか、ドラえもんに登場する「カンゲキドリンク」という、喜びや悲しみが 何十倍にも感じられるクスリに「それってまずいんじゃ…」と思ったり、いちいち面白 いなあ。
 こういう「くだらないけど、面白いなあ」と思いつつニヤニヤ笑いながら読めるコラ ムもあれば、ためになるコラムもある。特にファッション関連のコラムは勉強になっ たなあ。「ワイシャツ」や「カッパ」の語源とか、ベルトの穴が必ず奇数になっている 理由とか、「ブラックタイ着用・ホワイトタイ着用」とはどんな意味かとか、俺は全部 この本を読んではじめて知りました。
 俺が読んだのは古本ですが、たぶん新刊書店にもまだ並んでいると思います。 興味がある人は気になるタイトルのコラムでも立ち読みしてみてください。それが 面白いと思えば買って読んでも損はしないはずです。

2004年4月2日(金) 春うらら、たまにはこんなところに、……行ってみたくな いか。
綱島理友『全日本荒唐無稽観光団』(1995年,講談社文庫)古本
 日本各地の、なんだか妙な名所を訪ね歩いた記録。いかにも「B級」といった感じ の観光地や博物館めぐりや、単に「地名・駅名が面白い」というだけで、どんな町か も知らずに行ってしまうなど、なんとも粋狂なところがいい。しかも、出たとこ勝負と いう雰囲気もある。雑誌連載時(『POPCOM』小学館)の担当編集者による解説に よれば、綱島氏も「もし、何もなかったらさ、正直にそう書いてしまえばいいんだよ。 /大の男ふたりが、飛行機と長距離列車とタクシーを駆使してたどり着いたところ で途方に暮れてるなんておもしろいじゃん」(p.394)という気持ちで連載に臨んでい たようだ。
 それでは、具体的にどこでどんなことをしてきたかというと、第一回目から福島県 の飯坂温泉ホテル聚楽(じゅらく)のカミナリ風呂とは何かを調べに行っている。い きなり強烈だ。
 その他、こうした変わった名所としては、栃木のウェスタン村、京都の太秦映画 村、静岡の熱川バナナワニ園に群馬の日本蛇族学術研究所、さらには東京の目 黒寄生虫館、などなどに行っている。
 一方、面白い地名の土地を訪ねる回では、岐阜県の下呂温泉でなんでもかんで も「下呂○○」とついているのを見て喜んだり、徳島の「おおぼけ(大歩危)」駅から 高知の「ごめん(後免)」駅まで電車に乗っていったりと、こちらもなかなか楽しい。 でも、駅名が面白い町は結構なにもなかったりする。
 群馬県のなんじゃい(南蛇井)もそうだし、高知のはげ(半家)は駅前に理髪店が ひとつあるだけ。山形県のぞき(及井)に至っては、17分しか滞在できない状況の 中訪ねたが、駅は無人駅で駅前も民家数件と田畑のみ、5分で訪問を終了してし まった。
 まあ、実際に行ってみると「なあんだ」という感じの土地・場所もあるのだが、それ も含めて面白い。どんな場所にも面白さを発見してしまう綱島氏は、さすがだよな あ。

2003年8月9日(土) 色々な発見のできる1冊
綱島理友『全日本なんでか大疑問調査団』(1997年,講談社文庫) 古本
 普段あまり気に留めないが、考えてみると不思議なことについて調査したレポー トをまとめたもの。こういう、一見どうでもいいようなことをきっちり調べた本は好き だなあ。各章のタイトルを見ただけでも、「東京ドームのごみ退治」・「ラムネ瓶のビ ー玉の入れ方」・「哀愁のレーザーディスクカラオケ撮影現場」・「レコード針は今ど ーなっているのか」・「東京タワーのペンキ塗り」・「デパート架空買い物デスマッチ」 などなど、魅力的な話が並ぶ。
 どれも、解ってみると結構「なあんだ」と思うような話なのだが、それを調べていく 様子がなんとも楽しい。また、調べていくうちに派生的にでてくるエピソードがまた 興味深い。「『鍋奉行』という言葉は東海林さだおが考案した」とか、「テレビ東京は 湾岸戦争の時に冷静に『ムーミン』を流していた」とか、こういう細かい部分も面白 い。
 また、「疑問解決もの」の他に、ル・マンの24時間自動車レースや、鳥取砂丘、歌 舞伎町のオカマバー、免停講習会などに行ったときの体験レポートも収録されてい る。いずれも、どこか弱気だが好奇心の強い綱島氏の性格が文章の端々に現れ ていて、なんともいえないおかしさがある。

2003年1月13日(月) 思わず古本を捜しに行きたくなる2冊(の1冊)
綱島理友『綱島探書堂』(2001年,実業之日本社)
 古本にまつわるエッセイ。1999年から2001年にかけて、雑誌『週刊小説』(実業之 日本社・現在は月刊誌『J-novel』へとリニューアルしている)に連載されたもの。
 本そのものだけでなく、古本屋・古書店の情報も多く書かれいるところが特徴的。 実際の店名や、店の品揃えを挙げているので、「今度行ってみよう」という気にさせ られる。
 もちろん、そうしたガイドブックとしての側面だけでなく、エッセイとしての面白さも 保証できる。そもそも、綱島氏は色々なジャンルのエッセイやコラムで有名なわけ で、たとえ古本に関係のない内容でも、氏の本は面白い。そこに加えて古本の話と きたら、これはもう面白くないわけがないのである。
 それから、氏の主な研究分野のひとつである日本のプロ野球に関する文献を探 す話も多いので、野球好きにもおすすめできる。
 肩の力を抜いて読めて、いろいろと新しい知識を仕入れることが出来る。なかな かお得な本だと思う。

2003年3月31日(月) 変わった旅に出たいが時間がない人のためにこの1冊
綱島理友『ぼくらは愉快犯』(1994,双葉社) 古本
 1992年から1993年にかけて、文藝春秋の雑誌『マルコポーロ』に連載されたも の。ちなみにこの雑誌、1995年2月号に「ナチ『ガス室』はなかった」という記事を掲 載したことが問題になり、廃刊になってしまう。で、この連載はどんな内容だったか というと、当時・あるいはかつてマスコミをにぎわせた事件の現場に実際に行って みるというルポルタージュ。熊本にあるという幻のソープランドを探しに行くだとか、 皇太子妃雅子様の本籍地の新潟県村上市を訪ねるなんていう比較的軟派なもの から、カンボジアに派遣されていた自衛隊に会いに行ったり、高松にある右翼団体 の事務所を見に行ったりという、氏の他の著作からするとちょっと意外な硬派な内 容の回もある。氏が統一教会の合同結婚式や成田空港第二ターミナルに憤慨す る場面も読むことができる。
 でも、どんな話題でも読むのが嫌にならないのが氏の文章の魅力。けっこう危険 な目にあったことや嫌な現実についても書かれているのだが、それらも含めて興 味深く読めてしまう。
 ちなみに、この連載を担当したのは勝谷誠彦氏(本文では「K記者」と書かれてい るが、あとがきの対談では氏名が出ている)。どこかで見た記憶のある名前だと思 ったのだが、この人は作家の勝谷誠彦氏ではないか。実は勝谷氏の本は読んだ ことはないが、雑誌・テレビなどで文章や発言を見聞きしたことはある。しかし、綱 島氏と勝谷氏がタッグを組んでの連載というのは、意外な感じがするなあ。
 そんな意外な発見もあった一冊。

2002年10月1日(火)
綱島理友『マスコット物語』(1996年,スターツ出版) 古本
 宣伝や広告に登場するキャラクターの由来や、裏話を集めた本。俺にとっては懐 かしいものもあり、知らないがゆえに新鮮なものもあり。読んでいて肩のこらない雑 学本。
 例えば、この本ではこんな話題が取り上げられる。「なぜヤンマーは天気予報の 番組のスポンサーをしているのか?」「警視庁のマスコット、ピーポくんの名前の由 来は?」「ケンタッキーのカーネルサンダース人形は、日本にしかいないの?」「ビ クターの犬が聞いているのはなんの音?」「東京電力のでんこちゃんは結婚してい るって本当?」などなど。こうした謎が、明かされるのである。
 巻頭にはカラーで写真も掲載されているし、とにかく飽きない本です。
 ちなみに、上で出ている疑問の答えを知りたい人は、この本を読んでください。本 が見つからない人は、掲示板にでも「教えろ」の書き込みをしてもらえれば、返信し ます。

2003年3月7日(金) 広告を見聞きするのが楽しくなりそうな2冊
綱島理友『マスコット物語A』(1997年,スターツ出版) 古本
 もともとは雑誌『オズマガジン』(スターツ出版)に連載された、広告に登場するキ ャラクターを取り上げてあれこれと調べたエッセイ。取り上げる対象も、対象への 迫り方・着眼点も面白い。例えば、「宮坂醸造の『神州一のおみおつけ』のCMソン グを最初に歌ったのは黒柳徹子」、「サンタクロースの服装(赤と白の服)を決めた のはコカ・コーラのCM」、「森永製菓のマスコットがエンゼルなのは深い意味があ る」などなど、「へええ」と思うようなネタがぽんぽんと飛び出してくる。
 登場するマスコットも、ペプシマン(ペプシコーラ)、トレン太君(JR東日本)、タッチ おじさん(富士通)のような当時の新しいマスコットから、文明堂のクマ(カンカン・ベ ア)、マルコメ君(マルコメ)、「コアラのマーチ」のコアラ(ロッテ)のように、おなじみ のキャラクターもいる。誰が読んでも、懐かしのマスコットに出会って「へええ」と思 うことだろう。

2003年5月15日(木) ”サッカー小僧”は必読の1冊
都並敏史『都並流 勝つためのサッカー』(2000年,講談社) 古本
 都並敏史。日本リーグ時代からの、あるいはJリーグ開始時からのサッカーファ ンには、必ずといっていいほど記憶に残っているであろう選手。その都並氏が現役 引退後、監督を目指す中で語ったサッカーの話。
 選手時代にどんな考え方で練習・試合に臨んでいたのか、これから監督としてど んなサッカーをしていきたいのか、などが、具体的に語られている。現役時代の氏 や他の選手、監督のエピソードも数多く出てくるので、ファンには懐かしく、意外な 発見もあるだろう。
 都並氏というと、現役時代からマスコミへの露出も多く(なにせ現役時代にラジオ 番組のパーソナリティもやっていたし、テレビや雑誌にも頻繁に登場した)、知らな い人にはちょっと軽いタイプの選手と思われているかもしれない。しかし、実像はま ったく違う。ケガや挫折も経験している苦労人だし、相当な努力家、知性派である ことが、この本を読むとわかる。

▲このページの一番上へ戻る

2008.12.08(月) Jリーグ以降の日本サッカーのアナザー・ストーリー

綱本将也(原作)・吉原基貴(絵)『U-31 上 完全版 All you need is FOOTBALL!』(2008年・講談社BOX) オンライン書店bk1Amazon.co.jp楽天ブックス
綱本将也(原作)・吉原基貴(絵)『U-31 下 完全版 All you need is FOOTBALL!』(2008年・講談社BOX) オンライン書店bk1Amazon.co.jp楽天ブックス

 2003年から2004年にかけて、『週刊モーニング』に連載されたサッカー漫画。この『完全版』には、2005年から2006年に『エル・ゴラッソ』に掲載された小説版や、以前の単行本には未収録だったエピソードも収録されている。

 2002年、サッカーW杯に沸く日本で、かつてブラジルを破ったアトランタオリンピック日本代表の中心メンバーだった河野敦彦は、所属クラブの東京ヴィクトリーから戦力外通告を受け、かつて飛び出した古巣のジェム市原でプレーをすることになる。そこから、河野の復活が始まる。

 マンガ版本編は打ち切られたらしく、それを小説版などのエピソードが補っている構成なので、まとまりには欠ける(というか、マンガ版はもっとじっくり描かせて欲しかったと思う)。しかし、小説版も含めて読むことで、マンガ版で省略せざるを得なかった部分が分かってきて、物語の深さを改めて感じる。

 しかし、熱い物語。アトランタオリンピック、フランスW杯の熱狂と、そこでサポーターやメディアからヒーローに仕立て上げられ、やがて貶められ忘れられた選手(その最初がアトランタ世代の一部だったと言っていいだろう)が輝きを取り戻す物語には、実在の選手を彷彿とさせる部分もある。
 また、舞台となるクラブがイビチャ・オシム監督当時のジェフ千葉をモデルにしていて、オシムをモデルにした監督が登場していることも、物語に厚みを加えている。原作者がサッカーファンでジェフサポーターということもあって、リアリティのある内容。同じ原作者の、連載中のサッカー漫画『GIANT KILLIMG』が今人気だが、この作品のころから原作者のサッカー(特に戦術)へのこだわりは色濃かったことも分かる。

 このマンガからは、あり得たかもしれない、もうひとつの日本サッカーの姿を見ることが出来る。

▲このページの一番上へ戻る

2006年12月5日(火) 本の過去を読み、本の未来を考える

オンライン書店ビーケーワン:歩く書物・津野 海太郎著『歩く書物』(1986.5,リブロポート)
目次

  1. 本の宇宙を歩く

  2. 歩く書物−ブックマンが見た夢
    1. ブラッドベリ再読
    2. 来たるべきホメロス
    3. 『坊ちゃん』の変形
    4. 新しい文字
  3. 飲んで歩けば本になる

 雑誌『本とコンピュータ』の編集長なども務められた津野海太郎氏の、本や編集に関する文章を集めた本。1980年代前半の文章をまとめている。
 いくつか興味を惹かれた部分を紹介します。

 最初の「雑誌はつくるほうがいい」(pp.11-29)の「雑誌は読むよりもつくるほうがいい」(p.11)、「とりあえず金や技術のもちあわせがなくても、だれでも気軽にだすことができる」(p.19)という部分を読んで、これから同人誌やミニコミは、ホームページやブログに代わっていくのかなあと思う。「だれでも気軽にだすことができる」というのは、まさにそうだからね。ただ、個人的には紙メディアを作ることの魅力は捨てがたい。

 「『世界の書』−アジアの髄からマラルメをのぞく」(pp.51-65)も、面白かった。フランスの詩人ステファヌ・マラルメの「世界の書」というアイデアを巡る話。この「世界の書」は、「世界の全体がその一冊に凝縮したような究極的な書物」(p.51)。これは、一冊の書物という形を考えると、まず無理に思える。ただ、書物という形から離れると、可能性があるという。
 津野氏によれば、マラルメが「世界の書」を実現するために考えた条件は次の三つだという。
「第一の条件は、作者がいないということ。いたとしても、あからさまな自己主張はしない。(中略)第二に、その本は頭からおわりまで、ページを追って律儀に読み進んでいくというのではなく、いつでもストップをかけたり、後戻りしりたりしていい。(中略)そして第三−−主としてここんとこが私の関心にかかわってくるんですけど、読む側が個人ではなく集団であるということ」(p.55)。
 そして、津野氏により、スライドを上映しながらの参加者の会話がこの条件を満たす例として挙げられている。なんというか、なんだかわくわくする話。そして、これってインターネットのいい方の可能性ではないか、と思う。

 1986年という、この文章が書かれた当時(20年前)を考えると、時代の流れを感じる部分も多い。それだけに今読むと新鮮だったりもする。例えば「ワープロ入門・弁明編」(pp.91-111)では、ガリ版などの「『国威発揚のメディア』として開発された道具を自分の手もとにひきよせ、それを別の目的のために利用した」(p.104)歴史があるということが書かれている。そして当時普及しつつあったワープロに対し、「新しい発明とそれが予告するかに見える未来を受動的に承認したり否認したりしてみても、そんなことにはなんの意味もない」(p.109)のであり、「ワープロを怪物視せず、ワープロごときに呑みこまれない教育が必要になる」(p.110)という。
 今やワープロではなく、パソコンとインターネットで、「原稿をつくる」という概念もなく書いた文章が即時に全世界に公開できる時代になっている。ここで、私自身もそうなのだが、果たしてパソコンやインターネットに呑みこまれていないか。考えてみると不安になる。
 あるいは「未来図書館−集中か分散か」(pp.112-122)では、日本の図書館がネットワークでつながれることに対し、「すべての情報をすべての個人に接近しやすいものにしていくというよりも、すべての情報を特定の場所にあつめ、特定の人々に利用しやすいものにするために立案されている。そうとしか考えようがない」(p.122)という不安が述べられている。これについて今の現実を考えれば、我々は(と一般化できないなら、私は)、日々インターネット上に自分の個人情報を打ち込んでいる。日々買う本のようにサイトやブログで公開しているものもあれば、サービスを利用するために非公開の情報を送信している場合もある。
 そうした情報の漏洩については、ニュースにもなっているが、「漏洩はしていないが、集積されている個人の情報」が存在するという事実も、改めて考えれば怖い側面もある。今はそれが目的以外のことに利用されないとしても、いつ、どこに流れてもおかしくない。例えばなんらかの事件があったときに、捜査資料としてパソコンやサーバーが押収されて、中身を解析されることもあるわけです。
 だからといって「インターネットと無縁で生きる」ということは、少なくとも私にはできない。でも、どうやってインターネットと付き合っていくかについて、あまり無邪気に考えてもいられないなあと感じた。

 「II 歩く書物−ブックマンが見た夢」は、レイ・ブラッドベリの『華氏451度』をきっかけに、本、あるいは物語のあり方を考える。ここでの、活字と口承と、それぞれによる物語の残り方への考察は、興味深い。

 「III 飲んで歩けば本になる」では、津野氏が晶文社で『植草甚一スクラップ・ブック』を刊行すべく植草氏の元を訪ねた「植草甚一さんの革トランク」が、当時その場にいた人だけが知る記録、という感じで貴重だった。植草氏が、文章の切抜きやスクラップブックが入ったトランク(これが『植草甚一スクラップ・ブック』の元になった)を開けるシーンは、印象的。
 また、レイモンド・マンゴーの『就職しないで生きるには』の刊行と、それに続く「就職しないで生きるには」シリーズ(早川義夫さんが書店をしていた頃の『ぼくは本屋のおやじさん』などが有名)の誕生について書かれた「店頭の哲学」も、面白かった。

このページの一番上へ戻る

2008-12-21(日) 結局そういうことか

歩くひとりもの (ちくま文庫)津野 海太郎『歩くひとりもの』(ちくま文庫) Amazon.co.jp楽天ブックスオンライン書店bk1

 著者自身の独身生活について、また独身生活を送った文学者についてのエッセイをまとめた本。

 この本でも何度か登場していて、「文庫版あとがき」にも書かれているテーマとして、ひとりものというのは著者にとって「たしかにオトコオンナ問題もいくぶんかはふくまれていたが、それよりはむしろ老人問題の方へとよりつよく傾いていた」(p.252)。つまり「四十代も後半になると、(中略)そろそろひとりで老いや死にたちむかっていく準備に取り掛かったほうがいいのではないかと」(p.253)考え始めたという。

 では、ひとりものの先人はどう生きたのか。例えば九十四歳で亡くなるまで生涯独身で通した長谷川如是閑の作品「ひとりもの」で、大晦日を迎えたひとりものの男が寂しさと自由、恐怖を感じるさまは、引用を読んでいても興味深い(「ひとりもの」はいつか読んでみたい)。
 だがその長谷川如是閑も、正岡子規も、独身を通したと言われる文学者の多くが、身の回りの世話は妹、またはそれに類する姪や親類などに身の回りの世話をしてもらっていたという。私はそれを読んで興味深かったとともに、「結局そういうことか」という、ある種のショックを受けた。

 そして、現在のひとりものとして、津野氏はどう生活しているか。この本では、結構楽しそうな生活も垣間見れらる。(趣味的ではなく)実用的な料理を覚えてみたり、東京を歩きながら植草甚一氏のことを思い出したり、歩きながら本を読んでみたり。
 時には、「なんで結婚しないの?」という問いに対しイライラし、海老坂武氏のように「なんで結婚するの?」と反問をしようと思ったり。ちなみにこの反問には、「結婚しているわたしは正常だが結婚しないあなたは異常だ」(p.85)という問う側の前提を、改めて考えてもらう意味がある。そして時には、四十歳を目前にして急に子どもが欲しいと思ったりもする(それは死への恐怖が表れたものだろうと振り返っている)。

 しかし、最後の山口文憲、関川夏央の両氏との鼎談で衝撃的な事実が分かる。それは、この本の文庫化直前に津野さんが結婚したということ。鼎談の中で、ある店で見知らぬ女性に「歩く裏切り者……」(p.234)と言われたという話も出てくるが、その気持ちは分かる。
 そして、ひとりものとして生きていくのはやはり難しいのだろうと、ひとりもの候補生の私としては思う。これもまた、「結局そういうことか」というショックを受けた。

▲このページの一番上へ戻る

2003年2月15日(土) またまた本に関する2冊(の1冊)
坪内祐三『三茶日記』(2001年,本の雑誌社)
 たぶん、読者を選ぶ本だと思う。「わかる人だけついてきなさい」という感じがす る。まず著者についての紹介がない。これは本の雑誌社の単行本の特徴なのだろ うか。前に紹介した横田順彌『探書記』もそうだった。それから、まえがき・あとがき もなく、また日記も本当にぶつ切りで終わっている。それから、註も註になっていな かったりする。例えばp.40に「甲斐庄楠音」という人名が登場して、そこについた註 には「この名前、ちゃんと正しく読めますか」とある。これって註というより単なる嫌 味では。ちなみに甲斐庄楠音は「かいのしょう・ただおと」という日本画家です。
 このように敷居は高いのだが、意外や意外、俺は読み始めると引き込まれてしま った。本の中に出てくる作家については一部を除いてわからないし、氏の購入する 本も俺には縁がないものがほとんどだ。それでも読んでいて飽きない。それは読む うちに、氏が本・古本へ熱中している様子を面白く感じてくるからだと思う。氏が三 軒茶屋・渋谷・神保町を歩き、色々な本を買う日々を読むと、無性に渋谷や神保町 に行きたくなってくる。
 好き嫌いははっきりすると思うが、興味がある人はまず目次を読み、一番興味が 惹かれるタイトルの日記を読んでみよう。立ち読みでいいから。そこで続きが読み たいと思うかどうかで、この本との相性が決まるだろう。
オンライン書店bk1の紹介ページ

2004年4月19日(月)そしてまた、本の本
坪内祐三『新書百冊』(2003年,新潮新書)
 著者が中高生、浪人生、大学生の頃を中心に、読んできた新書を紹介する第一 章〜第五章と、特定のテーマに沿って興味深い新書を紹介する第六章・第七章か らなる本。
 登場する新書は、岩波新書(旧赤版・黄版・緑版)、中公新書、講談社現代新書 が中心。小説や内容の柔らかいエッセイなどの収録された新書は登場しない。俺 には歯が立たなそうな内容の本、現時点では興味の範囲にはない本も多いが、そ れでも面白く読めた。
 著者が、若き日々を読書という面から振り返った自伝としても読める。それから、 「この本は、一九七五年以降の出版状況文化史としても読むことができると思う」 (p.233)という部分にもなるほどと思う。                                  、 、 、 、 、 、
 また、何冊かの新書は読んでみたくなる。著者の「私は、読書という時代を超え た文化や文化行為の力強さを、特に若い人たちに伝えるべくこの本を書いた」(p. 233)という言葉にも納得できる。なんと言うかこう、「知的になっていくこと」への憧 れがふつふつとわいてくる本。
オンライン書店bk1の紹介ページ



<< さ行   ▲「ばちあたり読書録」目次   な行 >>

  つ  

(広告)ブックサービス || オンライン書店 boople.com(ブープル)

「木の葉燃朗のがらくた書斎」トップ>>木の葉燃朗のばちあたり読書録>>著者別「つ」

inserted by FC2 system